レビュー

完全ワイヤレスでも好きなイヤフォンを使いたい! “本領発揮”したFOSTEX「TM2」

世間は“完全ワイヤレス”ブームだ。その波に乗って、連日様々なメーカーから完全ワイヤレスの新製品が登場している。初期の頃は“つながりにくい”“途切れがち”などの問題もあったが、現在ではかなり解消され、純粋な音質競争に突入している。価格としては5,000円以下の低価格機から、高価でも2万円後半程度と、ハイエンドポータブルオーディオ世界と比べると超高級品は少ない。ユーザーとしては嬉しいポイントだが、趣味のオーディオととらえると、もうちょっと尖った製品も欲しくなる。

そんな人に要注目の完全ワイヤレスが、フォステクスが手がけた「TM2」だ(オープンプライス/直販価格 税込30,704円)。なんとこの製品、完全ワイヤレスイヤフォンのイヤフォン部分を取り外しでき、他のイヤフォンが取り付けられる「その手があったか」というユニークな製品だ。フォステクスではこれを“次世代完全ワイヤレスイヤフォン”と呼んでいる。

市場で既に人気モデルになっているので「もう知ってるよ」という人も多いだろう。ただ、最近オプションパーツが充実し、取り付けられるイヤフォンが増加。スマホ用アプリも公開されるなど、“本領発揮”している。実際に使ってみたので、その面白さをレポートする。

フォステクスが手がけた「TM2」

合体ロボのようなイヤフォン

TM2は3つのパーツで構成されている。1つは「耳掛け式のフック形状を採用したBluetoothレシーバー部」、2つ目は「レシーバー部にMMCX端子で接続するフレキシブル・ショート・ケーブル」、そして「6mm径のダイナミック型ドライバを採用したMMCX接続イヤフォン」だ。3つドッキングすると、完全ワイヤレスイヤフォンとして使える。合体ロボのような製品だ。

左からフレキシブル・ショート・ケーブル、イヤフォン、ショートケーブルとイヤフォンを接続したところ

付属イヤフォンを使い続けてもいいのだが、イヤフォン部分を取り外し、ユーザーが手持ちのMMCXイヤフォンに交換して使うこともできる。

さらにこのショート・ケーブルを、オプションで別の端子のケーブルに交換すれば、MMCXイヤフォン以外のイヤフォンも接続できるようになる……というわけだ。

ショートケーブル自体を交換する事で、MMCX端子以外のイヤフォンも取り付けられる容認なる

現在までに発売されているオプションケーブルは以下の通り。

  • MMCXタイプ「ET-TM2MMCX」(TM2標準装着)(単品版は直販税込4,396円)
  • FitEar 2pinタイプ「ET-TM2F2P」(同税込5,577円)
  • カスタムIEM 2pinタイプ「ET-TM2C2P」(同税込6,755円)
  • A2DCタイプ「ET-TM2ATC」(同税込7,876円)
左からMMCXタイプ「ET-TM2MMCX」、カスタムIEM 2pinタイプ「ET-TM2C2P」、FitEar 2pinタイプ「ET-TM2F2P」、A2DCタイプ「ET-TM2ATC」

先月発売されたのは、A2DCコネクタのイヤフォンを取り付けられるようにする「ET-TM2ATC」。A2DCコネクタは、オーディオテクニカのイヤフォンなどで採用されている。世の中には、これ以外の端子を採用したイヤフォンも存在はするが、ショートケーブルラインナップの充実により、ほとんどのイヤフォンはTM2に接続できるようになっていると言っていい。

A2DCタイプ「ET-TM2ATC」

ユニークかつ仕様も最新。Qualcomm「QCC3026」採用

非常にユニークな製品だが、完全ワイヤレスイヤフォンとしての基本スペックもしっかりしている。耳掛け式のフック形状のBluetoothレシーバー部には、QualcommのSoC「QCC3026」を採用し、Bluetooth 5.0に準拠。

コーデックはSBC、AAC、aptXに対応。対応スマートフォンと組み合わせ、右の信号は右のイヤフォンに、左の信号は左のイヤフォンに別々に伝送する「TrueWireless Stereo Plus」(TWS Plus)モードも利用可能だ。左右間の音切れを抑えて接続安定性を高めている。

レシーバー部にはマルチボタン(音楽再生操作/通話操作)とタッチセンサー(音量調整、早送り操作)も搭載。イヤフォン部分には搭載できないので、操作系はすべてレシーバー部に集約されているわけだ。装着すると、レシーバー部は耳の裏側に位置するため、イヤフォンを手でつかむようにしながら、親指でセンサー部をスライドしたり、タッチして操作するとやりやすい。

IPX5の防水性能も備えているほか、MEMSマイクを内蔵し、ハンズフリー通話も可能。CVCノイズキャンセリングでクリアな通話が可能だ。

連続再生時間は最大約10時間。充電時間は約1時間30分。左右を親機/子機として使う、従来の接続方式でも、バッテリーの持ちを改善。ロールスワッピング機能にも対応し、左右のバッテリー残量に応じて親機/子機を切り替えることでバッテリー消費の偏りを抑えている。

