レビュー

リファレンスとして使いたいイヤフォン「DITA Dream」。音楽や再生機器の実力を露わに

 フルレンジユニット一発のシンプルで出来の良い小型スピーカーに出会うと、他とはひと味違う音の感触に感心することがある。個々の音というよりも、音楽そのものの佇まいが自然で、目の前に浮かび上がるような音の存在感の豊かさがある。

 複数のユニットを使わないから、低音から高音まで音色が揃うし、音の出る位置も軸が揃う。ネットワーク回路も不要なのでストレートな伝送になるから、音の純度も高い。それがフルレンジ構成の良いところ。しかし、現実には再生可能な周波数の範囲をフルにカバーするとなると2ウェイや3ウェイといった複数のユニットを組み合わせることになる。

 こんなマルチユニット化が、スピーカーだけでなく、イヤフォンの世界でも増えてきた。イヤフォンの高性能化が進んできたためで、特にBA(バランスド・アーマチュア)型のユニットは周波数帯域が狭いこともあり、複数のユニットで構成されることが多い。一般的なイヤフォンは今もシングルドライバーが主流だが、高級モデルとなると、マルチユニット構成のモデルが増えてくる。もちろん、マルチユニットで優れたモデルも数多い。

 そんななかで、高級イヤフォンブランドであるDITAの存在は貴重だ。

DITA Dream Titanium Black

 ダイナミック型のシングルドライバーにこだわるブランドで、今回紹介する「Dream」も219,980円(税込)という高級機だが、新開発の10mm口径のダイナミック型ユニットを採用している。同じ価格帯の製品は複数のユニットを贅沢に使ったものばかりなので、アピール度は少ないかもしれない。サイズも耳の中のすっぽりと収まる小ささで、見た目もどちらかというと地味だ。

 しかし、その音を聴くと驚かされる。目の覚めるような鮮やかさで見晴らしのよい音場が展開し、しかもその音は極めて自然。初めて聴いたときには、イヤフォンのひとつの理想形ではないかと感激してしまった。

ワイドレンジ化を追求したシングルドライバーと精度の高いチタンハウジング

 まずは製品を見ていこう。高級モデルらしく立派な化粧箱に入っており、イヤフォン本体のほか、革製のキャリングケース、3種×3サイズのイヤーチップ、航空機アダプター、交換可能なAwesomeプラグ(2.5mm/4極)がある。刻印の入ったシリアルナンバープレートも封入されており、なかなか贅沢な内容だ。

 注目したいのは、3種のイヤーチップで、音道部分の内径が異なっている。口径の小さいスモールボアは高域がややマイルドに、口径の大きいラージボアは高域が若干強調されるチューニングとなっているという。リファレンスとなるのは、中間のミディアムボアのもの。これのMサイズが製品に最初から取り付けられている。イヤーチップのサイズ合わせは、フィット感を適正にしたり音漏れを減らして特に低音の減衰をなくしたりと、ユーザーならば欠かさず試したいところ。筆者は最終的にミディアムボアに戻ったが、高域が強まるせいか音の鮮度が高まった感じになるラージボアも好ましく、時々付け替えて使っている。

製品の外箱と、イヤフォン本体とキャリングケース。イヤフォン自体に比べて外箱のサイズはかなり大きめ
付属のイヤーチップと航空機アダプター、シリアルナンバープレート(取材機のためナンバの刻印はない)、Awesomeプラグは3.5mm/3極アンバランス(製品に装着済み)、2.5mm/4極バランスが付属品で、4.4mm/5極バランスは別売品
本体部からイヤーチップを取り外した状態。音道部分の形状は標準的で社外品のイヤーチップの装着も可能と思われる

 次に注目したいのが、Awesomeプラグ。端子側のコネクターは着脱式で、標準の3.5mm/3極のアンバランスと、2.5mm/4極バランスを交換可能。別売で4.4mm/5極バランスも用意されており、多くのバランス出力端子にも対応できる。これは実にありがたい。筆者は仕事上の必要で、リケーブル可能なイヤフォンと複数のケーブルを用意して試聴をしていたが、端子の違いだけでなくケーブルの違いも生じてしまうので、音質チェックには向かないと感じていた。これならばケーブル自体は共通なので、純粋にバランスとアンバランスの音質差を比較できる。マニアックな部分だが、これは便利な装備だ。

