レビュー

“学生でも買える”スピーカーPolk Audio「R200」×4台で“4chサラウンド”やってみた

Polk Audio Reserveシリーズ「R200」(ペア103,400円)

その音の良さ、コストパフォーマンスの高さで人気うなぎ登りの米Polk Audio(ポークオーディオ)のスピーカー群。とくに注目を集めているのが、わが国での最上位ラインに位置づけられるReserveシリーズだ。

最上位ラインといっても、Reserveシリーズの中核を成すブックシェルフ型2ウェイ機「R200」がペアで約10万円と、手の届きやすい価格に抑えられている。個人的にはこの価格帯の「ナンバーワン・ベストバイ・スピーカーはコレだ」と考えている。

なんてことをAV Watchの山崎編集長と話していたら「ヤマモトさん、手頃な価格のR200を4本使って4.0chサラウンド再生してみませんか? センタースピーカーとサブウーファーがなくても、立体音響の面白さが味わえると思うんです」との申し出が。

「うん、それは面白そう」と快諾したのだが、この世界で何年もメシを食ってきて、超高額なサラウンド・システムを組んでいるぼくがそのインプレッションを書いても、いま一つ説得力がないんじゃ? という気も。そこで「本格的なサラウンド再生をこれまで体験したことがない人と一緒に視聴体験できないかな」と編集長に伝えると……。

「あ、適役がいます。ちょうど編集部の若手・酒井が家にサウンドバーを買ったばかりなんです。彼と一緒に体験会やりましょう」ということで、D&Mのシアタールームにみんなで集合した。

試聴室には、鉄製スタンドに載せられたR200(ペア103,400円)の他に、同じReserveシリーズのフロアスタンディング型「R500」(1台77,000円)も用意してもらった。というのも、R200を4台買うと約20万円、R500を2台買うと約16万円と、あまり価格差がないので、その比較もしてみたいのだ。

R500
左がR500、右がR200

4chは後にして、まず2ch再生でR200とR500を酒井さんに体験してもらおう。比較試聴することで、オーディオの面白さに気づいてもらおうというわけである。再生するのはマランツの最新AVアンプ「CINEMA 40」、プレーヤーはOPPO「UDP-205」だ。

マランツの最新AVアンプ「CINEMA 40」

やや緊張気味の酒井さんに、L/Rスピーカーを結んだ線を底辺とした正三角形の頂点の位置に椅子を置いて、そこに座ってもらうことにした。この場所で聴くことが「ステレオ再生のお作法」その1となる。

L/Rスピーカーを結んだ線を底辺とした正三角形の頂点ので聴くのがベストだ

R200は、16.5cmウーファーと高域エネルギーの拡散性を改善するウェーブガイドを備えたリングラジエーター型ツイーターを組み合わせた2ウェイ機。一般的なドーム型は超高域(一般的な25mmタイプでは30kHz近辺)で頭頂部と周辺部が逆相駆動となってノッチフィルター的な減衰を示すが(形状効果と呼ぶ)、リング型は超高域までフラットなレスポンスを示すのが大きな特長だ。

R200のウーファー振動板(ポリプロピレンに発泡剤を加えた素材)表面は流線型のタービン形状が採られている。この工夫によって質量を増やすことなく、剛性と内部損失を高めることに成功している。内部損失が大きいとはすなわち、振動板素材の固有音が少ないということだ。

ウーファーの表面に注目。タービン形状になっている

バスレフポートの工夫も見逃せない。本機のリアポートには、同社のパテントである“X-Port”が採用されている。これは不要なポート共振を排除するために調整されたパイプ型のアブソーバー(振動減衰器)を指す。緻密に設計されたポート形状によって空気の流れをいっそうスムーズにして、ポートノイズを抑えるとともに、一般的なバスレフポートに比べて低音域をより深く、より高い音圧レベルで放射できるというわけである。

バスレフポートは独自のX-Port

まずは2ch再生。ぼくが持参したCD『ア・トリビュート・トゥ・ジョニ・ミッチェル』からプリンスの名演が聴ける「ア・ケイス・オブ・ユー」を再生した後、CINEMA 40のネットワーク機能HEOSを用いて、酒井さんの愛聴曲「LiSA/炎 - From THE FIRST TAKE」をAmazon Music UnlimitedのFLAC(96kHz/24bit)ファイルで聴いてもらった。

「このスピーカーは初めて聴いたのですが、音像定位がとてもシャープで眼前にヴォーカルがピタリと定位することに驚きました。また、ヴォーカルの後方に伴奏する楽器がワイドに広がっていくことも経験したことのない面白さでした」と酒井さんは言う。

そう、「ステレオ再生のお作法」その1のスウィートスポットに座って聴くと、ヴォーカルやメインのソロ楽器が、L/Rスピーカーを結んだ線の中央の虚空にポッカリと浮かび上がると同時に、幅と高さと奥行を伴ったワイドなサウンドステージが出現する。

もちろんそのように正しく録音され、ミキシングされた作品ならば……ということになるが、スピーカーのないところから音が聴こえてくる、これこそが「ステレオ再生の醍醐味」なのである。

