レビュー

コスパの高さがヤバイ、5万円台で圧巻の音質&高機能。FiiO次世代プレーヤー「M11」

FiiOと言えば“コストパフォーマンスの高さ”に加え、最新DACの採用や、バランス出力端子のスピーディーな搭載など、最新トレンドに素早く、かつ柔軟に対応するオーディオメーカーというイメージが個人的にはある。

FiiO次世代定番プレーヤー「M11」

取材などで、同社のGeneral ManagerであるJames Chung氏に話を聞くと、自身が超オーディオ好きで、海外で人気のあるポータブルオーディオのコミュニティ・Head-Fiに、これから作ろうと考えている製品のアイデアを「こんなのどうかな?」とガンガン書き込み、意見を求め、その声を取り入れながらスピーディーに新製品を開発しているという。

オーディオメーカーというと、各ブランドが“音に対する思想”を持ち、それに沿って製品を作り、“自分たちの世界観”を世に問うようなメーカーが多い。FiiOはそうした常識に、良い意味でとらわれていない。その結果、「こんな機能までついてるのに、こんな値段で大丈夫なの!?」と心配になるような高いコストパフォーマンスの製品を生み出しているわけだ。

そんなFiiOの特徴が存分に発揮され、ポータブルプレーヤーの新たな定番モデルとして注目を集めているのが、6月21日から発売されている「M11」だ。価格はオープンプライスで、実売は55,500円前後。

注目を集めている理由は多くあるのだが、代表的なものをピックアップすると以下の通りだ。

  • 最新の旭化成エレクトロニクス製DAC「AK4493EQ」×2基搭載
  • 2.5/3.5/4.4mm出力端
  • 新規設計のフルバランス構成アンプ回路
  • DSD 11.2MHz ネイティブ再生対応、PCMは384kHz/32bitまで対応
  • 「DSD変換モード」初搭載
  • Samsung製SoC「Exynos 7872」でサクサク動作
  • Bluetooth送受信機能搭載、LDAC/HWA(LHDC)サポート
  • アプリ追加も可能
  • 「FiiO Link」アプリでスマホから遠隔操作

見どころが多い製品であると同時に、こんなにいろいろ入って5万円台というコストパフォーマンスの高さにも驚かされる。

また、このM11は、FiiOプレーヤーの立ち位置的にも重要なモデルだ。史上、日本で最も出荷台数が多いという「X5 3rd」の後継機種であると同時に、新たな「Mシリーズ」の中核モデルと位置づけられている。つまり、FiiOの今後の方向性を示しつつ、次世代を担うプレーヤーの代表格がM11というわけだ。

実際に使ってみつつ、各特徴をチェック。気になる音質にも迫っていこう。

コストパフォーマンスの高い「AK4493EQ」をデュアルで搭載

音質面のポイントは、この価格帯ながら「AK4493EQ」をデュアルで搭載している事だ。このDACは、高音質DACとしてお馴染みの「AK4490」を超える新製品として登場したばかりのもの。

「AK4493EQ」をデュアルで搭載

AK4490の上位モデルという位置づけだが、ハイエンドDAC「AK4497」で得られた技術も投入された結果、諸性能がAK4497に肉薄したものがある。プレーヤーのコストパフォーマンスも高いが、DAC自体も非常に費用対効果が高いものを使っているわけだ。さらにそれをデュアルで使っているので、かなりリッチな仕様だ。これにより、ノイズ量を約半分に抑えたほか、歪みも1dB減少するなど、大幅な音質向上を実現したという。

再生対応データは、PCMが384kHz/32bitまで、DSDは11.2MHzまでネイティブ再生できる。5万円台のプレーヤーとしては十分過ぎる性能と言っていい。

比較試聴に最適!? 驚異の3.5mm/2.5mm/4.4mm全部搭載

仕様面で面白いのは、イヤフォン出力として、3.5mmシングルエンドと、2.5mmのバランス、さらに4.4mmのバランス出力、この全部を1台に搭載している事だ。

3.5mmシングルエンドと、2.5mmのバランス、さらに4.4mmのバランス出力、この全部を1台に搭載している

ポータブルオーディオに詳しい人はご存知だと思うが、市場にはAstell&Kernシリーズなどのように、3.5mmシングルエンドと、2.5mmバランスを備えたもの。ウォークマンのように、3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスを備えたものは多く存在する。しかし、この3種類を1台に全て搭載しているものはほとんどない。

