レビュー

サウンドバー初心者が10万超のB&W「Panorama 3」聴いたら驚いた

Bowers & Wilkinsのサウンドバー「Panorama 3」

昨年、ひょんなことから48型の4K有機ELテレビを購入。ゲーム用として買ったのだが、これだけの大画面が部屋にあると映画やドラマを楽しむ事も増えた。そうなると不満を感じてくるのが“テレビ内蔵スピーカーの音の貧弱さ”だ。AVアンプやスピーカーを買いたいが、置き場所や予算はあまりない。そこで、10万円以下のサウンドバー導入を決意し、デノン「DHT-S217」と、Sonos「Beam(Gen2)」、BOSE「Smart Soundbar 600」の3機種を聴き比べた。詳細は以前記事に掲載した通りだが、約6万円のBeam(Gen2)を購入した。

それから2カ月。「サウンドバーを買うだけでこんなに音がリッチになるんだ」とおうちエンタメライフを過ごしていたのだが、同時に「10万円以下のサウンドバーでこの音が得られるなら、もっと上のサウンドバーは、どんな音なのだろう?」と興味が湧いてきた。

というのも、10万円台のサウンドバーは国内外のメーカーがしのぎを削る“熱い激戦区”になっていて、かなり高音質なモデルが揃っていると聞いたからだ。これはぜひ聴いてみたい。

中でも気になったのは、英Bowers & Wilkins(B&W)のサウンドバー「Panorama3」(実売12万円前後)だ。自宅にピュアオーディオのスピーカーを持っていない筆者にとって、B&Wのスピーカーは「いつか使ってみたいが手が出ない」ものだった。しかし、サウンドバーであれば価格の面でも、設置場所の面でも、手が届きやすい。

オーディオ評論家の鳥居一豊氏を講師に招き、Panorama 3の強みを伺った

だが実際、どんな製品なのか? 自分が聴いてきたサウンドバーとどんな点に注意して聴き比べたらいいか? わからない事も多い。そこで、以前AV WatchでPanorama 3のレビューも書いてくれた「良作×良品」でお馴染み、鳥居一豊氏に助けてもらう事にした。

スペックをおさらい

Panorama 3は2022年5月下旬から発売されている、Dolby Atmos対応サウンドバーだ。発売当初は159,500円だったが、現在はAmazonの販売価格で116,600円と、比較的手が届きやすい価格になっている。

厚さ65mmと薄型のサウンドバー
本体上面中央にタッチ式操作ボタン。手をかざすとボタンが浮かび上がる

10万円を超えるサウンドバーと言うと、なんか凄いモノを想像していたのだが、実物を前にすると、外形寸法1,210×65×140mm(幅×奥行き×高さ)で、薄さが65mmとかなりスリムな印象。だが重さは6.5kgあり、触れて、持ち上げてみると、筐体の“強固さ”と“中にギッシリ詰まっている感”に驚く。確かに高級機という雰囲気だ。

個人的にグッとくるのは、開発したのがB&Wのハイエンドスピーカー「800 Series Diamond」を手掛ける音響エンジニアリングチームという話。この時点で、音への期待が高まる。

幅は1,210mmでかなり大きめ
重さは6.5kgで、持ち上げると“ぎっしり詰まっている”感がある

このスリムボディに、13基の独立したドライバーユニットが3.1.2ch構成で内蔵されている。前面だけでなく、天面に上向きにサウンドを放射する50mm径のDolby Atmosイネーブルドスピーカーも2基、搭載している。上から見ると、丸いユニットが透けて見えている。

鳥居氏から「Panorama 3」のレクチャーを受けながら、音を聴いてみた

鳥居氏は、この「丸いユニット」が注目だという。「“サウンドバーの基本”からすれば、Panorama 3はそれとまったく違う作りをしています。どちらかといえばHi-Fiアクティブスピーカーの作り方をしていて、そういう意味で“尖っている”製品です」

