レビュー

Amazon Music HDにピッタリ、デノンのガチなネットワークスピーカー「DENON HOME 150/250」

デノンから、ちょっと面白いスピーカーが2月下旬に登場する。小さな「Denon Home 150」と、横に大きな「Denon Home 250」という機種だ。写真を見て「ただのBluetoothスピーカーじゃん」と思われるかもしれないが、違う。いや、Bluetoothでも再生できるのだが、注目はこのスピーカーが“単体でAmazon Music HDやSpotifyなどの配信サービスを再生できる事”。さらに“2台並べてステレオ再生もできる”。つまり、アンプもプレーヤーも買い足さなくても、膨大な数の音楽を再生できる小型オーディオスピーカーとして使えるわけだ。

左から「Denon Home 150」のブラック、「Denon Home 250」のブラック

しかも「なんか落ち着いてて、オーディオっぽいデザインだな」と感じた人は鋭い。新しいデノンサウンドの番人こと、サウンドマネージャーの山内慎一氏が監修。オーディオ用スピーカーとして音質を追求した“ガチな”ネットワークスピーカーなのだ。

Denon Home 150
Denon Home 250

“ガチな”証拠は価格にも現れている。普通のBluetoothスピーカーは、9,800円とか1万円以下が大半で、1~2万円で高級機という市場だが、「150」は実売32,000円前後、「250」は48,000円前後と、良い意味で“格が違う”値付けになっている。それゆえ、どんな音がするのか気になるというもの。

さっそく開発現場のデノン試聴室にお邪魔したところ、数十万円の高級コンポが並ぶオーディオルームに、3、4万円のネットワークスピーカーが設置されている。なんだか妙な光景だが、決して取材のために急遽設置したのではない。実際にこの部屋で、ハイエンドなオーディオ機器と同じように音質をチェックし、作り込んで完成したのが150/250なのだ。

音楽配信サービスを手軽に再生、2台でステレオも

音を聴く前に、概要をおさらいしよう。どちらのモデルも無線LAN機能を搭載し、単体でネットワークにアクセスでき、単体で音楽ストリーミングサービスを受信・再生できる。

CDと同等の44.1kHz/16bitのHD楽曲を6,500万以上、数百万曲のUltra HD楽曲(48kHz/24bit~192kHz/24bit)を楽しめる、オーディオファンに話題のサービスであるAmazon Music HDにも対応しているのが要注目ポイント。それだけでなく、AWA、Spotify、SoundCloudなどのサービスにも対応している。

AV Watch読者であれば、デノンやマランツのコンポに搭載されているワイヤレス・ネットワーク・オーディオシステム「HEOS」テクノロジーをご存知だろう。要するにあの「HEOS」が入った、コンパクトなスピーカーが150/250というわけだ。

そのため、他のHEOS対応機と連携して同じ曲や、異なる曲を再生するマルチルーム再生も可能だ。もっとも、マルチルーム再生は部屋数が多く、ホームパーティーなどを楽しむ海外で需要が高いイメージだ。しかし、例えばモノラルの150を2台用意し、ステレオペアとして設定し、ステレオスピーカーとして再生することもできる。これは要注目の機能なので、後で実践してみよう。

ステレオペア設定しているところ

この2機種は、新たに展開する「Denon HOME」シリーズの第1弾モデルだ。カラーは150がブラックとホワイトの2色、250はブラックのみ。周囲をファブリック素材で覆った、シックで大人っぽいデザインが見た目の特徴と言える。

左から「Denon Home 150」のホワイト、「Denon Home 250」のブラック

HEOSに対応しているので、操作は無料のスマホ用アプリ「HEOS」で行なえる。また、本体上部に再生、停止、音量の、基本的な操作を行なえるタッチボタンも備えている。ただ、一見すると天面には何も無い。手を近づけていくと、近接センサーがそれを検知。操作ボタンがパネルに光って見えるという演出になっている。

手を近づけていくと、近接センサーがそれを検知。操作ボタンがパネルに光って見える

Amazon Alexaによる音声コントロールにも対応しているので、Amazon Echoシリーズを使えば、スマホを使わずに声で操作も可能だ。いわゆるスマートスピーカーとしても使えるわけだ。

