レビュー

初代ウォークマンとカセットの良さが現代に。40周年「A100TPS」が音楽好きの心に刺さる!

ウォークマン誕生40周年を記念して、スペシャルパッケージのウォークマン「NW-A100TPS」が11月14日に発売された。予約受付は10月16日から始まり、現在も販売を継続しているが、本稿執筆時点でも納期まで約3カ月待ちという人気商品だ。

ウォークマン誕生40周年記念モデル「NW-A100TPS」

12月15日23時59分までの期間限定で注文を受け付けているこのウォークマンは、いったいどんな魅力でユーザーを引きつけているのか? その注目機を使ってみたので、特徴的なUIなどを含めて全貌をお伝えしたい。

NW-A100TPS(以下A100TPS)の発売より少し前、11月2日に本機のベースとなるNW-A100シリーズと、上位機であるNW-ZX500シリーズが発売された。A100は、筆者が詳細をレポートしている通り、'13年モデル「F800シリーズ」以来、Androidを久しぶりに搭載したストリーミングウォークマンの普及モデルとして登場、注目を集めている。A100TPSは、本体の仕様こそA100シリーズの16GBモデル「NW-A105」と変わらない。しかし、往年のウォークマンシリーズを愛する方なら、きっと“懐かしいセンサ-”が反応するはず。その魅力が少しでも多く伝わるよう、たっぷりの写真と筆者撮影の動画を交え紹介していきたい。

まず外箱からして、カセットテープ世代は、ときめきが止まらないのではないだろうか? 横向きのデザインに、青い帯部分、当時のままのウォークマンロゴ、全てにおいてカセットテープの外箱を彷彿とさせる。

NW-A100TPSのパッケージ

外箱を開けて中の紙箱を開けるとオリジナルソフトケースと本体が収納されている。本体のカラーはブラックのみだ。

外箱を開けたところ

裏面にはウォークマン40周年記念ロゴが描かれている。これは銀座ソニーパークで行なわれたWALKMAN IN THE PARKで披露されたロゴだ。オリジナルステッカーは2種類添付されている。これは単品でも欲しくなるほどだ。

本体背面のロゴ
同梱のステッカー

そしてなんと言っても注目はソフトケース。このデザインに見覚えのある方もいるだろう。これは初代ウォークマン「TPS-L2」をモデルにしているのだ。ウォークマンの音楽記録媒体は、はじめはカセットテープ、続いてCD、DAT、MD、そして現在のフラッシュメモリーへと変遷してきた。そんな背景の下、40周年記念にふさわしいのは初号機であるTPS-L2であることは間違いないだろう。このソフトケースにウォークマン本体を収納すると、まるでTPS-L2のミニチュアを持っているような気分になれるのだ。

付属のソフトケース
初代ウォークマンTPS-L2の実物(左)

ケースは、物理キーや端子部を露出しているため、一度付けたら外す必要は無いのは安心。それもあってか、付け外しはしっかり固定する形だった。ウォークマンを収納して扉を閉めると、透明な窓越しにウォークマンの画面が見える。ストリーミングなどサードパーティーのアプリを使うと、普通に覗き窓としても使える。この小さい窓は、TPS-L2のデザインを踏襲したものであるが、どういう意味があるのか気になってくる。

ケースを装着してAmazon Musicを再生した時。画面の一部だけ見える

本来の魅力が発揮されるのは、オリジナル音楽再生アプリ「W.ミュージック」の利用時。W.ミュージックは、音楽再生中のスクリーンセーバーを設定できる。そのスクリーンセーバーをONにすると……。

まずは動画でその様子を見てほしい。

【動画】「W.ミュージック」でDSD再生。Bluetoothレシーバーに接続してスピーカーで再生した
(楽曲:Rememberance/Beagle Kick)

音楽を再生すると、ほどなくスクリーンセーバーが始まり、カセットテープ再生中の様子が液晶画面いっぱいに映し出される。しかも、ソフトケースの扉を閉めると、窓越しにちょうど回転中のリールが見えるという芸の細かさ。これを考えた方は天才だろうか。懐かしさが猛烈にこみあげてくる。ちなみにこの白いテープは、DSDファイルを再生中に表示される。1986年に発売された当時のトップモデル「Metal Master」だ。セラミックハーフのボディは重量感がすごかったとか。DSDファイルと超ハイエンドなカセットテープを対比させるとはソニーらしい。

DSD再生時は「Metal Master」を表示

DSDファイルで表示されるカセットテープが指定されているということは、当然、その他も種類がある。再生するファイル形式やビットレートによって、なんと9種類もある。カセットテープには、ノーマルポジション/ハイポジション/フェリクローム/メタルと4種類のテープが存在していた。各テープの特徴は割愛するが、基本的にはノーマルが最も安価で、ハイポジ、メタルの順に性能と価格が上昇する。

