レビュー

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験

 ソニーから10月7日に発売された、ワイヤレスヘッドフォンのフラッグシップモデル「WH-1000XM2」。人気シリーズの新モデルとして注目度が高いが、その“進化点”であるノイズキャンセリング(NC)機能と音質につて、従来モデルとの違いをチェックする。「WH-1000XM2」の価格はオープンプライスで、店頭予想価格は4万円前後。カラーはブラックとシャンパンゴールドの2色展開だ。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 ソニーのワイヤレスヘッドフォンのフラッグシップモデル「WH-1000XM2」
ソニーのワイヤレスヘッドフォンのフラッグシップモデル「WH-1000XM2」

NC機能をチェック

 '16年に発売され、高いNC機能と音質で人気となった「MDR-1000X」。その後継が「WH-1000XM2」だ。

 NC機能はハウジングの内側と外側の2つのマイクで周りのノイズを集音するデュアルノイズセンサーテクノロジーを搭載。デジタルノイズキャンセリングソフトウェアエンジンにより、騒音を打ち消す信号を高精度に生成する事で、「業界最高クラスのノイズキャンセリング性能」を謳っている。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 外側のマイク穴
外側のマイク穴

 NC効果は強力だ。ゴーゴーと騒音が煩い地下鉄も、完全に無音……とまではかないが、「ゴー」という低い走行音がほとんど消え、たまにレールと車輪が当たる「キシーン」みたいな音が聴こえる程度。地下鉄の中でも、静かな空間に細かな音が広がるクラシックや、ピアノ+女性ボーカルのシンプルな楽曲を、ゆったりと聴けるのが面白い。

 自宅のデスクトップパソコンの隣で使ってみると、ファンノイズは綺麗に消え、時折聞こえるHDD書き込みのカリカリ音で「ああ、パソコン起動しているんだ」とわかる程度。音楽を再生せず、NC機能だけを使い、仕事や勉強など、集中して作業したい人にも向いているだろう。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験

 この強力なNC機能の特性を、メガネの有無など、個人の装着状態に合わせて最適化してくれるのが「NCオプティマイザー」だ。従来から搭載しているが、新機種では飛行機に乗っている時など、大気圧の変化に応じた調整機能も加えられている。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 個人の装着状態に合わせてNCの特性を最適化する「NCオプティマイザー」
個人の装着状態に合わせてNCの特性を最適化する「NCオプティマイザー」

 ちょうど私はメガネをかけているので、どの程度違いがあるのか試してみた。まず、アプリの「Sony|Headphones Connect」をインストールし、ヘッドフォンをBluetoothで接続。NFC対応スマートフォンであれば、ワンタッチでペアリング可能だ。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 NFC対応スマートフォンであれば、ワンタッチでペアリング可能
NFC対応スマートフォンであれば、ワンタッチでペアリング可能

 メガネを装着した状態でNC機能をONにして、外の騒音がどのくらい残っているかを記憶。その後、「NCオプティマイザー」で最適化すると、確かに「サー」という外のノイズがより小さくなり、NC効果がアップしているのがわかる。

 次に、「NCオプティマイザー」で最適化した後の状態で、メガネを外して、再びヘッドフォンを装着したが、これが面白い。メガネを取ると、NC効果がより強くなったように感じられ、耳の鼓膜が少し圧迫され、不快に感じるのだ。

 メガネをかけていると、つるの部分でイヤーパッドが押上げられるなどして、隙間ができ、メガネが無い状態よりも密閉度が下がる。恐らくだが、メガネの“ある”状態で「NCオプティマイザー」を適用すると、その隙間を補うためにNCの効果がより強くかかると思われる。そのため、“強いNC”のままメガネを外すと、パッドの隙間が無くなり、密閉度がアップするため、結果的にNC機能が“強すぎ”になり、鼓膜を圧迫される不快感が強くなると思われる。

 そこで、メガネを外した状態で「NCオプティマイザー」を適用。すると、外部の騒音の聞こえ具合に大きな変化はないものの、鼓膜を圧迫される感覚が綺麗に消える。不快感がなくなり、より自然にNC効果を楽しめるようになった。

 NCの強さだけを、単純に調整しているわけではないのだろう。かなり良く出来た機能だ。メガネを買い替えたとか、今日はコンタクトにしたなど、たまにNCオプティマイザーを適用しておくと、常に快適にNC機能が使えるだろう。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 ハウジングは平らにして折りたたみ可能
ハウジングは平らにして折りたたみ可能

行動に合わせて自動でNC設定「アダプティブサウンドコントロール」

 このNC機能を、さらに使いやすくするというのが、新1000Xシリーズで新たに搭載された「アダプティブサウンドコントロール」だ。端的に言えば、スマホ用アプリと連携する事で、ユーザーの動きをリアルタイムにチェックし、それに合わせて最適なNC設定を自動的に適用してくれる機能だ。

