レビュー

小型なのに巨大スピーカーが鳴る! MYTEK次世代オーディオ「Brooklyn Bridge/AMP」に驚く

MYTEK Digitalのネットワーク・プレーヤー/DACの「Brooklyn Bridge」(実売36万円前後)と、パワーアンプの「Brooklyn AMP」(同27万2,000円前後)は、昨年、数多く聴いたオーディオ製品のなかでも、特に印象に残った製品のひとつだ。

左からネットワーク・プレーヤー/DACの「Brooklyn Bridge」、パワーアンプの「Brooklyn AMP」。このように非常にコンパクトだ

リバティ、ブルックリン、マンハッタン---というニューヨーク名所が、MYTEK DigitalのDAC三兄弟のラインナップだが、今回はそのミドルライン「Brooklyn DAC」のエクステンションだ。218×241×44mm(幅×奥行き×高さ)というハーフサイズのコンパクトさだが、オーディオ雑誌の試聴室で聴いた音は、意外なほど刮目であった。オーディオ的に、そして音楽性的に際立ったクオリティとテイストを持つ音が再生されたからだ。自宅のリファレンススピーカーのJBL「K2・S9500」で鳴らし、その実力を検証したいという思いが強くなった。

ネットワーク・プレーヤー/DAC「Brooklyn Bridge」
パワーアンプ「Brooklyn AMP」

MQA対応、プリアンプにもなるBrooklyn Bridgeと、クラスDアンプのBrooklyn AMP

試聴報告の前にごく簡単に、Brooklyn BridgeとBrooklyn AMPの特徴を記す。Brooklyn Bridgeは、既にリリースされ、好評の「Brooklyn DAC」にネットワークオーディオプレーヤー機能を付加したモデルだ。USB DACとしてもネットプレーヤーとしても使えるので、どちらか一方の製品が多いなか、利便性が高い。DACチップはESS Technologyの「ES9028PRO」。USB DACとして384kHz/32bitまでのPCM、11.2MHzまでのDSDデータのネイティブ再生が可能。MQAに対してもファイル再生に加え、MQA-CDのフルデコードにも対応している。

LAN端子、USB、同軸デジタル、光デジタル、AES/EBUのデジタル入力に加え、アナログプレーヤー用のMM/MC入力、アンバランス入力、バランス/アンバランスの出力……と、インターフェイスは現行メディアに万全の構えだ。

コンパクトだが入力端子は豊富。出力もバランスとアンバランスを備えている

注目はボリューム回路を持つこと。つまり、これはれっきとした“DAC内蔵の多機能プリアンプ”なのだ。それもデジタルボリューム(ES9028PRO内蔵)とアナログボリュームの2つを備える。バイパス設定が可能なほか、シアターモードでのユニティ・ゲイン出力も持つ。後ほどボリュームは、デジタルとアナログで音質的にどう違うかもチェックしよう。

前面左にはMのロゴ

コンビネーションを成すBrooklyn AMPは、クラスDだ。最近はクラスDといっても、高音質モジュールを多くのデバイスメーカーが開発しており、MYTEKでは15以上におよぶクラスDアンプ回路をテストした結果、最も高いポテンシャルを持つと判断したデンマークのPascal A/S社製モジュールを採用した。さらに主要部品のカスタマイズ、パラメーター調整を行い、歪を減らしたとしている。

Brooklyn AMPもパワーアンプながらコンパクトだ
背面
上から見たところ

コンパクトなBrooklyn Bridge/AMPでJBLの「K2」は鳴らせるか!?

さて、これらのDAC/プリアンプ、アンプを聴くスピーカーは1989年に導入したJBLのプロジェクトK2・S9500。JBL「プロジェクト」の第4弾製品だ。JBLの内部資料によると、プロジェクトとは「オーディオのテクノロジーと科学技術を最高度に発揮し、マテリアルとエンジニアリングの革新を牽引する開発」だ。第1弾が1954年に発表された「ハーツフィールド」。後続のプロジェクト同様に、コンプレッション・ドライバーを採用した2ウェイの高能率システムで、LP時代のリファレンスだった。1989年に誕生した第4のプロジェクトがK2・S9500だ。もう30年前の製品だが、今だ、これを凌駕する音は他に無い。

