レビュー

小型スピーカー&アンプで始めるオーディオ。価格以上の実力と3つの個性

 初めてスピーカーを鳴らすオーディオシステムを組もうと思った時、どのような形が考えられるだろうか。予算や設置スペースに余裕があれば、大型のトールボーイスピーカーを導入するのもいいだろう。しかし現実的に多くの場合、「まずは小さなスピーカーから」となるのではないだろうか。

左からDALI 「SPEKTOR2」、KEF 「Q350」、Monitor Audio 「Bronze 2」

 スピーカーの種類で比べると、床置きが前提になるトールボーイ型に対し、「本棚」の名を冠するブックシェルフ型の方が、価格面はもちろん、設置の自由度でも優位性がある。必ずしもスタンドを用意する必要はなく、例えばテレビラックの両脇の余ったスペースに置くといった方法も考えられる。それでいて、スピーカーメーカーが手掛けるブックシェルフスピーカーは、たとえ小型のモデルであっても、得てして素晴らしい再生能力を持っているものだ。

 本稿では、オーディオ用としては安価な4~6万円台のスピーカーの実力はどのようなものかを確かめるべく、DALI 「SPEKTOR2」、KEF 「Q350」、Monitor Audio 「Bronze 2」という海外メーカーの人気モデルをとり上げる。そして同一のアンプと組み合わせたうえで音楽と映画を視聴し、どのような音の違いがあるかを紹介したい。

 スピーカーと組み合わせるアンプには、設置性の高さやエントリークラスに求められる機能性も考慮して、デノン「PMA-60」を選んだ。

デノン「PMA-60」(縦置き時)

 PMA-60はデジタルアンプ「DDFA」を採用するコンパクトなアンプ。着脱式の脚部を使って横置きと縦置きの両方が可能で、横置き時の幅20cmというサイズはミニコンポからの置き換えにも好適だ。「DDFA(Direct Digital Feedback Amplifier)」は、入力から最終段のPWM変調まで一貫してデジタルで処理することで、音質の劣化や色付けを抑えられる点などが特徴。DDFAの詳細は別の記事でもレポートされている。

横置き時

 入力端子は光デジタル・同軸デジタルに加え、PCM 384kHz/32bit、DSD 256(11.2MHz)入力に対応するUSBも備えており、各種映像機器との接続や、昨今のハイスペック化が続くハイレゾ音源にも万全に対応する。

背面
PMA-60とSPECTOR2と並べた場合

 今回は、PMA-60とPCをUSB接続して音楽を聴き、PlayStation 4 Proと光デジタル接続して映画を見るという形で視聴を行なった。視聴に使ったソースは以下の通り。

音楽(タイトル/アルバム/アーティスト)

・SMALL TWO OF PIECES ~軋んだ破片~ / Xenogears Original Soundtrack Revival Disc - the first and the last - / 光田康典・Joanne Hogg 96kHz/24bit FLAC
・Ocean / Ocean (2012) / John Butler 48kHz/24bit FLAC
・Songbird / Laidback2018 /井筒香奈江 192kHz/32bit AIFF
・Kids in Love / Kids in Love / Kygo 44.1kHz/24bit FLAC
・Blues Drive Monster / LITTLE BUSTERS / the pillows 44.1kHz/16bit FLAC

映画

・「シン・ゴジラ」(Blu-ray)
チャプター6の上陸シーン、チャプター15「タバ作戦」のシーンを主に視聴

サイズ以上の低音とボーカルを聴かせるDALI「SPEKTOR2」

 SPEKTOR2はデンマークのスピーカーメーカーであるDALIのSPEKTORシリーズのブックシェルフスピーカー。仕上げはブラックアッシュとウォルナットの二色が用意されている。価格はペア42,000円で、今回試した中で最も手ごろだ。

DALI「SPEKTOR2」とPMA-60(中央手前)の組み合わせ

 ユニットの構成は25mmシルクドームツイータと130mmウッドファイバーコーンウーファ。今回取り上げるスピーカーの中では最も小型のモデルとなるが、豊かな低音を再生するためのバスレフポートが背面にあるので、設置の際は後ろの壁に近付け過ぎないようにしたい。

SPEKTOR2(ウォルナット)
ツイータ部
ウーファ部

 SPEKTOR2の第一印象は「刺激のないまろやかな音」。高音はしっかりと伸びつつ、キツさはない。低音の量感は見た目に反して結構あり、コンパクトなサイズながら「低音が寂しい」、「空間が薄い」といった印象はあまりない。この辺りは音作りの巧みさを感じるところだ。ただ、さすがに重さを感じるような低音の沈み込みまでは得られなかった。

