レビュー
今こそ自宅でキャンプ気分!「ゆるキャン△」アニメ&実写をじっくり楽しむ
2020年4月2日 08:00
作品をじっくり楽しむ絶好のチャンス到来
ポカポカ陽気に誘われて桜が咲き乱れ、絶好の行楽日和に心躍る春。ところが新型コロナウイルスで外出もままらない、残念な状況……。だが、こんな時は家庭でどっぷりとオーディオビジュアルを愉しんでみてはどうだろうか。好きな映画や音楽を気ままに流すのももちろん良いが、いつもよりゆったり時間を取れる今、「気になっていたけどまだ見ていなかった作品」を再生したり、その作品をより“深掘り”して楽しむのも良い。
というわけで今回、自宅待機の時間を活用してAmazon Prime Videoで4月1日現在、全話視聴可能な「ゆるキャン△」を、改めてじっくりと観てみることにした。2018年1月に、日常系作品群の最新アニメタイトルとして大きな反響を呼び、さらに2020年1月からは“まさかの実写化”でテレビドラマがスタート。
その魅力を、アニメ/ドラマの双方を比較しつつ鑑賞した。「アニメ版は見たけど、実写はなんとなく避けていた」なんて人は、もしかしたら結構損をしているかも!?
キャンプで繰り広げられる、かわいい女の子達のドタバタコメディー
冬期のひとりキャンプを好む女子高校生の志摩リンが、同じ学校に転校してきた各務原(かがみはら)なでしこや、野外サークル同好会(通称:野クル)の面々と、様々な場所・シチュエーションのゆる~い(?)キャンプに出かける、というのが本作のあらすじ。
あfろ氏による原作コミックは、芳文社「まんがタイムきららフォワード」誌から同社コミック配信サイト「Comic FUZ」に移籍して、今も連載が続いている。2018年にはSeason 1としてアニメ化、2020年には野クルの活動を描いたショートアニメ「へやキャン△」が、更には「まいんちゃん」こと福原遥さんと大原優乃さんの美人コンビ主演による実写ドラマが2020年の1月から放送され、いずれも話題を呼んでいる。そして、2021年放送予定のアニメSeason 2のティザービジュアルも先日発表されるなど、今後の発展にも期待大な作品だ。
また、熱心なグッズ展開もさることながら、トラベル情報誌の「るるぶ」が山梨県を中心とした各ロケ地などをまとめて雑誌化するなど、本作はいわゆる聖地巡礼をはじめとしたファン活動も盛んだ。
海外では“CGDCT(Cute Girls Doing Cute Things/“かわいい女の子がかわいい事をする”という意味)と呼ばれる、いわゆる日常系、特に「まんがタイムきらら」系のレーベルから出てきた“きらら系”の作品として認知されている本作。このジャンルは、趣味やスポーツ、あるいは街などの舞台といった題材の魅力、女の子を中心とするキャラクターの魅力(主にかわいさ)、そんなかわいい女の子達が繰り広げる日常の軽妙なコメディー、という3本柱で作品が成り立っている。
特に本作は、富士五湖のひとつの本栖湖や、富士山の雄大なパノラマが広がる「ふもとっぱらキャンプ場」など、自然豊かなキャンプ場が多数登場し、その中でテントの張り方や調理における工夫といった、実用的なアウトドアテクニックが次々と披露される。
更には甲府盆地を一望できる「ほったらかし温泉」や、富士川と山あいの景色が広がる身延の町など、アウトドア意外にも甲信地方の観光スポットが多数紹介されていて、その中で女子高校生達が様々なアクティビティーを体験しながら、他愛のないおしゃべりに花を咲かせる。気心の知れた仲間であつまる楽しさを、ある時は豊かな自然の中で、またる時は歴史的な町並みの中で、“ゆるゆると”繰り広げてゆくのである。
この様に題材と舞台の双方が実に饒舌で、“日常の些細な事件“というきらら系作品のテーマがいたるところに散りばめられている。それが「ゆるキャン△」という作品の魅力だ。
演出、作画、音楽の3点が素晴らしい
アニメ版を見ていると、演出、作画、音楽の3点が素晴らしい事に気づく。