ふだんサウンドバーをお使いになっている酒井さんが、何も説明せずともこの面白さに気づいてくれたことがぼくはうれしかった。

「サウンドバーで2チャンネル音源を再生すると、ドライバーユニット近傍に音像が張り付いてしまうんですよね。こんなふうに音がワイドに広がらないのです」と酒井さん。

R200の音のインプレッションを筆者なりに補足しておこう。このスピーカーの美点として、個々の楽器やヴォーカルの音像が厚く張り出してきて聴き応えがあることが挙げられる。また音色がきわめて豊かで、ピアノや弦楽器などのアコースティック楽器がふっくらと柔らかく、聴き心地がとてもよい。ペア10万円前後で、こんな品位の高い音を聴かせてくれるスピーカーは珍しい。

次に同じ場所にR500を置いて、同じ音源を再生した。R500はペア15万円強のスピーカーで、R200と同じリングラジエーター型ツイーターと13.3cmタービンコーン・ウーファーを2基備えたダブルウーファー仕様の2ウェイ機だ。酒井さんの感想を聴いてみよう。

「同じReserve シリーズでもずいぶん音が違いますね。R500のほうがハイが伸びていて、すっきりした音に聴こえます。ぼくの好みはこっちですね」とのこと。

R500
13.3cmタービンコーン・ウーファーを 2基備えたダブルウーファー仕様

ここで山崎編集長から一言。

「そうか、ぼくはR200のほうが好きかな。音に厚みがあって、音像がぐっと前に出てくるところにPolk Audioのスピーカーらしい魅力があると思います。R500のほうが確かにハイが伸びている印象はありますが、“普通のいいスピーカー”という感じがします」

なるほど、2人の意見は興味深い。たしかにR500が提示する音像はR200に比べてスレンダーで、エネルギーバランスが中高域から高域に寄った印象がある。そこが好きかどうかということになるのだろう。

あとはペアで約5万円の価格差をどう考えるかだが、フロアスタンディング型のR500はスピーカースタンドを用意する必要がない。R200ユーザーがそれを用意するとなると、値段はあまり変わらないかもしれない。

ただし、次に聴いてみる「同一スピーカー4本によるサラウンド再生」を実践するとなれば、ブックシェルフ型のR200のほうが、より使いやすいのもまた事実だろう。

編集部・酒井の感想

ブックシェルフスピーカーで、じっくり音楽や映画を試聴したのは、今回が初めて。まず音楽を聴いて、最初に感じたのは定位の良さ。左右に置かれたスピーカーのちょうど中心からボーカルが聴こえ、その後ろからピアノやベース、ドラムといった楽器の音色たちが響いてくる。

このしっかりとした定位感はサウンドバーではなかなか味わえない感覚だった。低域は身体の芯に響くような迫力はないが、ほどよい量感でベースの弦の響きも心地よかった。

今度は同じ楽曲をR500で聴いてみると、R200で強烈だった定位の良さは鳴りを潜めたものの、かわりにボーカルやピアノ、シンバルといった高域が気持ちよく伸びるようになった。各楽器の明瞭さ、解像感、低域のボリューム感もR200よりも一段アップしたような印象で、個人的にはR500のサウンドのほうが好みだった。

いよいよR200×4台で聴いてみる

ということでCINEMA 40の「スピーカー設定」を4.0chにし、スタンドに載せたR200をもう一組用意してもらって、酒井さんの座るリスニングポイント後方、フロントL/Rと等距離の場所に置いてもらった。

前方のR200に加え、後方にもR200を2台設置!

最初に再生したのが、ぼくが持参したSACD『キャラバンサライ/サンタナ』。これは1972年当時に発売されたSQ4 チャンネルのレコードのマスターテープ(4.0ch)をSACDのマルチ音声に収録したもので、もちろんSACD 2chにミックスされた音声信号も収録されている。

SACD『キャラバンサライ/サンタナ』

4.0ch版は、リアにパーカッションやドラムズ、キーボードなどの楽器音が大胆に振り分けられていて、各チャンネルが対等な関係で成立した作品だ。

最初に2ch再生、その後に4ch再生を行ない、その違いを酒井さんに聴いてもらうと……。

「なんですか、コレ! 音に取り囲まれる面白さが味わえる。4ch再生の方が断然面白いですね。虫の音が聞こえてきて、その後にテナーサックスがフロントの左チャンネルから時計回りにぐるりと移動していく冒頭から心をつかまれました」と酒井さん。

山崎編集長にも聞いてみよう。

「半世紀前にこんなマルチチャンネル・ミキシング作品が存在していたこと自体が驚きです。それから4ch再生のほうが音の情報量が多いことにも気づかされました。2ch再生では気づかなかったリードギターのフレーズやドラムの細かなフィルが浮かび上がってきて、びっくりしましたね」

たしかにその通り。マルチトラックでサンタナの演奏を収録し、それを2トラックに押し込めるよりも4トラックにミックスダウンするほうが余裕度の点で有利なのは明らかで、各楽器の音像の解像感がぐっと上がるのである。