ユニークなスクリーンセーバーを動画で紹介

では、筆者がスクリーンセーバーで確認したものを紹介しよう。

圧縮音源は、ビットレートに応じて4種類ある。

MP3/AAC/WMA 128kbps以下は、1978年発売の「CHF」。巻乱れを防ぎ、走行安定性を高めたDPメカを採用したノーマルポジション用カセット。

CHFの画面

同160kbps以下は「BHF」。より周波数特性を伸ばしたCHFの姉妹モデル。

BHF

同256kbps以下は「AHF」。1978年に登場したノーマルポジション用カセットCHF/BHF/AHFの中では最上位モデルだった。

AHF

同320kbps以下は「JHF」1978年に発売されたハイポジション用カセット。磁性体にはウルトラガンマを採用。

JHF

圧縮音源はビットレートが上がるに従ってノーマルポジションのグレードが上がっていき、最上位ビットレートではハイポジションを表示するという設定だ。

CDクオリティ(44.1kHz/16bit)では、フォーマットに応じて3種類の表示が用意されている。

FLAC/ALAC/APE/MQAは「UCX」。1983年に発売されたハイポジション用カセットだ。超微粒子磁性体を高密度充填しフラットな周波数特性を実現した。クリーニング機能付きリーダーテープを採用している。

UCX

AIFF再生時はUCXの上位版「UCX-S」だ。CDフォーマットのAIFFは手元にファイルがなかったこともあり今回は割愛している。

WAVは「DUAD」。1973年発売のフェリクロームテープ。磁性体を二層に塗っており、ダイナミックレンジや周波数特性、S/Nに優れる点が特徴。

DUAD

ハイレゾ再生時は、フォーマットによって2種類に分けられている。DSDは前述の「Metal Master」。その他のFLAC/MQA/ALAC/PCM/AIFF/APEは「METAL」。ソニー初のメタルテープでパッケージは白地にゴールドの高級感のあるデザインだった。ラベルも黒に金文字でいかにもハイクラステープ。

METALLIC
【動画】ロッシーとハイレゾの画面表示の違い
(楽曲:NEW ERA/Beagle Kick)

ということで、AIFFのようなレアなファイル形式にも反応してマニアックなカセットテープを表示してくれるという、気の効いた設定にうなった。当時のファンならすべて確認してみたいと思うのではないだろうか。

筆者がカセットテープを使っていたのは、小中学生時代。おこずかいの金額もそれなりで、録音媒体にお金を回せなかったこともあり、価格が安いテープしか買えなかった。よく理屈も分かってないのに、なんとなくハイポジションを購入するような無邪気なオーディオ少年だった。ハイポジションは、パッケージが煌びやかで手に取りやすいデザインだったのも販売戦略として巧かったと思う。そんなカセットテープも今やノーマルポジションのみの販売になってしまった。今思うと、ハイポジション用カセットテープを買い溜めしておけばよかったと後悔する。当時のテープを密封して保管しておくだけでもいい。タイムマシンがあったら、橋爪少年に「おい、捨てるな! それは20年以上経つとプレミアだぞ! 」と諭してあげたいと思うほど、本当に沢山持っていたからだ。ネットで調べると当時の値段からは想像も付かないようなプライスで中古取引されている。

“あえてカセットテープ”の魅力

なぜ、このスクリーンセーバーはMDなど他のメディアではなくカセットテープなのだろうか。ウォークマン40周年記念なのだから初号機TPS-L2をフィーチャーするのは分かる。画面の縦横比でもカセットを表示しやすかったというのもあるはずだ。しかし、筆者はそれ以外にもいろんな作り手の思いがあると考えている。

TPS-L2は、当時プレスマンという通称で報道の現場で使われていたテープレコーダーが元になっている。プレスマンはモノラル仕様であったが、当時ソニー名誉会長だった井深大氏の提案を元に、ステレオ仕様に改造され、録音機能を省いたとのこと。こうしてヘッドフォン付きのウォークマンとして発売された。

TPS-L2にはヘッドフォンジャックが2つあり、誰かと一緒に音楽を聴くことができるという機能もあった。なんと外音取り込みの機能もある。本体マイクで集音する周りの音をヘッドフォンから聴けるというものだった。現在のウォークマンではノイズキャンセリングの一機能である外音取り込み機能(対応イヤフォンを使った「アンビエントサウンドモード」)として、受け継がれている。