なお、バッテリーに関しては通常の完全ワイヤレスと異なる部分がある。それは付属するケースだ。一般的な完全ワイヤレスは、ケースにバッテリーを内蔵し、収納した完全ワイヤレスイヤフォンを充電できる。しかし、TM2のケースはバッテリー非搭載。TM2を充電する際は、ケースに搭載しているmicro USB端子から給電する。つまり付属のケースは充電ケースではなく、“充電用クレードル兼キャリングケース”というわけだ。

充電用クレードル兼キャリングケース
付属イヤフォン以外のイヤフォンを取り付けていても、収納できる

収納中に充電できないのは不安と感じる人もいるかもしれないが、イヤフォンだけで約10時間持つため、さほど神経質になる必要はない。

それよりも少し気になったのは、普通の完全ワイヤレスと比べるとケースが大きい事。様々なイヤフォンを接続した状態でも収納できるよう、内部空間に余裕を持たせているので仕方のない部分もあると思うが、クレードル機能も省いた、持ち運ぶためだけのコンパクトケースがオプションとして欲しいところ。また、ケースの端子をUSB-Cにして欲しい。

端子をUSB-Cにして欲しい

付属イヤフォンとケーブル部分を含めた重量は片側11gと、通常の完全ワイヤレスと比べると重めだ。ただ、このフック型のレシーバー部を耳穴に挿入するわけではなく、耳掛けで装着するため、実際に使ってみると重さはあまり感じない。もちろん“イヤフォンが重くて耳穴から抜けてくる”事もない。むしろフック型として耳の裏にしっかり位置してくれるため、安心感があるくらいだ。

付属のイヤフォンもかなりの実力

いきなりイヤフォン交換したくなるが、まずは同梱イヤフォンで聴いてみよう。

6mm口径のダイナミック型ユニットを搭載し、再生周波数帯域は10Hz~40kHzだが、Bluetooth伝送帯域は20Hz〜20kHzだ。インピーダンスは16Ω。ペアリング相手としてGoogleのスマホ「Pixel 3 XL」を用意した。

付属イヤフォンのサウンドをチェック

「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best of My Love」を再生。フォステクスらしい、非常にクリアでシャープな音が流れ出す。イヤフォンを駆動するドライブ力が高いのか、イヤフォン側の描写が繊細なのか、おそらく両方と思われるが、トランジェントが良く、雑味の無い、キビキビとした音で気持ちが良い。

この部分が弱いと、低音の描写が甘くなってしまいがちだが、TM2の場合はアコースティックベースの弦の震える様子もよく見える。“ダイナミック型は低音が膨らみがち”というイメージを持っている人が聴くと、ビックリするだろう。

低音をタイトに、音色の色付けも少なく、高精細なサウンドは“モニターライク”と言って良い。ドンシャリサウンドが多い、低価格完全ワイヤレスの音とは違う、玄人向けな音だ。しかし、それゆえ再生する楽曲のジャンルを選ばず、また飽きのこないサウンドになっている。

付属イヤフォンは十分高音質で、聴いていると「ぶっちゃけコレで十分では?」という気もしてくるが、曲によってはより低音がパワフルに押し寄せて欲しいとか、音がクール系なのでホッとするサウンドも聴いてみたいと思ったりもする。そんな時は、イヤフォン交換のタイミングだ。

いろいろなイヤフォンを装着してみる

FitEarの「FitEar TO GO 334」を繋いでみる。ショートケーブルをFitEar用2pinタイプの「ET-TM2F2P」に変更し、イヤフォン部をその先端に接続する。この付替え作業が「オーディオをいじっている」感じがして、ちょっと楽しい。

「FitEar TO GO 334」

再生音は、付属イヤフォンと比べてよりワイドレンジになる。「FitEar TO GO 334」はBA(バランスドアーマチュア)の3ウェイ、3ユニット、4ドライバー構成(Low×1/Low・Mid×2/High×1)。特に低域の沈み込みが深くなり、再生音にドッシリ感が漂う。それでいて、中高域のクリアさも維持されているのも見事。高域の抜けも良く、爽やかなサウンドだ。

Unique Melodyのハイブリッドイヤフォン「MAVERICK II」

Unique Melodyのダイナミック+BAのハイブリッドイヤフォン「MAVERICK II」を繋ぐ時には、カスタムIEM 2pinタイプのショートケーブル「ET-TM2C2P」を使う。このイヤフォンは肉厚かつ重い低音をズシリと聴かせつつ、奥行きなどの空間表現も秀逸。Bluetooth接続でもその特徴はバッチリ味わえる。音場の空気感や響きが消える際の細かな描写も微細だ。

final「B1(FI-B1BDSSD)」

finalが、独自の音響研究の末に誕生させた「B series」の中から、個人的に好きな「B1(FI-B1BDSSD)」も用意。ダイナミック型とBAを各1基搭載したハイブリッドで、MMCX端子を採用しているため、付属のショートケーブルで接続可能だ。