「Panorama 3」は真円のユニットを使っている
Hi-Fiスピーカーもユニットは真円

「例えばソニーやゼンハイザー、デビアレとも違う、“ガチの”ピュアオーディオな作り方です。象徴的なのは、使っているユニットがすべて真円形だということ。他社のサウンドバーは大抵、面積を稼ぐために楕円形のユニットを使いますが、Hi-Fiスピーカーで楕円形のユニットは使われませんよね。なぜなら楕円形ユニットは極端に言えば“音が悪い”んです」

「楕円形ユニットは、限られたスペースで面積を稼げるので効率は良いですが、振幅が大きくなってくると、楕円形では分割振動が増え、振動板を制御しきれなくなり、大音圧になると歪みが出てしまうんです。それを嫌って、このPanorama3ではすべて真円型のユニットが使われています」

フロントL/R、センターチャンネル用の50mm径グラスファイバー・ミッドレンジ×2、エンクロージャーから完全にデカップリングされた19mm径チタンドーム・ツイーター、そして2基の100mm径サブウーファー。これら全てが真円型なのだそうだ。

また、鳥居氏は「このサウンドバー、側面に穴が空いてないですよね」と言う。確かに、横から見ても穴が無い。

「大抵のサウンドバーにはバスレフポートという“筒”が用意されています。この筒を音が通ると、特定の低音域が増強されて、低音の音圧が上がり、より迫力ある音を楽しめます。しかし、Panorama 3はバスレフポートを使わない密閉型です。ピュアなスピーカーでも、クラスによってはバスレフポートをつけてチューニングしていますが、Panorama 3は完全密閉型で、どこからも空気が漏れないようになっています」

「バスレフポート式と比べると、密閉型はローエンドの伸びが良いという利点がある。ただしアンプに、しっかり鳴らせるだけのパワーが求められます。その点、AVアンプと違い、サウンドバーは“メーカーが求める駆動力を備えたアンプ”を最初から内蔵できるという強みがあります」

実際、Panorama 3には、13基のユニットを駆動するために、計400Wの出力を持つ高効率なクラスDアンプが搭載されている。そして、背面端子部にサブウーファー出力端子は無く、外付けサブウーファーも用意されていない。“高級機は別体のサブウーファーがセットになっている”というイメージがあったが、「Panorama 3はサウンドバーだけで低音が出せるから、そんなものは必要ない」というB&Wの自信の現れというわけだ。

「B&Wが他と違うやり方をする理由を一言で言えば、“そのほうが音が良いから”。音の良いやり方を選んだ結果が、真円ユニットと密閉型、という形なんです」

さらに、Panorama 3の“尖りっぷり”を示すポイントとして、この価格帯のサウンドバーでは定番と言える自動音場補正機能も無い。鳥居氏は「テレビの前にポンと置いて、その前に座ってくれれば、“ちゃんとサラウンド感が出るように作っている”というB&Wの姿勢の表れ」と語る。

筆者が購入したBeam(Gen2)にも音場補正機能が用意されており、そこを魅力に感じたのだが、Panorama 3の場合は、ピュアオーディオスピーカーの作り方を踏襲した結果、そうした設定も必要なく、本当にケーブルを繋いでテレビの前に置けばOK、サウンドバーとして極限までシンプルで分かりやすくなっているわけだ。

「トップガン マーヴェリック」「THE BATMAN」で聴き比べ

音場補正機能などはなく、テレビの前に置けば準備は完了。あとは観たいものを再生するだけ

Panorama 3を使って「トップガン マーヴェリック」を観たのだが、まずオープニングの時点で、Panorama 3の音場の広さに衝撃を覚えた。テレビの前に置かれたサウンドバーから音が出ているはずなのだが、体感としてはテレビ画面を超えて、さらにその外から音が聴こえる。左右だけでなく、上下にも広く、画面を超えて上の方にも音が広がる。

