レビュー

B&W最強サウンドバー VS “ガチ”ホームシアター。トップガンで聴き比べ

Bowers & Wilkinsサウンドバー「Panorama 3」

国内でも人気の高いスピーカーメーカーである、イギリスのBowers & Wilkins(B&W)。ハイエンドの800シリーズを筆頭に、700、600シリーズなどの充実したラインナップが揃っている。そうしたHi-Fiスピーカーで培った技術を投入し、Zeppelinのようなワイヤレススピーカーや、薄型テレビと組み合わせるサウンドバーも手掛けている。

そんなサウンドバーの「Panorama 3」(実売11万8,000円前後)は、以前聴いた時にあまりの音の良さに驚かされた製品だ。実売約12万は、サウンドバーとしては高級モデルとなる価格帯だが、この価格帯には、国内外のメーカーが最新の立体音響技術であるDolby Atmosへ対応したモデルを投入する激戦区になっている。

その理由は、やはり複数のスピーカーを部屋に置くことなくサウンドバー単体で完結できる手軽さだ。オーディオ・ビジュアルに興味のある人ならばスピーカーに囲まれた生活も苦ではないどころか楽園であるが、奥様はあまりいい顔をしないかもしれない。

しかし、サウンドバーは便利だけれど、音質が……。というのが、多くの人にとって購入をためらう理由ではないだろうか。最近は映画館もドルビーシネマやIMAXデジタルシアターと、プレミアムな映像と音響を存分に味わえる劇場が増えているし、そんな音を体験してしまったら、サウンドバーの貧弱な音では満足できないと考える人は多いだろう。

「Panorama 3」

だが、そんな人でも満足できる本格的なHi-Fiサウンドを実現しているのがPanorama 3だ。横長のバースピーカー1本なので、信じられないかもしれないが、音は完全に“B&WのHi-Fiサウンド”なのだ。

では、複数のスピーカーを部屋に設置した“ガチなホームシアター”とPanorama 3を聴き比べてみたら、実際どのくらい差があるのだろうか? Panorama 3と、B&W 600シリーズを中心に組んだ5.1.2chシステムを用意。本当に聴き比べてみた。

すべて真円のユニットを使用、B&Wの本気が伝わる作り

「Panorama 3」

B&W Panorama3について概要を紹介しよう。

横幅は1,210mmで55型や65型の薄型テレビの横幅に近い大柄なサイズだ。とはいえ、高さは65mmと低く抑えられており、薄型テレビの手前などに置いても邪魔にならないフォルムだ。

高さは65mmと低く抑えられている

このサイズの筐体の内部に、フロント3ch用として、19mmチタンドーム・ツイーター×3、50mmウォーブン・グラスファイバーコーン・バス/ミッドレンジ×6、イネーブルドスピーカー用としてボディの天面に配置された50mmウォーブン・グラスファイバーコーン・アトモスドライブユニット×2、そしてサブウーファーとして100mmロープロファイル・バスユニット×2が搭載されている。3.1.2ch構成で総数で13個だ。

上から見ると薄っすら透けて見えるユニット。右にあるのが天井反射用のイネーブルドスピーカーだ

スピーカーメーカーらしいこだわりとしては、すべてのドライバーが真円形ユニットということ。一般的なサウンドバーは小さなユニットで振動板の面積を稼ぐために楕円形ユニットを採用することが多い。しかし、楕円形ユニットは大音圧で歪みが発生しやすいなど音質へのデメリットもある。それを嫌ってHi-Fiスピーカーと同様に真円形ユニットを採用している。

しかも筐体は密閉型だ。エンクロージャー容積の小ささや小口径振動板では難しくなる低音域を増強できるバスレフ方式をあえて採用しないのも注目ポイントだ。これを総合出力400Wのパワーアンプで駆動する。再生周波数帯域は43Hz~48kHz。一体型のサウンドバーとしてはかなりの低音再生能力を持つことがわかる。

ネットワークスピーカーとしての機能は、aptX Adaptiveにも対応するBluetooth、Wi-Fi機能を持ち、AirPlay 2でiPhone端末の音楽サービスを楽しむこともできる。スマホ用の「Bowers & Wilkins Music」アプリを使えば、DeezerやTuneInなどの音楽配信サービスやインターネットラジオも使える。

