レビュー

液晶テレビは進化する。見やすい映像と力強い音の最上位液晶REGZA「Z720X」

最近は画質を重視した高級機というと有機ELテレビが代表格となりつつある。だが、現在でも薄型テレビの主流である液晶テレビは価格面で優位で、手頃な値段で画質的にも優れたモデルを求める人は多い。

だから、今春の東芝REGZAの新モデル発表で、ちょっとがっかりしてしまった人は少なくないだろう。そう、液晶のハイエンドであるZ810Xシリーズの後継機が登場しなかったからだ。しかしそれからやや間を置いて、4K液晶のハイエンドモデルとなる「Z720X」シリーズが9月下旬より発売される。

4K液晶の新ハイエンドとなったREGZA 55Z720X

Z720Xの主な概要はすでに紹介されている通りだが、4K有機ELテレビの「X920」シリーズと同じく、高画質エンジンには「レグザエンジン Evolution PRO」を搭載。新4K衛星放送に対応したチューナーを内蔵するほか、スカパー! の4K専門チャンネルが視聴できるスカパー! プレミアムサービスチューナーや外付けUSB HDDに地デジ6チャンネルを全録する「タイムシフトマシン」などに対応する。

Z720Xのスタンド部分。シンプルな形状で手前の張り出しも少なくなっている。画面下の部分はスピーカーがあるためやや大きめだ
付属のリモコン。すでに発売中のモデルとほぼ同様だが、上部に「4K」ボタンと「スカパー!」ボタンがある

今春モデルで復活した2画面機能「ダブルウインドウ」も採用するし、「重低音バズーカーウーファー」を備えた「重低音バズーカオーディオシステムPRO」を搭載するなど、音質面においても贅沢な機能と装備を盛り込んだ全部入りモデルとなっている。画面サイズは、49型(実売20万円前後)、55型(実売24万円前後)の2機種をラインナップする。ここでは、その55Z720Xを視聴し、その画質や音質を中心にレビューしていこう。

左が55Z720X、右が49Z720X。サイズ感としては55型が一回り大きい印象になる

コントラスト性能を高めた新IPSパネルで、広視野角で見やすい映像を追求

まずは肝心の液晶パネルから紹介していこう。パネルは新開発となる「高コントラストIPS液晶パネル」を採用。IPS方式の液晶は広視野角が大きな特徴だが、VA方式に比べ正面からのコントラストが低く、HDR表示などより高コントラストな表現を求められる4Kテレビでは搭載モデルが減る傾向にあった。東芝のZシリーズは、基本的にIPSパネル採用モデルが多いのだが、直近のハイエンドモデル「Z810X」ではVAパネルを採用していた。

新IPSパネルを採用しコントラスト性能を高めた

そんなIPSパネルのコントラスト不足を解消した新パネルには、液晶の各画素を駆動するための電極に透明電極が採用されている。画素の周囲にある電極の不要な光の反射をなくしたことで、外光の反射による影響を抑え、明るい環境下での明所コントラストを約2倍に向上したという。

また、液晶パネルの光源となるバックライトは、新開発の「リアルブラックエリアコントロール」を採用。パネル全面に配置したLEDの点灯制御をより緻密に行ない、高コントラスト化に加えて、全白表示などで目立ちやすい輝度ムラを改善している。

レグザの画質を支えるLSI「レグザエンジン Evolution PRO」

ここに「レグザエンジン Evolution PRO」による高画質映像処理が加わる。BM620X、M520Xの「レグザエンジン Evolution」の後段に、さらに映像処理のための専用LSIを搭載し、より精度の高い映像処理を行なうものだ。

4Kコンテンツに効果を発揮する「BS/CS 4KビューティX PRO」

新4K衛星放送をはじめ、4K動画配信など、今後ますます増える4Kコンテンツのために搭載された新技術が「BS/CS 4KビューティX PRO」。4Kコンテンツでも、放送や動画配信では転送レートに制限があり、それによって特有のノイズの発生があるという。これらを高精度に除去することで、より鮮明で解像感の高い4K動画を楽しめるようにしている。フレーム相関のノイズリダクションと複数フレーム超解像を行なうのだが、30コマ撮影のCMやライブ映像、24コマ撮影の映画やアニメ、60コマ撮影のビデオ映像と、素材を判別して最適なフレームを参照することでより高精度な処理を行なう。圧縮で利用するGOP(グループ・オブ・ピクチャー:映像を一定時間ごとにグループ化し、変化した部分だけを記録することで圧縮効率を高める)のIフレーム(データ量大)、Pフレーム(データ量中)、Bフレーム(データ量小)の違いに着目、適切な参照フレームを元にNRと超解像処理を行なっている。例えば60コマ撮影のビデオ映像では、フリッカーの低減や動いた部分の解像感にも効果のある3フレームごとの映像を参照するという。

