レビュー

ピュアなB&Wサウンドを環境適応型NCが引き立てる。大人のBTヘッドフォン「PX7」など4機種の魅力

外音をシャットアウトして、いつでもどこでも音楽の世界に没頭させてくれるノイズキャンセリング(NC)機能付きBluetoothヘッドフォン。各ブランドが主力機を続々とアップデートしており、音質やNC性能、使い勝手などを競っている。そんな中、11月末にBowers & Wilkins(B&W)から、高音質と最先端のNC機能を備えたヘッドフォンなど最新モデルが4機種登場した。

Bowers & Wilkinsから最新ヘッドフォン4機種登場

B&Wといえば、英国の名門オーディオブランドだ。どんな音か気になっていたところ、試用する機会が訪れた。喜び勇んで試したところ……これが、本当に素晴らしかった。筆者も数多くのNC対応Bluetoothヘッドフォンをレビューしているが、ちょっと聴いただけで惹き込まれたモデルはそうそうない。ここでは、その魅力を紹介しよう

ピュアオーディオの名門ブランドは、長年ポータブル機器も手掛ける

今回登場した4機種は、Bluetoothヘッドフォン2機種とネックバンド型のBluetoothイヤフォン2機種。ヘッドフォンはともにアクティブノイズキャンセリング(ANC)機能を搭載しており、アラウンドイヤータイプが「PX7」(店頭予想価格6万円前後)、オンイヤー型は「PX5」(同5万円前後)。

左からオンイヤー型「PX5」、アラウンドイヤータイプ「PX7」

イヤフォンのうち、ANC機能を搭載した上位機は「PI4」(同5万円前後)、NC非搭載のベーシックモデルが「PI3」(同3万円前後)だ。

左からANC機能の上位機「PI4」、NC非搭載のベーシックモデル「PI3」

カラー展開はヘッドフォンが2種類ずつで、PX7がスペース・グレー/シルバー、PX5はスペース・グレー/ブルー。イヤフォンは各3色となり、PI4がブラック/ゴールド/シルバー、PI3はブルー/ゴールド/スペース・グレー。

比較的低価格なモデルからハイエンド機まで多数のスピーカーを手掛けるB&Wは、ピュアオーディオファンにとってなじみの深いブランドだ。1966年に通信機器の専門家であり音楽愛好家でもあったジョン・バウワースが創業。初の製品「P1」で商業的に成功を収め、得た収益でバウワースはオーディオ用の計測器を購入する。以降、B&Wが製造したスピーカーには音響測定証明書が付けられるのだが、これが品質や音質に対する信用の獲得につながり、欧州はおろか、世界中に愛好家を増やしていく。

原音に忠実なサウンドは、レコーディング・エンジニアたちからも高い評価を得る。1979年に発売した「801」は、世界中のレコーディングスタジオでモニタースピーカーとして導入された。かの「アビー・ロード・スタジオ」も、1980年代後半より標準モニタースピーカーに「Matrix 801 model2」を採用。その後も「800Ds」、「800 D3」と歴代の800シリーズを使い続けている。

800 D3

もう一つ、B&Wというブランドを語る上で欠かせないのが1993年に発表されたスピーカー「Nautilus(ノーチラス)」だろう。ドライブユニットを意のままに機能させることを追求した結果に行き着いたという、オウムガイに角を生やしたような独特の形状は、唯一無二。発売から四半期以上を経たいまなお、フラッグシップモデルとして君臨している。ちなみにペアで1,100万円と価格も超弩級だ。

Nautilus

ピュアオーディオの印象が強いB&Wだが、2010年にヘッドフォン「P5」を、翌2011年にイヤフォン「C5」を発売している。実はポータブルオーディオ分野でも9年余りのキャリアを誇っているのだ。音のプロをも納得させるB&Wの新製品だけに、筆者が今回の4機種に期待を寄せていたのもお分かりいただけただろう。

環境適応型NCは効果抜群。効き具合もナチュラルで音楽を損なわない

今回のニューモデルは、聴いている環境や行動に合わせて最適なリスニング体験ができることを重視し、複数の機能を組み合わせている。その一つがPX7、PX5、PI4の3機種が備えるANC機能で、「環境適応型」を謳う。