別売品を含む3種のAwesomeプラグ。左から2.5mm/4極、3.5mm/3極、4.5mm/5極(別売品)。ケーブルとの着脱はネジ止め式だ
Awesomeコネクターの端子部分。4極端子となっているのがわかる

 ケーブルは、高級ケーブルメーカーの「Van den Hul」の「The Truth」を採用。「3T(True Transmission Technology)」導体をコアに採用したもので、アモルファス(無結晶)構造の3T導体と周囲に銀メッキOFC銅線を配したハイブリッド構造となっている。もちろん、ケーブル自体も2極ピンで着脱でき、万一のケーブル破損への対応や(あまり必要とは思わないが)リケーブルへの対応も可能だ。

ハウジング側の着脱部分。こちらはカスタムIEMで採用されることの多い2極ピン端子だ
ケーブルには、Van den Hul製であることを示すカバーが付いている。裏側はシースが透明で、銀色の導体が見える。

 新開発のダイナミック型ドライバーは、ワイドレンジ化を追求し、マイラー振動板にカーボンコーティングを施している。ボイスコイルは高純度OFC、高磁力のリングマグネットを採用する。位相コントロールのためのフロントウェーブガイドなども備える。ダイナミック型のフルレンジ構成なのでその構造もオーソドックスなものだが、質の高いパーツを選りすぐったものとなっている。

 このユニット自体も試聴を繰り返して開発されたものだが、それ以上に緻密に設計・製造されているのが、チタン製のハウジングだ。精密なエアフローとダンピングの制御のため、極めて高い精度で切削加工されているという。目指す音質へチューニングするためには欠かせないものだが、さらに左右の音質差を最小限としている。また、こうした高精度の加工とすべての接合面を限りなく平面に研磨するため、ハウジングは日本で加工を行なっているそうだ。

 外観はマットな仕上げでやや無骨にも感じるが、その剛体感もあって石材のようにも感じる。他ではあまり見られない独特の外観だ。

A&ultima SP1000との組み合わせで、至高のポータブル再生を体験

 まずは試聴だ。まずは同時にお借りした「A&ultima SP1000」(499,980円/税込)との組み合わせで行った。もはやポータブル再生用としては至高とも言える環境だ。最近よく聴くネルソンス指揮ボストン交響楽団によるショスタコーヴィチ/交響曲第5番(96kHz/24bit)を聴くと、音の鮮明さに感激する。記録されたすべての音が鮮やかに鳴っていて、頭の中にホールがそのまま表れたような感じになる。金管は艶やかにしかも勢いよく鳴り響き、木管はしっとりと、弦楽器は複数での演奏を感じさせながらもひとつにまとまって厚みのある音色だ。

A&Ultima SP1000と組み合わせて試聴。取材ができる立場をありがたいと思える豪華な組み合わせ

 この明晰な再現が、優れたヘッドフォンやイヤフォンならではの高解像度な音の再現だが、決して分析的にはならず、あくまでも音楽そのもの姿が強く表れる。耳を澄ませばそれぞれの音を明瞭に聴き取ることができるが、鳴っているのはあくまでも音楽。低音から高音までピタリと音色の揃った統一感が、こうしたステージ全体を見渡しているような聴こえ方になるのだろう。

 スペックをみると、周波数特性としては10Hz~25kHz、インピーダンス16Ω、出力音圧レベルは102dBとなっており、決して突出して高性能というわけではない。それなのに、これだけに雄大に、表情豊かに音楽を鳴らしてしまう。これは見事なものだと思う。おそらくは、左右の音の違いにまで注目して精度を高めたハウジングの作りなども、こうした音だけでなく、演奏そのものの存在感を豊かに感じさせることに貢献しているはずだ。イヤフォン再生で音は頭の中で定位するので、音場感はスピーカーで感じるものと比べるとコンパクトだ。しかし、こぢんまりとしたものではなく、広々とした空間の広さや奥行きはきちんと感じられる。実に雄大なスケール感だ。ドーンと響く大太鼓の空気を振るわせる様子、高らかに鳴るトランペットの突き抜けるような鋭い音が鳴り響く感じが、映像を見ているように写実的だ。