シンプルに徹しているのが配線や基本操作。接続端子はHDMI(eARC)、光デジタル音声入力、ネットワーク端子などとなっていて、基本的には薄型テレビとHDMIケーブル1本で接続するだけ。音量などの操作はテレビ側のリモコンや本体上面にあるタッチパネルで行なうか、スマホの「Bowers & Wilkins Music」アプリでも操作できるのでリモコンも付属しない。ネットワーク設定や基本設定などはスマホアプリで簡単に行なえるが、いわゆるサウンドバーにある、サラウンド再生のオン/オフとか、音質モードの切り替えなどもない。

背面端子部

これは誰でも簡単に使えるようにする考え方で、テレビの電源を入れれば連動して電源がオンになるし、サラウンド再生も入力された信号に応じて、ステレオ音声ならばステレオ再生に近い音場で再現するし、5.1chや7.1chならばドルビーサラウンド機能でアップミックスし、Dolby AtmosならばそのままAtmos再生になるという具合。もちろん、それぞれの音声信号において最適な再生となるようにチューニングされている。

そのため、Atmos対応となる本格的なサウンドバーでは多くが採用している自動音場補正機能もない。設計段階で最適な音場が再現できるように調整済みだという。だから、マイクをつないで音響特性を測定する必要などはなく、テレビの前のスペースに置いて、テレビのほぼ正面に座ればそれでOKなのだ。ここまで大胆にシンプルな使い勝手を追求しているので、使い方に困るようなことはほとんどないだろう。

設定や使い勝手がシンプルなだけでなく、そもそもバースピーカー1本で完結しているので、テレビ周りがゴチャゴチャしないという利点もある

「トップガン:マーヴェリック」で、Panorama 3 VS B&W 600シリーズ

試聴リビングルームを再現した部屋に、Panorama 3とB&W 600シリーズを設置して音をチェック。さらに、本格的な試聴室でも厳密に聴き比べた。テレビは65型で、ソースはOPPOのUHD BDプレーヤーで、テレビとHDMI接続。Panorama 3はHDMI(eARC)で接続し、電源を接続しただけで、セッティングも簡単だ。

リビングルーム風の部屋にPanorama 3とB&W 600シリーズを設置

B&W 600シリーズを中心としたシステムは、フロントが「603 S2アニバーサリーエディション(以下AE)」、センタースピーカーが「HTM6 S2 AE」、サラウンドが「606 S2 AE」、サブウーファがB&W「DB4S」、イネーブルドスピーカーとしてPolk Audioの「Monitor XT90」、AVアンプがマランツ「CINEMA 70s」だ。

エントリークラスのシステムだが、総額60万を超える。薄型テレビやBDプレーヤーを入れれば100万円を超えるだろう。600シリーズもエントリーとはいえ評価の高いスピーカーだし、最新のS2 AEとなることで上級機の技術も受け継いでさらに洗練された音になっている。

価格差はもちろんだが、サウンドバーでこのシステムと対決するというのは無謀にも感じる。

まずはPanorama 3から聴いてみた。

冒頭のタイトルバックや空母での離発着シーンから。「トップガン・アンセム」がしっかりと豊かに鳴るし、タイトルが出るときのドーンと鳴る音楽も力強い再現。比較試聴のため、600シリーズも設置しているので、うっかりしていると600シリーズの方が鳴っているのかと思うくらい堂々とした鳴り方だ。

海上に浮かぶ空母の離発着は、空間も広々としているし、戦闘機のジェットエンジンの音も力強く響く。カタパルトで一気に加速して飛び立っていくときの移動感も実にスムーズ。聴いただけで心が躍る「デンジャーゾーン」もリズムも力強く響くし、音場の広がりは65型の画面よりもスケールが大きいと感じるほど。実験機によるマッハ10での飛行試験では、離陸時に土埃を巻き上げながら画面の奥から飛び立っていくときのエンジン音や遅れてやってくる風の前後の移動感も十分で、飛び去った後の真後ろの音はやや不足するが、音が頭の上を抜けていく感じはある。

改めて驚くのは、これが自動音場補正などを行なっていないこと。薄型テレビの前に設置しただけだが、それでここまで立体感のあるサラウンド空間が再現できてしまうのだ。

若いパイロットたちとの訓練シーンや、結束を高めるために砂浜でトップガン式のビーチ・フットボールをする場面を見ると、飛び交う戦闘機の移動感やコクピットを映した視点でのパイロットたちの声の質感、特に急旋回などで息が詰まる感じも実に生々しい音で再現する。