 「SMALL TWO OF PIECES」や「Songbird」では声の表現に潤いが感じられ、女性ボーカルをしっとりと聴こうと思えば素晴らしい相性の良さを示す。「Ocean」のギターの音色は清涼感に満ち、楽曲のイメージを見事に表現していた。

 空間表現については、SPEKTOR2はスピーカーの後方に音が展開するタイプで、広がり自体はこぢんまりとしている。背面のスペースに余裕があれば、箱庭的に精緻な空間表現が楽しめる。

 「シン・ゴジラ」では、厚みのあるダイアローグの表現に好感を持った。映画の物語を語る「声」の再生能力は非常に重要で、この点でSPEKTOR2は映画用のスピーカーとしても優れた資質を持っている。一方で、音楽や瞬発的な威力が要求される効果音の存在感は一歩後退する。映画においては音楽以上に低音の弱さが感じられ、作品本来の重厚なイメージを再現するには及んでいない印象を受ける。

 全体的に、高域と低域をほどほどにまとめてレンジを欲張らず、音楽の美味しい部分、特に声の魅力をしっかりと聴かせようというスピーカーだと感じた。

背面
左はサランネット装着時

同軸ユニット搭載、空間表現も秀逸なKEF「Q350」

 Q350はイギリスのスピーカーメーカーであるKEFのQシリーズのブックシェルフスピーカー。仕上げはサテンブラック・サテンホワイト・ヨーロピアンウォールナットの三色。今回取り上げるスピーカーの中では最も大型で、「ブックシェルフ」と呼ぶにはいささか大きすぎる気もする。ちなみにサテンブラックはマットな質感ではなく、全体に細かいラインが入った仕上げとなる。価格はペアで68,000円。

KEF「Q350」とPMA-60(中央手前)

 ユニットの構成は25mmアルミツイータと165mmウーファ。他のモデルと異なる、KEFならではの特徴といえるのが、高音の再生を担当するツイータと中低音の再生を担当するウーファが同軸線上に配置されていること。このようなタイプのユニット配置は「同軸型」と呼ばれ、高音と低音の定位(音の位置)を合わせた一体感のある音を特徴とする。Uni-Qと名付けられた同軸型ユニットは位相特性まで揃えており、KEFのスピーカーの大きな特徴となっている。なお、本体の奥行きは306mmあって、さらにバスレフポートも背面にあるので、設置の際は十分なスペースを用意するようにしたい。

Q350(サテンブラック)
同軸ユニットのUni-Q
横から見たところ

 Q350で最も印象的だったのは空間の広さ。特に左右の広がりに優れ、音楽が狭苦しいスペースに押し込まれないため、結果的にひとつひとつの音の存在感が際立つことになっている。全帯域に渡って音の分離も優秀だ。

 音に余計な響きがつかず、不必要な尾を引かずに消えていく歯切れの良さや空間の見通しの良さがある。それでいて音源が本来持っている響きはしっかりと描くため、音が薄くなることもない。かなり音量を絞って聴いても、空間性豊かな音が楽しめるのは本機ならではの魅力といえそうだ。

 高音の伸びと低音の沈み込みも十分で、音色は、特定の味付けをしないナチュラルさがある。分解能や空間表現などを含めた純粋な再生能力という点では、今回試した3モデルの中ではおそらく最高だろう。ただ、どんな音楽でもそつなく鳴らす一方で、ある種の淡泊さがあり、「Blues Drive Monster」の場合は聴いていて少々味気無さも感じた。

 「シン・ゴジラ」では、映像に負けない音のスケール感が素晴らしい。ダイアローグが明瞭に再生されるのは当然として、音楽や効果音もそれに劣らない存在感を放っている。効果音の細部にいたるまでしっかりと再生できており、豊かな音の情報量によって映像にさらなる奥行きを与えている。

 Q350はしっかりとした設置さえできれば、もはや価格が気にならなくなるレベルの高度な再生能力を発揮する。また、音に色付けしないことにより、再生する音楽のジャンルを選ばず、映画再生においても基本性能の高さは存分に発揮される。

前面と背面

“明るく楽しい音”のMonitor Audio「Bronze 2」

 Bronze 2はイギリスのスピーカーメーカーであるMonitor AudioのBronzeシリーズのブックシェルフスピーカー。仕上げはブラックオーク・ホワイトアッシュ・ウォールナット・ローズマホガニーの4色。価格はペアで54,000円。