流れる「Top Gun Anthem」のベース音と、戦闘機のエンジン音や離陸音がしっかりと描き分けられている。サブウーファーが無くても、低音の迫力も十分だ。

そして低音が強く響く中でも、音の解像感は高いまま。超音速機・ダークスターが離陸する場面では、ジェットエンジンの轟音と同時に、その風圧で砂が「サラサラッ」と舞っている様子が聴き取れる。Beam(Gen2)でも砂が舞う音はするのだが、細かさが足らず、「パラパラッ」と大きめの粒が舞っているような音になる。

Panorama 3の実力をフルに聴くべく、試聴室に移動

もっと音量を上げて、Panorama 3の実力をフルに聴きたいので試聴室に移動。ダークスターがスクラムジェットに切り替えてマッハ10を目指すシーンを聴いてみると、マッハ9から10までジワジワと速度が上がると同時に「ゴォーッ!」と轟音を奏でるエンジンが、パワーを絞り出すように少しずつ吹き上がっていく様子、風を切る機体がガタガタと揺れる音が明確に描かれる。

Panorama 3と他社のサウンドバーとの違いとして、鳥居氏はダイナミックレンジの広さも挙げる。

「他社のサウンドバーは、ダイナミックレンジにコンプレッションをかけているものがほとんどです。こうすると平均音圧が上がるので、夜間など音量を上げにくい状況でも迫力ある音に感じられます。しかし、例えば映画で無音のところから、ドカンと大きい音が出るようなシーンで、すぐに音が“天井”にあたってしまい、本来突き抜けるべき音が頭打ちして聴こえなくなってしまうんです」

「Panorama 3も多少はコンプレッションをかけている印象ですが、それでも他と比べればダイナミックレンジは広く感じられるはず。それが分かりやすいのが、ダークスターの場面です。マッハ10を目指す途中でスクラムジェットを使いますが、その時点でエンジンは全開。そこから“もうひと押し、もうひと押し”とやって、マッハ10に到達します。しかし、ダイナミックレンジが狭いサウンドバーだと、マッハ10よりも前のシーンで音が天井を打ってしまうので、マッハ10まで吹き上がっていく最後の迫力を味わえません」

確かに、この“最後の一絞り感”は、低価格なサウンドバーでは味わえなかった迫力だ。

「基本的な音がしっかりしているので、こういった本来ならAVアンプを使わないと味わえない音が、Panorama 3なら聴けるんです」

「THE BATMAN-ザ・バットマン-」のカーチェイスシーン。激しく雨が降っていることを音でも認識できる

アクション映画のカーチェイスシーンとして、「THE BATMAN-ザ・バットマン-」から、バットモービルのカーチェイスシーンも再生してみる。本作のバットモービルは、アメリカンなマッスルカーを思わせるデザインで、エンジン音も野太く鋭い。その重厚な迫力が低域たっぷりに再生される。

こちらでも驚かされたのが音の解像感の高さ。このカーチェイスシーンでは雨が降っており、野太いエンジン音が響く場面でも雨粒がフロントガラスを叩く音、水たまりを走るタイヤが水を巻き上げる音から、雨が降っていることを耳からも認識できて、より作品に没入できる。これも低価格なサウンドバーでは、味わえなかった体験だ。

せっかくならと、櫻坂46のライブBlu-ray「1st YEAR ANNIVERSARY LIVE ~ with Graduation Ceremony~」も視聴した。パフォーマンス1曲目となる「BAN」は激しいダンスが特徴の楽曲だが、各メンバーの歌声がしっかりと聴こえ、「このパートは、あの子とあの子が歌っているんだな」という微妙な歌声の違いさえも認識できる。それでいて、会場の武道館に音が響いている雰囲気までしっかりと再現されていた。