オンイヤーヘッドフォンのPX5

一般的にANCはハウジングの外側に備えたマイクで外音を取り込み、その外音の波形と逆の波形の音を生成。これを再生音に加えることで、外音のみを打ち消す技術だ。今回の3機種はこれに加えて「環境適応型ノイズキャンセリングモード」を搭載する。これは、3種類のモードを専用アプリもしくは、本体の専用ボタンで切り替えられるというもの。「低」モードは車の騒音や周りの音を聴ける。「オート」は搭載した4つ(PI4は3つ)のマイクを搭載するセンサーが環境に応じてノイズを除去する。「高」は周囲のエンジン音や、工事の騒音など一定に発せられている騒音を協力に遮断する。つまり、聴く場所や状況に応じて、自在に切り替えが可能なのだ。

PX5側面のボタン

オンイヤーヘッドフォンのPX5で試したところ、「低」モードでは車や人の会話などがほんのり聴き取れるため周囲の気配が分かる。筆者が最近はまっているスマホゲーム「ドラゴンクエストウォーク」をしながら住宅街や人の多い駅前などを歩くのに重宝した。「高」にすると低モードで聞こえていた外音がスッと消え、静寂の空間になる。トラックが多く行き交う幹線道路沿いや、走行中の電車内では無音とまではいかないが、それでも聴いている音楽が損なわれるほど外音が聞こえることはない。

「オート」は静かな環境だと低モードに近く、騒々しい場所では高モードに近くといった具合で効果が変わっているようだ。しかし、切替えが自然でシームレスなので、聴いている音楽を一切邪魔しない。音楽のボリュームや聞こえ具合はそのままに、勝手に周囲の音が聞こえたり、無くなったりしているように感じた。

PX5、ハウジングの側面

ANCを補助する機能として「アンビエント・パススルー」も備える。オンにすると、周囲の音がクリアーに聴き取れるようになるのだが、驚きは特に会話において、ヘッドフォンを装着しているのに外した時とボリュームも音質もほぼ同じように聞き取れたこと。外音には再生機のボリュームは反映されず、その場で聞き取れるままの外音を再現してくれたのだ。

もう一つ、最適なリスニング体験につながる工夫が、Bluetoothコーデックだ。4機種すべてがBluetooth 5.0に準拠し、SBC/AAC/aptX Classic/aptX HDに加えて「aptX Adaptive」をサポートする。aptX Adaptiveは「途切れにくい」「低遅延」「高音質」を兼ね備えた新しいコーデック。従来のaptX ClassicとaptX HDでは、伝送レートを固定するCBR方式を採用。一定の量のデータを送受信し続けるため、通信状況が悪いとデコード時に一部データが届かず、音切れする一因となっていた。

aptX Adaptiveの概要

対する、aptX Adaptiveは伝送レートを可変させるVBR方式となる。送信側と受信側が相互に通信状況をチェックし、状況に応じて、最大48kHz/24bitの音声データを279kbps~420kbpsのレート幅で自動的に可変させて伝送するため、データの欠損が極めて起こりにくい。aptX Adaptiveで伝送するには、スマートフォンやDAPなど送信側も対応している必要があり、現時点では「AQUOS R3」など一部最新機種がサポートしている。aptXが多くのスマートフォンで標準搭載されたのと同様に、aptX Adaptiveも今後、対応モデルが増えそうだ。

「AQUOS R3」

さらにヘッドフォンの2機種とイヤフォンのIP4はユーザーの動作に反応する機能が充実している。ヘッドフォンでは会話をするためにハウジングを持ち上げたり、耳から外して首にかけたりすると自動で音楽が一時停止し、装着しなおすと再生が始まる。イヤフォンのIP4はハウジング外側にマグネットが内蔵されており、両イヤフォンをくっつけると自動で再生が一時停止し、離すと再生が始まる。些細な機能に思えるが、一度使えば無い事が不便に感じるほど、ユーザビリティを高めてくれる。

IP4のハウジングを、内蔵するマグネットで固定したところ

再生時間が長く、急速充電に対応するのもユーザビリティの観点から高く評価したいポイントだ。最大再生時間は、PX7がANCをオンにして最大30時間、PX5は同じく25時間、PI4が同12時間。ANCのないPI3は最長8時間となる。15分の急速充電で、PX7とPX5は5時間、PI4が3時間、PI3は2時間再生できる。朝起きて充電切れに気づいても、支度をしている間に充電すれば済む。また、PX7とPX5は万一充電が切れても、付属のケーブルを使えば有線接続で楽しめる。

