レビュー

名機「Neptune」に後継モデル。宇宙からの使者「Uranus」を聴け!

愛しのイヤフォン「Neptune」に後継モデル!?

こういう仕事をしていると、AV機器に詳しくない普通の人から「イヤフォンが欲しいんだけどオススメはなに?」と聞かれる。オタクなので、手頃な価格の定番機から、10万円オーバーのカスタムIEMまでガーッ! と早口で喋りたくなるが、ドン引きされそうなのでグッと我慢。「どんな音楽聴いてる?」と聞いて、女性アーティストの曲が多いと言われると、qdcの「Neptune」をオススメしてきた。

今回紹介するイヤフォンqdc「Uranus」

音の良いイヤフォンは市場に沢山あるし、個人的にも色々なモデルを所有している。毎日違う機種を持ち出してもいいのだが、ついつい手が伸びるのがNeptuneだ。登場したのは2017年。価格はオープンプライスで、発売当初の実売は27,800円前後(現在もあまり変わっていない)。安いイヤフォンとは言えないが、5万円オーバー、10万円オーバーの高級機と比べると買いやすいモデルだ。

愛用中の「Neptune」

高価過ぎるイヤフォンは「無くしたらどうしよう」と、構えてしまう面があるが、Neptuneはそんな緊張感もなく使える。それでいてデザインが素晴らしい。フェイスプレートに、鉱物の一つであるマイカ(雲母)を使っており、神秘的な美しさがある。高価なカスタムIEMと比べても負けないデザインで、なおかつコンパクトであるため装着感も抜群。ユニバーサルでも、装着感に優れたイヤフォンは昨今増えているが、Neptuneの着けやすさは今なお白眉だ。

そして音が良い。シングルBAの非常にシンプルな構成で、透明なシェルの中を見ると、小さなBAがちょこんと1個入っているだけ。「こんなスカスカで大丈夫なのか?」と心配になるが、本当に不思議なくらい音が良い。

「Neptune」の内部。BAドライバー1基のみのシンプルな構成だ

そんな“惚れてるイヤフォン”のNeptuneに、なんと後継機種が登場した。聴かないわけにはいかない。名前もNeptune(海王星)よりも、地球に1つ近い「Uranus」(ウラヌス/天王星)だ。2月から発売されており、価格はオープンプライス。実売は31,800円前後となっている。

「Uranus」

単なるハイブリッド型とは違う。注目はユニットの“配置方法”

UranusとNeptuneの最大の違いは、BAのシングルドライバだったNeptuneに対し、UranusはBAとダイナミック型のハイブリッド構成になっている事だ。Uranusはもともと、qdc初のハイブリッドイヤフォン「Fusion」(ユニバーサル型は実売104,880円前後)の開発ノウハウを活かしつつ、価格を抑えたエントリーモデルとして開発されたモデルだからだ。

Uranusを光に透かしてみた。BAとダイナミック型ユニットが入っているのがわかる

構成としては、低域用にダイナミック型を1基、中高域用にBAを1基搭載した2ウェイ2ユニット。低域用のダイナミック型は、専用にカスタマイズされたもので、独立した音響空間と音道管を使って配置されている。

ドライバーの配置方法に工夫があるだけでなく、ドライバーのチューニング方法もユニークだ。普通のイヤフォンは、ハウジングにユニットを配置した後で、音質チェックをしながらチューニングする。

Uranusの場合は、イヤフォン筐体内へ設置する前にドライバーをチューニングしている。単に順序の話ではなく、ここに大きな技術的ポイントがある。

実は、ダイナミック型ドライバーは、周囲の空間による影響を受けやすい。そこで、上位機のFusionでは、“ダイナミック型ドライバーを筐体内の空間から音響空間(アコースティックチャンバー)を独立させる”ことで、筐体内の空間によるサウンドの影響を受けなくした。その結果として、イヤフォン内部にダイナミック型ドライバーを設置する前に、ドライバーのチューニングができるようになったのだ。

価格を抑えたUranusにも、この技術を投入。筐体内の空間によるサウンドへの影響を受けず、⼀貫して非常にフラットな周波数特性を実現できるというわけだ。

音作りにもこだわりがあり、サウンドエンジニアだけでなく、プロのミュージシャンなどと共同で製品を開発し、音質を調整。チューニングの際は、“音のつながりの良さ”と“自然な最高品質のサウンド”をテーマにしているという。

周波数特性は10Hz~20kHz、感度は100dB SPL/mW、インピーダンスは18Ω。イヤーピースやクリーニングツールが付属する。

より宇宙の神秘を感じさせるデザインに

前述のように、Neptuneの筐体デザインは個人的に非常に気に入っている。神秘的で透明感があり、光の加減で表情が変わるなど、シンプルだが奥深い。Uranusのフェイスプレートはマイカではないが、宇宙空間を思わせるイラストがプリントされており、これがシェルのカラーと絶妙にマッチしていて一体感がある。