1,440信号の映像を高画質に4K化する「地デジビューティX PRO」

また、地デジ放送のための高画質技術も「地デジビューティX PRO」にグレードアップ。1,440×1,080の映像を1,920×1,080へ解像度変換するときに、汎用のスケーラーによる変換ではなく、再構成型超解像技術によるアップスケールを行なう。さらに、水平方向を1,920から3,840へアップスケール、そして垂直方向を1,080から2,160へアップスケールする。この水平/垂直の解像度変換では自己合同性型超解像が行なわれている。こうした高精度な解像度変換で、ノイズを抑制しながら精細感の高い映像に再現するという。地デジ・BS放送を問わず1,440×1,080解像度の信号すべてに適用されるという。

このほか、「美肌リアライザー」による明るいシーンでの肌色の白飛びを抑え、自然な階調を再現するなど、これまでの技術もすべて継承。HDR映像のダイナミックな階調の制御も、低輝度部分と高輝度部分の処理を独立して制御することで、明るいシーンでの黒潰れ、暗いシーンでの白飛びを抑え、より自然でコントラスト感の高いHDR表示が可能になっているなど、画作りも大きく進化している。

地デジやUHD BDを見て、画質の実力を詳しくチェック

さっそく、地デジ放送や4K放送、UHD BDなどのさまざまなコンテンツを見て、画質をチェックした。部屋の環境は、やや薄暗いくらいの明るさとしている。イメージとしては、外光の反射や映り込みがあまり気にならないくらい。カーテンで光を遮ったり、照明を落として調整しよう。

地デジ放送やUHD BDなどで画質と音質を検証した

そのような環境下で見ると、IPS方式の液晶という先入観を覆すコントラスト感の高い映像になっているとわかる。黒の締まり感も十分で、くっきりとした映像になる。従来のIPSパネルだと、明るく鮮明ではあるが、黒が締まらず、画面の明るさを落としてしまいたくなる。テレビ放送はそれでいいが、映画視聴ではやや軽い印象に感じがちだ。Z720Xではそんな印象が軽減され、VA方式の液晶と比べても不満のないコントラストの高い映像だ。

地デジ放送は「標準」で見たが、ディテール感とノイズ低減のバランスもよく、すっきりと見通しが良い。前述の「地デジビューティX PRO」などの高画質処理のおかげで、質感の高い映像だ。肌の質感も自然で不自然なてかりがよく抑えられていて、階調感もしっかりと出る。アナウンサーの黒いスーツなどもしっとりと落ち着いた質感になっている。地デジ放送は、今や決して高品位な映像とは言い難いが、それでもしっかりと見やすく、見応えのある映像になっている。

一般的な明るい部屋で使うならば、有機ELテレビとの差は思ったよりも少ないというのが素直な実感だ。ディテールがしっかりと出ているので大味な表現にならず、明るさに余裕があるため、より精細な印象になる。

続いては4K放送のソースをいくつか見た。ドキュメンタリー番組などでは、精細感のしっかりとした再現も優秀だが、細部で目立つノイズ感がよく抑えられていることに感心した。これは「BS/CS 4KビューティX PRO」の効果。4Kコンテンツとはいえ、4K放送や4K動画配信では、転送レートの制限もあってUHD BDほどの情報量はない。結果として圧縮ノイズや4Kコンテンツ特有のノイズが目立ちやすくなるという。このあたりをしっかりと対策してきたというわけだ。しかも、すでに紹介したように、24コマ、30コマ、60コマの映像を判別して最適なノイズ処理を行なうため、精細さとノイズの抑制を高いレベルで実現できているのだ。いち早く新4K衛星放送チューナーを内蔵したこともあり、画質的な意味でも4K放送コンテンツの高画質化に積極的に取り組んでいる。