特に、会話のテンポや良いタイミングで挿入される無音などの“間の取り方”だ。例えば1話のテント設営でも、1から10まで全部をダラダラ流すではなく、要点をポンポンとつなげており、漫画的にシーンがテンポ良く流れていく。そんな作劇の演出を、あうんの呼吸、間の取り方など、出演声優の演技が盛り立てる。
台詞回しと合わせて、間の取り方はコメディーの命だが、4話のイントロ部「ちょっと黙ってろ」と言われたなでしこがほんの数秒黙ってすぐ「部長!」と切り返す様や、ほったらかし温泉(アニメ内では“ほっとけや温泉”)での温玉揚げのくだりなどはまさにコントそのもの。
しかも絶妙に間を取りながら同時に音楽も一時停止させることで、滑稽さを補強している。そのまま「温玉揚げ美味い!」に持っていく流れも実に見事だ。
演出力の高さという点で言うと、本作は“かわいい女の子をよりかわゆく見せる術”をよく心得ている。日本のアニメが積み重ねてきた女の子の表現を、ギュッと凝縮している感じだ。
例えば3話のラストシーン、なでしこを起こすリンが優しい表情で穏やかに「なでしこ」と呼びかける、この時に2人ではなく外から見たテントを映すのが、想像を掻き立てられる。実に尊い。7話の四尾連湖でのラストシーンでは寝袋での寝ぼけ眼のぼんやり顔がコロコロと変わり、表情で言うと、なでしこかリンがニッコリ笑うシーンは必ずと言っ
ていいほど顔をクローズアップした絵になる。うん、かわいい。
あるいは6話のリンがなでしこにお土産のチョコまんじゅうを渡すシーン、リンがニッコリ笑う時に口だけを映す。これは実にアイコン(記号)的な表現だ。ギャグシーンは例えば目が線になったり丸になったり、千秋のメガネが白塗りになったりするなどしており
、こうしたアイコン的表現やキャラの描き込み度合いも、シリアスとコメディーの使い分けに一役買っている。
作画の丁寧さも見過ごせない。自然が広がる環境での活動をテーマにした本作の大事なポイントを制作陣はよく心得ていて、背景や小道具などが極めて丁寧に描き込まれている。舞台の描写も、緻密な現地取材に基づいた丁寧な再現で、特にキャンプ場の描写は凄い
細かく描き込まれてはいるが、絵の調子はリアルタッチではなく絵画調。それが作品の世界観とマッチしていて、同時にアニメらしいファンタジーな雰囲気も出している。
絵による演出として特徴的な点は、決め所で雄大な一枚絵をバーンと持ってくること。
例えば1話の夜の富士山、3話のふもとっぱらの日の出、5話の高ボッチ高原から眺めた諏訪盆地など。重要なところはあまり絵を動かさないのだ。特に5話ラストの、なでしことリンのふたりが夜景の写真を送り合う場面などは、原作の物語性を十全に理解した上で、アニメでしか出来ない表現を見せつけた、本作屈指の名シーンである。
また、キャンプ中の楽しそうなシーンはスライドショー形式が多い。これは絵を丁寧に描き込んでいるから出来る芸当だろう。
こうした演出・演技と絵の世界観に欠かせないのが劇中音楽だ。サウンドトラックに並ぶのは、アコースティックギター主体のゆったりとした曲、アイリッシュを感じさせるティンホイッスルがメロディの曲、メインテーマの口笛の曲、バンジョーの曲などなど。
全体的にケルティックやカントリー調の楽曲や、あるいはアコースティック楽器を主体とした曲が多く、これらが自然の雰囲気をアクセルさせる。
中でもケルティックは、“ハイテンション”も“ゆったり”もどちらも出せる音楽ジャンル。自然環境のゆったり感を演出する要員として音楽が活用されており、2話のふもとっぱらなどリンのソロキャンは台詞が少ないので、ゆったり感が増す。
対称的に8話のアウトドアショップのシーンなどは、見事にワクワク感をブーストしている。ホームシアターや高音質ヘッドフォンなどで視聴すると、この点をうんと感じられるだろう。
実写版では、メシと景色の説得力がスゴイ
コミックやアニメなど、いわゆる二次元が原作の実写化というのは、原作ファンから拒絶反応が出やすいものだ。理由は絵だからこそ出せる作風が失われたり、制作上の都合でストーリー上の重要なシーンがカットされたりと様々だが、ゆるキャン△も例に漏れず、ドラマ化が発表された当初は不安視する声が挙がっていた。