筆者はというと、世代的にカセットテープよりもMDにお世話になった期間の方が長い。ウォークマンもカセットテープは早々と買い換えてMDに移行したことを記憶している。しかし、MDは今も文化として残っているだろうか。筆者が調べた限りでは、ソニーがブランクディスクを販売しているのみで、音楽ソフトも発売されていない。舞台音響などの世界では一部需要は残っているが、アプリで使えるサンプラーなどの登場により風前の灯火といえる。

一方、カセットテープは、今もマクセルやナガオカが録音用のテープを販売している。部材からカセットテープを作っているのは国内で唯一というメーカー、東京電化も自社サイトでブランクテープを販売している。何よりカセットテープは、音楽ソフトが発売され続けているのだ。演歌ばかりだったカセットテープ市場も、今ではインディーズアーティストなどの発売も出てきているという。目黒のカセットテープ専門店waltzも好調らしい。前述の東京電化は個人制作の音楽作品もカセットテープにしてくれるメーカーだ。本記事の執筆を機に問い合わせたら、インディーズアーティストからの発注も受付けているとのこと。筆者の音楽ユニットBeagle Kickもいずれはカセットテープ版を出してみたいと思っている。

メディアとしての簡便さ、扱いの手軽さでいえば、MDの方が上だろう。でも、カセットテープには、アナログメディアならではの音の温かみや優しさがある。聴き疲れがしにくいという点も特徴だ。くるくる回るリールとテープの巻き取り、メカの動作音、音楽を聴いているという実感が得られるのも魅力。目的のアルバムを聴くためにカセットを入れ替えて蓋を閉じ再生ボタンを押す。A面B面の時間を元に曲順を考えて無音を極力作らないようオリジナルの一巻きを作る……こういった過程が楽しい、尊いと思うリスナーがいるから見直されているのだろう。

カセットテープで特徴的なのは、やはり早送り巻戻しの動作だ。今となっては信じられない人もいるかもしれないが、選曲(当時でいう“頭出し”)は一瞬ではなかった。テープに磁気で音声を記録しているため、目的の曲に行き着くまでにテープを巻き取る必要があったのだ。筆者が少年だったころは、早送り(巻戻し)をしてテープの残量の変化を目で見ながら、だいたいの目安で再生に切り替えて、目的の曲を探した。

AMS(オートマチック・ミュージック・サーチ)が搭載されてからは、曲間の無音部分を検出して自動で頭出しをすることができるようになった。しかし、テープを巻いて戻したり進めたり、目的の曲の頭まで送る機械的なプロセスがどうしても必要なのは変わらない。たまに失敗して、カセットテープが止まってしまい、取り出すときにテープがワカメのように内部メカに絡まって出てきてしまうことがあった。テープを元に戻しても折り目が付いたところが再生時にノイズになったりしたものだ。

なんとウォークマンA100シリーズにもこの早送り巻き戻しのギミックをグラフィックで見せてくれる機能がある! それを動画でご覧いただきたい。

【動画】巻き戻し、早送り。音声解説:筆者
(楽曲:SUPER GENOME/Beagle Kick)

ちゃんと巻き戻しと早送りのモーターの動きが連動していることがお分かりいただけるだろう。再生中の正方向の回転に対して、早戻し(曲戻しを長押し)すると巻き戻しのエフェクト、早送り(曲送りを長押し)すると早送りのエフェクトになる。これは、テープ世代としてはたまらない、またもノスタルジー感が刺激されるギミックだ。ちなみにテープの量はいくら巻き取っても変わらない。1曲の長さはいろいろあるし、こればかりは再現が難しいだろう。

音楽との新たな向き合い方も

1979年に登場したウォークマン。もともと、「いつでもどこでも誰でも音楽を聴けること。音楽を通じて、コミュニケーションを拡張すること」をコンセプトとして開発されたという。音楽を聴くことは当時に比べて圧倒的に手軽になったが、手軽になり過ぎた故に消費される娯楽の一つになってしまった感は否めない。

今後、5Gの普及などで高音質ストリーミングが一般的になれば、音楽ともっと密に向き合えるのかもしれないし、その先には、カセットやCD、MD時代にウォークマンが作ってきた文化とはまた違った音楽とのふれあいやコミュニケーションが生まれることも期待できる。個人的な注目ポイントとしては、サブスク用アプリとSNSやコミュニティサイトとの密な連携。プレイリストの共有を発展させたような新たなシステムが登場して欲しいと思っている。

そんな未来にもつながりそうなA100TPSは、「ストリーミング音楽対応のウォークマン」という、まさに新しい時代に適応した一つの形。40周年記念モデルとして、あえてカセットテープの記憶を呼び起こしてくれる一つ一つの演出が、音楽好きの心をくすぐる一台だ。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト