レビュー

ティアックHDMI付きアンプで“高スペパ”のデスクトップオーディオに挑戦

TEACのプリメインアンプ「AI-303」とMONITOR AUDIOのブックシェルフスピーカー「Bronze 50-6G」で“スペパ”を追求

「自分だけのオーディオ環境を整えたい。ただ予算はなんとかなるけどスペースがどうにもならない」とはよく耳にする話。物量が気になりはじめるとキリがないこの世界、あえて空間効率に目を向け、コスパ・タイパならぬ“スペパ”を追求するのもアリなのでは?

そこで“スペパ”抜群のプリメインアンプとスピーカーをピックアップ、いろいろな角度から検証してみることにした。

「机上」のオーディオについて考える

最近よく耳にする「デスクトップオーディオ」なる言葉。明確な定義はないものの、必要な一式が机の上で完結する程度のサイズ感・距離感で構成されるオーディオセット、というところか。

ここでいうデスクトップとは心理空間で、文字どおり「机上」のみを指すにあらず、チェストやラックと呼ばれる家具の天面でもいい。筆者は数年前からひっそりと「箱庭オーディオ」を提唱、家具の天面を利用しコツコツ実践しているが、目指すところはデスクトップオーディオと同じと言っていい。

箱庭/デスクトップオーディオを始めるにあたり何から手を付ければいいかと聞かれれば、「プリメインアンプ」と答えたい。

スピーカー対応は当然として、入力系統が豊富でDACが付いていればなおよし、大きさはフルサイズ/幅430mm前後では手に(机に)余るからその半分以下が望ましい。スピーカーを左右に並べて60cm以下に収まれば、箱庭/デスクトップ感はまずまず達成できる。

スピーカーまで手が回らなければ、当面はヘッドフォンリスニングで凌ぐという手もある。

AI-303の前面

その条件にピタリ当てはまるのが、TEACのプリメインアンプ「AI-303」(オープンプライス/直販87,780円)。スピーカーの定格出力こそ50W×2(4Ω)と控えめだが、4極ジャックでグランドセパレート接続が可能な3.5mm端子を搭載し、ヘッドフォンリスニングもカバーする。

アナログ入力はRCAを2系統、デジタル入力はPCM 384kHz/32bit、DSD 11.2MHz対応のUSB DACを装備、スマートフォンをつなげばストリーミングやファイル再生を好条件で楽しめる。

Bluetoothレシーバーとしての機能もある。SBCとAACはもちろんLDACとaptX HDに対応しているから、スマートフォン上の音源をちょっと聴きたい、という用途にはもってこいだ。

スマートフォンで選曲するといっても有線/USB接続は取り回しが悪くて……という向きにはピッタリだろう。

AI-303の背面

入力にHDMIがあることも目新しい。“対応機器=AVアンプ”といっていいほど2chオーディオとは縁遠いインターフェイスとみなされてきたHDMIだが、メーカー側のスタンスに変化が現れ始めた。

HDMI入力を搭載し、ARC/eARCをサポートすれば、ハードウェアとしてテレビを音源にでき、音楽番組はもちろんスポーツ番組なども、しっかりとした音で楽しめる。

最近のテレビは、Apple MusicやAmazon Musicなどハイレゾ対応の音楽ストリーミングアプリに対応しているから、オーディオソースの拡充という意味でも期待できる。

HDMI入力可の2chプリメインアンプというと、大ヒット機・マランツ「NR1200」を思い浮かべるが、AI-303はハーフサイズの幅215mm。しかもBluetooth入力もでき、LDACとaptX HDにも対応している。

単体でのストリーミング再生こそ非対応なものの、こちらはUSB DACとして機能するから余っているスマートフォン/タブレットを1台用意できれば事足りる。単純比較できる関係ではないものの、2機の間で迷うのも無理はないスペックといえるだろう。

組み合わせるスピーカーは迷いに迷った1台

AI-303と組み合わせるスピーカーは、迷いに迷った挙げ句Monitor Audio「Bronze 50-6G」(ペア80,300円)に決めた。最大の理由は、箱庭/デスクトップでも無理なく使えそうな166×268×281mm(幅×奥行き×高さ)というサイズにあるが、いろいろ応用が利きそうな構造に着目したからだ。

その構造とは「HiVe II」。ピストルの銃弾が通るときの気流と同じ効果を狙い設計されたというMonitor Audio独自の構造で、ひらたくいえばバスレフポートだが、エアフローを高速化し乱流を低減する独自構造を持ち、背面を壁に近づけ設置してもパフォーマンスが落ちないのだそう。

このサイズで豊かな低音を楽しめ、壁寄せのみならず壁掛けにも対応(専用マウントFIX-Mをオプションで用意)という柔軟な使い方が可能になるのなら、まさに箱庭/デスクトップ向きといえる。

拡張性も気に入った。上部にイネーブルドスピーカーの「Bronze AMS-6G」を設置すれば、Dolby Atmos対応スピーカーとして使えるのだ。AI-303は2chアンプでDolby Atmos非対応だが、将来的にAVアンプを導入しシアター化する願望があるのなら、このBronze 50-6GとAMS-6Gという組み合わせは興味深い選択肢となりうる。

箱庭/デスクトップオーディオは気軽にイジり回せてこそ。“使いまわし”を視野に入れた選択は合理的だろう。

Bronze 50-6Gのターミナルはバイワイヤリング対応

ところで、Bronze 50-6Gのターミナルはバイワイヤリングに対応しているので、同接続対応のアンプを用意すればより理想的な接続を追求できる。AI-303との接続では適わないものの、あって損はなし、趣味人にはうれしい仕様だ。

音場と低域を調整

まずはセッティング。AI-303とBronze 50-6Gはバナナプラグ対応なので、接続は一瞬で完了。音を出しながら音場を調整していくと、スピーカーを含め幅60cm以内という“理想”には収まらず、1mを若干超えてしまったが、それでもチェストの天面には載る程度。まずまずの箱庭感と言っていいだろう。

そこから低音の調整。Bronze 50-6Gはバスレフ型らしく低域の量感が多めで、チェストに“ポン置き”ではせっかくの低域が緩んでしまうので、なんらかの対策が必要だ。インシュレーターを置くもよし、壁からの距離を調整するもよし、低域のスピード感/ソリッド感に納得いくまで微調整したいところ。

スピーカーのインシュレーターには、オーディオテクニカAT-6089CK(8個1組)を利用した

筆者の場合、リビングの隅に置いたチェスト(臨時のテレビ台兼用)を利用したが、どうにも低域の収まりが悪い。ブーミーとまではいかないが、中高域との量感に違和感を覚えてしまうのだ(メーカーでは背面を壁に近付け設置してもOKというが、自分はしっくりこなかった)。

スピーカースタンドを使うことも考えたが、家族も過ごす空間なだけにその余裕はなし。なんとかチェスト上の空間で完結させねばならない。

バスレフポートに吸音スポンジを詰めてみた

そこで試みたのが、バスレフポートに付属の吸音スポンジを詰めるという技。要は密閉型化しようというわけだが、これがなかなか自分好みに仕上がった。さすがにポップ/ロック系の音楽では低域が不足気味になるものの、ピアノやアコースティックギターはだいぶ自然な印象になる。

せっかくの「HiVe II」がムダになるものの、140mm C-CAMドライバーと25mm Gold dome C-CAMツイーター本来の描写力を味わえると考えれば、悪くはない選択だ。

音源にBluetoothを使うのはアリ?

スマートフォンはUSB接続のほうが音質がいいことは確かだが、ビジュアル的には難あり

スピーカーセッティングが落ち着いたところで、「音源にBluetoothを使うのはアリなのか?」という悩ましい命題に向き合うことにした。AI-303にはUSB DACが搭載されているから、腰を据えて聴くときの音源はUSB接続したスマートフォン(ハイレゾ対応ストリーミングアプリ)に落ち着くとして、とりあえず音楽を流したいとき、話題の新曲をとりあえず聴きたいときには、やはりワイヤレスが手軽だからだ。

現役を引退したAndroid端末(LDAC対応)を使い、Amazon Musicで「菊地雅章/黒いオルフェ - 東京ソロ2012」を再生してみる。96kHz/24bitのロスレス再生となるUSB接続時と比べると、情報量の少なさは否めず、いくぶんあっさりしてしまうが、静謐と緊張がないまぜになったような会場の気配は描き出される。このアルバム独特の繊細で浮遊感あるサウンドは、LDACでもじゅうぶん再現可能だ。

しかし、端末をiPhoneに換えてみると……同じアルバムとはいえ、ニュアンス部分がかなり変わってくる。コーデックがAACで特に高域方向の情報量が減るからだろう、会場の気配が違う。使用中のコーデックはフロントパネルのLEDで確認できるから、ワイヤレスの音質チェックの参考になるはずだ。

いろいろ試すうちに気付いたのが、AI-303のボリューム機構。ごく小さな動きにも正確に反応し、ギャングエラー(左右chの音量ズレ)も感じない。

エントリークラスのアンプでは、可変抵抗器方式のボリュームを採用することが多いが、ノブの動きを数値化し、抵抗ラダー型アッテネーターに反映して音量を調整するAI-303のボリューム機構のほうが細かな調整が容易になる。音量控えめで使うことが多いシステムにとっては、うれしい配慮といえるだろう。

HDMIおよびARC/eARCのサポートも見逃せない。試しにテレビの音源(Amazon Musicアプリ)を再生したところ、192kHz/24bitの楽曲をクリアな音で再生できた。HDMI経由での再生は事実上ディスプレイ必須となるため設置場所を選ぶが、BDレコーダーでCDを再生する、音質重視のBDタイトルを愉しむ、といったスマートフォンやタブレットにはない使い方が可能になる。CEC対応だからテレビのリモコンで選曲できる点も魅力だ。

AI-303とBronze 50-6Gのコンビネーションは、「机上」のオーディオのひとつの形に過ぎないが、スマートフォンなどネットワーク端末を音源として使う時代の典型例でもある。DACのデジタルフィルター変更など今回検証しきれなかったフィーチャーも含めれば、さらなる可能性が広がっている。空間効率という"スペパ"を重視する向きには、価格的にも合点の行く組み合わせなのではなかろうか。

AI-303とBronze 50-6Gのコンビネーションは、「机上」のオーディオのひとつの形に過ぎないが、スマートフォンなどネットワーク端末を音源として使う時代の典型例でもある。

HDMI入力やDACのデジタルフィルター変更など、今回検証しきれなかった要素も含めれば、さらなる可能性が広がっている。空間効率という“スペパ”を重視する向きには、価格的にも合点のいく組み合わせなのではなかろうか。

海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。