右はAstell&KernのAK70 MKII。3.5mmシングルエンドと、2.5mmのバランスのみ搭載している

ポータブルオーディオファンは、既にバランス接続を楽しんでいる人が多いだろう。だが、手持ちのバランスケーブルが、買おうと考えているプレーヤーに接続できないと、また別のケーブルを買う出費がかさむ。そのせいで、プレーヤーを買う気が自体が無くなってしまった……なんて人もいるだろう。

3種類の端子を全て搭載していれば、そんな問題からは解消される。ユーザーとしては嬉しい事だが、コストも上がるので普通のメーカーはやりたがらない選択だ。ユーザーのニーズを積極的に取り入れて製品を開発し、なおかつ、グローバル展開する事で生産台数が多いFiiOだからできる仕様と言えるかもしれない。

3種類の端子があると、イヤフォンの聴き比べに便利だ。例えば、お店やイベントで、様々なケーブルを採用したイヤフォンを聴く時でも、1つのプレーヤーで対応できる。プレーヤーが同じなら、イヤフォンの音質比較もより厳密にできる。マニアックな話だが「こんなプレーヤーを待っていた!」という人も確実にいるだろう。

なお、ヘッドフォン出力端子は、ラインアウト、同軸デジタル出力としても動作する。ラインアウト出力時には、自動的にヘッドフォンアンプ回路がバイパスされる仕様だ。

アンプ部も贅沢だ。新たに設計されたフルバランス構成のヘッドフォンアンプ回路を搭載しており、「OPA1642」採用のローパスフィルター回路に加え、電源回路も大幅に改良された。抵抗やコンデンサなど、主要電子部品もグレードアップしている。

さらに、FiiO仕様にカスタムされたオペアンプ「OPA926」も搭載。これは、汎用品のAD8397と比べ、さらなる低ノイズフロア、低歪、全体的な低消費電力を実現したものだという。

音楽配信サービスのアプリも利用可能。サクサク動作が気持ちいい

プロセッサはSamsung製「Exynos 7872」で、デジタルオーディオプレーヤー史上最高クラスの高速動作を実現したとする。AndroidベースのOSなのだが、確かに操作でもたつく事は一切ない。Webブラウザで長いページを表示し、高速にスクロールさせても問題ない。音楽の検索、選択、再生曲の切り替えといった場面でも、サクサクと動く。非常に快適だ。

プロセッサはSamsung製「Exynos 7872」
ディスプレイも大きいので、使用感はほとんどスマホだ
ChromeでのWebブラウジングもサクサクだ

メモリは3GB、ストレージメモリは32GB。microSDカードスロットは2基搭載し、それぞれ最大2TBまでのカードに対応する。ライブラリが大容量だという人には、嬉しい仕様だ。なお、SDカードの大容量化に伴い、今後FiiOではSDカードスロットを2基搭載した製品の開発予定は無いとのこと。この部分に惹かれている人は、はやめに購入しておいたほうが良いだろう。

Bluetooth機能も備え、Bluetoothヘッドフォンなどと連携できる。コーデックはaptX/aptX HD/LDAC/HWA(LHDC)などに対応する。

LDAC/HWA(LHDC)にも対応する

ディスプレイは5.15型、18:9のHDタッチスクリーンで、解像度は1,440×720ドット。外形寸法は130×70.5×15.5mm(縦×横×厚さ)で、重量は211g。スマホくらいの画面サイズと考えるといいだろう。画面が大きいので操作は快適だ。3,800mAhのバッテリを搭載し、アンバランス接続時の再生時間は13時間、バランスでは9時間だ。

左側面にボリュームダイヤル
右側面にmicroSDカードスロット×2
上部には電源ボタン
背面

前述の通り、AndroidベースのOSで、OS標準搭載のサンプリングレートコンバーターを回避するよう最適化されている。さらに、自社開発の音楽再生アプリ「FiiO Music」をプリインストール。再生にはこれを使うカタチだ。

また、今回お借りした機体には次期ファームウェアのテスト版が入っており、このファームでは「Pure Music」モードも利用できた。Androidモードは、ホーム画面に「FiiO Music」やChromeなどのアプリアイコンが並ぶ“スマホっぽい”モードだが、Pure Musicを選ぶとホーム画面は無くなり、FiiO Musicだけが画面表示される。つまり、FiiO Musicの起動のみを許可した、音質最優先モードというわけだ。

