レビュー

ミドルクラス最強!? ネットワークアンプが中核、デノン「900NE」

プリメインアンプ「PMA-900HNE」と、CDプレーヤー「DCD-900NE」

いきなり個人的な話だが、「自分がオーディオ始める時に、こんな単品コンポシリーズあったら最高だったろうなぁ」と思う製品が存在した。デノンが2018年に発売した「800NE」シリーズだ。

かいつまんで説明すると、1台6~7万円のいわゆる“ミドルクラス”であり、ネットワークプレーヤー「DNP-800NE」、CDプレーヤー「DCD-800NE」、DACも内蔵したプリメインアンプ「PMA-800NE」の3機種を用意。その全てを、AV Watch読者にはもうお馴染み、デノンの音の門番“サウンドマスター”の山内慎一氏が、「デノンの目指す音を、オーディオ入門者にも体験してもらいたい!」とガチで作り込んだ結果、「いや待って、ミドルクラスでこんな音が出たら、上のモデル売れなくなっちゃうでしょ」と心配になるようなクオリティになってしまった……というシリーズだ。

800NEシリーズ3製品
サウンドマスター 山内慎一氏

“次世代デノンサウンド”を6~7万円で、800NEシリーズ3製品を聴く

この話には続きがある。先程、「製品が“存在した”」と過去形で書いたのだが、その800NEシリーズに、後継機種が登場したのだ。その名も「900NEシリーズ」だ。

さっそく聴きに行ったのだが、「さすがに、800NEがあんな音に超進化した後だから、900NEはそんなに変わってないでしょ」と思っていた。しかし、結論から言うと、山内氏はアクセルを緩めるどころか、床の底までベタ踏みし、「クラスの枠」を完全にぶっ壊したコンポを作っており、再び「ちょっと待って、こんなの作ったら上のモデルどうすんの!?」と心配する事になった。

900NEシリーズ

アンプにネットワークプレーヤー機能を搭載

まず900NEのラインナップをおさらいしよう。ここが結構重要なポイントだ。というのも、ラインナップが、800NEと変わっており、それがコスパにも大きく影響しているのだ。

800NEは3機種だったが、900NEはモデル数が2つに減り、ネットワークプレーヤー機能付きのプリメインアンプ「PMA-900HNE」(132,000円)と、CDプレーヤー「DCD-900NE」(77,000円)というラインナップになっている。

ネットワークプレーヤー機能付きのプリメインアンプ「PMA-900HNE」

注目は13.2万円のPMA-900HNEで、「6~7万円だった800NEより高くなってるじゃん!」と一瞬思うのだが、800NEでは別の製品だったネットワークプレーヤー「DNP-800NE」(6万円)、プリメインアンプ「PMA-800NE」(7万円)をドッキングして、そこからUSB DACを省いたような構成になっている。機能と総額で見ると、価格はあまり変わっていないことがわかる。

この機能・ラインナップ変更は、800NEから900NEにモデルチェンジをする間に、急速に音楽ストリーミングサービスが普及・高音質化したのに、対応したカタチだ。

アンプにネットワークプレーヤー機能が入っているので、音楽ストリーミングサービスに加入している人であれば、アンプの「PMA-900HNE」だけ買って、あとはスピーカーをつなげば、クラウド上の膨大な音楽ライブラリーが高音質で再生できる。オーディオ入門としては、非常に気軽で便利になったものだ。

あとは、手持ちのCDライブラリーも再生したいという場合に、CDプレーヤー「DCD-900NE」(77,000円)を加えれば、過去のCDも最新ストリーミング楽曲も、なんでも楽しめるオーディオシステムが完成する。

CDプレーヤー「DCD-900NE」

HEOS Built-inプリメインアンプ「PMA-900HNE」

プリメインアンプ「PMA-900HNE」

アンプで重要なのは増幅回路だが、PMA-900HNEはここに凄いものを搭載している。2020年に、デノン110周年記念モデルとして、かなり気合を入れて開発された、33万円のプリメインアンプ「PMA-A110」と同じ、“可変ゲイン型プリアンプとパワーアンプによる二段構成”を採用しているのだ。

