レビュー

キレのある低音で“アイドルもF1も超気持ちいい”B&W「Pi5 S2」使ってみた

Bowers & Wilkinsの完全ワイヤレスイヤフォン「Pi5 S2」

最近、コンサートでの声出しが解禁されるなど、コロナ禍前の“日常”を取り戻しつつある。筆者もコンサートに足を運ぶ回数が増えたのだが、音響設備の整った会場でライブを楽しんだ帰り道、余韻に浸りたいと思うのだが、普段使っている完全ワイヤレスイヤフォン、AirPods Pro(第2世代)の“優等生的”サウンドでは、ライブの熱狂と落差があり、物足りなさを感じるようになった。

また深夜に、録り溜めたアニメやドラマ、見逃していた映画のネット配信などを観るときも、寝ている家族を起こさないようにと、ここでもAirPods Pro(第2世代)を使っているのだが、こちらもやはり迫力が足りず、盛り上がりに欠けると感じている。

そこで“味変”ならぬ“音変”をするべく、AirPods Pro(第2世代)よりも迫力あるサウンドが楽しめて、それでいて比較的手が届きやすい価格帯のTWSを探してみた。市場を見渡すと、音質に力を入れているブランドはゼンハイザーやボーズ、finalなど数多いが、そのなかで目を引いたのはピュアオーディオブランドとして知られるBowers & Wilkins(B&W)だ。

サウンドバー「Panorama 3」を試聴した筆者(右)

筆者は先日、B&Wの10万超のサウンドバー「Panorama 3」を試聴する機会があり、高い解像感を保ったまま、細かな音まで正確に再生する描写力の高さ、なにより量感もありつつ、深く沈み込む低音の力強さに心を奪われた。そんなB&Wが作るTWSなら、“優等生サウンド”に飽きを感じつつある筆者に刺さるはずと思ったのだ。

そんなB&Wは、「Pi7 S2」と「Pi5 S2」という2機種のTWSを展開しているが、上位モデルのPi7 S2は実売63,800円前後と“音変”として使うには、少し勇気がいる価格。

いっぽうのPi5 S2は、発売当初の実売価格は48,400円前後だったものの、今年6月に入ってからAmazonで36,182円、ヨドバシカメラなどでも39,800円まで価格が下がっていて、一気に手を出しやすくなってきた。「AirPods Pro(第2世代)よりもリーズナブルに、あのB&Wサウンドを楽しめるなら」と、試してみることにした。

「Pi5 S2」はストーム・グレー(左)とクラウド・グレー(右)の2色展開

Pi5 S2は、2023年2月に発売されたばかりのTWSで、モデル名に「S2」とあるように、2021年6月発売の「Pi5」をブラッシュアップした第2世代モデルとなる。初代モデルからアンテナ設計の刷新による接続安定性の向上とバッテリー持続時間の改善、より高機能なアプリへの対応などが行なわれ、使い勝手が向上している。

ドライバーは独自開発した9.2mm径のカスタムユニットで、BluetoothコーデックはSBCとAAC、aptXをサポートする。アクティブノイズキャンセリング(ANC)機能にも対応しているため、通勤・通学時にも使いやすい。バッテリー持続時間はイヤフォン単体で5時間(ANCオフ時)、ケースで16時間分の充電ができる。

Pi5 S2(右)とAirPods Pro(第2世代/左)を並べたところ
「Pi5 S2」のイヤフォン。左がストーム・グレー、右がクラウド・グレー

ケースはAirPods Pro(第2世代)と比べると、横幅はほぼ同じだが、高さがあるデザイン。デニムやスラックスのポケットに入れると、少し膨らみが気になるかもしれないが、ケース自体が大きい分、イヤフォンを取り出すときにしっかりホールドできるので安心感があった。

同梱物一式。充電ケーブルの結束バンドにも「Bowers & Wilkins」のロゴが入っている

イヤフォン自体は円と楕円を組み合わせたようなデザインで少し大きめな印象。頭を左右に振ったくらいでは耳から外れることはなかったが、イヤーピースのサイズはしっかりチェックしたほうが良いかもしれない。製品には3サイズのイヤーピースが付属している。

ケースの蓋裏面には、装着方法がイラストで紹介されている

タイトでハイスピードな低音で“アイドル”が映える

さっそくをサウンドをチェック。今回はiPhone 13 ProやM1搭載iPad Pro 12.9インチモデルなどと組み合わせて、Apple MusicやNetflixを使ってみた。