そして、楽しげなフットボールの画面ではパイロットたちのにぎやかな声が周囲に定位する一方で、音楽も自然な広がりで再現される。試しに音量をかなり下げてみたが、声が痩せてしまったり、音場が萎んでしまうようなこともなく、サウンドバーにありがちな大音量では元気よく鳴るが、音量を絞ると音がひ弱になってしまうようなことがない。

リビングルームだけでなく、本格的な試聴室でも聴き比べた

このあたりは、僕自身も単品のスピーカーで組んだシステムとサウンドバーの大きな違いのひとつと感じていて、サウンドバーはそれなりの音量でないと良さが出ないが、単品スピーカーによるシステムだと、音量を絞ったときでもいい感じの再生が楽しめる。これが微小音の再現性の高さの一例だし、オーディオ的には音量的なダイナミックレンジが広いという言い方になる。

例えば、訓練で9Gを超えるような急上昇を行なう場面での、パイロットの息づかいや機体が軋むような音が小さな音までリアルな感触できちんと聴き取れる。こういう音圧の変化がしっかりと表現できるので、空戦シーンの迫力も増すし、訓練時の弛んだ気配のパイロットの声と、本当にミサイルに追尾されているときの緊迫した声のニュアンスの違いもはっきりと出て、映画の臨場感が増す。これが、Panorama 3を“B&WのHiFiスピーカーと同じ音がする”と感じた理由のひとつだ。

もちろん、音色もニュートラルで、エンジンをふかす音や風切り音などを聴いても低音だけが膨らんだ迫力重視の音にはならない。実は『トップガン:マーヴェリック』の音は後半の実戦での銃撃音や爆発音の音だけが爆音というわけではなく、エンジンをふかした時の音や機体が間近に迫って飛び去っていくときの音の塊のような感覚が迫力たっぷりだ。だから、特定の低音域だけを盛り上げたバランスの音だと案外迫力が伝わらないし、声や警告音のような中高域の音が痩せた感じになりやすい。

Panorama 3はその点でも実にストレートな再現で、声や警告音もエネルギーに満ちあふれているし、中低音域のすべてが力強く、風のうなるような音やずっと持続するエンジンの燃焼音も途中で息切れするような感じもなく力強く鳴り続ける。このあたりの底力のある音は、他のサウンドバーではなかなか味わえないものだ。

Panorama 3と比べると、一般的なサウンドバーが、中低音を盛り上げた映画的な音のバランスで、しかもダイナミックレンジを圧縮して音圧感で迫力を感じさせる鳴り方をしているとよくわかる。こうした音でも迫力は出るが、どかんどかんとやかましいだけの音になりがちで、音量を下げると音が痩せて物足りなくなる。

しかし、Panorama 3は質の高いスピーカーユニットを入念に設計した場所に配置し、ただの大出力だけではない質の高いアンプで駆動するといった、まさしく基本に忠実な音づくりで仕上げていると感じる。

例えば、最新のサウンドバーなら、高度なデジタル信号処理で音量による聴こえ方の変化にも最適化する技術や、スピーカーユニット単体では物理的に出ない音域まで人間の聴感特性を利用した周波数特性の調整で“低音感”を増やすなど、さまざまな技術が採用された機種もある。こちらもうまく仕上がっていれば、電気的な補正や最適化を感じさせない音が楽しめるが、真っ正面からスピーカーユニットや配置などの設計、アンプの質にこだわったPanorama 3とは大きな違いが出る。

はっきり言えるのは、余計なデジタル制御を行なわないので、Panorama 3は音の鮮度が高い。さまざまな回路で補正すれば、そのぶん音は“鈍っていく”。シンプル・イズ・ベストの音作りが染みついているとわかる。だから、Panorama 3を聴いていると「B&Wはやっぱりスピーカー屋なんだな」と感じる。

B&W 600シリーズで組んだホームシアターを聴く。どれだけの違いがあるのか?

