レビュー
プレーヤーに恋したら、禁断の“DAC交換沼”にハマった
2022年9月7日 08:00
のっけから何言ってるか分からない話で申し訳ないが、僕はいま“DAC交換ヌマ”にはまっている。決して、DAC交換が趣味というわけではない。愛する古参の20年選手が、なぜか毎回「DACチップ」が故障し続け、僕を苦しめるのだ。
プレーヤーのDAC交換はそう簡単にできることではないが、愛と執念に突き動かされた僕は、何度も何度も、ときにくじけそうになりながらもDAC交換をおこなってきた。交換した数はこれまでなんと10数個に及ぶ。
今回は、プレーヤーに恋したら、禁断のDAC交換沼にハマった男の話をしよう。
僕をDAC交換沼にハメたプレーヤー
僕を沼にハメた張本人は、エソテリックの「UX-1」というユニバーサルプレーヤーと、「X-01」というSACDプレーヤーだ。
UX-1とX-01は発売時期がほぼ同じの兄弟モデル。UX-1は当時のホームシアターブームに乗って登場した映像出力つきのユニバーサルプレーヤー。一方のX-01は、映像出力のないピュアオーディオプレーヤーである。
両者には共通点が多く、トランスポートメカやシャーシ、筐体、電源回路やDACチップなどはほぼ同じであり、差分といえば映像出力の有無と使っているDACチップの数くらいである。なお、DVDオーディオは規格の関係でUX-1でしか再生できない。
ではなぜ、そんな兄弟のようなプレーヤーを両方持っているのか。
最初に購入したのはUX-1で僕はその音に心底惚れ込んだ。しかし、UX-1が不調になったのでプレーヤーを交換しようと何機種か試聴したのだが、最新機種はどうも僕には合わないようで結局中古のX-01を購入したのである。
UX-1を買ったのは2005年のこと。定価約130万円もする高級機だったが、パネルにうすいキズのあるB級品だったので大幅に値引きしてもらった。それでも清水の舞台から飛び降りる覚悟がいる価格だったが、一生に一度のつもりで思い切って購入したのである。
UX-1の音は実に素晴らしく、それ以来メインのプレーヤーとして長らく使い続けた。映像がDVDからBDに移り変わったタイミングでビデオプレーヤーとしては引退したが、その後もピュアオーディオプレーヤーとして使い続けた。
しかし、UX-1のトラブルは突然やってきた。それは忘れもしない2017年10月のこと。
CDを聴いていたら音像が少し左寄り聴こえる。気のせいかと思い、いつも聴いている盤を何枚か聴いてみたのだがやはり左に寄っている。片チャンネルずつ確認したところ、どうやら右チャンネルの出力レベルが低くなっているようだ。アンプの接続やケーブルなど慎重に確認したが、UX-1の故障と判断した。
購入から10年以上も経っているので、メーカーでは修理を受けてくれないかも知れない。でも、そこはさすがエソテリック。調べたところ、古い製品でも部品がある限りは修理をしてくれることが分かった。ただ、当然ながらそれなりの修理代がかかる。さてどうしたものか、と思い悩むこと30秒。僕は自分で修理してみようと即断したのである。
しかし、この判断が悲劇の始まりだった。まさかその後8回も修理することになるとは、このときは夢にも思わなかった。これが、その後5年に渡るDAC交換沼の入り口だったのだ……。
なぜ僕はエソテリックに恋をしたのか
まず、エソテリックと僕の蜜月について説明しておこう。
エソテリックは元々、TEACというメーカーの高級ブランドという位置づけで誕生したもので、2004年には会社として独立しエソテリック株式会社となった。
エソテリックブランドの最初の製品は、1987年に発売されたCDトランスポートの「P-1」と、DAコンバーターの「D-1」だ。このペアは、当時高級オーディオで多く見られたセパレートタイプのCDプレーヤーを成すモデルで、P-1はV.R.D.S.(Vibration-Free Rigid Disc-Clamping System)というターンテーブル方式のメカニズムを搭載し、D-1には18ビット4倍オーバーサンプリングのマルチビットDACが搭載されていた。強靭なメカニズムとマルチビットDACによって、力強く高密度な音質は音楽マニアはもとより原理主義的なサウンドマニアに絶賛された。
