レビュー

3DCGの攻殻は“ヤバい”。Netflix「攻殻機動隊 SAC_2045」に撃ち抜かれる

攻殻機動隊 SAC_2045
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

4月23日からNetflixで全世界独占配信される「攻殻機動隊 SAC_2045」。「攻殻機動隊S.A.C.」シリーズを手掛けた神山健治と、荒牧伸志によるダブル監督の新作で、「攻殻」史上初となるフル3DCGアニメ。さらに田中敦子、大塚明夫、山寺宏一など、お馴染みのキャストが集結……と、配信前から話題に事欠かない注目作だ。

そんな「攻殻機動隊 SAC_2045」を、配信に先駆けて鑑賞したのでインプレッションをお届けする。筆者は、押井守監督の「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」はもとより、原作コミックもS.A.C.シリーズもARISEも実写映画もなんでもかんでも見ている“攻殻ファン”だ。そんなファンが感じた結論から言うと、攻殻機動隊 SAC_2045は「絶対に観た方が良い」。攻殻好きだけどNetflixに加入していないという人には、「この作品を観るためだけに入会すべき」と言いたい。それほど“面白い”作品だ。

『攻殻機動隊 SAC_2045』最終予告編 - Netflix

3DCGの攻殻機動隊は“アリ”なのか

攻殻ファンならば、既にSAC_2045の情報はチェックし、配信を楽しみにしているだろう。その一方で、「大丈夫なのか?」と不安を感じている人もいるかもしれない。かくいう私もその1人。不安というのはズバリ“フル3DCGの攻殻機動隊はアリなのか?”という点だ。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

思い返せば、これまでの攻殻機動隊の映像作品でも、一部に3DCGは使われている。舞台やキャラクター的にも、3DCGと親和性の高い作品と言っていい。だが、2Dアニメが基本で、一部に3DCGが使われているのと、全編が3DCGではだいぶ違う。タチコマだけでなく、素子もバトーもトグサも3DCGキャラとして登場するのだ。それに違和感を感じないか? というのが気がかりだったわけだ。

気がかり“だった”と過去形で書いたのは、1話を視聴し終わる事には、そんな不安が吹き飛んで、物語の世界にガッツリ引き込まれていたからだ。

確かに、素子が最初に登場するシーンでは「うわ! 素子が立体(?)だ!」、「バトーやイシカワ、課長の顔にもシワが少ない、素子の顔も丸っこくて可愛いし……というか、みんな若返ってない!?」と驚いた。だが、田中敦子、大塚明夫、山寺宏一ら、お馴染みの声優陣による惚れ惚れする演技と、攻殻らしいスピード感でストーリーが展開すると、3DCGキャラがあっというまに、いつもの素子やバトーに見えてくる。心配は無用だった。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

さらに、3DCGになって良かった事もある。戦闘シーンの“リアルさ”だ。「GHOST IN THE SHELL」でのアラクニダ(多脚戦車)とのバトルや、S.A.C.シリーズで海自のアームスーツと素子が戦う場面など、攻殻機動隊の映像作品は、凄腕アニメーター達による迫力あるバトルシーンが見どころだ。

2Dアニメならではの、ケレン味あふれる映像も魅力的だが、モーションキャプチャを活用した3DCGバトルシーンは、より現実の動きに近く、それゆえ生々しさがある。かといって“地味な動き”ではなく、ハリウッド映画にも近い、ハイスピードでキレがあるアクションが爽快。倒れて床に叩きつけられる時のバウンドなど、リアルな“痛み”も感じられるような動きも、キャラクターへの感情移入に寄与している。

義体化している素子やバトーは、人間ではとても届かない高所にジャンプしたり、人間離れした動きが可能だ。それが3DCGで描かれると“姿は人間なのに、動きが人間離れしている面白さ”を再認識できる。車やタチコマ、銃器など、3DCGで描かれたオブジェクトとの親和性も当然高い。立体的な空間で、奥行きと高さも活かした3次元的なバトルが展開。全てが3DCGなので、何が、どう動いているのかがわかりやすく、複雑なアクションシーンもストレートに楽しめる。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

SAC_2045の“舞台”も、アクションシーンの面白さをパワーアップさせている。攻殻機動隊と言えば、光学迷彩で姿を消して、近未来都市のビル群を自在に移動していくイメージが強い。

しかし、SAC_2045の舞台は2045年。素子達は公安9課を辞めており、廃墟が広がるアメリカ大陸西海岸で傭兵部隊として暮らしている。世界規模の経済災害「全世界同時デフォルト」が発生した事で、貨幣や電子マネーの価値は暴落。世界は“計画的且つ持続可能な戦争”通称「サスティナブル・ウォー」へと突入している。簡単に言えば、“ビジネスとしての戦争”が各国で勃発している「ヒャッハー!!」な世界だ。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

一般人なら、生きるのにも必死な時代。だが、一騎当千の古強者である素子達にとっては、己の戦闘スキルを遺憾なく発揮できるというわけだ。

日本の都市部ではなく紛争地域であるため、出てくる銃器や兵器も強力。戦車砲を搭載した装甲車や、ミサイルをぶっ放すドローンなど、戦う相手も一筋縄ではいかない。

舞台が「ヒャッハー!!」なので、当然繰り広げられるバトルも、爆発がそこらじゅうで起こるようなド派手なものに進化。多脚戦車やアームスーツとのバトルにも負けない迫力が、物語の最初からフルスロットルで炸裂する。もう画面に釘付けだ。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

素子達の前に立ちはだかるのは、人間?