他にも、インターネットラジオや、ローカルネットワーク上のミュージックサーバーに保存した音楽ファイルの再生も可能。USB入力も備えており、USBメモリーに保存した音源も再生できる。

またユニークなところでは、ステレオミニのアナログ音声入力も搭載する。シンプルなアクティブスピーカーとして使っても良いわけだ。また、HEOSではアナログ入力した音声を、他のHEOSデバイスから再生する機能も備えている。どう使うかはアイデア次第だろう。

「Denon Home 250」の背面
「Denon Home 150」の背面

音楽ファイルはDSDは5.6MHzまで、PCMは192kHz/24bitまで再生できる。DSD、WAV、FLAC、Apple Losslessファイルのギャップレス再生も可能だ。AirPlay 2やBluetoothにも対応。Bluetoothは4.2に準拠し、A2DPプロファイルに対応している。

“スピーカーの基本”にこだわる

実は、150/250には前身となるモデルが存在する。2017年に「HEOS by Denon」ブランドで発売したスピーカー「HEOS 1」と日本では未発売の「HEOS 5」だ。ネットワーク再生機能のHEOSを前面にアピールした製品として登場したが、それが今回の「Denon Home」シリーズへと切り替わり、ブランドもシンプルに「デノン」になったわけだ。

ブランド名だけでなく、デザインも前衛的だった「HEOS by Denon」と比べ、Denon Home シリーズはより“オーディオっぽい”落ち着いた見た目になっている。

デザインも前衛的だった「HEOS 1」

ディーアンドエムホールディングス グローバルプロダクトディベロップメント ライフスタイルエンジニアリングの斉藤天伸マネージャーは、「“デノン”ブランドになったからと、大きく音を変えたわけではありませんが、デノンというブランドに対して抱かれるお客様の期待を裏切らないものにしようと、改めて真摯に音と向き合って開発しました。このスピーカーの使い方として、リラックスした雰囲気で聴いていただく事も大事なのですが、オーディオスピーカーとして正面に向き合って聴いていただいた時にも、キチッと聴けるものにしようと音を追求しました」と語る。

ディーアンドエムホールディングス グローバルプロダクトディベロップメント ライフスタイルエンジニアリングの斉藤天伸マネージャー

HEOSシリーズはもともと、欧州を含め、音質面では高く評価されたシリーズだが、150/250ではそれをさらに進化させている。

150は、デノンのエンジニアが磨き上げたというカスタムメイドの25mmドームツイーターと、HEOS 1と比べて大口径化した89mmコーンウーファーの2ウェイ。ウーファーは単に大口径化しただけでなく、コーンのカーブなども変更。入念なアコースティックシミュレーションを経て、新たな形状を採用したという。

Denon Home 150の内部

1台ではモノラルスピーカーだが、音の広がりにも配慮。緻密な解析によって導き出したフロントバッフル形状を採用する事で、空間への音の広がりも追求。信号処理のDSPも組み合わせ、広がりや余韻がより感じられるように工夫したという。

「150は小型ですから、スペース的な制約は当然あります。設計の段階で、どのようにパーツを収めてレイアウトしていくかは、機構、電気、基板のエンジニア、そして我々アコースティックエンジニアが集まり、相当喧々諤々の議論をしました。単に収めるだけでなく、いかにユニットの振動の影響を受けない配置にするか、振動をコントロールするかという部分にもノウハウがあります」(斉藤氏)。

アンプ部の最大出力は、ウーファーが35W、ツイーターが13W。小型スピーカーとしては十分な出力だ。それを支える電源部分にも、工夫があると斉藤氏は言う。「通常、『アンプの出力がこのくらいであれば、電源部はこのくらいでOK』という、定格に見合った電源ユニットというのがあります。しかし、150ではあえて、それよりも大きめの電源を入れています。こうする事で、再生音にもオーディオ的な“余裕”が出てきます。ボリュームの限界に近いところで連続使用されたり、瞬間的に大音量になった時などにも、電源の余裕度はかなり効いてきます」。

Denon Home 250の内部

1台でステレオ再生できる250には、左右チャンネルそれぞれにカスタムメイドの20mmドームツイーターと、102mmコーンウーファーを搭載。さらに低音を補強する13.3mmのパッシブラジエーターを背面に配置している。