右奥にあるのがJBLのプロジェクトK2・S9500

価格もペアで480万円とハイエンド。まさにJBLの記号性とも言える明確、明快、前向き、高速な音調だが、38cmのウーファー2発+コンプレッションドライバーの構造は古今東西、鳴らしにくいスピーカーの筆頭だ。 当代随一という名声アンプをたくさん持ってきても、なかなか期待通りに嬉しく鳴ってくれない。フォーカスがボケていたり、密度が薄かったりで、K2・S9500の本来の音とは、ほど遠い。というわけで、特にパワーアンプにとっては厳しいスピーカーだが、Brooklyn AMPはクラスDに非常にこだわったモデル。挑戦させる価値は十分だ。

チェックは

  • (1)DACとしてのBrooklyn Bridge
  • (2)DAC+プリアンプとしてのBrooklyn Bridge
  • (3)Brooklyn Bridge + Brooklyn AMP

の順番で行なった。(1)(2)ではメインアンプは、私の試聴室の標準であるザイカオーディオ845プッシュプル、(1)のプリアンプはオクターブの「JubileePreamp」だ。

オーディオ雑誌の試聴室ではハイレゾ音源を使って試聴して大変印象が良かったので、今回はあえてCD音源でテストして本機の懐の深さを探ってみた。音源はCDとMQA-CDだ。CDはポール・マッカートニー「手紙でも書こう」、佐藤俊介/イル・ポモ・ドーロのJ.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調、ジュゼッペ・シノーポリ/ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団の歌劇「マクベス」前奏曲、MQA-CDはカール・ベーム/ベルリン・フィルのモーツァルト:交響曲第40番ト短調だ。

DACとしてのBrooklyn Bridgeの実力は?

ポール・マッカートニー「手紙でも書こう」。冒頭のドラムスのブラシが非常に生々しい。ベースの雄大さ、輪郭の切れ、音階感がアキュレイトだ。ポールのヴォーカルが暖かく、声の階調感が細やかで、「LETTER♪」の語尾の感情を込め消えゆく様が、とても丁寧に再生される。音場はセンターヴォーカルが大きな体積を占め、その音像の肉付き感も緻密だ。間奏のダイアナ・クラールのピアノが明晰で、スウィンギーなニュアンスが十分に表現されている。私の家の環境では、この音源の持つ、オーディオ的な情報性と、感情的な情緒性を本DACは見事に表出していた。

佐藤俊介/イル・ポモ・ドーロのJ.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調。ピリオド奏法によるバッハの同曲の最近の傑作盤だ。まさにこれぞピリオドだと快哉を叫ぶような音楽的な勢いの強さと躍動感、俊敏感が非常に生々しい。ディテールまでの情報性と、バッハの音楽としての峻厳性、そして快適に音楽を進める進行力の強さを、本DACは見事に再現している。ガット弦ならではのメタリックで、鋭い輝きが感動的。

ジュゼッペ・シノーポリ/ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団の歌劇「マクベス」前奏曲。この曲は、優しいカンタービレの部分とトゥッティによる大音量が交互に出るワイドなDレンジ感が特徴だ。冒頭のファゴットとクラリネットの同調的な音色の微妙な滑らかさ、それと対比するトゥッティの荘厳さ、壮麗さ……本DACの音楽的なダイナミックレンジ表現力の広大さには感動する。その後の短調の弦のメロディの哀愁の表情もいい。

ではMQA-CDはどうか。カール・ベームの名盤、ベルリン・フィルを振ったモーツァルト:交響曲第40番ト短調(1961年12月録音の世界遺産的録音だ)の第1楽章。 冒頭のかそけきヴァイオリンの二重ユニゾンから生じる倍音がこれほど、華やかに音場に拡散するとは。MQAならでのまさに音楽的な名技であり、それを正しくデコードする本DACとのハイテクニックな合わせ技にまずは感心する。MYTEKはMQAの初期から熱心に取り組んでいたが、そのエッセンスが本演奏で十分に発揮されている。

MQA再生時にはロゴが表示される

MQAのもうひとつの特徴である臨場感再現でも、まさに眼前にオーケストラを見ているかのようだ。音の時間軸の精密化による、空気感再現の格別さを、本DACはまさしく正しく再現している。「MQAはMYTEK」という世評を裏切らない音だ。