B&W 600シリーズを中心としたシステムで聴いてみよう。価格差はもちろんだし、誰でも5.1.2ch構成の本格システムの方が優れていると考えるだろうし、その差は歴然と思うはず。それは当然のことではあるが、問題はどのような違いがあるかだ。

こちらもBDプレーヤーの信号はまず薄型テレビに接続し、薄型テレビとAVアンプのマランツ「CINEMA 70s」をHDMI(eARC)で接続している。スピーカーの設置や配線などを別にすれば使い勝手としてはPanorama 3とほぼ同等だ。

条件を揃えるため、同じユーザーが自宅でPanorama 3とB&W 600シリーズ中心のシステムを自分で設置や設定を行なった想定としている。簡単に言えば、600シリーズのスピーカー選択や配置は教科書通りのオーソドックスなものとし、部屋に合わせた微調整などもせず位置と距離と音量を揃えただけだ。

冒頭のシーンや訓練シーンなどを聴くと、はっきりとわかるのは、ジェットエンジンの音などで低音のローエンドの伸びが良いと感じること。これはさすがにサブウーファの低音の方が力がある。もうひとつは、真後ろの音。Panorama 3も音は自分の居る位置くらいまで移動する感じはあるし、高さ方向の音も頭上までは再現できる。しかし、飛び去った敵機の音など真後ろになると音として聞こえていても定位は曖昧だし実体感は薄れる。これは前方だけのサウンドバーでは仕方のないところだ。先ほど絶賛したダイナミックレンジの広さは600シリーズの方がわずかに上で、ここはさすがに質的な差を感じた部分。

一方で、音質的には思ったよりも差がないと感じる。どちらもB&Wだから音の傾向は近いし、セリフなどの声の質感や抑揚感、音楽の包囲感や個々の楽器の音の粒立ちなども思ったほどの差はない。

むしろ、600シリーズを聴いていると、あれこれと微調整をしたくなる。僕は一般的なサイズの部屋ではセンタースピーカーは不要だと考えているので、まずセンタースピーカーの位置が低いと感じる。声の定位が低いので画面の下から聴こえてくる感じになる。さらに言うと、フロントスピーカーがトールボーイで、サラウンドがブックシェルフだと、音は中高音しかつながらないので、低音だけ前に置き去りになる。

どういうことかと言えば、『トップガン:マーヴェリック』の場合、目の前から迫る戦闘機はジェットエンジンの音が轟いているのに、自分の位置を過ぎるとエンジンのない“グライダー”に変わってしまう感じだ。当然、背後から迫ってきても迫力も怖さもない。

Panorama 3はチャンネル間のつながりが良く、移動感などもスムーズ。真後ろの音は出なくても、耳元まで迫る音は質的に変化しないので、それほど物足りなさは感じない。センターの音だけ下から聞こえるなんてことも物理的に発生しない。サラウンド感の再現としてはPanorama 3はとてもよく出来ている。本格的な5.1.2chのシステムだとこういうことが気になってくる。

フロントがトールボーイで、サラウンドがブックシェルフだと、前後でやはり描写は違う

もちろん、本格的な5.1.2ch環境でも、きちんと対策・調整すればチャンネル間のつながりも良くなるし、音楽は画面から聴こえてくるのにセリフだけ画面の下で鳴っていることも解消できる。

しかし、これが難しいところで、センタースピーカーの位置の調整はなかなか大変で、ブロックやインシュレーターで高さを合わせれば見た目があまりよろしくないから、下手をすれば最適な高さのスタンドを特注することになる。

リアスピーカーとフロントと同じものにすれば費用も高くなる。スピーカー位置にこだわれば生活空間への影響も大きくなるので、専用の部屋でなけば、あまりスピーカーの位置は動かせない。自動音場補正などの電気的な補正に頼れば、音の鮮度は下がっていく……。という具合に、ポテンシャルの高さだけで言えば圧倒的な差があるはずだが、それを実現するのはいろいろと大変なのだ(その苦労がAV趣味の醍醐味とも言えるが)。

クライマックスの敵地への侵入や攻撃、その後の第5世代戦闘機との戦いでも、たしかにミサイルの爆発音はより力強いし、飛び回る戦闘機やミサイルの移動感も真後ろも含めて自在に飛び回る。細かいことは気になるが5.1.2chの単品スピーカーによるシステムの方が「伸びしろ」はある。

「初心者なら、細かい違和感は気にならない」と言われるかもしれないが、そうではない。初心者でも映画館には行くし、『トップガン:マーヴェリック』ほどの人気作ならIMAXシアターで見た人も多いだろう。そういう人は、家で鑑賞した時に「映画館で見た時と違う」と感じるはずだ。

「そういう差は気にしない」という人には、そもそも5.1.2chシステムは必要ないだろう。Panorama 3でも質的に大きな差はなく、誰でも容易に設置でき、簡単に使えて満足度が高いのならば、その方が良いのではないか。

言い方を変えよう。Panorama 3と5.1.2chシステムを聴き比べると、Panorama 3では真後ろの音の再現が物足りないと感じ、サブウーファも追加したくなるのは確かだ。