 続いては、マリーナ・ショウの「Feel Like Makin' Love」(192kHz/24bit)。情熱的な歌唱をしなやかで色気たっぷりに聴かせてくれる。両サイドで鳴るツインギターの音色やそれぞれの弾き方の感触も豊かに描き分けるし、ドラムスの叩き方なども実にクリアで目の前で演奏を見ているような新鮮さだ。後半になってどんどん曲が盛り上がってくると、自然に身体が動いてしまうほど。スタジオでの演奏の様子が見えるような、鮮度の高さと生の温度感が伝わってくる再現は、正確な音の再現ができていることの証明だと思う。

 ここで、Awesomeコネクターを交換して2.5mm/4極とし、SP1000とバランス接続としてみる。マリーナ・ショウの歌声にぞくっとするような色気が増す。序盤のやや抑えた調子の部分などは、ための効いた感じがよく出て、実に気持ち良い。盛り上がってくる後半以降もグルーブ感が増してくる。情感の高まりが曲をさらに盛り上げてくれる。音の生々しさがいちだんと高まったような感じだ。アンバランス接続でもこのうえないレベルの高い再生だったので、バランス接続でさらに驚くような音質的向上が得られるというわけではないが、情感の表現や音楽に引き込まれるような深みが増し、バランス接続の優位性をよく実感できる。

 SP1000とDITA Dreamは、最近は屋外で音楽を聴くときに持ち出す組み合わせでもある。屋外で聴くときは、周囲の安全の確認なども含めてあまり音量を出さないし、音楽ばかりに集中しているわけでもない。それでも、美しい女性にぐいっと肩を引き寄せられる感じで、音楽の方に意識が持って行かれてしまうことがある。実際、電車での移動中に席に座っていたときなどは、時間を忘れて音楽に夢中になり、降りるべき駅を乗り越してしまったほどだ。屋外でも良い音が楽しめるというのは実にうれしいが、このレベルになると、安全性の確保も含めて十分なケアが必要だと思う。やはりじっくりと聴ける場所で音楽に夢中になるのが正しい聴き方だろう。

据え置き使用のHugo2と組み合わせて、さらに夢中になれる再生を楽しむ

 今度は、自宅の視聴室で据え置き使用しているHugo2と組み合わせて聴いてみた。PCとUSB接続したネットワーク再生だ。ふだんはライン出力でスピーカーで音を出しているHugo2だが、本来はポータブルヘッドフォンアンプ。DITA Dreamをアンバランスで接続して、その音を確かめてみた。

自宅で据え置き使用しているHugo2との組み合わせで試聴。ヘッドフォンアンプでもあるHugo2の本領発揮か

 パッと聴いてわかるのは、Hugo2だとより音像としての存在感が増し、音楽そのものもより近くで聴いているような印象になること。音色の傾向としては、SP1000もHugo2もニュートラルで忠実感のあるものだが、Hugo2の方が音場よりも音像を印象づける骨太さが出てくる。SP1000の方が音場と音像のバランスが整ったイメージだが、これは好みの差のレベルだろう。

 DITA Dreamが素晴らしいのは、こうした機器の音色の違いを見事に反映するところだろう。入力信号に対して反応が正確で、忠実度も優れる。それでいて、音楽そのものの姿を描き出す、本来の持ち味は失わない。これは見事だ。

 ショスタコーヴィチ/交響曲第5番は、厚みを増した低音のおかげでさらに雄大な印象になる。スピード感やキレ味の良さは鈍ることがなく、鮮度の高さはそのまま。各楽器の音の厚みと音像の彫りの深い表現にはほれぼれとさせられる。

 マリーナ・ショウは、声に厚みはあるが骨太にはならず、ニュアンスと色気がたっぷり。ドラムの刻むリズムのアタックの鋭さやリズムの正確性も見事で、次第に盛り上がってくる熱の入り方の変化がよくわかって楽しい。

 SP1000やHugo2の優秀さもあるが、DITA Dreamの良さは、高解像度、ハイレスポンスでありながら、表情としてはクールになりすぎず、温度感や情感を豊かに伝えてくること。音色としてはニュートラルだが、印象としては濃厚でホットな音だと感じる。だから、鋭いと言えるほどのキレ味を出すのに耳に刺さるようなキツさがない。