ここまでのチェックをまとめると。従来から高音質で定評のあるブルックリンDACのまさにそのままのパフォーマンスを確認することができた。オーディオ的な記号性と音楽的な記号性が高い次元でバランスしていることが、うちのシステムで再生して深く認識できた。

DAC+プリアンプとしてのBrooklyn Bridgeも高い表現力を持つ

Brooklyn BridgeをDACプリとして使う。ボリュームにはデジタルとアナログがあるが、まずデジタル・ボリュームから聴く。天下のJubileePreampの後なので、少し心配したが、いやいや「手紙でも書こう」は、とても元気で前向き、進行力の強い、剛毅な音ではないか。ヴォーカルの緻密な暖かさ、ダイアナ・クラールのピアノの豊かな、そして艶っぽい感情感、SF(スフォルツアンド)の音的なアクセント感、強調感……などがリアルに聴けた。ポールのヴォーカルの囁くような優しさもとても、感じがよい。難しいK2もなかなか生々しく、そして嬉々として鳴っているではないか。DACの優秀さだけでなく、プリとしても十分な音楽的な表現力を持っていることが分かった。

「バッハ:ヴァイオリン協奏曲」はガット弦の生々しさ、音楽の進行の流麗さ、そしてディテールまでの音楽的ボキャブラリーの豊富さ……。この小さなアンプなのに、うちの845のアンプと巨大なK2スピーカーを軽々とコントロールしている。ハイエンドなシステムに組み込むプリアンプとしても、十分な力を持っていることが、本バッハのコンチェルトで十全に聴けた。特に音色的に明晰で、抜けがよく、暖色傾向であることは、音楽の愉しさ、嬉しさの表現にとても長けているように聴けた。

ここまではデジタル・ボリュームだった。ではアナログボリュームは?

まず「手紙でも書こう」だが、さらによい。音のディテールまでの抑揚感がさらに細やかに表現され、ポールのヴォーカルの透明感が増し、さらに感情的な暖かさ、ワクワク感が出てきた。ダイアナ・クラールのアクセント感、音場の響きの多さ、滞空時間の長さなど、少なくともうちの環境ではアナログボリュームがとてもよいと感じた。

「バッハ:ヴァイオリン協奏曲」は音の出方、放たれ方、そこからの響きの放射という音楽進行プロセスがより面白く、ワクワクする感覚で聴ける。音が発せられてからの音の飛翔感も、ビジュアルで見える感覚だ。特にこの演奏で言えば、バロックならではの自由闊達さがより分かり、ピリオドなパフォーマンスがより深い部分まで理解できる。

「歌劇マクベス前奏曲」。音楽的なダイナミックレンジが非常に広大な曲だが、本DAC+プリは、その広大さを見事に表現していた。冒頭の木管のかそけさから、急に大音量になるトゥッティのスケールの対比も見事。アナログボリュームのよさは、音場の情報量。冒頭の木管合奏の奥からの距離感、さらに奥からの金管の睥睨感、ピッコロの鋭い叫びという音場的、音像的対比が、見事に再現されることだ。トゥッティの後の響きの耐空時間も予想以上に長い。

MQACDのモーツァルト:交響曲第40番ト短調は、MQAらしい、音の躍動感、倍音感がリアルだ。冒頭のト短調の有名な旋律が、実に感情豊かに再現されるのは、まさにアナログボリュームの表現力だろう。MQAらしい音場感の深さ、空気感の濃密さも、十全だ。かなり音量を上げて試聴したが、それがうるさいと感じないのがMQAの良さであり、本DAC+プリの構成の巧みさ、そしてアナログボリュームのデバイス的なメリットだろう。音が躍動し、モーツァルト音楽のエッセンスが色濃く聴けた。

Brooklyn AMPは巨大なK2・S9500をドライブできるか?