“2段構成”とは、“FLATアンプとパワーアンプの2段構成”という意味。PMA-900HNEは、入力された信号に対し、FLAT AMPの可変ゲインアンプを使って、通常のリスニングで使われるボリューム域ではゲインをダウン(最大-16.5dB)してから、その後ろにあるパワーアンプで増幅している。

これに対して、PMA-800NEはFLATアンプを持たない固定利得アンプ(45.5dB)を応用している。この方式では、“ボリュームの位置でアンプ動作が変わらない”という利点があるものの、“入力抵抗の熱雑音を常用するボリューム域でもフルゲインで増幅してしまう”という弱点がある。

つまり、PMA-900HNEは、音量に合わせてプリアンプのゲインを増減させることで、一般的に使用される音量の範囲内ではプリアンプでの増幅をしないで、パワーアンプのみで増幅する事で、ノイズレベルを大きく下げ、高音質になるよう工夫した……というわけだ。

増幅回路には、新世代の「Advanced High Currentシングルプッシュプル増幅回路」を採用。一般的なトランジスターの3倍のピーク電流供給能力を持つという「HCトランジスター」をシングルプッシュプルで用いるシンプルな回路だ。

多くの素子を並列駆動して大電流を得るアンプも市場には存在するが、素子の性能のバラツキが、音の濁りに繋がるという問題がある。そこで、“1ペア”素子での増幅にこだわっている。

PMA-900HNEは、PMA-A110の構成に準じて、従来の差動3段アンプと比較して、発振に対する安定性に優れる差動2段アンプ回路を採用。「より素直な音質傾向になり、様々なスピーカーを正確かつ力強く駆動できる」という。アンプの出力は、50W×2(8Ω)、85W×2(4Ω)だ。

内部

PMA-A110から踏襲しているのは回路構成だけでなく、PMA-A110で採用されている高音質パーツや専用カスタムパーツを、PMA-900HNEに多数投入している。特にコンデンサーや抵抗などのパーツの一部は、「本来このグレードの製品には使用されない」という高価なものも搭載。山内氏がパーツメーカーと共同で作り上げたデノン専用のカスタムパーツだ。

ボリューム部分にもこだわっている。これまた、PMA-A110と同様に、高精度な電子制御ボリュームコントロールICを採用した。電子制御というのは、ボリュームノブに取り付けたセンサーで、ノブの回転方向や回転量を検出し、その情報を元にメイン基板に実装された高精度な電子制御ボリュームに伝え、音量をコントロールするというもの。左右バランスやトーンコントロールにも同様の構成を採用している。

これにより、アナログボリュームを採用した時と比べ、フロントパネル上のノブと、プリアンプ基板を信号が行き来していた経路を、バッサリと短縮。最短経路を実現した事で、音の劣化を防いでいるわけだ。

ネットワークオーディオ機能として、HEOSを搭載。NASやUSBメモリーに保存したハイレゾファイルを再生できるほか、Amazon Music HDやAWA、Spotify、SoundCloudなどの音楽ストリーミングサービスの再生も可能だ。AirPlay 2やBluetoothにも対応しているので、スマホからより手軽に音楽を再生する事もできる。

また、アンプの筐体にデジタル系の回路を内蔵すると、ノイズなどの干渉が気になるところだが、PMA-900HNEではネットワーク、USB、Bluetooth入力のデジタルオーディオ回路を、まるごとシールドケースに封入し、ノイズを遮断。電源ラインから流入するノイズに対してはデカップリングコンデンサーを用いて除去している。

デジタル・オーディオ基板
このように、シールドケースに封入してノイズを遮断している

デジタル系では、光・同軸デジタル入力も備えており、テレビと光デジタルで接続する事も可能だ。入力信号を検出すると自動的に電源が入る機能も備えているので、PMA-900HNE+オーディオスピーカーを、テレビ用スピーカーとして使うのもアリだろう。