また印象的だったのは、低域のタイトさ。Beam(Gen2)の低域には迫力があり、そこも購入の決め手だったのだが、Panorama 3のズシンと身体の芯に響くような鋭い低域と比べると、Beam(Gen2)は少し輪郭がボヤけたサウンドに思える。

同程度の音量で聴き比べると、迫力という点ではBeam(Gen2)のほうに分があるように感じられたが、Panorama 3もほんの少し音量を上げたり、アプリのイコライザーで、少し低音を持ち上げれば、Beam(Gen2)に匹敵する迫力ある低域を味わえた。

Panorama 3の低域について、鳥居氏は「サウンドバーとしてはかなりタイトです」と解説する。

「量販店でパッと聴くだけだと、他社製品のほうが迫力あるように聴こえてしまいますが、例えば『トップガン マーヴェリック』は、エンジン音だけでなく、風切り音や機体のビビリ音などの細かい音も含めて、あの臨場感、緊迫感を演出しているので、そういった細かい音もしっかり再生できるPanorama 3は、迫力で誤魔化さず、“正しい音”になっていると思います」

「Panorama 3はサウンドバーとしては異端児ですが、ピュアオーディオの目線で言えば自然な存在です。ピュアオーディオを楽しんでいる人は、こういう音で普段から映画を楽しんでいます」

アプリ「Bowers & Wilkins Music」から高音と低音の調整などが可能

前述の通り、セッティングはHDMIケーブルと電源ケーブルを挿すだけ。アプリ「Bowers & Wilkins Music」を使うと、高音と低音の調整(-6dB~+6dB)、テレビリモコンを使って音量を調整できるようにするリモコン学習機能が使えるが、例えば「サウンドモードの切り替え」とか「セリフ強調機能」などは無い。

一見不便に聞こえるが、例えばAV機器の操作に不慣れな家族が、間違ったモードで映画を再生して、音が変になる事もない。このシンプルさは、サウンドバーとして逆に親切だとも感じる。

また、AirPlay 2とBluetooth受信に対応し、Spotify ConnectやAmazon Music(Alexa Cast)にも対応している。スピーカーとして自然な音なので、音楽を楽しむスピーカーとして、テレビを使わない時にも活躍しそうだ。

“置くだけでOK”なシンプルさとB&Wの高音質を両立したサウンドバー

筆者にとって初めての10万円超サウンドバーとなったPanorama 3のサウンドは、細かな音も忠実に再現する解像感の高さ、それでいて迫力も両立している低域の力強さ、そして細かな設定不要の扱いやすさと、新鮮な驚きばかりだった。

なにより、オーディオ好きなら一度は目にしているであろう“ちょんまげ”こと、「トゥイーター・オン・トップ」でおなじみのB&Wのサウンドを、手軽に楽しめるという点は、所有欲をくすぐられるポイントでもある。

価格についても、実売11万円前後と発売当初と比べると頑張れば手の届く価格帯までこなれてきている。スペックだけを見比べると、自動音場補正機能やジャンルに合わせたモードがない点はマイナスに見えてしまいがちだが、実際に使ってみるとそういった機能がなくても十分すぎるサウンドを楽しめた。初めての1台はもちろん、筆者のように5万円前後のモデルからステップアップするには、最適な1台だ。

最後に鳥居氏に、サウンドバーを量販店で試聴比較するときのポイントについて聞いてみた。

「サウンドバーも結局はスピーカー。今は音楽配信に対応したモデルも多いので、映画ではなく、普通に音楽を聴いてみて、良い音だったものを選ぶのもアリです。迫力重視の音作りもあり、映画だと誤魔化されてしまいがちですが、クラシックのオーケストラなどを聴いてみると、スピーカーとしての実力が分かりやすいはずです」

「Hi-Fiの定義である“入ってきた信号をそのまま出力する”という点は、音楽でも映画でも一緒です。そこに力を入れていて、一番こだわっているのはPanorama 3だと思います」

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

酒井隆文