ではDAC+ブルックリブリッジのメインアンプを、845プッシュプルから、ブルックリンアンプに替える。巨大なK2・S9500は果たして、このコンパクトなクラスDアンプで鳴るか。

まずは一台のステレオ再生では難しいと考え、2チャンネルのスピーカー出力をブリッジ配線(しゃれでは、ない)してモノラルパワーアンプ2台で再生した。アンプゲインもプラス6に上げた。Brooklyn BridgeとBrooklyn AMPのアナログ接続では、XLR(バランス)とアンバランスが選べるが、まずはアンバランスで接続した。

まずはBrooklyn AMPを2台用意。ブリッジ接続でドライブしてみる

「手紙でも書こう」はひじょうに滑らかで、滑らかな音調。粒子サイズが細かく、緻密に音場が形成される。ポールのヴォーカルの優しさがさらに際立つ。ベースの響きの拡散感、ドラムスのブラシの音像感も心地良い。そう、この組み合わせの良さは、耳で聴く気持ちよさに加え、38cmウーファー2発から発せられる体感的な音感だ。Brooklyn AMPのヒューマンな味わいからはジェントルで、思慮深いポールの人柄も感じられる。デジタル・ボリュームとアナログボリュームを試したが、やはりアナログボリュームの方が繊細さ、感情の抑揚感をうまく再現していた。

ではXLRはどうか。アンバランスでは繊細さ、優しさを主に感じたが、バランス接続は力感が加わり、音的なエネルギーパワーが盛った音になった。特に低音のスケール感が堂々とした。これなら、アンプゲインをブーストしなくてもよいのではと思い、ゼロにした。すると、ベースの雄大さに加え、ポールのヴォーカルの繊細さ、優しさも色濃く感じられる、まさに文字通りバランスの良さが得られた。このアンバランスとバランスのキャラクターの違いはとても面白い。

XLRとアナログボリュームで聴く「バッハ:ヴァイオリン協奏曲」。ディテールまでの音調の細やかさと、低音のガツンとくる迫力とスケールの大きさが両立している。音の飛翔感と、ライブ会場で感じるような低音のサポート感のどちらも聴けた。音楽の表情がより細やかになり、ソノリティが豊かで、音楽が軽快に音場の空気を飛び交い、透明な輝きがよく再現されている。音の飛翔の軽妙さも、この演奏を聴く楽しみとして感じられだ。ソロと合奏の音像的なバランスが好適だ。

音のテクスチャーが繊細で、まさに絹の感触。弓が弦を震わせ、それが胴で豊かなサウンドとして拡散していくプロセスが、時間の流れの中で、細やかに聴ける。耳だけでなく、体で弦楽のピリオドな響きが十全に聴けたのが、音楽的な収穫であった。ホ長調のメジャー調ならではの明るさと、メジャー調にしてはのほの暗さのミックス感が、すべらかなグラテーション感を演出している。ピリオド的な即興の細かなアゴーギクも、とてもエキサイティングであった。

本接続におけるXLRの優位性とは、つまりスタジオや録音現場のプロフェッショナルの機器にて、XLRインターフェイスをデファクト・スタンダードとして設計している日頃の鍛錬の賜物だ。これほどXLRに音質力があるなら、ブリッジでの2台使用でなく、ステレオアンプとして一台使用でもいけるのではないか? そこで1台でステレオ接続したみたら、なんとこれが、鳴るではないか。

「手紙でも書こう」は1台で十分なパワー感、安定感、そして低音のピラミッド感がある。音場の豊かさと、ヴォーカルの細やかな階調感、ダイアナ・クラールの鍵盤的な強調感……。2台ももちろん素晴らしいが、1台でもバランス接続するならば、十分なパワーとエネルギー、そして音楽性を発揮することが分かった。

1台でも十分ドライブできている!

デスクトップオーディオやコンパクトスピーカーとの組み合わせにも最適

Brooklyn AMPがK2・S9500を鳴らせるかという命題は、XLR接続でのオーディオ的、そして音楽的な再現を聴けば「十分にドライブした」との答が得られる。

実際には、小型な形状や、Brooklyn Bridge(約36万円)とBrooklyn AMP(約27万円)を合わせても約63万円という価格的なバランスからすると、我が家のような巨大なスピーカーと組み合わせるのではなく、むしろELACやDALI、KEFなどのブックシェルフ・スピーカーとマッチする製品だ。だがその際も、大型スピーカーを鳴らせる実力を持って小型スピーカーを鳴らすのだから、さらに良いはずと思われる。

デスクトップオーディオや、ハイクオリティなコンパクトスピーカーのシステムには最適なDAC+プリアンプ+メインアンプといえよう。

(協力:エミライ)

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表