音楽再生アプリ「FiiO Music」

スマホのようにGoogle Play Storeは利用できないが、アプリを入れるための「Applications」という専用アプリがプリインストール。起動すると、Amazon MusicやDeezerなど、あらかじめプレーヤーに向いたアプリがズラッと並んでおり、好きなものをタップするだけでインストールできる。

アプリを入れるための「Applications」という専用アプリがプリインストール

Google Playを使わない、この手のアプリ追加は、一般的にはPCとUSBでプレーヤーを接続し、どうこう作業してようやく入れられるという手間のかかる作業だ。しかし、「Applications」を使った追加は楽ちんそのものだ。

試しにSpotifyをインストールしてみたが、なんの問題もなく使えた。無料でも使える音楽配信サービスだが、音質はなかなか良好。開放型ヘッドフォンを装着して、BGM的に聴くような使い方にもピッタリだ。

Spotifyもフツーに使える

もちろん屋外では無線LANに接続していないと通信できない。Spotifyに限らず、音楽配信サービスアプリを使う時は、キャッシュやオフライン再生機能などをうまく併用したい。

スマホと連携すると超便利

M11にはもう1つ、音楽配信サービスと相性のいい機能がある。“Bluetoothレシーバー機能”だ。実は、ヘッドフォンに向けてBluetooth送信できるだけでなく、逆に、“Bluetoothで受信”もできるのだ。

スマホとBluetoothでペアリングすると、スマホで鳴っている音を、ワイヤレスでM11が受信し、M11に接続したイヤフォンから聴ける。つまり、スマホでSpotifyを使い、そのサウンドをM11に飛ばして、M11から聴けるのだ。これならSIMスロットの無いM11でも、屋外でストリーミングサービスが楽しめる。

スマホで鳴っている音なら音楽配信サービス以外の音も飛ばせる。例えば、Netflixアプリで見ているアニメの音も、M11から聴ける。

Netflixアプリで見ているアニメの音も、M11から聴ける

実際に使うとメチャクチャ便利だ。というのも、ご存知の通り、最近のスマホからはイヤフォン端子が無くなりつつある。私はGoogleの「Pixel 3 XL」を使っているのだが、イヤフォン端子は無い。電車内で、DAPに有線イヤフォンを繋いで音楽を聴いている途中で、「ちょっとスマホの音が聞きたい」と思っても、そのためにBluetoothイヤフォンを用意するのは面倒くさい。

M11をBluetoothレシーバーとして使えば、スマホの動画やゲームの音も、M11+有線イヤフォンから聴けてしまう。個人的にはわりと“無くてはならないレベル”の便利機能だと感じる。”

さらにこのBluetooth受信機能だが、音も良い。一般的なBluetoothソリューションと比べ、歪み、ノイズフロア、クロストーク、周波数応答など、様々な性能を大幅に向上させているそうだ。さらに、受信したBluetooth信号を同軸デジタル出力で外付けDACに伝送する事もできる。便利かつクオリティ的にもこだわっている。

これ以外にも、DLNAを介してNASなどの音楽サーバーからネットワーク再生したり、新機能としてAirPlayもサポート。iPhoneなどのiOSデバイスから、手軽にAirPlayを使ってM11から音楽を聴く事もできる。

新たにAirPlayもサポート

さらに便利なFiiO Link

より音質に拘る場合は、音楽そのものはワイヤレス伝送せずに、スマホをM11のリモコンとして使う「FiiO Link」機能が便利だ。

FiiO Linkは「FiiO Music」アプリ内に統合されている。M11の「FiiO Music」から同機能をONにして、さらにスマホにも「FiiO Music」アプリをインストールし、機能をONにする。さらにどちらを「サーバー」か「クライアント」にするかを選ぶ。

「FiiO Music」アプリの中から、FiiO Linkを設定
スマホにも「FiiO Music」アプリを入れて
同じように設定すると......