僕とエソテリック製品との出会いは、オーディオ評論家のお宅でP-1、D-1の後継機、「P-2」「D-2」のペアを聴いたときだ。驚いたのは、重厚で力強い低音。分厚い岩盤、あるいは強大な岩石がズドンと眼前に落下したかのような低音に圧倒された。
さらに驚いたのは、全域の立ち上がりの鋭さだ。音が瞬時に立ち上がって、鋭角的に天の果てまで飛んでいくような印象なのだ。つまり、音のダイナミックスが極めて優れているということ。もちろん、周波数レンジも十分広いが、それよりも超広大なダイナミックレンジに圧倒されたのである。
この体験を通じて、今日まで続く僕のプレーヤーに対する考えが固まった。最も重要な要素は強固で強靭な「トランスポートメカニズム」。それと「マルチビットDAC」である。
メカについては、レコードプレーヤーと同じようなターンテーブル方式が必須だと考えるようになった。CDはデジタル信号の読み出しが出来さえすれば、メカはどれでも同じだろうという考え方もある。しかし、ターンテーブル方式のプレーヤーはいずれもダイナミックスの良さと正確性があって、特にVRDSのような重量級のメカと普通のメカと比べると、音の瞬発力の違いは明確だ。この違いは実際に聴いてみればすぐわかると思う。
DACも重要である。CDのDACは、当初はマルチビット方式だけだったが、10年ほど経過した頃に1ビット方式が登場し、双方の音質の違いについて様々な議論が交わされた。メーカーは“先進の1ビット方式推進派”と“従来のマルチビット方式支持派”に分かれた。いわゆる1ビットvsマルチビット論争である。
1ビット方式とマルチビット方式を正しく、しかも簡潔に説明するのは難しい。僕のつたない知識で恐縮だが、可能な限り分かりやすく説明してみる。
1ビット方式とマルチビット方式の違い
ご存知の通りデジタル信号は、0と1の2種類の符号で処理される。
ビット数は桁数を表していて、16ビットなら、0と1に変化する符号が16個並んでいる。サンプリング周波数は処理速度を表していて、44.1kHzなら1/44,100秒である。
例えばCDの16ビット、44.1kHzは16桁の符号を1秒間に44,100回確認しながらアナログの信号波形を作っていくわけだ。マルチビット方式はこの理論通り、16桁分の信号を1/44,100秒ごとに処理するものである。
一方の1ビット方式は擬人化して考えるとわかりやすい。まず16桁の符号を16人の行列だと想像してほしい。行列に並んだ人々は順番通りに受付で処理されて、16人の受付が済んだところで一区切りをつける。そしてまた16人、また16人と延々と繰り返していく。これが1ビット方式である。
両者の違いをまとめると、マルチビット方式は16桁分をまとめて1/44,100秒に1回処理する。1ビット方式は1桁分だけを1/44,100×16秒に1回処理する。処理速度は1ビット方式のほうが16倍も速いが、1桁分なので簡単に処理できる。マルチビットは処理時間はたっぷりあるが、16桁分を処理しなければいけないので処理そのものが面倒である。
DACは当初はマルチビット方式だけだったが、技術の進化により高速処理が可能となったことで1ビット方式が登場した。それぞれの優劣があるのだが、製造コスト面で有利な1ビット方式が優勢となり、マルチビット方式は次第に消えていった。
両者は結果的に出来上がるアナログ信号は同じだが、それぞれの処理方法の違いが音にも表れるという。マルチビット方式は力感と鮮鋭感に優れていて、繊細感や微小信号の透明感、聴感上のSNや静寂感は1ビット方式が優れている、とよくいわれる。実際はそんな単純なものではないと思うが、僕もおおむねこのように感じている。
UX-1のDACは、マルチビット方式のバーブラウン「PCM1704」である。UX-1発売当時、既に1ビット方式が広く普及していて、PCM1704はのちに“最後のハイエンドマルチビットDAC”と呼ばれるようになった。
UX-1の音質はハイスピードでダイナミックレンジが広く、低音は硬く厚く重量感に秀でていて、しかし決して鈍重にならず、俊敏で立ち上がり感が優れている。一方、繊細な表現も得意であり、SACDやDVDオーディオのよさも十分味わえる。この音はVRDSメカとPCM1704のなせる業だと、僕は信じて疑わない。
