レビュー

1万円台の超小型オーディオプレーヤー「SHANLING Q1」の万能っぷりに驚く

SHANLING Q1

「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉があるが、ポータブルオーディオプレーヤーはそれを地で行く存在だ。再生メディアはカセットテープに始まりCDを経てMDへ、ファイル再生の「DAP」に移行してからは、スマートフォンという強力な存在が出現し、Bluetoothイヤフォンの普及によりワイヤレス対応も進行した。

今回取り上げる「SHANLING Q1」は、そんなポータブルオーディオプレーヤーの変遷を要約したかのような“濃さ”が最大の特徴だ。ハイレゾファイル再生にUSB DAC、タッチディスプレイ、Bluetoothはレシーバーとトランスミッターの両方、これらを手のひらサイズのボディに詰め込み、実売16,280円前後(税込)という価格で製品化を実現した。

SHANLING Q1のカラーは4色

SHANLINGといえば、2018年に発売されスマッシュヒットを記録した超小型ハイレゾプレーヤー「M0」が記憶に新しいが、「Q1」はその後継機という位置付け。M0も機能的には前述したQ1と同等の機能(ハイレゾ再生/USB DAC/タッチディスプレイ/Bluetoothレシーバー&トランスミッター)を備えているが、Q1はより使いやすさ・実用性に重きが置かれた設計となっている。

そのひとつが、大判化されたタッチスクリーンと物理ボタンの採用。M0の1.54型/240×240ドットの画面は2.7型/360×400ドットとなり、物理的なサイズアップとともに情報量が増えた。M0の小ささは魅力だが、大半の曲名/アーティスト名が画面に収まりきらず、タッチのみの操作系統が煩わしさを感じる場面があったことも確か。携帯性と実用性のバランスを考えたとき、M0と比べて、より実用性へ振った設計にしたということだろう。

M0(左)に比べてひと回りサイズアップした

630mAhから1100mAhへと倍近く増えたバッテリー容量も、実用性を重視するがゆえと推測される。M0の連続再生時間は最大15時間あるものの、ハイレゾ/ロスレス再生時やBluetooth出力時はそれより大幅に短く、音楽に集中できない原因となっていたが、最大21時間と1.4倍に延びたことで、ストレス緩和が期待できそう。

対応するmicroSDの容量が最大512GBから2TBへと増えたこともポイント。Q1はM0と同様、楽曲保存領域にはmicroSDを使うスタイルだが、サウンドライブラリがハイレゾ中心だと512GBでは手狭なため、大容量化が望まれていたところだ。

一方、DACチップは「ESS Sabre ES9218P」(384kHz/32bit、5.6MHz DSD)を継続採用、出力端子も3.5mmシングルエンドを1基と、キープコンセプトの部分もある。送受信両方で機能するBluetoothオーディオも、LDAC/AAC/SBCは送受信とも対応するがaptXは送信のみという仕様を継続している。ただし、基板デザインやパーツ選定など細部の見直しは行なわれているとのことで、チャンネルセパレーションが70dBから76dBに向上するなどの変化も見られる。

イヤフォンジャックは3.5mmシングルエンド×1、ストレージは最大2TBのmicroSDに対応
同色のシリコンケースが付属する

ディスプレイの大判化で操作性向上

Q1のボディは亜鉛合金製、丸みを帯びてポップな印象。SHANLINGの言葉を借りれば、1940~1950年代のデザインに強いインスピレーションを受けたとのことで、若干レトロな雰囲気も漂う。レビュー用にはクリーミーホワイトを選択したが、ファイアレッドとターコイズブルー、フォレストグリーンと暖かみある4色がラインナップされる。

2.7インチとM0に比べ面積が約3倍となったディスプレイは、7H強化ガラスパネルの一体構造。面積が拡大したぶんフリックやタップなどタッチ操作の認識率は大幅に改善され、操作ミスも減った。M0では小さいUI要素の操作が難しく、オン/オフしたいスイッチを何度かタップしても反応がなくイライラ、という場面が珍しくなかったが、Q1でそのストレスはほぼ解消されている。

右側面のダイヤル兼ボタンには突起があり、ボリューム調整とスリープ開始/解除機能がアサインされている。

右側面にはダイヤル兼ボタンを配置

左側面には再生/停止と曲送り、戻しの3つのボタンが配置され、ディスプレイに触れることなく音楽再生に必要な操作をひととおりこなすことができる。イヤフォン側のリモコンで曲操作できるBluetoothレシーバーモード時はともかく、ファイル再生モード時に画面を見ることなく曲操作できるのはうれしい。

左側面には物理ボタンを配置

UI面では、ディスプレイ上部を下方向へフリックすると現れるコントロールパネルが追加された。Bluetoothやイコライザー、ゲインやUSB DACなどの設定画面をすばやく呼び出せるし、用が済めば元の画面に復帰できる。M0にもコントロールパネル風の画面が用意されているが、曲再生中には呼び出せないなど使用できる場面が限定的で、イコライザーやゲイン調整のボタンはない。地味ながら、物理ボタンの追加に匹敵する進化といえるだろう。