しかし、蓋を開けてみれば1話放送後から絶賛の声が相次いだ。ニコニコ動画の公式動画配信でも毎回数万再生を叩き出しており、コミックやアニメなどの従来ファンからも高く評価されていることが伺える。
大きな理由のひとつは、登場人物が、かなりアニメ版のイメージに近いという事。田辺桃子さん演じる大垣千明をはじめとして、ビジュアル面におけるキャラクターの雰囲気や特徴を非常に上手く捉えている。これは制作陣と役者の双方が頑張ってキャラクターを読み込み、丁寧に消化して表現をした結果なのだろう。“次元を超える”時に視聴者が感じるギャップをかなり抑え込むことに成功しているのだ。
なでしこ役の大原優乃さんはテンションも声の高さもアニメ版とソックリでキャラクターの雰囲気をよく捉えているし、志摩リン役の福原遥さんは、少々大人過ぎる感はあれど、独り言やモノローグなどはアニメを観た人でも違和感なく感じられるはずだ。2話のふもとっぱらで柴犬に寄っていく“よしよし感”は、アニメよりもドラマの方がじゃれ合い感があって良いし、ファン的には2話の「くぁwせdrftgyふじこlp」をバッチリ発音していたことが感動的だった。ただし、7話の四尾連湖、あの大人っぽい見た目で「中学生ですか?」と言うのは、秒でツッコミを入れてしまった。
実写のキャラクター表現と言えば、「グビ姉ぇ」こと鳥羽先生には驚いた。女優さんなので当然ではあるが、うんと美人な鳥羽先生が、実にイイ感じに呑んだくれる様は、コミックよりもアニメよりも遥かにキャラクターとしてのギャップがあり、コメディー的な破壊力が強い。10話の野クル顧問就任時のスマホ落書きなどは、明らかにアニメより面白いと感じた。
この様に土村芳さん演じる鳥羽先生は、日常系の3本柱であるコメディーを見事に演出している存在だ。
実写化の利点は、視聴者がアウトドアやキャンプに挑戦する際や、ファンによる“聖地巡礼”にも活きてくる。
1話の本編冒頭や、焚き火の火起こしの様子、2話の校庭テント設営など、作業の手順や、各話に挿入される道具の解説などは、アニメよりもさらに分かりやすい。
特に5話のスープパスタクッキングは、分量や具材の下ごしらえの様子などが非常に分かりやすく、自分でも作れそうな気がしてくる。“キャンプ初心者のチュートリアル教材”として見るならば、アニメよりも実写ドラマの方が優秀かもしれない(もちろんどちらも見るのが最も良い)。
風景に実景ならではの説得力があるのも、実写ドラマ版の大きな魅力だろう。画調は解像度が少々不足気味だが、全体的に彩度が高く色鮮やかな調子だ。最初に実写の力を「おおっ!」と感じたのは、2話のふもとっぱらから見る富士山の空撮。
富士山をバックに広い平原と森を映したカットは、構図のバランスが非常に良く、リンの「開・放・感!」というモノローグにグッと説得力を感じた。
しかも同じふもとっぱらでも、3話の朝焼けになると2話とはまた違う朝日の優しさと力強さがある。こういった光の演技力はドラマならではと言える。
6話の四尾連湖は、解像度はもう一声だが落ち着いた色調が秘境感を出していて、静かで良い雰囲気を醸し出している。荷車で荷物を運ぶシーンで映る湖は底が見えていて、リ
ン「凄い透明度」も説得力がある。
6話のスーパーセルバは一般の買い物客も映り込んでいたりするが、アニメで省かれたこの部分によって、“街の雰囲気“がよく出ている。9話の上善寺は、ボケを活かした立体感のある絵が盛りだくさん。11話のまかいの牧場すぐわきにある薪売り場も、アニメでは分からなかった距離感だ。
実写では、季節も映像で饒舌に語られる。全編を通して、リンもなでしこもキャンプ時はモフモフ衣装をまとっており、クローズアップしたカットでは“ふんわり感”がよく出ている。
4話の野クル組は、所々吐く息が白く紅葉もチラホラ確認でき、8話の夜叉神峠には雪が残る。こういったさり気ない部分で、視聴者は秋や冬といった季節感を感じる。