また、こういう全チャンネルがイーブンの関係で仕上げられた作品では、フロント、リアを同一スピーカーで揃えることの意義は、とても大きいということを改めて実感させられた。同じスピーカー4本を高さを揃えて配置することで、フロントLとリアL 、フロントRとリアR間にできるファントム音像がクリアーに浮かび上がってくるからである。

R200×4台でDolby Atmosの映画を体験

次にDolby Atmos収録された映画のUHD Blu-ray『NOPE/ノープ』を再生してみよう。

これは最近観た中で飛び切り画質・音質が優れたUHD BD。再生したチャプター12は、天井に配置するトップスピーカーが大活躍する場面なのだが、4.0ch再生でその面白さが味わえるかどうかを検証してみたい。

雨の夜、主人公の兄妹の家に謎の飛行物体が出現する。姿を見せずに音だけでその存在を意識させ、移動していく様をリアルに描写して見せるのだが……。酒井さんは言う。

「R200 2本だけのステレオ再生でも、ぼくの上方に“何かがいる”という確かな実感が得られました。それがまず面白かったです。4.0chでサラウンド再生すると、その実感がより強化されると同時に、降りしきる雨の音に圧迫感が出てきて、空からいろいろなモノが落ちてくる怖さがリアルに感じ取れました」

そう、R200 2本のステレオ再生でも雨の音や自分の上に何かがいる気配は確かに感じられる。これはR200の位相特性の良さが大きく効いているのだろう。

ぼくはトップスピーカーを6本配置した自室のDolby AtmosシステムでこのUHD BDを楽しんだが、そんな大げさなシステムでなくても、位相特性に優れた良質なスピーカーを4本用いた4.0chサラウンド再生なら、 3次元的な立体音響の妙味が十分の味わえるのだなとあらためて実感させられた次第。

普段、家でサウンドバーを楽しんでいる酒井さんにも、刺激的な体験になったようだ。

「サウンドバーと2chオーディオの世界には大きな違いがあることを今日は強く実感しました。また“オーディオってお金がかかる”というイメージが強かったのですが、ペア約10万円のスピーカーでこんな本格的なサウンドが聴けるんですね。驚きました」

「また、同じスピーカーをサラウンドスピーカーとして活用する4.0ch再生がこれほど面白いというのも発見でした。まず1ペア買ってステレオ再生を楽しみ、お金を貯めてサラウンド用にもう1ペア買い足す、そんなやり方もいいですね。いずれ自分もお金を貯めて、サウンドバーから卒業しよう、そんな気持になりました」

編集部・酒井の感想

R200を4台使った4ch構成で聴いた『キャラバンサライ/サンタナ』。冒頭に音像が聞き手の周囲を1周するような演出があるのだが、2ch構成だと音像が左右に移動するだけで、そもそもそういった演出がされていることさえ分からなかった。

それに対し、4ch構成にすると、音像が自分の周りをぐるぐると回っていることが手に取るようにわかる。音のつながりもスムーズで違和感を感じることはなかった。

次に、R200×2台の構成で観た『NOPE/ノープ』。音楽と同様、映画でも2chスピーカーならではの定位の良さが光る。酒井は自宅ではサウンドバーを愛用しているが、サウンドバーはテレビの下に設置するため、音像が画面より少し下に定位し「あそこから音が出ている」という感覚が強くなることがある。

しかしR200では、音楽試聴時も印象的だった定位感が効果を発揮し、左右にあるスピーカーの中心に置いたテレビの画面から、しっかりとセリフなどが聴こえ、センタースピーカーなしでも違和感を感じることなく、映画に集中できた。

視聴したシーンでは、頭上に停まった飛行物体から聴こえる不気味な唸り声のような低音、そこからコインや鍵といった細かなものが落ちてきて、玄関ポーチの床や手すりの板に刺さる細かな音もしっかりと聞き取れた。

同じシーンをR200×4台構成で聴くと、頭上に飛行物体が停まる場面で「画面の奥側から、ゆっくりと頭上に飛んできて、ちょうど真上で停まったな」と、飛行物体の動きをよりはっきりと感じられる。高さ方向の音の広がりも強くなり、登場人物たちが住んでいる一軒家の上空、かなり高度のある場所に飛行物体が停止する様子が、耳だけで感じ取ることができた。

酒井の自室環境では、ブックシェルフスピーカーを置くスペースを犠牲にするかわりに、大型テレビを導入したのだが、サウンドバーと比べても、定位感や音の広がりなどは、やはり2chスピーカーのほうが圧倒的。引っ越しなどで、スペースや貯金に余裕ができれば、今度こそ2chスピーカーを導入しようと強く思った。

また4chマルチスピーカー構成でも、音像定位がしっかりしているので、センタースピーカーがなくても、セリフが画面からはっきりと聴こえ、違和感を感じることはなかったのは、個人的にも驚いたポイント。サブウーファーがなくても十分迫力があったので、5.1ch環境にこだわらず、4ch環境を構築するのも“アリだな”と感じた。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。