また、MM/MCカートリッジ両方に対応するフォノイコライザーも内蔵しているので、アナログレコードも聴いてみたいというオーディオ初心者にも使いやすくなっている。

さらに、マニアックではあるが電源ケーブルがインレット式に変更され、ケーブルの交換がしやすくなっている。

背面

CDプレーヤー「DCD-900NE」

CDプレーヤー「DCD-900NE」

CDプレーヤーもかなり進化している。一番の特徴は一目瞭然で、前モデル「DCD-800NE」は、奥行きが275mmだったが、「DCD-900NE」は328mmと、大型化したアンプのPMA-900HNEと同じ奥行きサイズになった。外形寸法は434×328×107mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は4.9kg。

左が前モデル「DCD-800NE」、右が新モデル「DCD-900NE」。奥行きが増え、筐体が大きくなった

筐体が大きくなった事で、内部の基板レイアウトがより自由になり、デジタル/アナログ回路を筐体内で完全に分離したり、より高音質な大型パーツを搭載できるといった、利点がある。これに伴い、基板は新設計になり、アナログ回路の基板も大型化。ノイズ対策のために、左右チャンネルの端子が個別端子になっている。

アナログRCA出力端子。ノイズ対策のために、左右チャンネルの端子が個別端子になっている

DAC回路も新開発。高精度クロックをDAC直近に設置するレイアウトで、ジッターを最小化。I/V変換部のオペアンプには、より高性能かつ高音質なものを採用。DCD-800NEに対し、1.35倍のスルーレートを持つオペアンプで、差動合成のローパスフィルターも高性能化した。

オーディオ電源は、他の電源と基板を分け、さらにディスクリート化。無帰還のレギュレーターを構成することで、低ノイズ化し、力強さが増したという。

なお、USB入力端子も備えており、USBメモリーなどに保存したハイレゾファイルの再生も可能だ。

アンプと同様に、山内氏がハイエンドモデル向けに生み出した「SYコンデンサー」を大量に投入。ハイエンドプレーヤー「DCD SX1 Limited Edition」で使っているパーツも含まれているほか、電源部のコンデンサーは新規開発だ。

CDプレーヤーも、電源はインレット式になり、電源ケーブルの交換が可能になった。インシュレーターには高密度フットを採用している。

電源はインレット式に

音を聴いてみる

まずは800NEから聴く

まずは800NEから聴いてみよう。CDプレーヤー「DCD-800NE」とプリメイン「PMA-800NE」を用意し、女性ボーカルの「Freya Ridings/Lost Without You」や、ハープ奏者William Jacksonの「A Fisherman's Song for Attracting Seals」を聴く。

ミドルクラスの単品コンポだが、まず驚くべきはアンプの駆動力の高さ。巨大なBowers & Wilkinsのフロア型スピーカー「802 D3」をしっかりドライブし、キレの良い低音も聴かせてくれる。中高域も色付けは少なく、女性ボーカルの声も生々しく、抜けの良さもバツグンだ。

そして800NEならではの魅力はやはり、音の広がりだろう。山内氏は、800NE開発時に「(上位機の)2500NE、1600NEの開発時から掲げている“ビビッド & スペーシャス”なサウンドを、このクラスでどこまで実現できるかをテーマに開発した」と語っていた。

その言葉通り、800NEの音場は呆れるほど広大で、ほとんど制約を感じさせない。試聴室の壁が消滅したような、まさに“スペーシャス”な世界が、この価格の単品コンポでも実現できている事に驚く。これが、他のミドルクラスのコンポとの大きな違いだろう。