PX7。付属のケーブルを使い、有線接続も可能だ

このように、環境適応型ANC、アンビエント・パススルー、aptX Adaptive、ユーザビリティに配慮した操作性、長時間再生と急速充電など、音質一辺倒ではない、使い勝手にもこだわったモデルだ。

低域の表現力に長けたPX7、ボーカルが生き生きするPX5

では、各モデルを聴いてみよう。試聴機はaptX HDに対応したGoogleのスマートフォン「Pixel 3 XL」。楽曲は音楽配信サービスAmazon Music HDで再生した。また、純粋にサウンドを確かめるため、ANC搭載機はオフにしている。

PX7

最初はアラウンドイヤータイプのPX7。外観はカジュアルなのに気品に溢れており、大人の雰囲気を醸す。ハウジングの表面は中央に梨地処理を施したブランド名入りの金属部があり、その周囲をファブリック素材が覆う。手にすると質感の高さがよく分かる。ファブリックは肌理が細かく手になじみ、ずっと触っていたくなる。軽量化するため、カーボンファイバーを使っている部分もある。

ハウジングの表面は中央に梨地処理を施したブランド名入りの金属部
表面にはファブリック素材を使用
軽量化するため、カーボンファイバーも活用

イヤーパッドは柔らかい皮革素材とややハリのある低反発フォームを組み合わせる。側頭部をやさしく均等な力で支持するため、やや側圧が強めながらも、長時間の装着でも痛くなりにくい。ヘッドバンドも表面がファブリック、内側が皮革素材と低反発フォームとなっており頭頂部にフィットする。

大ヒットアニメ『鬼滅の刃』のオープニング曲、LiSAの「紅蓮華」は、サビのギターとベースがとにかくエネルギッシュ。43mm径のフルレンジドライバーが高い音圧で低域を鳴らす。そこにキレ味鋭いLiSAのボーカルが加わり、疾走感に富んだサウンドを味わえる。低域が強いといわゆるドンシャリ傾向をイメージする人が多いかもしれない。しかし、本機の低域は深く沈み込み、低域部分もしっかりと描ききる。大型のウーファーを搭載した高級スピーカーで聴いているかのような、余力を残した表現が上質なのだ。

43mm径のフルレンジドライバーを採用
PX7

一方で中高域は情報量とトランジェントに優れ、空間表現力が高い。ジャズの名盤と評されるビル・エヴァンス・トリオの『Waltz For Debby』から1曲目の「My Foolish Heart」を再生する。ゆったりした曲調のピアノに注目しがちだが、ヘッドフォンの実力を測るのに最適なのがドラムだ。「サー」というワイヤーブラシの音が繊細で、よほどの実力がないと明瞭に聞こえない。その点、本機では手の動きが見えるかと思うほどクリアー。空間表現も見事で、曲の最後の拍手はライブ録音の臨場感がよく伝わってくる。低域の表現力に優れたサウンドは、聴く音楽のジャンルを選ばない。オーケストラでは盛り上がるクレッシェンドの部分を、EDMではグルーヴ感溢れるリズムを楽しめた。

PX5

続いて、オンイヤーモデルのPX5を聴く。本機も質感はPX7と同レベル。筆者の頭では本機の方がやや側圧が弱めに感じた。ヘッドバンドから伸びるハンガー部が伸縮するのだが、最大限まで伸ばしてようやく耳たぶの中心にイヤーパッドが載る状態だった。頭の形状によっては距離が足りなく、耳からズレる可能性もある。この点は一度、店頭で試聴して確かめて欲しい。

PX5
イヤーパッドは肉厚だ
PX5にもカーボンファイバーが使われている

本機でもまずLiSAの「紅蓮華」を再生する。搭載するドライバーが35mm径のフルレンジとPX7より一回り小さいためか、低域のパワフルさはやや控えめだが、クリアーで解像感に優れた良質なサウンドは上位機譲り。音が塊になって曖昧になりやすいギターのパワーコードは、エッジが立ち耳を通して体に突き刺さる感覚で迫ってくる。