低音を補強する13.3mmのパッシブラジエーターを背面に配置

日本では未発売のHEOS 5からユニットのサイズは変わっていないが、ユニット自体はすべて見直された新しいものを採用している。「HEOS 5から、より分解能をアップさせるために、サスペンションの動きを良くするなど、細かい改良を積み重ねる事で、完成度をアップさせました」(斉藤氏)。

150の外形寸法は120×120×187mm(幅×奥行き×高さ)。それと比べて、250は295×120×217mm(同)と、横幅が大きい。その一方で、奥行きは150と同じ、120mmに収まっている。横幅があるぶん、実物を見ても“薄い”と感じる。

コンパクトな筐体に、強力かつ大口径のユニットを入れた場合、それを保持する筐体の剛性が高くなければならない。だが、剛性を高めようとサブフレームなどで補強すると、どうしても筐体は分厚くなってしまう。そのジレンマを解消するのも、エンジニアの腕の見せ所だ。「サブフレームを使わずにシッカリとユニットをマウントするため、試行錯誤を繰り返しました。各ユニットが力を受けあって、うまく結合するような配置を追求しています」(斉藤氏)。

小型のBluetoothスピーカーなどには、搭載したDSPで積極的に音声信号をいじって、音を作り込んでいく製品も存在する。150/250にもDSPを搭載しているが、斉藤氏は「なによりもまず、計算されつくした強固なエンクロージャーに、基本性能の高いユニットをしっかりと固定する。いわゆる“スピーカーの基本”が大切です」と語る。「もちろん、弊社はAVレシーバーの開発で培った高度なDSP技術があり、今回の機種も最適化されたチューニングが行なわれています。しかし。やはりスピーカーとしてちゃんとしたものを作らないと、いくら補正しても良い音にはなりません」。

サウンドマネージャーの山内慎一氏

サウンドマネージャーの山内慎一氏は、150/250の開発について、「小型のスピーカーですから、ピュアオーディオのコンポと比べるとパーツの絶対数は少ないです。しかし、電源からデコーダやアンプ、スピーカーと様々な要素を取り込んでいる製品なので奥がとても深いです」と笑う。

音質について山内氏は、「(HEOSシリーズという)土台はあったので、そこから大きく変えたわけではありません。しかし、デノンのスピーカーとして、Hi-Fiらしい部分、その良さをさらに伸ばしていく事を意識しました。150/250のようなネットワークスピーカーは、オーディオの歴史の中で言えばまだ登場したばかりです。しかし、聴いていただいた人に、ネットワークスピーカーの将来性を感じていただけるような、そんなクオリティに仕上がっているのが分かると思います」と自信を見せる。

音を聴いてみる

まずは150を聴いてみよう。スマホのHEOSアプリを使い、再生先を150に設定、ソースのサービスとしてAmazon Music HDを選んで、好きな曲を選択するだけだ。

Denon Home 150

音が出た瞬間にわかるのは、非常に“素直な音”だという事だ。MISIAが、SOUL JAZZをコンセプトに制作した、約7年ぶりのベストアルバム「MISIA SOUL JAZZ BEST 2020」を再生すると、低域から高域まで、バランスの良い音が飛び出してくる。

特に注目は低域で、キレが良く、低い音の輪郭がシャープで気持ちが良い。片手でつかめるサイズのBluetoothスピーカーには、低音が出せないのに、なんとか迫力を出そうと中低域を膨らませて「ブンブン」「ボンボン」した音になってしまう機種が多い。150はそれらとまったく異なり、不自然な膨らみは無く、ベースの輪郭はタイトで、低音の中の音の違いがキチッと描かれている。

もちろん、大型スピーカーの地鳴りのような低音は、150から出せない。ただ、グラミー賞を独占したビリー・アイリッシュの「Bad Guy」を聴いても、肺をズシズシと圧迫するような中低域はしっかり出ているため、聴いていて特に低音が不足している印象は無い。