 アプリは、スマホのGPSや加速度センサーを使い、ユーザーが「止まっている」、「歩いている」、「走っている」、「乗り物に乗っている」の4つの行動パターンを判断する。

 あらかじめ、各パターンに対してNCと外音取り込みのレベルが設定でき、そのパターンが自動で切り替わっていく……という仕組みだ。

 設定のカスタマイズは、アプリ画面のスライダーをタッチして調整でき、NCが最大の「ノイズキャンセリングON」から、レベルを上げていく(外音の取り込み量を上げる)と、「風ノイズ低減」、「外音取り込み1」~「外音取り込み20」に切り替わる。そのほか、人の声やアナウンスなどを聴きやすくする「ボイスフォーカス」のON/OFFも設定できる。

 例えば、「地下鉄はうるさいから、NCを強くして、外音取り込みはしない」という設定も良いし、「降りる駅のアナウンスを聞き逃すとマズイから、外音取り込みを中程度する」といった設定も可能。「走っている時は外の音も聞こえた方がいいから外音取り込みを大きめにする」といった使い方もありだろう。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 行動を判断中の画面
行動を判断中の画面

 実際に使ってみると、電車が走り出してしばらくすると「ポポーン」というような電子音と共にモードが切り替わり、事前に設定した通りNCが強く、外音取り込みが無しになる。

 終点に到着して、ホームに降りて「乗り換える電車は何番ホームかな」と電光掲示板を探して歩いていると「ポポーン」と音がして「歩いている」モードに切り替わり、NC効果が少し下がり、外音取り込みがアップ。ホームに流れるアナウンスが聞きやすくなり、「あ、4番ホームに行けとアナウンスされてる」とわかる……という具合だ。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 乗り物に乗っていると判断された画面
乗り物に乗っていると判断された画面
自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 歩いていると判断された画面
歩いていると判断された画面
自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 止まっている時、歩いている時など、パターンに対して設定をカスタマイズできる
自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 止まっている時、歩いている時など、パターンに対して設定をカスタマイズできる
止まっている時、歩いている時など、パターンに対して設定をカスタマイズできる

 ハウジング部を手で覆うようにすると外音を大きく取り込む「クイックアテンション」機能もあるのだが、何もしなくても勝手に“いい感じ”の聞こえ方になるというのは便利だ。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 ハウジング部を手で覆うようにすると外音を大きく取り込む「クイックアテンション」機能もある
ハウジング部を手で覆うようにすると外音を大きく取り込む「クイックアテンション」機能もある

 使う前は「頻繁に切り替わるとイライラしないのかな?」と思っていたが、実際に使ってみるとそうでもない。例えば電車が駅に止まった時、扉が飛開き、また閉じて出発する……45秒程度の時間では、パターンは切り替わらない。アプリを見ると、停止している事は認識されているのだが、アイコンが電車のままの“猶予状態”にある。動きを認識した瞬間に切り替わるのではなく、それまでの猶予期間が設けられているようだ。

 快適に使える工夫なのだが、気になるポイントもある。パターンが切り替わった時の「ポポーン」という音だ。これが結構大きめの音で、音楽が盛り上がってサビに差し掛かる、一番気持ちの良い瞬間に「ポポーン」と鳴り、かなり気がそがれる。アプリの設定で切り替え音の音量を下げるか、OFFにできるようにして欲しい。せっかく自然に切り替えてくれるのに、通知音でその配慮を帳消しにしてしまっている気がする。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験
自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験

 また、AndroidのスマホのHuawei Mate9で試していたのだが、通知バーのところに「Sony|Headphones Connect」が「消費電力が大きなアプリです」とお知らせされる。実際、ユーザーの動きを検知し、その情報をリアルタイムにヘッドフォンに知らせているので消費電力が大きいのは仕方がなさそうだ。スマホのバッテリ持ちが悪くなっているという人の場合、気になってアプリを終了させたくなりそうだ。

 かといって、ヘッドフォンに加速度センサーやGPSを搭載すると値段が高くなるだろう。例えばだが、通勤通学では時間によって、ある程度「乗り物に乗っている」とか「歩いている」などが決まってくる。アプリから「この時間は電車乗ってるから電車モードで」などと、時間でモードが切り替わるとか、何か簡易的な自動切り替え機能も欲しいところだ。

音について

 装着感は良好。側圧も絶妙で、痛いとか、不快な感じは一切無い。耳あたりの良いイヤーパッドは、保持力も高く、少し首を動かした程度ではまったくズレない安定感がある。ヘッドフォンの基本的な完成度の高さを感じる部分だ。また、ノイズキャンセル能力を高める事にも寄与していると言えるだろう。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 装着感は良好
装着感は良好