画質的な面での最大のハイライトは、11話の朝霧高原だろう。冒頭の富士山の絵が既に良い景色で、手前のスズキ・ハスラー(鳥羽先生の愛車)にカリッとピントが合っていて、背景の富士山が良い具合に柔らかくボケている。まさにアウトドア的な良い景色の絵である。青空が抜けるようで、富士山はどこから見てもキレイだし、ラストの夕景に映える赤富士も雰囲気が良い。その外にも空撮による平原の遠景や、リンのヤマハ・ビーノと富士山のワンショットなど、絶景ショットが多数ある。
ただ、画質に関して言うならば、シーンによって良し悪しがあるのが気になる。特に夜景は全体的にもう一声ほしい。例えば1話の夜の富士山は、ちょっと露出過多で静謐な夜
の雰囲気が出きっていない。5話の高ボッチ高原から眺める諏訪盆地は富士山がどことな
くウソっぽく、街並みも解像感が不足気味。もう一方のパインウッドキャンプ場の夕景は、彩度は高いがコントラストが若干不足気味で霞がかった感じがする。この夜景シーンはが全体的にピントが合っておらずボンヤリしていて、光量不足なため雰囲気もパッとしないと感じた。
ただ、このように、実写版では全て“原作の舞台でロケをしている”。これは結構スゴいことだ。原作再現に対するこだわりは、テレ東のサイトで詳細は監督も語っている。こういった細かな原作へのリスペクトとこだわりひとつひとつが、作品性を高めている。
そして、実写版最大のアドバンテージと感じるのが“メシの力”だ。
強制的に空腹を呼び覚ます、いわゆる“メシテロ”が、アニメ版でもかなりの破壊力で、視聴者の腹の虫を唸らせた。だが実写はアニメの比ではない。「孤独のグルメ」や「ワカコ酒」など、テレビ東京の深夜ドラマは以前からメシ描写に定評があったが、本作でもそれが発揮されている。さらに、食にまつわる“音の力”がアニメよりもうんと強力だ。
例えば1話のカレー麺。なでしこ演じる大原優乃さん表情に加えて、麺を啜るズルズルという音が凄まじく食欲をそそる。2話の煎餅を炙ってかじるシーンでは「カリッ」「ザクッ」が非常に良く、さり気ないシーンでも食欲をそそられる。3話の餃子鍋は、赤味のあるスープと、それを啜る音、ふーふーやりながらレンゲを頬張る様子など、腹に直接訴えかけてくる。
4話のリンが食べるボルシチは、立ちのぼる湯気がもうズルい。暖色系の画面も相まって、絵作り全体で飯テロを仕掛けてくる。5話の温玉揚げは、キツネ色の色味と言い、油のピチピチ音といい、腹が立つほど美味そうだ。
9話には各務原一家揃って山梨名物のほうとうをすするシーンがあるが、このドラマは本当に汁物を美味そうに食べる。ゆるキャン△で一躍有名になった、10話の“焼き肉まん”は、キツネ色の焼き色と湯気とで、やはりアニメよりドラマの方が美味そう。
挙げればキリが無いが、とにかく観ているだけでお腹が空いてくる。このメシ達を深夜の時間帯に視聴するのは、相当な覚悟が必要だ。
「ゆるキャン△はいいぞ」
筆者はアニメ版をリアルタイムで視聴していたほか、作業用BGVとして幾度となく全編を流していた。実写ドラマ版もだいたいリアルタイムで視聴していたが、この記事を書くにあたり、両者をもう1度キチンと視聴し直すと、アニメとドラマでは魅力や注目ポイントが少し違う事に気づいた。
アニメは作劇の演出力、ドラマは実写の説得力が秀でていて、単純にどちらの方が出来が良いとは言えない。原作コミックも含め、同じ作品ではあるが、それぞれから滲み出る魅力の違い愉しむ事ができる。これはメディアミックス展開の醍醐味にほかならない。
作品の根底には、舞台となった山梨という土地や、題材のアウトドア趣味、そしてキャラクターのやり取りなど、それぞれの魅力がしっかりと流れている。それが、アニメも実写も、どちらを見てもかなり濃密に伝わってくる。もちろん、オーディオ・ビジュアル的にも、見て、聴いて、知って楽しい作品だ。
アニメはSeason 2の放送が決定しているが、是非、実写ドラマ版もSeason 2を観てみたい。願わくば、4K/HDRでお願いします。いずれにしても、ゆるキャン△はいいぞ。
Amazon Prime Video |
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