また、左右のカラーが異なり、左は深いブルー、右はパープルっぽいカラーになっている。このため、装着時も左右がすぐに判別でき、快適だ。「音楽が与えてくれる想像力と美をイメージし、星が輝く宇宙をデザインした」そうで、奥深さを感じるデザインは、見ていて飽きが来ない。

Neptune(左)のデザインも素晴らしいが、Uranus(右)もメチャクチャカッコいい
Uranus

筐体サイズは、Neptuneと比べると一回り大きくなった。Neptuneの装着感が素晴らしいので「大きくなると、圧迫感が増すかなぁ」と心配していたが、見比べて気づいた。全体的に大きくなったのではなく、耳に入る部分の形状はNeptuneとほとんど変わらない。耳の外に出る部分が“分厚く”なっているだけだ。

そのため、装着した時に“大きくなった感覚”はあまりない。さほど重くもなっていないので、イヤフォンの自重で抜けてくる感覚もない。安定感の良さはNeptuneゆずりと言える。首を振っても、早足になっても、まったく問題はない。

持ち運びに配慮したコンパクトなサイズの専用プレミアムレザーケースも付属する。レザーは質感もよく、優美な本体デザインと合わせて、高級感がある。ケース内にはスエードが使われており、衝撃からイヤフォンを守ってくれる。

ケーブルは着脱可能で、入力端子はステレオミニだ。ケーブル導体は高純度銀メッキ銅で、長さは約122cmとなっている。

イヤフォン側は、qdc独自の2ピン端子を採用している。既にカスタムIEM用2ピン端子ケーブルなどを持っている人にとっては、「汎用的な端子にしてほしい」と思うところだろう。ただ、この独自端子にはガイドが備わっており、カスタムIEMでの2ピン端子と比べ、抜き差しする際に「ピンが曲がりそう」という心配がない。MMCXのように端子の接続性に不安を感じる事もなく、個人的には良く出来た端子だと感じる。

専用プレミアムレザーケースも付属

また、qdcからはオプションで、この独自端子を使ったBluetoothケーブル「BTX Cable」(実売14,445円前後)も発売されている。スマホからイヤフォン端子が無くなりつつある昨今、ワイヤレス対応は必須とも言えるが、その点も問題はない。

今回はこのBluetoothケーブルも用意したので、後で組み合わせてみよう。

Bluetoothケーブル「BTX Cable」

全方位にNeptuneから進化したUranusサウンド

まずは有線ケーブル接続で、Astell&Kern「A&ultima SP1000」と組み合わせて聴いてみる。前述のように、Neptuneは非常に音作りの完成度が高い。いい音の“製品”というより、アーティストが作った“作品”という感じの、美音が特徴だ。だからこそ、Uranusにも期待が高まるわけだが、同時に不安もある。完成度の高いNeptuneの音を超えられるか? あの完成度の高さを壊してしまうのではないかという不安だ。

そんな事を考えながら、Uranusを装着。音を出た瞬間にノックアウトされた。

Neptuneの音を例えるなら、一口目は「薄味だな」と感じるが、食べていくと深いコクと旨味で病みつきになる塩ラーメンみたいなものだ。Uranusは、そこに別の味を加えたりせず、シンプルな旨味の塩ラーメンの、味わいをより深くする事で、よりパンチ力を増し、ガツンと心に響く音に進化している。

最も大きく違うのは、Neptuneの弱点とも言える低域が、Uranusではより沈み込みが深くなったことだ。これで全体がよりワイドレンジになり、バランスの良い音に進化した。それでいて「さすがqdc」と唸るのが、この低音がひじょーーにタイトであり、ボワッと膨らんだり、パワフルさを演出しようと中低域の張り出しを強くはしていない事だ。

透明感があり、美しい中高音を邪魔しないよう、そっと低音が下から支えている。出しゃばらず、それでいてドッシリとした、安心感のある支え方をしている。では低音は大人しいのかと言うと、そうではない。「マイケルジャクソン/スリラー」の刻み込むビートは深く、低音の輪郭線は繊細でにじまない。なんというか「Neptuneに、Neptuneらしい低音を加えるとUranusの低音になる」という感じだ。

ぶっちゃけこれだけでも“買い”なのだが、Uranusの進化は低音だけではない。聴き比べると、中高域も違う。Neptuneの“美しい音”に、Uranusでは“鮮明さ”が加わっている。要するに中高音がさらにクリアになった。音のコントラストがアップしただけでなく、描写の細かさも向上。「宇多田ヒカル/花束を君に」では、ヴォーカルの口の開閉や、ブレスなど、細かな描写が明瞭で、視力、もとい聴力が良くなった気がする。