 サウンド面で特筆すべきは、Bluetoothと思えないほど、音場が広く、開放的な事。一昔前のBluetoothヘッドフォンは、音の広がりが少なく、息苦しい感じがあったが、進歩ぶりに驚くばかりだ。

 従来モデル「MDR-1000X」との音質的な違いは、音色の自然さだ。聴き比べると、MDR-1000Xの音は、1つ1つが軽く、また高音にちょっと硬さというか、強調を感じる。女性ボーカルのサ行やドラムのシンバルなどで特にそう感じる。

 MDR-1000XM2では、1つ1つの音が輪郭もシャープにしっかりと出ており、音色的にも色づけが少なく、非常にナチュラルだ。落ち着いた音と表現する事もできる。従来モデルに戻すと、音が腰高で、軽く、エッジも鋭く立ち気味。演算処理で補正された“デジタルっぽさ”を感じてしまう。

 とはいえ、MDR-1000Xも登場当初はBluetoothヘッドフォンとして音の良さに驚いたもの。単体で聴けば非常にクオリティは高い。逆に言えば、MDR-1000Xのそんな弱点にも気づいてしまうほど、MDR-1000XM2のサウンドが進化していると言える。

 「トップをねらえ2!」から「バスターマシン・マーチ」を再生すると、「ドンデンドンデン」というティンパニの低域が、MDR-1000XM2の方が深く、パワフルで、キレも良い。MDR-1000Xもハイスピードで締まりのある低音が出てはいるが、ちょっと沈み込みが足りない。中高域の自然さと共に、低音再生能力も充分に進化している。

 SBC接続でも違いはわかるが、aptX HDで高音質に伝送すると、こうした音の進化具合もよく鮮明に分かった。高音質コーデックとしては、LDACにも対応している。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 有線接続も可能だ
有線接続も可能だ

サラウンド再生も可能!?

 ユニークな機能はほかにもある。音が聴こえる方向を変更できる「サウンドポジションコントロール」がそれで、通常は頭の中央に音が定位する形だが、これを前方や後方に変更できる。ヘッドフォンを装着しているのに、「疑似的にスピーカーで聴いているように感じられる機能」というわけだ。

 アプリにユーザの後ろ姿が描かれており、それを取り囲むように、丸いチェックボックスが浮いている。ユーザーの前の丸にチェックをつけると、目の前から、右後ろにチェックすると右後ろから音がする……という具合だ。

 試してみると、前方と、左前、右前はかなり効果があり、実際、指定した場所から音がしているように聴こえる。ただ、“前方にスピーカーがある”と感じられるほど音との距離は遠くない。しかし、頭内定位が緩和されるのは利点だ。

 右後ろ、左後ろも、効果は感じられるのだが、前方指定よりも、音との距離はさらに近い。耳のすぐ後ろにスピーカーがあるような感じで、本物のリアスピーカー設置のように、スピーカーと自分の間に距離を感じるほどではない。

 この機能の使い所を考えるのは難しいが、例えば、スマホで動画を見る時に、前方定位を指定して、目の前のスマホ画面から音が出ているように聞こえる……なんて使い方はどうだろうか。

 右後ろや左後ろは、どう使ったらいいのかわからないので、今のところ“技術デモ”的な印象だ。例えば、ゲームと連携して、いろんな方向から音がするなど、ユーザーにとっての楽しさに繋がる提案が欲しいところだ。

 これ以外にも、バーチャルサラウンドのVPTを4つのプリセットモード(Club/Arena/Concert Hall/Outdoor Stage)から選択できたり、イコライザの選択(9種類)やカスタマイズ(2つまで保存可能)が行なえるなど、機能は豊富だ。ただし、サウンドポジションコントロールや、VPT、イコライザの変更は、BluetoothのSBCコーデックのみとなる。

自動NCにサラウンド、ソニーの人気無線ヘッドフォン「WH-1000XM2」“進化っぷり”を体験 「サウンドポジションコントロール」の画面
「サウンドポジションコントロール」の画面

多機能を意識せず使えるヘッドフォン

 「アダプティブサウンドコントロール」など、機能てんこ盛りのBluetoothヘッドフォンだが、ユーザーにいろいろな操作をさせずに、常に快適にNC機能などを使えるように配慮してある点がポイントだ。さらなる進化を期待したい部分もあるが、アプリのアップデートで解消できそうな部分もあるため、今後の成長にも期待したい。

 また、多機能化しながら、サウンドはさらにナチュラルに進化した点も見逃せない。音場や音色の面で“Bluetoothヘッドフォンっぽさ”が無くなった事は大きい。ワイヤレスヘッドフォンに対して、音質面で抵抗を感じていた人にも、ぜひ一度体験して欲しい製品だ。

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ソニー
WH-1000XM2

山崎健太郎