左からアンプ「PMA-900HNE」、CDプレーヤー「DCD-900NE」

では、同じ曲を900NE(PMA-900HNE + DCD-900NE)で再生すると、どんな音になるのか。

これが凄い。まず、スペーシャスな音の広がりはさらに広大になり、2ch再生でも体全体を包み込まれるような感覚になる。これだけでも驚きだが、最も大きな進化は、その広い空間に定位する音像が、よりパワフルに、躍動感にあふれ、1つ1つの音がこちらに押し寄せるエネルギー感が大幅にアップしているのだ。

これは、800NEが“上位機に勝てなかった”部分なのだが、900NEではそこを完全にクリアしている。例えば、ハープの音の広がりは、900NEほどではないが、800NEでも広大に広がり、美しい響きの余韻にうっとりと浸れる。

しかし、900NEでは美しい響きだけでなく、ハープの弦を指で弾いた瞬間の、力強く、鋭い音がしっかりと描写され、そのパワフルさがガッツリと伝わってくる。当たり前と言えば当たり前なのだが「ああ、ハープって弦を指ではじいて演奏しているんだな」という事実に改めて気付かされ、何もない左右スピーカーの間に、ホログラムのように弦と指が動いている様子が見えてくる。

この生々しさ、鋭さ、鮮烈さが、900NE最大の進化点だ。つまり“ビビッド & スペーシャス”のスペーシャルだけでなく、ビビッドまでしっかり実現したのが900NEのサウンドだ。

ボーカルやギターなど、目立つ音だけが鮮烈なのではない。ピアノの左手など、低音の中の細かな動きも、解像度と駆動力がアップしているため、よく見えるようになる。同時に、低域の沈み込みの深さ、音の重さも、900NEの方が一枚上手だ。

あらゆる面が800NEから進化している。山内氏も「越さなかったのは値段だけです」と笑う。

アンプの駆動力の高さに意識が向きがちだが、音の伸びやかさ、解像度の高さには、CDプレーヤー・DCD-900NEの進化も大きく寄与している。山内氏は「価格としては77,000円でミドルクラスですが、SACDが再生できない純粋なCDプレーヤーとしては、このDCD-900NEがトップモデルになりますから、気合を入れて開発しました。I/V変換部分も高性能化し、電源も新規のカスタムコンデンサを投入し、ディスクリート化しました」と語る。その効果は、確かに音に現れている。

900NEシリーズで始めるオーディオライフ

冒頭で「自分がオーディオ始める時に、こんな単品コンポシリーズあったら」と書いた800NEシリーズだが、900NEではあらゆる面が進化した事で「ここからオーディオを始められたら絶対最高でしょ」と、羨ましくなってくる。

価格としては、アンプのPMA-900HNEが132,000円、CDプレーヤーのDCD-900NEが77,000円と、アンプが10万円を超えているのが気になるかもしれないが、前述の通り、800NEシリーズに存在したネットワークプレーヤーを、900NEではアンプが吸収したような格好であるため、コストパフォーマンスの高さはあまり変わらないと感じる。

逆に、単品コンポを2台置かず、アンプのPMA-900HNEだけあれば音楽配信を高音質で再生するシステムは構築できるので、スペース的な利点もある。システムがあまり大規模にならなければ、リビングなどに設置する時も、家族の理解が得やすいだろう。

細かなポイントだが、900NEでは電源ケーブルがインレット方式になっているのも見逃せない。オーディオ趣味は、様々なアクセサリーを駆使して、音を理想のものに追い込んでいく過程も楽しいものだが、電源ケーブルを気軽に交換できるようになる事で、その幅も広がるだろう。

さらに、900NEのサウンドには「ミドルクラスだから、このくらいだよね」という制約と言うか、“価格帯の枠”みたいなものが存在しない。全体的な音場のスケールや、躍動感などは、あとからセッティングやアクセサリーで追い込んでも出しにくい部分であり、それが最初からハイクオリティに再生されている900NEシリーズであれば、ここから自分の音へと突き詰めていく、オーディオライフがきっと楽しいものになるだろう。

(協力:デノン)

山崎健太郎