Monitor Audio「Bronze 2」とPMA-60(中央手前)

 ユニットの構成は25mmツイータと165mmウーファ。ユニットにはアルミ/マグネシウム合金の表面にセラミック硬化処理を施した「C-CAM」と呼ばれる素材を採用している。先述した二つのスピーカーとは異なり、バスレフポートが前面にあるため、背後の壁に近い設置をする場合でも、相対的に壁の影響が抑えられる。また、スピーカー端子はバイワイヤリングに対応しており、組み合わせるアンプによっては、高域/低域を個別のアンプで駆動するバイアンプで音質の向上を図ることができる。

Bronze 2(ローズマホガニー)
ツイータ部
ウーファ部(上)とバスレフポート(下)

 Bronze 2の音をひとことで言えば「聴いていて楽しい音」だ。レンジは広く、高域の伸びやかさや低域の沈み込みはエントリークラスのブックシェルフスピーカーとは思えないほど。「Songbird」のベースはぎょっとするほど豊かで、ピアノの音も艶やかに輝く。また、低音は量感があるだけでなく、音が込み合う局面でもしっかりと音の輪郭が保たれ、分離も良好。

 ボーカルを含めて音は全体的に明るく色彩感豊か。かといってあらゆる音が一様に明るくなるわけではなく、柔らかい音は柔らかくというように、音源本来のイメージを損なわずに再現できるだけの懐の広さがある。「Ocean」では鮮やかかつ細部まで克明に表現されるギターの音が実に心地よかった。

 空間表現は縦方向に広く、「Kids in Love」ではスピーカーの位置を大きく越える高さにボーカルが定位する。左右への広がりはほどほど。音離れが非常に良いので、小音量時でも音がスピーカーに纏わりつかず、レンジの広さもあいまって音楽を聴いた際の充実感は高い。

 「シン・ゴジラ」ではクリアで力強いダイアローグも魅力的だが、それ以上に量感と沈み込みの深さを両立した低域による効果音の充実が著しい。各種火砲やゴジラの咆哮の威力は相当なもので、「音で映像を盛り上げる」という点では、間違いなく今回の3モデル中最高といえる。

 Bronze 2は明るく楽しい音色、レンジの広さ、フロントバスレフにより設置のしやすさを備えたバランスの良いスピーカーだ。なにより、再生音から作品の持つ「熱量」を最も感じたのは本機だった。

 最後に聴いたBronze 2では、せっかくPS4 Proを映像プレーヤーに使っているのでゲームもプレイしてみた。

 タイトルは最近PC版も登場した「モンスターハンター:ワールド」。作中に登場する多種多様なモンスターの巨体が生み出す轟音や響き渡る咆哮のリアリティは、テレビのスピーカーで音を鳴らした時とはまさに別次元。モンスターとの死闘感が増幅され、ゲームプレイにさらなる興奮がもたらされる。戦闘シーンの迫力が向上するだけではなく、綿密に作り込まれた環境音がしっかりと再生されることで、「ゲーム世界への没入感」が強まるという効果もある。ゲームするならいい音で。多くのゲームファンに、音がもたらす楽しさを味わってもらいたい。

右がサランネット装着時

様々な個性のスピーカーで、いつものコンテンツをいい音に

 音が良くなることで恩恵を受けるコンテンツは、決して音楽や映画だけに限らない。良質なスピーカーを使うことで、アニメでもゲームでもラジオでも、「音」の要素が存在するあらゆるコンテンツで感動が増幅することを知ってもらえたら幸いだ。

 アンプもスピーカーも、メーカーやモデルが違えば、当然ながら出てくる音は異なる。安価な価格帯の製品であってもこれは変わらず、そこに色々な組み合わせの中から自分の好きな音を見つけ出す楽しみも生じる。アンプとして今回はPMA-60を使ったが、他の製品を使えば、各スピーカーの印象も変わってくるだろう

 今回取り上げたモデルは、オーディオ全体からすればエントリークラスに当たるが、実際に出てきた音はいずれも個性豊かで、音楽でも映画でも満足のいくものだった。PC用の安価なアクティブスピーカーやテレビのスピーカーとは一線を画すクオリティであることは間違いない。大型スピーカーと比べて「安いから音もそれなりだろう」と考えるのではなく、色々なアンプとの組み合わせや、設置の工夫なども試しながら、スピーカーを鳴らすオーディオの世界を楽しんでもらいたい。

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。ブログ:「言の葉の穴」