レビュー
LEDに惚れる! あのバルミューダが作ったスピーカーを聴いてみた
2020年5月8日 08:30
バルミューダと言えば、美味しいパンが焼けるトースターや、自然界の風を再現した扇風機「The GreenFan」など、他社とは一味違う家電を手掛けるメーカーだ。そんなバルミューダが“スピーカーを作った”というから当然気になる。製品名はそのものズバリ「BALMUDA The Speaker」。さっそく借りて、どんなサウンドなのか、そして、最大の特徴である“ミュージシャンが歌うように光る”ライティングを体験してみた。
発売は6月中旬とちょっと先だが、予約受付はすでにスタートしている。価格は32,000円と、Bluetoothスピーカーとしては比較的高価な部類だが、ちょっと一般的なBluetoothスピーカーとは毛色が違う製品だ。詳細は後述する。
なんでバルミューダがスピーカー?
家電Watchではお馴染みだと思うが、バルミューダというメーカーについて、軽くおさらいしておこう。設立は2003年。2010年に、自然界の心地よい風を再現する扇風機として「GreenFan」を発売し大きな話題となり、2015年にはキッチン家電に参入。おいしさを追求したスチームトースター「BALMUDA The Toaster」も人気となり、ブランドを代表する製品になった。
2018年には医療用の手術灯をヒントに開発した太陽光LEDデスクライト「BALMUDA The Light」、2019年にポータブルLEDランタン「BALMUDA The Lantern」を発売するなど、製品ジャンルを拡充させている。
ジャンルは違えど、製品に共通しているのは「驚きや感動、うれしくなるような体験」だという。家電は、機能的にはすでに十分便利になっているため、それを超えて「家電という道具を通して、心躍るような、素晴らしい体験をお届けする」事をテーマとしたメーカーだ。
そんな同社が、いよいよスピーカーに参入……というのが、今回の製品なのだが、なんとバルミューダは“スピーカーだけは作るつもりはなかった”という。
なんでも、バルミューダの代表である寺尾玄氏は、バルミューダを設立する前はミュージシャンとして活動しており、アーティストとして“生音の素晴らしさ”を日々体験。音楽へのリスペクトも強く、「家電で生音を再現するには限界がある」事を知っていたため、「スピーカーは作らない」と決めていたそうだ。
しかし、状況が変わるキッカケとなったのが、同社デザイナーが開発した1つの試作機だ。この試作機は、音質が良いだけでなく、まるで“ミュージシャンが音楽を奏でるように光る”というユニークな機能が搭載されていた。
“ユーザー体験”を重視するバルミューダとして、この“今までにない音楽体験”を追求する事を決定。そして開発が進み、具体的な製品として完成したのが「BALMUDA The Speaker」というわけだ。
“音に合わせて光るだけ”ではない
ここまで聞いて「なんだ、ただ音に合わせてピカピカ光るだけか」と思われるかもしれない。確かに“音が鳴りつつ光るスピーカー”という意味ではその通りだ。ただ、スピーカーの実物を見て、光らせてみると、「ああーなるほど、これは確かに普通のスピーカーと違うわ」と納得してしまう。
理由は大きく3つある。1つは、BALMUDA The Speaker自体の高級感。手にすると、質感が高く、特に筐体をぐるっと取り囲む有機ガラス製のチューブが透明度が高くて美しい。外形寸法は直径105mm、高さ188mm。重量は約1kg。
形状は円筒形で、ボディが透明なので、まるで巨大な真空管のように見える。そして気になるのが、内部にある3つの円柱形パーツ。これら3つにも透明なチューブが使われており、一瞬「本物の真空管かな?」と見違えるほどだ。製品全体での高級感が高いため、“単にピカピカするスピーカー”という印象ではなく、「普通とはちょっと違う“すごいヤツ”」という雰囲気が漂っているのだ。
なお、3つのチューブは“3ピースバンドのミュージシャン”をイメージしているそうだ。よく見ると、中央のチューブには「★」マークが入っている。スターがいるバンドという意味なのだろうか。ちなみにLEDが光ると、スピーカーを置いたテーブルの上に「★」マークの影が落ちて面白い。
2つ目は、LEDユニットの“光りそのものの綺麗さ”だ。LEDは、内部の小さな3基のチューブそれぞれの中に、上下に取り付けられている。この光が、小さなチューブを内側から照らし、さらに外側のチューブも照らしながら、ユーザーの目を楽しませる。
実はこれだけでなく、3つの小型チューブを下から照らすステージライトのように、LEDが埋め込まれている。つまり、内部の3基のチューブは、内側から光つつ、外側からも照らされるわけだ。この複雑な光り方が実に美しく、眺めているだけで気持ちが良い。
3つ目は、音楽に合わせた“光り方”だ。搭載するLEDは、単にサウンドの音量に合わせて、ピカピカしているわけではない。なんと、独自のアルゴリズムにより、0.004秒の速さで再生している音楽を解析。ミュージシャンが歌い上げるように光るというのだ。
百聞は一見にしかず。とりあえず、光っているところを動画で撮影してみた。
見ていただくとわかると思うが、光り方のバリエーションが多く、それらが織り交ぜられているのがポイントだ。音量が大きくなったら明るく、小音量では小さく、という単純なものではない。
例えば、楽曲が始まった瞬間は、ミニチューブの外側下に配置されているLEDが、3基のミニチューブを下から照らす。まるで薄暗いライブ会場の中で、スポットライトがステージを照らし、そこに3人のアーティストの姿が!! そのまま演奏を開始する……という場面を空想してしまう。