光学迷彩に代表される“静かな戦い”も攻殻の魅力。時代が進んだことで、SAC_2045では“本物の昆虫にしか見えない超小型偵察ドローン”など、ユニークな装備も登場。それらを駆使して、素子達は情報を集め、敵の裏をかく頭脳戦・情報戦も繰り広げていく。

単に傭兵として素子達がひたすら暴れまわる作品……ではない。この世の春を謳歌していたのだが、やがて大国間の陰謀に巻き込まれてしまう。その奥で待ち構えていたのは“ポスト・ヒューマン”と呼ばれる謎の存在だ。

名前だけ聞くと“ニュータイプ”とか“新人類”を想像する。“人形遣い”や“笑い男”と比べると「え? 今回の敵は単なる人間なの?」と拍子抜けするかもしれない。だがこのポスト・ヒューマン、かなり“ヤバい”。どのくらいヤバいかは本編を見ていただきたいが、「こんなのどうやって倒せばいいの!?」レベルの超難敵だ。

単純に戦闘能力が高いだけでなく、知能も高いため、強力な兵器でねじ伏せればどうにかなる相手でもない。いったい彼らはどこから現れたのか? 目的は何なのか? そもそも何処に、何人いるのか? かつてない強敵を前に、ついに公安9課が再結成される。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

とはいえ、我が強く、個性的なメンバーばかり。荒牧課長が「少佐、再結成するぞ」、「了解」ですんなり再結成するわけがない。互いの能力を認め合い、「スタンドプレーから生じるチームワーク」を武器にするが、馴れ合っているわけではないのが9課の特徴。この“公安9課らしい人間関係”と、それを踏まえた再結成に至る展開が実に面白い。鍵になるのがトグサというのも、実に攻殻らしい展開なので注目して欲しい。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

新メンバー、スタンダード・江崎プリンにも注目

新しい要素として、素子達のメンバーに2人の新キャラクターが追加された。傭兵部隊で共に戦うのは、陽気な兵士・通称“スタンダード”。素子達はどちらかというと寡黙で、精神的に成熟したキャラクターばかりだが、スタンダードは戦闘能力はあるものの、調子に乗ってヘマをやらかす珍しいタイプ。素子やバトー達に「何やってんだお前」と呆れられながらも、「なんで俺ばっかりこんな目にあうんだ」とついていく、憎めないキャラクターがイイ。

陽気な性格の兵士“スタンダード”
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

もう1人の新キャラが江崎プリン。新生9課でタチコマ達をメンテする才女。飛び級でMITに入学し、博士号も取得した天才少女だ。女性キャラというだけで攻殻では珍しいが、髪の毛ピンクで背が低い“萌系”で、しかもなんとバトーにベタぼれ(!)という超貴重な新キャラだ。「バトーさんバトーさん」と追いかけ回すタチコマに、可愛い女の子までプラスされたわけだ。

御存知の通り、バトーは素子一筋だが、可愛い女の子に言い寄られて悪い気はするのか? しないのか? そしてそんな光景を遠くから眺める素子はどんな顔をするのか!? ポスト・ヒューマン事件とあまり関係ないが、別の意味でニヤニヤする展開にも注目だ。

新生9課でタチコマ達をメンテする才女、江崎プリン(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

新しい映像で展開する、期待通りの「攻殻機動隊」

今回、レビューのために、1話1話メモをとりながら鑑賞するつもりだったが、1話のバトルが始まった瞬間にペンがどこかに行ってしまった。こうなったらもうダメで、メモも忘れて「はやく次のエピソードを!!」と、再生が止まらなくなってしまった。

難事件を華麗なスキルで解決していく公安9課。だが、それを上回るスピードで事件は進展していく。この先どうなっていくのか、緊迫感に包まれ、ハラハラしながら目が離せないこの感覚は、「笑い男事件」や「個別の11人事件」にも負けていない。

脚本を担当しているのは、シリーズ構成を務める神山健治の他、アニメ「ULTRAMAN」の脚本を手掛けた檜垣亮、砂山蔵澄、土城温美、「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズの脚本を手掛けた佐藤大らも参加。重厚かつハイスピードな物語展開は、約束されていると言っていいだろう。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

フル3DCG化により、映像的には“まったく新しい攻殻機動隊”だ。でも、戸惑うことはない。これはまぎれもなく、我々ファンが愛する「攻殻機動隊」だ。それでいて、今までより“過激”になっているのだから、ある意味手がつけられない。攻殻ファンも、初めて攻殻を体験する人も、4月23日に配信を見る際は、翌日の寝不足を覚悟した方が良い。

山崎健太郎