音場空間の広さも特筆すべきレベルだ。Neptuneも広大で開放感のあるサウンドだったが、Uranusでも変わらず広大だ。音のクリアさが増した事で、Uranusの方がより広い範囲まで音が広がっていくのが見えるようになっている。

Neptune

全方位に、Neptuneからの進化を実感できる。ただ、女性ボーカルに関して言えば、Neptuneのほうが明瞭度が低いため、それが、独特の雰囲気というか、ハッキリさせ過ぎない“艶っぽさ”に繋がっているようにも感じる。Uranusはそこがシャープになったことで、美音方向から、モニター方向にシフトしたとも言える。ただ、これはUranusのエージングが進むと、また違ってくるかもしれない。

いずれにせよ、Neptuneの音が好きだという人が、Uranusを聴いても期待を裏切らないだろう。全体としての再生能力が向上した事で、苦手な曲が無くなり、より出番が多くなるイヤフォンになった。

ワイヤレスでも楽しめる

ワイヤレスケーブル「BTX Cable」には、リモコンと音声通話機能がついている。ここまでは普通だが、「EQ(イコライザー)」もついているのが特徴だ。リモコンのボリューム「UP」と、中央の「○」ボタンを1秒同時押しすると、EQが「スタンダードモード」、「ベースモード」、「ボーカルモード」と切り替わる。

音の違いとして、スタンダードはそのままの素の音。ベースモードは低域を強くしたモード、ボーカルモードは逆に低域を抑えめにして、ボーカルを聴き取りやすくしたモードだ。

オーディオマニアは「EQは変化が大きくて、結局使わないよ」という人が多いと思うが、サウンドセンスの良いqdcだけあり、このEQモードの音作りも絶妙だ。変化の幅はとても控え目で、けれども聴き比べると違いはわかるというラインを攻めてきて「おぬし、やるな」とニヤけてしまう。

低域が控えめなNeptuneでは、曲によってベースモードを活用すると具合がよかった。ただ、Uranusの場合は、前述の通り、低域の再生能力がアップ。全体としてバランスの良いサウンドになっているので、基本的にはスタンダードモードでいいだろう。ベースがゴリゴリ入ってる曲をもっと気持ちよく聞きたいといった時に使うといったカタチになる。

スペックとしては、Bluetooth 5.0に対応し、コーデックはSBC、AAC、aptXをサポート。プロファイルはA2DP、AVRCP、HFP(HSP)に対応する。連続再生時間は最大約4時間、待受時間は最大約100時間。充電時間は約1.5時間だ。

多くの人にオススメできる、オールマイティな再生能力

実売約3万円のイヤフォンを“入門用”と言うのはちょっと難しい面もあるが、qdcとしては購入しやすい価格に抑えられている。現在、1万円ちょっとのイヤフォンを使っている人が、次のステップアップに選ぶに際に良いモデルだと感じる。オールマイティな再生能力の高さは、多くの人にオススメできるし、デザインや付属品からも所有欲を満たしてくれる。

Neptuneは、同じような価格ながらシングルBAで、スペック的に他社のイヤフォンと比べると弱く見える部分がある。もちろん音を聴けば、「イヤフォンはスペックだけじゃわからないよね」となるのだが、「シングルBAで2万円?」と思われがちな部分もあったのは確かだ。

Uranusはハイブリッド化する事で、スペック的にも見栄えがよくなり、さらにハイブリッド化した効果をしっかりとサウンドの進化で証明しているのも好感が持てる。Neptuneの良さを殺さずに、さらに進化・拡張した手腕は見事だ。

市場では完全ワイヤレスイヤフォンが人気だが、有線イヤフォンを聴くと、音の純度の高さ、プレーヤーのアンプによる駆動力の高さなど、やはり「音楽を聴くならコレだよな」というサウンドが楽しめる。完全ワイヤレスが一般的になっても、Uranusのような本格派な有線イヤフォンは持っておきたいところ。

また、BTX Cableと組み合わせてワイヤレスで使ってみると、片耳だけ外して首からぶら下げたり、落下の心配が少ないなど、ネックバンド型ワイヤレスならではの使い勝手の良さを改めて実感した。じっくり聴く趣味の時間は有線で、通勤時は便利なワイヤレスでと、シーンに合わせて使い分けられるのも利点と言えるだろう。qdcの新時代における定番モデルとして、Uranusも長く愛されるモデルになりそうだ。

(協力:ミックスウェーブ)

山崎健太郎