故障→修理→故障→修理→故障→修理→故障……
UX-1は5.1チャンネルのアナログ出力を装備していて、全チャンネルでPCM1704を使用している。フロントLRはそれぞれ2個並列で使っているので、PCM1704を合計8個も使っている。
冒頭に記した右チャンネルレベル低下は、結果としてPCM1704が原因だった。自分で修理をしようと決め事前に色々と調べたところ、PCM1704の故障事例が多いという情報を得た。
右チャンネルの2個のPCM1704のどちらかが故障していると推測し、ひとまず交換しやすいほうをSW(サブウーハー)チャンネルから移植してみると……結果はビンゴ! 見事に直ったのである。もちろん、SWチャンネルは出力されなくなってしまったが、マルチチャンネル再生はほとんどやらないので実質問題ない。
いやあ、直ってよかったと安心したが、そのわずか1カ月後、2017年の年末にこんどは左チャンネルにジリジリとノイズが混じるようになった。
なんだよ! またかよ! 思わず叫んでしまったことを鮮明に憶えている。やれやれと思いながら、左チャンネルの1個をこんどはC(センター)チャンネルから移植したところまたもやすんなりと直ってしまった。これで心安らかに正月を迎えられると胸をなでおろした。
しかし、二度あることは三度ある。1カ月も経たない2017年の大みそかに三度目の悲劇が起きた。
今度は前回とまったく同じ症状(左チャンネルノイズ混じり)だ。実は2回目の修理のあと、UX-1の継続使用のことを考えて、新品のPCM1704を2個ほどeBayで購入した。ご存じの方も多いと思うが、eBayでは生産完了となった貴重なトランジスタやICなどが多く売られていて、僕は古いオーディオ機器の修理のためそれらを何度か購入している。PCM1704は1個4千円くらいしたが、UX-1のためには致し方ない。
海外から届いた新品のチップを使って早速交換作業をおこなった。忘れもしない、それは2018年の元日の朝のこと。Lチャンネルの片方は前回換えたばかりなので、前回換えてないほうを新品チップに交換すると、またもやあっさりと修理は完了した。これで最後にしてね…。そう呟きながらUX-1に両手を合わせて拝む僕であった。
しかし、元日の朝の願いは数時間後についえた。初詣から帰った午後、音像が右に寄っているのに気がついた。もう二の句が継げない。言葉もなく淡々を交換作業をおこなう。ここまで数えるとこれでもう4回目、いや、まだ4回目である。
eBayで購入した2個の新品チップを早々に使い果たした後、ヤフオク! で2個の未使用品をゲットしたり、さらには同時代のAVアンプにPCM1704を10個も搭載した機種があり、そのジャンクをハイファイ堂で購入したりと、一心不乱にPCM1704を集めまくった。
しかし、PCM1704をいくら集めても故障のことが気になって音に没頭できない。修理ばかりして本末転倒の極みだ。もう、UX-1はあきらめよう。マルチビットDACにこだわるのもやめよう。僕はそう決心した……はずであった。
X-01を購入。二朗はDAC交換沼の深淵へ……
しかし、どうしてもUX-1のガッツのある音が忘れられない。最新のプレーヤーで満足できるレベルの機種もあるにはあるが、いずれも高嶺の花を通り越して雲の上の存在だ。思い悩んだ挙句、中古のX-01を購入するに至った。2018年春のことである。
X-01はPCM1704をLR各4個ずつ使用している。音はやはりUX-1と同じ血筋を感じさせるものだが、やんちゃなUX-1に対し、気品ある大人の雰囲気を湛えている。
そして、VRDSメカとマルチビットDACが繰り出すガツンと芯のある強力なサウンドはもちろん健在である。ただ、製造時期や使用時間を考えるとX-01も安心できないが、でも満身創痍のUX-1よりはいいだろう。もうUX-1はあきらめよう。
X-01を中古で購入してから4年が経過し、UX-1との苦闘も忘れかけていた今年の5月、X-01のトラブルも突然やってきた。センター定位するはずのボーカルの音像がわずかに左に寄っている。あの悪夢が僕の脳裏にフラッシュバックする。ああ…。ブルータス、お前もか!