剛性の高い金属ハウジングから奏でられる音楽には、気品と色気がある。それでいて、余分な響きは抑えられており、音の輪郭や、音と音のあいだにある空間の見通しも良い。ベースとしての再生能力の高さと、オーディオ的な“美音”のバランスが絶妙で、聴いているとウットリしてしまう。一昔前は“Bluetoothは痩せた、スカスカした音”というイメージだったが、まったく世界が変わったとしみじみ感じてしまうサウンドだ。

オーディオテクニカの「ATH-IEX1」は、9.8mm径のフルレンジ・ダイナミック型と、低域の量感を高めるための8.8mm径パッシブラジエーター、超高音域用のBA×2基を組み合わせているのが特徴。パッシブラジエーターを搭載する事で、低域から中域への繋がりを良くするのが狙いだ。

オーディオテクニカの「ATH-IEX1」

こうしていろいろなイヤフォンを取り付け、音の違いを体験するのは楽しい。フック型レシーバー部は共通でも、イヤフォンを変えるだけでガラッと世界が変わる。ピュアオーディオで、スピーカーを買い替えた時のような気分だ。

装着感の決め手はショートケーブル

最初から付属するイヤフォンは非常にコンパクトなので、交換するイヤフォンの方が筐体は大きい。それが装着感にどのように影響するか心配だったが、実際に使ってみると、意外なほど快適だ。

最も大きい理由は、ショートケーブルが“単なる短いケーブル”ではなく、柔軟に形状を変えながら、変えたカタチを維持する力を備えているため。ケーブルの柔軟性が、大きなイヤフォン、小さなイヤフォンの筐体サイズの違いを柔軟に吸収してくれるので、イヤフォンが大きいから装着しにくいという事はない。さらに、装着した際にイヤフォンが耳から落ちないよう、外側からしっかり押さえつける力もある。

また、耳掛け式であるため、普通の完全ワイヤレスのように、万が一イヤフォンが耳から抜けても、そのまま落下しない。これは使っていて安心で、ストレスが無い。

接続安定性も高く、ズボンのおしりポケットにスマホを入れて通勤などで使ったが、特に途切れる事はなかった。

アプリ「Fostex TM Sound Support」も用意

Android/iOS向けにアプリ「Fostex TM Sound Support」も無料公開されている。ペアリングした状態で起動すると、左右のバッテリ残量が確認できるほか、ファームウェアのアップデート機能もある。

アプリ「Fostex TM Sound Support」

中央にはLandscape Soundモードへの切り替えボタンを用意。いわゆる“外音取り込み機能”の事で、例えば電車内でアナウンスが聴きたい時に、ONにすれば、外の音を取り込んでイヤフォンから流してくれる。イヤフォンを手で外さなくて済むわけだ。

外の音をどれくらい取り込むかの調整も可能だ。なお、音楽の再生音とミックスされて聴こえるため、あまりスマホの音楽再生側の音量が大きすぎると、取り込んだアナウンスの声が聞き取りづらくなるので注意が必要だ。

将来的にはファームアップやアプリアップデートにより、ボタンへの機能割当の変更などもできると、さらに使い勝手はアップしそう。Landscape Soundモードへの切り替えも本体ボタンに割り当てたいところだ。

“ワイヤレス時代のポータブルオーディオ趣味”を切り開く意欲作

完全ワイヤレスは、実際に使ってみると非常に快適で便利だ。わずらわしいケーブルは無いし、収納ケースもコンパクトで場所をとらない。ただ、リケーブルで音の違いを楽しんだり、駆動するアンプの違いで低音の出方が変わったり……といった、ポータブルオーディオマニアっぽい楽しみ方はしにくい。

一方、TM2は接続するイヤフォンを変更すれば、音の違いが楽しめ、さらに完全ワイヤレスのような快適さも得られる。有線接続で愛用しているイヤフォンを完全ワイヤレス化し、引き続き楽しみたいといった人に非常に魅力的な製品であるだけでなく、手を加えて自分の理想とする音を追求する“オーディオ趣味の楽しさ”を、完全ワイヤレスでも味わえるのがポイントだ。WAGNUS.のようなサードパーティーから、ショートリケーブルも登場している。耳からイヤフォンが外れても落下しにくい安心感も、普通の完全ワイヤレスと比べて優れている点だ。

WAGNUS.のショートリケーブル「for FOSTEX / TM2 Short recable series」に交換したところ

ユニークで、使っていて楽しく、音質も追求できる。“ワイヤレス時代のポータブルオーディオ趣味”を切り開く意欲作と言えるだろう。LDAC対応など、より高音質なコーデックをサポートした上位機や、カラーバリエーションの展開にも期待したいところだ。

山崎健太郎