これにより、スマホの「FiiO Music」アプリから、M11を操作できる。逆に、M11から、スマホのFiiO Musicアプリを操作する事も可能だ。AndroidではWi-FiかBluetoothで、iOSではWi-Fi経由でこの連携ができる。

Androidスマホの「FiiO Music」アプリから、M11のFiiO Musicを制御しているところ
こちらはiOSのテスト版アプリでの画像
iOSではWi-Fi経由でFiiO Linkの連携が可能だ

M11の試用期間中、梅雨なので傘を持って出歩く事が多かったのだが、電車内で便利さを実感。M11をジャケットの内ポケットに入れ、そこに有線イヤフォンを接続して音楽を聴いていたのだが、曲送りや選択、ボリューム調整が、右手のスマホからサクサクできる。

左手は濡れた傘を持っているので、M11を操作したい時は、本来ならばスマホを一度ポケットに仕舞い、右手でM11を内ポケットから出して操作しなくてはならない。それが不要というのは本当に便利だ。

価格を感じさせない、雄大なサウンド

音質面のポイントは、この価格帯ながら「AK4493EQ」をデュアルで搭載している事だ。このDACは、高音質DACとしてお馴染みの「AK4490」を超える新製品として登場したばかりのもの。

イヤフォンにCampfire Audioの「POLARIS」、beyerdynamicの「AK T8iE MkII」、フォステクスのヘッドフォン「T40RP mk3n」などを使って試聴した。

音が出た瞬間に感じるのは「これ、5万円台のプレーヤーの音じゃない」という驚きだ。「宇多田ヒカル/花束を君に」を聴くと、シンプルなボーカルとピアノ、ストリングスの余韻が広がっていく音場が本当に広く、聴いていると自然と視点が遠くを見つめてしまう。アンバランス接続でコレだが、バランス接続にするとさらに広くなる。

低音から高音までのバランスは良好。前述の通り、新設計のフルバランス構成ヘッドフォンアンプ回路がかなり効果を発揮しており、特にバランス接続時の低域のドッシリ具合がハンパではない。宇多田ヒカルのような女性ボーカルでも、声の低域部分がしっかり出る事で音像に厚みが生まれ、歌手がよりリアルに、近くにいるように感じられる。

ドラムやピアノの左手も、締まりのある低音がズシンとしっかり沈む事で、その上に様々な音が重なっていっても、音楽全体がしっかりと安定している。

こうした重心が低いサウンドは、電源やアンプ回路が貧弱な低価格プレーヤーではなかなか出せない。逆にハイエンドプレーヤーの魅力は、物量を投入した事で得られる価格相応のドッシリ感だが、M11は5万円台なのに、横綱みたいな音が出てくる。これはかなり衝撃だ。

単に膨らんだ低音がボンボン出るのとも違う。「マイケルジャクソン/スリラー」や「CORNELIUS/Beep It」など、低域の締まりが重要な曲をかけると、ベースのタイトさがキチッと出て、低音の輪郭がボヤけない。低くて重い音がドスッと出た後で、サッと消える。制御できずにダラダラと低音が出続けない。ドライバーをアンプがキチッと制御できている音だ。駆動力のあるアンプで聴くと、低域にキレの良さを感じるのはそのためだ。

ゲイン切り替えも可能なので、普通のヘッドフォンアンプではうまく鳴らせないフォステクスの「T40RP mk3n」も、M11はかなりしっかりドライブできる。

FiiOの新たな定番プレーヤーとなる「M11」だが、ポータブルプレーヤー市場のかつての定番モデルと言えば、Astell&Kernの「AK70 MKII」だろう。登場当初は約8万円ほどしたが、現在では中古で4万円台も珍しくない。利用者も多いと思うので、M11との音の違いが気になる人もいるだろう。

2.5mmのバランスケーブルを使い、2機種を聴き比べるとかなり音が違う。AK70 MKIIもシーラス・ロジックの「CS4398」DACをデュアルで搭載し、アンプ回路にもこだわった良いプレーヤーなのだが、M11に切り替えると、音場が圧倒的に広く、M11が草原で聴いているとすると、AK70 MKIIが狭い部屋に押し込まれたように聴こえてしまう。

低域の沈み込みの深さ、重さも、M11が一枚上手。アコースティックベースの質感描写など、低い音の中の情報量もM11の方がしっかりと聴き取れる。この差はかなり大きく、じっくり聴き比べなくても、音が出た瞬間に「うわ全然違うじゃん」と声が出るレベルで違う。2017年発売のプレーヤーと、2019年の最新モデルを比べるのは酷な話だが、かつての定番モデルを、より安価なM11が凌駕していくのは感慨深いものがある。

左がM11、右がAstell&Kernの「AK70 MKII」

リアルタイムDSD変換や“端子の聴き比べ”も

最後に細かい聴き比べもしてみよう。FLACの曲を再生しながら、新機能の「リアルタイムDSD変換」をON/OFFしてみる。音が激変するわけではないのだが、ONにすると、やや高域がおだやかな描写になり、ちょっとアナログっぽい音になるようだ。ONにした状態でも、UIの操作がカクついたりはしないので、好みに合う人は、常時ONにしていても良いだろう。