 フィット感の良さと耳の穴にすっぽりと収まるコンパクトさもあり、イヤフォンを装着している感じも少なく、ひとたび音楽に没入してしまえば、頭の中で音が鳴っている特有の感じも忘れてしまう。

 ヘッドフォンやイヤフォンの不自然さは、頭内定位というか、ふたつの耳からだけ音が聞こえていて、左右の音が微妙にブレンドされていない感じではないかと思う。DITA Dreamを聴くとそれがよくわかる。音楽が耳から入っているのではなく、頭の中できれいにブレンドされて鳴る感じなので、頭の中で響いている感じはあまりしないのだ。これは左右の音の違いにまで注目した精度の高いハウジング設計の効果だろう。プラモデルを作ったり、ちょっとした工作をした経験のある人ならばわかると思うが、精度の高い成型ができる言われる樹脂でも、思った以上にバラツキが生じる(成形時の温度変化による変形などのため)。そこを変形の少ないチタンを使用し、なおかつ高精度な切削加工(こちらも温度管理は重要だろう)で左右のバラツキをなくした作りは、当然ながらコストはかかる。だが、それだけのことをして得られる音がある。

 今度は、アニメ「ボールルームへようこそ」の主題歌であるUNISON SQUARE GARDENの「10%roll,10%romance」を聴いた。こちらはCDをリッピングした音源だ。Hugo2の良いところは、独自のアルゴリズムによる大規模な演算を駆使することで、CD音源でも44.1kHz/16bitらしさは残しながら、高域の粗っぽさなどの感じさせない質の高い音を楽しめるところ。

 「ボールルームへようこそ」は、競技ダンスの世界を描いた作品で、そこにUNISON SQUARE GARDENの曲が主題歌に使われたのは個人的にはまさにぴったりの印象。歌の節回しやリズム感が独特で、まさしく踊っているような躍動感がある。歌唱にしてもメロディーにしても、あまり日本のバンドでは聞いたことのない演奏がお気に入りだ。

 やや高めの軽快な歌声が、実にしなやかでみずみずしく再現された。速めのテンポと独特の節回しのために早口言葉のように聞こえる部分も実にクリアな再現。踊るような軽やかな歌とメロディーを気持ちよく楽しめる。

 そして肝心なのが、エネルギー感たっぷりのリズムセクション。Hugo2との組み合わせもあるが、低音が重厚で力強く、音楽全体をしっかりと安定して支えていると感じる。だから踊るような歌声やギターの速いフレーズも軽くなりすぎず、地に足の付いたものになる。競技ダンスに限らず、ダンサーと呼ばれる人たちの足腰や体幹の鍛え方は想像を絶するものがあり、それだけ力強く身体を支えるからこそ、飛んでいるように軽やかな動きが表現できる。それと似た、軽快さを支える重厚なリズムの力強さが楽曲の魅力だとよくわかったし、そういう再現のできるDITA DreamとHugo2の組み合わせは見事だ。

DTS Headphone:Xで、「クリムゾン・ピーク」を見た

 最後は、映画「クリムゾン・ピーク」をDITA Dreamによるイヤフォン再生で鑑賞。映画自体の音声はDTS:Xで高さ方向の再現も可能にした最新鋭のサラウンド音声で収録されている。さすがにサラウンドは、リアル6.2.4ch構成のスピーカーによる再生の方が適していると思われがちだが、本作はヘッドホンでもサラウンド音場を楽しめる「DTS Headphone:X」音声も収録している。こちらも仮想的な再生チャンネル数は前後のハイトスピーカーを含めて11.1chとなっており、いわゆるバーチャル再生とは一線を画したヘッドフォンサラウンドが楽しめる。

 「DTS Headphone:X」は、ここのところBDでの収録タイトルも徐々に増えてきていて、新作では「劇場版 艦これ」もそうだ。「クリムゾン・ピーク」を選んだのは、DTS:Xの高さ方向まで含めたサラウンド感を、DTS Headphone:Xでも忠実に再現できるかどうかを比べるため。