では、Panorama 3よりも、600シリーズの5.1.2chシステムにした方が良いかと言われると、僕はオススメしない。両者の音質的な差がそれほど大きくないので、グレードアップしても物足りなさを感じてしまうからだ。

大雑把に言えば、700シリーズを中心にしたシステムでしっかりと調整をすれば、「Panorama 3から買い換えて良かった」と実感できるものになるだろう。興味のある人は、その時の総額を計算してみるといい。

HiFiスピーカーと比べて音質でがっかりしないサウンドバーの価値

Panorama 3はそのくらい優秀なサウンドバーなのだ。こうして聴き比べてみて、まさか600シリーズを中心としたシステムと、質的に大きな差がないと感じるとは、我ながら驚いた。

ちなみに、今回の取材ではリビングルームと試聴室にシステムをまるごと移動したのだが、Panorama 3は本体1つだけを持っていけばOKなのに対し、5.1.2chシステムはスピーカーが合計8台、そしてAVアンプを台車で運んで、再び距離や位置を測って設置……と、たいへんな手間だった。

こうした使い勝手の差を考えると「サウンドバーでいいじゃん」と言いたくもなる。そう言いたくなるような音の良いサウンドバーが今までなかったのだ。

僕はPanorama 3を聴いた事で“サウンドバーへの認識”を改め、その後、より高価なサウンドバーもいろいろと聴いてみたが、Panorama 3のような“正統派のHi-Fiサウンドのサウンドバー”は他にはなかった。

もちろん、どのモデルも優秀で、サラウンドシステムとして見た場合にはより優秀なものもある。しかし、肝心の音質はいわゆる“サウンドバー的”であり、Hi-Fiスピーカーと比べると質的な差が気になることが多かった。

だから、どんどん機材を買い増していくオーディオマニアやAVマニアではない人が、リビングで映画も音楽も、なるべく質の高い音で、手軽に楽しみたい時に、Panorama 3はまさにおすすめの製品だ。使い方も簡単なので、家族みんながその“良さ”を楽しめる。そう考えると、決して高価な製品ではない。

また、オーディオにこだわりを持っていて、すでに立派なスピーカーやアンプを持っている人も、「映像コンテンツにはまったく興味がない」という人はいないだろう。

そんな人が、映像コンテンツも良い音で楽しみたいと考えた時の、選択肢は2つある。ステレオシステムを拡張する形で、AVアンプやサラウンドスピーカー、サブウーファを追加するプラン。これは王道だが、道は険しい。音楽と映画どちらを取る? と言われて音楽を選ぶ人ならサウンドバーの追加は妥当な選択肢だ。

だが、過去にこれで成功した人はあまり多くなかった。結局王道に行くか、妥協するならテレビの内蔵スピーカーでいいとなる。最近は音のいい薄型テレビも多いので、そうなる人は少なくない。

その理由は、今までのサウンドバーが質的にHi-Fiスピーカーとは差がありすぎて、両者の併用では音質的な差が気になってしまうためだ。例えば、Dolby Atmos音源なのに、ステレオ音声にダウンミックスしてステレオ用システムで聴いた方が「音がいい」みたいな、おかしな結論にたどり着いてしまうこともある。

しかし、Panorama 3は“Hi-Fiスピーカーとの質的な差”が極めて少ない。控えめに言っても、サラウンド再生ならば600シリーズのシステムに迫るくらいの実力がある。ならば、「606 S2AE」によるステレオ再生システムとPanorama 3によるサラウンド再生システムの同居で、質的な差が気になるストレスもなく、映画も音楽もどちらも満足できるのではないだろうか。システム総額でも決して高価すぎることもなく、十分に現実的だ。これは我ながら良いアイデアだと思ったし、そんなことを思いつける“Hi-Fiサウンドバー”がようやく登場したからこその新しい選択肢だと思う。

おそらくB&Wは、音楽だろうと映画だろうと、シンプルに自分たちの追求する高音質を目指してPanorama 3を作ったのだろう。その結果、音にこだわりのある人にとって、待望のサウンドバーが完成したと言えるかもしれない。

リビングで映画を良い音で楽しめる、手軽なシステムを探している人に一番のおすすめなのは変わらないが、ステレオ再生に真剣に取り組んでいる人にも、ぜひ注目してほしい。音にこだわる人こそ、Panorama 3の良さがよくわかるはずだ。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。