細かな音の変化という面では可聴帯域外フィルタの切り替えも、シャープロールオフ/スローロールオフ/ショートディレイシャープロールオフ/ショートディレイスローローフオフ/スーパースローロールオフと切り替えられる。

1つ気になったのは、こうしたDSD変換やデジタルフィルタの切り替えが、Androidの設定メニュー内にしかなく、FiiO Musicアプリからは切り替えられない事。頻繁に切り替えるわけでもないので構わないのだが、できれば音に関する設定はFiiO Musicアプリからも全て行なえるようにして欲しい。

最後に、3.5mmアンバランス、2.5mmバランス、4.4mmバランスと3つ端子があるので、FiiOのイヤフォン向けリケーブルの「LC-2.5C/LC-3.5C/LC-4.4C」の3本を用意。同じイヤフォン「FA7J」を使って、“端子による音の違い”も聴き比べてみた。リケーブルの「LC-2.5C/LC-3.5C/LC-4.4C」は当然、全て同じ素材で、導体に銀メッキ高純度単結晶OCC銅を8芯(L4芯+R4芯)編み込みで使っている。

リケーブルの「LC-2.5C/LC-3.5C/LC-4.4C」の3本を用意
イヤフォン「FA7J」を使って、端子による音の違いをチェック

3.5mmアンバランスと、2.5mm & 4.4mmの違いは圧倒的で、音場が広くなり、クロストークが減る事で、そこに定位する音像がより立体的で生々しくなる。また、M11の場合、低域を中心に音がよりパワフルになり、低域のアタックも強く、重心が下がり、コントラストも深くなる。先ほどから特徴として書いている「ドッシリとした高級機っぽいサウンド」を味わうなら、間違いなくバランス接続がオススメだ。

そして2.5mmと4.4mmの違いだが、「同じバランス接続だから、そんなに変わらないでしょ」と思っていると、これがかなり違う。結論としては、4.4mmの方が低域に安定感があり、音場もさらに広い。もちろん3.5mmのアンバランスと比べた時ほどの大きな違いはないのだが、聴き比べるとすぐにわかるほどの違いはある。非常に勉強になるプレーヤーだ。

コストパフォーマンスの高さが光過ぎる新たな定番機

機能を体験し、音を聴いた後の感想は「コストパフォーマンスがおかしい」の一言に尽きる。「コストパフォーマンスが高い」を通り越して、こんな価格で大丈夫なのか心配するくらいだ。

アプリ追加によるストリーミングサービスへの対応、Bluetooth送受信や、FiiO Musicによるスマホとの連携などは、各社のプレーヤーが機能を充実させようと頑張っている部分だが、M11は既にそれらをガバッとカバーできている。

普通は「定番モデルは高級機と比べて○○機能がない」と、弱点があるところだが、ぶっちゃけ機能的にはてんこ盛り過ぎて弱点らしいところが見当たらない。さらに言えば、プロセッサも高速で動作がサクサクなので、触っていて「ああ~安いプレーヤーだから、動きがモッサリしてるよね」という不満すらない。というか使い込んだ自分のスマホより遥かにサクサク動くくらいだ。

そしてサウンドもクラスを越えた“圧巻”のクオリティ。バランス接続も、主要な端子は全部フォローしており、この点でも弱点はない。“いろいろなユーザーの要望を取り入れて製品を作る”のが得意なメーカーだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、実際に製品として眼の前に出されると、グウの音も出ない。ぶっちゃけ「もうプレーヤーこれでいいんじゃないの」という感じもする。

逆に言えば、オーディオメーカーっぽい思想とか、尖ったデザインとか、そうした要素がM11には少ない。だが、誰もが欲しい機能や音質をこの価格で盛り込み、操作性もピカイチなプレーヤーとしてまとめ上げる能力は称賛するほかない。

「使っているプレーヤーが古くなってきたので、最新のトレンドを盛り込んだモデルが欲しい」という人から、「スマホからのステップアップで、初めてポータブルプレーヤーを買う」という人まで、幅広くカバーできる新たな定番機としての実力は間違いなく備えている。同時に、「入門機でこのクオリティ&機能を備える時代になったのだ」と、ポータブルプレーヤー市場の成熟も感じさせるモデルだ。

(協力:エミライ)

山崎健太郎