 作品はギレルモ・デル・トロ監督の美しい映像によるロマンティックなホラーだが、正直なところホラーというよりは、ホラー風味のラブ・ロマンスと感じていたが、DITA Dreamで聴くと、かなり印象が違った。ちなみにBD再生は、OPPO DigitalのBDP-105D JAPAN LIMTEDで、アナログのバランス出力をOPPOのHA-1に接続して聴いている。DTS Headphone:Xの再生は、DTS音声のデコード機能を持ったプレーヤーで可能で、BDプレーヤーならばほとんどが再生可能。プレーヤーのヘッドフォン出力でもいいし、アンプなどに接続してヘッドフォン出力してもいい。

 「クリムゾン・ピーク」のDTS Headphone:Xの再生は、ダイアローグや音楽など前方に定位する音は頭内定位に近い再現で、主に横方向と後ろ方向の再現が豊かになる。DITA Dreamで聴くと、その定位感や方向感が実に豊かになるので、冒頭の街の雑踏の場面での喧噪や馬車が横切る様子を豊かなサラウンド感で再現する。しかも、解像度が高く、細かな音まで情報量が豊かなので、ベッドの脇のランプに集まった蛾が飛び回る羽音や、部屋に続く長い廊下の奥から迫ってくる幽霊の気配など、微小な音までリアルに再現する。そのため、思った以上に怖かった。ホラー風味ではなく、十分にホラーだ。

 後半の舞台となる夫の屋敷でも、老朽化が進んでどこでもすきま風が吹き、ぎしぎしと不気味な音を立てる様子が実に怖い。ヘッドフォンのサラウンドで真後ろの音を再現するのはなかなか難しいのだが、DITA Dreamは、そういう真後ろの音も生々しい存在感で響かせる。自分の背後を幽霊が通り過ぎる様子などは、激しい音が出たわけでもないのにゾクっと身体が反応してしまう。

 なにより怖いのは、壁やドアもすり抜けて現れる幽霊が、壁の向こう側を移動している気配の再現。定位が明瞭で移動感もしっかりと出るので、画面には見えない何かがそこにいることがはっきりとわかる。見事なサラウンド感の再現だ。

 DTS Headphone:Xは、ヘッドフォンの種類でもサラウンド感に違いがあり、音場感に優れる開放型のオーバーヘッドタイプのヘッドフォンが好ましいと感じていた。カナル型のイヤフォンは情報量などは優れるが、サラウンド空間の広さがやや小さくなることがあったからだ。しかし、DITA Dreamならば、サラウンド空間のは十分に広く、しかも細かな音まで鮮明に再現するから、サラウンド再生としても期待以上の音を楽しませてくれた。映画のようなずっしりとした重みのある低音もしっかりと再現できるので、スケール感も十分だし、怖さを際立たせる突然の大きな音もスピード感たっぷりに出る。

 さまざまなジャンルの音楽だけでなく、映画まで存分に楽しめるのは、正確な再現が極めて優秀であるためと言える。それだけにとどまらず、表情の豊かさや情感をよく伝える音なので、聴いていて楽しい。高級なヘッドフォン/イヤフォンには優秀なモデルも数多いが、DITA Dreamもそのなかでも、他にはない個性を持った名品だと言っていい。

ジャンルを問わず音楽を聴く人、さまざまな機器を使う人にはおすすめ

 仕事柄、ヘッドフォンやイヤフォンはさまざまなモデルを使っているが、常用するモデルとなると、自分の音の好みよりも正確さを求めることが多い。これは、組み合わせた機材の音質傾向を確認しやすいため。もともとたくさんのオーディオ機器の音を聴くこと自体が好きなオーディオマニアなので、機器による違いがわかりやすいモデルが好みということもある。こうしたモデルは音楽ジャンルの得意不得意もないので、オールジャンルに音楽を聴く人にもおすすめだ。繰り返すが、決してモニター的な正確さがすべての音ではなく、音楽そのものを鮮やかに描く表現力があることが大きな魅力だ。

 高価なモデルであることは事実だが、こうしたモデルと付き合っていると、音楽による違いや機器による音の違いなど、いろいろなことを教えてくれる。それが結果として、自分の求める音を理解することにも役立つ。長く愛用したいイヤフォンのひとつとなってくれるはずだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。