PCM1704というDACチップは音は最高だが壊れやすい。X-01もやはり同じ故障だろう。ここは開き直って、DACチップが手に入る限りは修理して使い続けようと心に決めた。
実は、PCM1704。表面実装型という特殊な形状をしていて端子は20本もあるため、普通のはんだごてを使って取り外すのはかなり難しい。また取り外しを何度も繰り返すと基板のパターンを痛めてしまう。
僕のUX-1もすでにパターンが剥がれかかっている。そこで今回、表面実装型のICを交換するためのスポットヒーターという道具を購入した。
これはスポット的に基板に熱風を吹き付けて、はんだを溶かしてICなどの部品を取り外すための専用工具だ。今回購入したのは廉価(約5千円)な海外製ノンブランド品だが非常に使い勝手がいい。これがあればパターンを痛めることなくDACチップを交換できる。
X-01はヤフオクで落札した2個の未使用品のうち1個を使って修理した。スポットヒーターでこれまでより短時間で交換を終えて、いざ音だし。今回も楽勝かとおもいきや、なんと音が全く出なくなってしまった。
何かしくじったか? はんだ付けを再確認したが問題ない。もう1個のチップに交換してみても状態は全く同じである。これはまずいと焦りながらこのチップを外したところ、レベルは低いままだが元通り音が出るようになった。
ここであることを思い出した。以前どこかで「PCM1704のニセモノが出回っている」という話を聞いたのだ。そこで詳しい方に写真を見せたところ、「本物とはロゴの形が明らかに異なり、ありえない製造ロット番号が印刷されているのでこれはニセモノ」だという。バッグや香水じゃあるまいし、まさかICにもニセモノがあるとは夢にも思わなかった。なんということか!
ニセモノという思わぬ伏兵のせいで手間取ってしまったが、気を取り直してジャンクのAVアンプから取り外したチップを使ってX-01の修理を進めた。結局右チャンネルに使われている4個をすべて交換してなんとか修理完了。X-01は美音を取り戻した。
僕とプレーヤー、どっちが先にくたばるか
修理を終えたX-01を聴きながら、PCM1704のことをいろいろと思いめぐらせた。マルチビット方式にこだわっているのは確かだが選択肢は他にもある。
CDだけならもっと古いプレーヤーのほうがいいと思ったこともある。つまり、SACDとDVDオーディオにこだわらなければPCM1704と決別することもありうるのだ。しかし、もうここまできたのだから長らえていきたい。執着というか愛着というか、ヘンな思慕感情に支配される自分がいる。そして、その思慕感情はリタイアしたUX-1にも向けられることになる。
シアタールーム2階の機材置き場で休眠していたUX-1を引っ張り出して、久しぶりに電源を入れて鳴らしてみたところ、案の定DACが壊れているようで音像が左寄りに再生される。マルチチャンネル出力もDACを移植して歯抜けになっている。なんて憐れなんだ。いまから直してやるからな。心の中でつぶやいた。オーディオ愛に突き動かされ4年ぶりにUX-1の修理を再開した。
まず現状を確認したところ、右チャンネルは2個のDACのうちどちらか1個がNGのようだ。マルチチャンネルはセンターとサブウーハーは移植したためDACがついていない。あと、サラウンドLはNG。サラウンドRは正常だった。これらを手持ちの中古のDACチップをやりくりしながら修理をして、どうにかすべてのチャンネルが鳴るようになった。UX-1も心なしかうれしそうにしている。うん、よかった、よかった。
UX-1が直ったので調子に乗って、SACDやDVDオーディオのマルチチャンネル再生にいまさらチャレンジしてみたり、X-01との音質比較(これも以前やったが)をしてみたりと、浮かれ調子で試聴をしていたら、なんとまたもや右チャンネルからジリジリとノイズが聴こえだした。やれやれ。
UX-1の分解とDACチップ交換はもう手慣れたもので、スポットヒーターの活躍もあって1時間もあれば作業は完了する。こうしてササっと右チャンネルを直したのだが、そのわずか3日後に新たな故障が発生。サラウンドRがノイズを発するようになった。
粛々と交換作業をおこなって修理完了。もうため息さえ出ない。その後、約3週間は順調に鳴っていたが、なんだか低音が寂しいなと思ったらサブウーハーが鳴っていない。こうなるとなんのテライもなく、自然な所作でDACチップを交換する僕であった。そして、、、今に至るのである。
本稿執筆時点でUX-1はすべてのチャンネルが正常に鳴っている。X-01もステレオでは正常であり、1カ月ほど前にマルチチャンネルも正常に鳴ることを確認している。
なお、故障の原因はDACチップの単独劣化と思われるが、これだけ頻発するのは他に原因があるからかもしれない。読者の皆さんはくれぐれも真似をせず、メーカーに修理を依頼して欲しい。
修理用に新たに確保したPCM1704は中古品が3個、新品(本物確認済み)が4個手元にある。たとえこれらが尽きたとしても調達する手段はある。とにもかくにも、僕はUX-1、X-01と限界まで付き合うことにした。はてさて、僕とプレーヤーとどっちが先にくたばるか。命尽きるまで使い続けてやる!!
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