それよりも、「Bad Guy」の暴力的とまで感じる中低域のうねりの中でも、ささやくようなボーカルが埋もれず、しっかり描写できている事に驚く。ナチュラルな、素直な音が出ているので、聴いていてとても落ち着く。演出過多なサウンドは、一聴して迫力があるように感じても、音楽をじっくり鑑賞しようという気にならないが、150のような音ならば「しっかり正面から聴こう」という気になる。

ここまで聴いての感想は「150は良くできたネットワークスピーカー」だ。しかし、150の本当の凄さはここからだ。2台用意し、アプリからステレオペアとして設定。通常のピュアオーディオのように、左の150から左チャンネルの音を、右から右の音を出し、ステレオ再生してみると、出てくる音にぶったまげる。

Denon Home 150×2台で再生

1台のモノラル再生でも広がりはしっかり感じられたのだが、ステレオ再生すると部屋全体に音場が広がり、左右どころか、奥行きも一気に深く、ステージが立体的になる。上下方向の空間もグッと拡大され、音楽に体が包み込まれるような気分が味わえる。

音も桁違いにグレードアップする。特に低域のパワーアップ具合がすごい。2台で再生しているだけなのだが、なんでこんなに変わるのかと思うくらい、低域がより深く沈む。「Bad Guy」の低音も、地底から響いてくるような“怖さ”が出てくる。

電源部の余裕も効いているのだろう。ドッシリとした低域により、音楽に安定感が出る。ステレオ再生なのだから当然だが、中央のボーカル定位も明瞭でホログラフィックだ。

聴いていて面白いのは、1台32,000円のネットワークスピーカーであっても、スピーカーのエンクロージャーからの“音離れ”が良く、個々の音が制約を受けず、自由に、活き活きと出てくる様子に“山内サウンド”が感じられるところだ。

目を閉じて聴いていると“ネットワークスピーカーを聴いている”というより、“ピュアオーディオのブックシェルフスピーカーを聴いている”感覚だ。目を開けてみて「あそうだ、アンプもネットワーク機能も全部入りの、こんな小さなスピーカーで再生しているんだった」と思い出して改めて驚く。

1台でステレオ再生できる250も聴いてみよう。サイズもユニットも大きいので当然ではあるが、150の1台再生と比べると、250の方がより低音が沈み、音圧も豊かでパワフルなサウンドだ。

過度な演出を避け、ナチュラルに再生する基本的な方向性は150と同じだ。250の方が低域が出るので、少しパワフル寄りで、派手な印象を受けるが、“ドンシャリ”とまではいかない。良いバランスだ。豊かな低域にも、しっかりと締まりがあり、タイトな心地よさは感じられる。

1台でステレオ再生できるため、音像や音場がスピーカーのまわりにまとわりつかず、その周囲に音がしっかり広がる。部屋の好きな場所に置いて、部屋の中をウロウロしながら聴くような使い方にもマッチするだろう。

Denon Home 250

高音質ネットワークスピーカー市場を切り開くDenon Homeシリーズ

150と250、どちらもクオリティの高いスピーカーで、どちらを選んでも満足度は高いだろう。個人的には、150×2台のサウンドが衝撃的だったので“150×2台買い”がオススメ。いきなり2台買うのはハードル高いという場合は、とりあえず1台買って、気に入ったら追加というのもアリだ。

価格は150が約32,000円、250が約48,000円だが、250を買うならば、もう少し足して150×2台にしたい。逆に、省スペースで、1台で完結させたいというのであれば250を選ぶのもいいだろう。

それにしても、こんな小さなスピーカーを電源と無線LANに接続し、スマホのアプリをちょちょっといじっただけで、Amazon Music HDであれば6,500万以上のCD音質楽曲や、百万曲のハイレゾが、このクオリティで聴けるというのは凄い時代になったものだ。アンプもプレーヤーも何も買わずに、である。

音楽配信サービスの情報量が増加する事で、それを手軽に、かつ高音質で楽しみたいというニーズは増加する。Bluetoothスピーカーは、スマホから簡単に音楽を再生できる“手軽さ”がウケて普及したが、配信サービスの広まりにより、“手軽さ”と“音質”を兼ね備えたハイクオリティなネットワークスピーカーという市場が、新たに誕生しそうだ。Denon Home 150と250はその先駆けになるだろう。

(協力:デノン)

山崎健太郎