ディスプレイ上部を下方向へフリックすると現れるコントロールパネル
10バンドのイコライザーを利用できる

ファームウェアにはSHANLING独自開発「MTouch OS」の第3世代を採用。システム設定画面で確認するとバージョン番号はv1.2だが、同じくMTouch OSを積むM0(v3.2)とベース部分は同等と推定される。ただし、ボタンやアイコンなどUI要素のデザインは多少異なり、Q1では項目を削除するためのゴミ箱ボタンが用意されるなど、画面が広くなったぶんUIの構成が変更されている。

プレイリストはM3U形式をサポート、「_explaylist_data」フォルダに保存しておけばインポートできる。このルールはM0とまったく同じ、M0で作成したプレイリストをQ1でそのまま利用できるということだ。一般的なM3U形式だから、PCで作成してもいいだろう。

明確な定位と見通しのいいサウンド

Q1の試聴は、ファイル再生とBluetoothレシーバーモード、USB DACモードの3つで実施した。Bluetoothトランスミッターモードは音の出力が他のデバイスとなるため、通信の安定性のみ検証している。視聴用のイヤフォンには、カナル型・ダイナミックドライバー搭載の定番「Shure SE 215(Special Edition)」を選択した。

試聴は定番イヤフォンのShure SE215(SPE)で行なった

ファイル再生は、定位が明確ですっきりと聴かせつつも溌剌とした印象。聴き慣れたSE 215の低域と中高域のバランスはそのままに、スピード感と正確性を増したリジッドなサウンドだ。DACやヘッドフォンアンプの機能を備えたオーディオSoCが同じESS Sabre ES9218Pということもあり、M0とサウンドキャラクターはよく似ているが、ボディの質量が増したからだろうか、低域がより沈み込む。

Bluetoothレシーバーモードは、Android端末とQ1をLDACで接続、「BubbleUPnP」を使いネットワーク再生した楽曲を聞いた。普段ヘッドフォンアンプを利用しワイヤード接続で聴く曲だが、なかなかどうして、許せてしまうクオリティだ。LDACの効果か、ファイル再生時に感じる中高域の瑞々しさが随所に残り、カジュアルに楽しむぶんには満足できる。

Bluetoothレシーバーモード時(コーデックはLDAC)

USB DACモードは、MacBook Pro(2019)とUSB Type-C接続で試したが、MacBook Pro内蔵のイヤフォンジャックとはSNに明らかな差があり、見通しも断然いい。Macの場合、最初に接続するとき「Audio MIDI設定」で出力フォーマットを「192,000Hz」に手動設定しなければならなかったが、以降はQ1単体でファイル再生するときと遜色ないクオリティで楽しめた。PCから電源を供給できることも、バッテリーを気にせず済むという点で長所といえるだろう。

MacBook ProにつなぎUSB DACとして利用した

“濃い”プレーヤーが欲しい、よくばりな人にも

このように、ファイル再生もBluetooth再生(送信)/受信も、USB DACとしても利用できるQ1は、プレーヤーというより“オーディオ万能ナイフ”であり、1万円台半ばという価格からコストパフォーマンス面でも強い説得力を持つ製品だ。前代のM0からひと回り大きく・重くなったものの、画面が大きくなったぶん操作性が格段に向上し、ストレスがなくなった。

なによりうれしいのは、バッテリーのもちの改善だ。公称スペックでは、M0が15時間でQ1は21時間(MP3再生時)とあるが、実際の差はこれより大きい。M0は再生しない間もみるみるバッテリーが減ることがあり、日に数回充電することが常だが、Q1では1日1回で足りる。再生するファイルフォーマットがWAVやFLAC、M4A(AAC)などと混在していたため単純比較はできないが、のべ14時間以上再生してもバッテリーが20%以上残っていた事実からしても、より実用的になったことは確かだ。

通信(Bluetooth)の安定性向上もポイントだ。M0はあのサイズでaptXやLDACに、しかも送信だけでなく受信まで対応したことで話題を集めたが、音途切れが発生しやすく、混雑した場所には持ち出しにくかった。この非常時、残念ながら混雑した場所でのテストは実施できていないが、音楽を再生しながらQ1から離れることを繰り返し試したかぎりでは、M0より通信範囲が広がっている。

惜しまれる点があるとすれば、ファイルスキャン機能だろうか。M0のときも指摘されていたが、約2,000曲入ったmicroSDをスキャンし終えるまで3、4分かかる。ライブラリ更新を自動に設定していると、microSDカードを交換するたびに待たされるため、ぜひ改良してほしい部分だ。

側面のダイヤルも気になる。1940、50年代にインスパイアされたというデザインということもあるのだろうが、ダイヤルの周囲に巡らされた突起の数が少なく、指がやや滑り気味になるのだ。付属のシリコンケースを装着すると摘める部分が減り、余計に滑りやすくなる点も惜しい。

とはいうものの、1万円台半ばでこれだけの“濃さ”。使い倒せるハイレゾ対応プレーヤーがほしい、Bluetoothも使いたい、一方で質もしっかり追求したい、という人に格好の製品であることは確かだろう。

海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。