UHD BD「宮古島 癒しのビーチ」

UHD BDでは、沖縄の美しい映像を映した4K/60pの「宮古島 癒しのビーチ」を見たが、4Kらしい精細感はもちろんのこと、海の青と空の青、それぞの色の変化をなめらかに描いている。階調もスムーズで実に自然な再現だが、なによりスカっと晴れ渡った夏の海の空気感がよく出ている。日差しの強い光もパワフルで見応えがある。こういった映像はバックライトを光源とする液晶ならではだ。明るいシーンの映像の力強さは有機ELの繊細さとは違った印象になる。わかりやすく言えば見映えのする映像だ。

一方で、空の色が不自然に明るさが変化するような輝度ムラもよく抑えられている。画面全体が均一に明るいシーンだと、周辺部が暗くなっているように感じたり、LEDバックライトのエリア制御が不十分だと、映像が動いたときに輝度ムラが目立ちやすいのだが、これらもかなり改善されており、有機ELテレビに見慣れた筆者の眼で見ても輝度ムラが気になることはほとんどなかった。新パネルの採用だけでなく、エリア制御もより緻密になっていることがわかった。

本機の実力の高さを垣間見たところで、液晶テレビ泣かせとして名高いUHD BD「シェイプ・オブ・ウォーター」をチェックしてみることにした。本作は黒や暗部の再現にこだわった映像が多いため、液晶テレビにとっては意地悪なタイトルだ。果たして、55Z720Xはどこまで健闘するだろうか。

映像モードは「映画プロ」を選択。さすがに有機ELと比べれば暗部の締まりや階調に限界を感じるが、冒頭の水没した室内のシーンでは、薄暗い部屋の中に青みを帯びた豊かな陰影を映し出す。室内に差し込む光が揺らぐ陰影の描写も上手く再現されている。

映像メニューの設定画面。今春モデルと同様に、メニュー表示は階層構造がわかるスタイルになっており、操作性を高めた
コンテンツモードの選択画面。「オート」のほか、「高画質BD」、「BD」、「放送」の4種類に整理・統合され、わかりやすくなっている
映像設定にある「低遅延モード」。新規に追加されたもので、倍速処理などを省略して低遅延を実現する。「ゲームモード」以外の画質モードでも低遅延で楽しみたいという要望に応えたものだ

シネマスコープ映像を表示した際の画面上下の黒浮きもよく抑えられている。画質調整でも「レターボックス黒レベル調整」があり、黒帯部分の発光をより目立ちにくくさせることができる。

映像のヒストグラム情報を詳しく表示できる「映像分析情報」もさらにパワーアップした。従来の表示に加えて、時間経過による輝度の変化などをグラフで確認できるようになった。かなりマニアックというか、映像制作の現場で役立つ機能だが、こうした映像の分析は常時内部で処理されており、映像処理に反映されているそうだ。

映像設定のプロ調整にある「レターボックス黒レベル調整」。基本的には「オート」のままで問題ないが、マニュアルでより細かく調整することも可能
「映像分析情報」に新たに加わった「輝度推移」と「周波数ヒストグラム」。見ているシーンでの映像の詳細な情報をグラフで確認できる

よりクリアで迫力のあるサウンド「重低音バズーカオーディオシステムPRO」

続いては、内蔵スピーカーシステムをチェックしよう。背面に「重低音バズーカウーファー」、前面には「新型バスレフボックス2ウェイフロントスピーカー」を搭載。X920シリーズ内蔵のフルレンジスピーカーと共通だが、Z720Xではフロント配置になっている。システムは、フルレンジスピーカー(15W+15W)とシルクドームトゥイーター(8W+8W)、これにバズーカウーファー(20W)を加えた4.1ch構成。デジタルアンプは各ユニットごとに専用のアンプで駆動され、総合出力は66Wを誇る。

バズーカウーファーは、音声メニューか低音の強弱を4段階で調整できる。オフは完全にサブウーファーを使わない設定で、「弱」がフラットな特性、「中」がやや低音増強、「強」でかなりの低音増強となる。デフォルトは「弱」。アクション映画などでは「中」や「強」が楽しいが、音楽ソースなどは「弱」のままでバランスのよい音になる。音声メニューと連動し低音の設定も適切なものが選ばれるので、基本的には「ダイナミック」(音楽用)、「映画」などを選ぶといい。