光り方も、曲にマッチしている。静かなスタートの曲では、光り方は強くなく、明滅の頻度も抑えめ。そこからサビへと盛り上がっていくと、光が力強くなり、明滅もビートに合わせてキレ良く光ってくれる。「0.004秒で音を光の輝きへと変換する」というのは確かに伊達ではない。
女性ボーカル+ピアノソロのようなシンプルな曲では、光も音楽に合わせ、派手過ぎず、ゆったりと光ってくれる。どのような音楽なのかをしっかり解析し、それに合わせて光ってくれるので、見ていて飽きない。
それどころか、3つのチューブがアーティストとして音楽を奏でているように見えてくるので、つい見入ってしまう。ピュアオーディオでも昔から“真空管アンプの光を眺めながらゆったり音楽を楽しむ喜び”があるが、その楽しさをさらに進化させ、流れる音を、光でも表現しているようなスピーカーだ。
なお、背面のボタンを押すと、光り方を「Beat」「Ambient」「Candle」の3つから切り替えられる。先ほどの動画の中でも、モード切替を行なっているので見て欲しい。
今までは「Beat」を使っていたが、これは「楽曲に合わせてダイナミックに明滅。もっとも臨場感を感じられる」というモード。
対して、「Ambient」は、その明滅を抑えめにしたもので、「楽曲に合わせてほどよい抑揚をつけ、明滅する」モード。例えば、Beatよりも“前のめり”ではなく、読書しながら音楽と光を楽しむ際に、光を抑えて、気が散らないようにしたい時は「Ambient」といった使い方がいいだろう。
「Candle」はその名の通り、音楽とは関係なく、ロウソクの炎のように光ってくれるモード。落ち着いた光の照明として活用したい時に良い。個人的には、スマホの「radiko」アプリで、FMラジオを再生する時に便利に使えた。パーソナリティーの声に合わせて明滅もしてくれるのだが、トークが多い番組では明滅の激しさが気になってしまうためだ。その時は、音と関係なく、ゆらゆら光る方が、結果的に番組の内容も耳から入ってきやすくなる。
キレのある無指向性サウンド
透明な部分が多いスピーカーなので、「ユニットはどこに入っているんだ?」と不思議になるが、天面に、上向きに搭載されている。上に音を出す、いわゆる無指向性スピーカーだ。
そのため、設置場所は2chスピーカーよりも自由度が高い。スピーカーの向きも気にしなくて良いため、BGM的に音楽を流しながら、他のことをするような使い方にピッタリだ。バッテリーも搭載しており、7時間の連続再生ができるため、コンセントの位置も気にしなくて良い。充電所要時間は2.5時間だ。
一方で、前述のように光の演出はアーティストのステージのような楽しさもある。つまり、部屋を自由に歩きながら音楽を楽しみ、時には足を止めて光の演出に目をやってじっくり聴く……というような、使い分けができる。
気になる音質だが、これもなかなか良い。天面に搭載されているのは77mm径のフルレンジユニットで、低域から高域まで、バランスのとれた音を再生する。色付けも少なく、高解像度で、ボーカルの声の表情や、楽器の質感などもよく描き分けられている。
特筆すべきは、低音がタイトでシャープなところ。Bluetoothスピーカーはどうしても、小さな筐体で迫力の低音を出そうと頑張りすぎて、ボンボンと低音が膨らんで不明瞭なサウンドになる製品が多いが、BALMUDA The Speakerはそもそも密閉型で、そんなに低音を欲張ったスピーカーではない。
そのため、ズシンと響くような低音は出せないが、アコースティックベースの弦の動きや、ドラムの音の粒など、低い音の中の微細な音がしっかりと聴きとれる。中高域とバランスがとれた低音はしっかり出ており、決してスカスカした音ではない。誇張を抑え、情報量を重視し、色付けしないピュアオーディオライクな音作りは、真空管のようなデザインともマッチしており、音楽としっかり向き合える音になっている。
ただ、聴き方で1つ注意がある。天面にユニットを搭載しているので、スピーカーを顔の前に置いて、いわゆる“かぶりつき”な姿勢で再生すると、音が頭上へ抜けてしまい、あまり耳に入らなくなってしまう。
光の演出が美しいので、開封当初は「うわー! 綺麗だなぁー!」と顔を近づけて、まじまじ見ながら聴いてしまうのだが、音をバランス良く楽しむためには、少し離れて聴く方が良いだろう。そういった意味でも、バッテリー内蔵を活かし、部屋の好きな場所にさりげなく設置して、生活の中に広がる音を取り入れつつ、時に、光の演出に注目して音楽をじっくり楽しむ……という使い方にマッチしそうだ。
アンプ部の最大出力は8Wあるので、広めのリビングでも十分音は広げられるだろう。なお、BluetoothはSBCコーデックに対応。それに加え、3.5mmステレオミニのAUX入力も備えている。部屋のコンポなどと繋いで楽しむのもアリだろう。
この光を眺めながらコーヒーを飲みたい
先ほど、LEDのライティングモードが「Beat」「Ambient」「Candle」の3種類あると書いたが、実はこのライティングを「OFF」にするモードは“あえて”搭載されていない。
普通の製品であればOFFにできそうなものだが、あくまでこのスピーカーは光と音による“今までにない音楽体験”を実現するための製品だという、メーカーの強いメッセージを感じる。こうしたこだわりも、ピュアオーディオメーカーのようで面白いポイントだ。
オーディオファンは当然ながら、「音の良さ」や「価格」、「デザイン」などで製品を選ぶ。BALMUDA The Speakerも、この3点で優れた製品ではあるが、艷やかにゆらめき、時に激しく光るLEDの美しさを見ていると、「ああ、ちょっと部屋を暗くして、この光を眺めながらコーヒーでも飲んだら美味しそうだぁ」という“購入後の妄想”が頭に広がる。手に入れた後の“空間”や“時間”に惚れて、欲しくなるような、ちょっと今までにないBluetoothスピーカーだ。