面白いのは、低域が抑え気味なことで、中高域の描写力が相対的に際立っていたことだ。特にLiSAのボーカルが生き生きとしており、目を閉じるとスッと歌詞が入ってきて、たちまち曲の世界観に惹き込まれてしまう。あいみょんの「マリーゴールド」やテイラー・スウィフトの「ME!」でも同じ印象だ。オーケストラやジャズも中高域の表現力に長けておりメロディーラインが分かりやすい曲と相性が良かった。

PI4はBluetoothイヤフォン最上クラスの高音質

続いてイヤフォンの実力を確かめる。2機種とも前述の通りネックバンド型のBluetoothイヤフォンだ。軽量かつ耐汗仕様となっている。ケーブルはソフトシリコン製で強度も十分。まさに使う場所を選ばない。

ANCを搭載するPI4

上位機でANCを搭載するPI4は、ドライバーに14mm径のダイナミック型フルレンジを搭載する。イヤフォンの限界を超えたかのようなダイレクト感のある再生が特徴で、LiSAの「紅蓮華」ではまるでヘッドフォンで聴いているかのように力強い。ギターやボーカルは高解像度で濃密。音のキレもPX5と遜色がないレベルだ。

空間表現を確かめるべく、ビル・エヴァンス・トリオの「My Foolish Heart」を再生する。

ここでも、イヤフォン離れした広い音場空間を味わえた。ドラムのワイヤーブラシも、ヘッドを往復しながら音を出している様子がよく分かる。Bluetoothイヤフォンは数多くのモデルを聴いてきたが、本機はその中でも最上クラスの高音質。有線イヤフォンやヘッドフォンで聴いているかのようなサウンドにすっかり虜になってしまった。

エントリーモデルのPI3

最後は、エントリーモデルのPI3をチェック。本機もソフトシリコン製のケーブルを採用し、耐汗仕様となっている。

PI4との違いはANCを搭載していないことと、ドライバー構成。本機はバランスド・アーマチュア型と9.2mm径のダイナミック型を組み合わせ、それぞれを独立したアンプで駆動する「ハイブリッドデュアルドライバー」を搭載している。

サウンド傾向も若干異なる。上位機のような音が迫ってくる感覚はやや乏しいものの、密度の高い低域とどこまでも伸びる高域のコントラストが気持ちよい。ANCがない分、騒音の多い場所での聞きやすさを優先したのではないだろうか。実際に、外出時でも外音に負けず楽曲を楽しめた。

音質とNCが高次元で両立、大人のためのBluetoothヘッドフォン/イヤフォン

4モデルを聴き終えて感じたのは、大人のためのBluetoothヘッドフォン/イヤフォンだということ。サウンドは「さすがはB&W」と唸る品質で、いずれも高級オーディオで培った原音に忠実かつ余裕を持って奏でられる“B&Wサウンド”をベースとしながらも、4種4様の特徴があった。

PX7の付属ケース
PX5の付属ケース
PI4とPI3のケース。いずれもデザイン性が高い

また、「環境適応型」のNCは快適で、良音を損なわないことを第一に、周囲の騒音だけを見事に消し去ってくれる。そこに、ユーザビリティの高さとデザイン性の高さという魅力も加わる。ピュアオーディオの楽しみの一つが、自分のシステムに合ったモデルを探すことにある。それと同じように、自分が聴く曲や聴取スタイルに合わせて4種類から選べるのだ。

流行に左右されず、本当に良いものだけを見抜ける違いの分かる大人に使って欲しい4機種だ。そして五感を使って吟味し、お気に入りに1台を末永く愛用して欲しい。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

草野 晃輔

本業はHR系専門サイトの制作マネージャー。その傍らで、過去にPC誌の編集記者、オーディオ&ビジュアル雑誌&Webの編集部で培った経験を活かしてライター活動も行なう。ヘッドフォン、イヤフォン、スマホといったガジェット系から、PCオーディオ、ピュアオーディオ、ビジュアル系機器までデジタル、アナログ問わず幅広くフォローする。自宅ではもっぱらアナログレコード派。最近は、アナログ盤でアニソン、ゲームソングを聴くのが楽しみ。