また、各スピーカーの音質的な補正は、中高音域を896バンドの分解能で補正するレグザ サウンドイコライザー、低音域を20バンドで補正するオーディオ オプティマイザーを組み合わせた「レグザ サウンドイコライザー・ハイブリッド」となっている。これにより、ユニットの音響特性を最適化し、自然で明瞭なサウンドに仕上げている。イコライザーによる音質調整は、ユーザーがマニュアルで好みに合わせて調整することもできる。

UHD BD「グレイテスト・ショーマン」 (c)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

音質はUHD BDの「グレイテスト・ショーマン」でチェックした。ステージでのパフォーマンスシーンを見たが、肝心のダイアローグはくっきりとした再現で聴き取りやすい。中低域がしっかりとしているので感情のこもったセリフも力強く聴こえてくる。ステージで演奏される音楽も、安定感のある力強いサウンド。大太鼓などの打楽器のリズムもしっかりとしていて、各楽器の音が粒立ちよく再現されている。サラウンド感は好みで使い分けるとよいが、広がりのある音場はよく再現できている。ただし、多少漠然と音が拡散してしまう感じもあり、「グレイテスト・ショーマン」のようなミュージカル作品の場合はサラウンドをオフにして、ギュッと密度を高めた音場で楽しんでも聴き応えがある。

音声メニューの「重低音」の設定。オフのほか3段階で強度を調整できる
音声設定にあるイコライザーの調整。5バンドで好みに合わせた音質調整が可能だ

無論、本格的なサラウンドシステムと比べれば力不足は感じるが、内蔵スピーカーとしてはかなりの実力。バズーカウーファーも過度に重低音を演出することなく、「弱」は自然な低音感が得られるし、「中」や「強」では低音のしっかりとした力強さが楽しめる。テレビ放送の音声を聴くならば十分以上の実力と言えるし、控えめの音量でテレビを見るときも、内蔵スピーカー特有の痩せた感じにならないのがよい。

画質・音質、そして機能。オールマイティな4K液晶

Z720Xシリーズは、画質において液晶テレビのトップクラスにあり、新4K衛星放送に対応したチューナーの内蔵やタイムシフトマシンなどの機能面においても充実している。さらにはバズーカウーファーを始めとする強力なサウンドシステムが合体することで、総合力に秀でたモデルに仕上がっている。特に音質においては上位のX920シリーズを超えている。

これは、X920シリーズならば本格的なサラウンドシステムを組み合わせる人が多いが、Z720Xシリーズはテレビ単体で楽しむ人が多いという、ユーザー層の違いを考慮したものだろう。実際Z720Xシリーズは、内蔵スピーカーで十分楽しめる。画質や音質も重要だが、生活空間であるリビングにAV機器をごちゃごちゃと置きたくないという人は多いだろうし、一台で完結している方がシンプルに使えるのは間違いない。

実際のところ、部屋を真っ暗にして視聴するなら有機ELがいいが、リビングなどの明るい部屋で使用するなら液晶テレビの方が良いと筆者自身思っている。また有機ELモデルの55X920と今回視聴した55Z720Xの量販店価格を比べると、実に15万円以上もの差がある。方式による画の違いはあるものの、Z720Xのディテール再現や階調感、質感再現は優秀で、手頃な値段と画質のバランスを考えるとZ720Xは魅力的なモデルだ。

Z720Xを見てあらためて感じたのは、有機ELテレビの登場が液晶テレビの更なる画質進化をもたらしているということだ。コントラスト性能を高めたIPSパネルの採用もその一例だし、映像表現にしても映像の緻密さや質感表現などがより進歩してきていると感じる。この進化はきっと誰もが驚くはずだ。

新4K衛星放送のスタートが目前に迫った今、4Kコンテンツは映画だけでなく、ドラマやスポーツ、音楽とさまざまなジャンルが増えてくるだろう。そんな多彩なコンテンツを幅広く楽しむなら、液晶テレビであるZ720Xシリーズの方が使用する環境やライフスタイルを含めて、多くの人にフィットするのではないだろうか。

新しい放送のスタートや東京オリンピックが迫るこの時期は、薄型テレビも話題作が続々と登場してくる。買い替えを検討している人も徐々に増えてきているはず。REGZA Z720Xは画質・音質・機能がバランスした満足度の高いオールマイティーなモデルだ。ぜひともその実力を自分の眼で確かめてほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。