Apple Musicで音楽を聴いてみると、印象的なのは低域の表現力。低音をウリにしているイヤフォンのなかには、低域の量感はあっても、誇張されすぎていて音が歪んでいたり、いつまでもボワボワと響いて音に締まりがないものもあるが、そういったイヤフォンと比べると、Pi5 S2の低音は充分な量感、押し出しも強さがありながら、締まりがあるタイトさを兼ね備えている。音にキレがあり、トランジェントも優れているので、楽曲が持つ疾走感がより強調されて、音楽に没入できる。

「Pi5 S2」で「YOASOBI/アイドル」を聴いてみた
YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

このキレの良さを痛感したのが「YOASOBI/アイドル」。楽曲の各所にラップが散りばめられており、そのラップパートで流れている低音が、Pi5 S2で聴くと「ズーン」と量感豊かにたっぷり出るのだが、それが尾を引かず、ピタッと止まるので、その分ikuraのボーカルが強調されて世界観に引き込まれる。特に2Aメロのおどろおどろしさは今までに味わったことがないほど。

ボーカルなど中高域の音像はやや近く感じられるが、その分迫力も増しており、キレのある低音とのバランスも絶妙だった。

続いては先日ライブにも足を運んだアイドルグループ・櫻坂46の楽曲も聴いてみた。このグループは、激しいダンスパフォーマンスが魅力のひとつで、楽曲も疾走感のあるものが多い。

「櫻坂46/流れ弾」も聴いてみた
櫻坂46『流れ弾』

3rdシングル「流れ弾」では、中高域の解像度の高さ、表現力の高さが活きる。普段使いのAirPods Pro(第2世代)では意識しないと聴き取れなかったようなエレキギターのリフがスッと耳に飛び込んできたり、複数メンバーの声が重なっているボーカルも、その微妙な声色の違いがしっかり描き分けられているので、「ここは、このメンバーたちの歌唱パートだな」というのを耳だけで判断できる。

AirPods Pro(第2世代)と比べると、解像感は全体的にベールが2~3枚剥がれたようなクリアさだった。

もちろん、タイトでスピード感のある低音は健在なので、楽曲がより疾走感あるものに感じられる。この楽曲はラスサビ前の「wait a sec」で、一度音楽が完全に止まり、そこから転調してラスサビに流れ込んでいくのだが、トランジェントが優れているPi5 S2では、さらにメリハリのあるサウンドになるので、より迫力を持って味わえる。

櫻坂46 『BAN』
櫻坂46『摩擦係数』

そのほか2ndシングル「BAN」や1stアルバムリード曲「摩擦係数」なども聴いてみたが、どの楽曲もギターリフの解像感、ボーカルの明瞭さ、そして締まりのある低音が心地よく、つい自然に身体を動かしたくなってしまうほど、音楽に没頭してしまった。

iPad Proとペアリングして、Netflixなども観てみた
『Formula 1: 栄光のグランプリ』シーズン5 予告編 - Netflix

映像コンテンツとしては、Netflixで配信中のF1を題材にしたドキュメンタリー「Formula 1: 栄光のグランプリ」を視聴。各シーズンのレース結果を淡々と振り返るのではなく、ドライバーやチーム代表にフォーカスして、(多少誇張も交えつつ)ドラマチックに仕立ててある作品だ。

モータースポーツを題材にしているので、当然作中には実際のレース映像や走行映像などが出てくる。マシンのエキゾーストノートやタイヤのスキール音など、全体的にサウンドは編集で強調されている印象だが、Pi5 S2のしっかりした低音で聴くと、エンジンとモーターを組み合わせたパワーユニットの野太いサウンドや、マシンの下面が路面と擦れる「ガッ、ガッ」という音、タイヤがスピンする音、凹凸のある縁石を乗り越えたときの「ダダダダッ」という音が野太く聴こえ、ドライバー視点の映像では没入感が高まり、トップドライバーたちがどういった環境でレースをしているのかを疑似体験している気分を味わえる。

外出時にも使ってみた

ANCも搭載されているので、外出時にも使ってみた。ANCの強さは、AirPods Pro(第2世代)と比べると控えめなものの、騒音でかき消されやすい低音域にしっかりとした表現力があるので、極端に音量を上げなくても充分音楽を楽しめる。

ANC特有の“耳が詰まったような感じ”もないので、あの独特の感覚が苦手という人にはピッタリ。外のノイズを消しすぎず、駅構内や車内アナウンスなど、ある程度周囲の音も把握しておきたいという人にも、ちょうどいいANC性能だろう。

「音楽を楽しみたい」ときに使えるTWS

「AirPods Pro(第2世代)の代わりに、たまに使えるモデルになれば……」とPi5 S2を使ってみたのだが、切れ味鋭い低音がとにかく気持ちがよく、“サブ機”にしておくには勿体ないレベル。AirPods Proも第2世代になって低音の量感がアップしたと言われているが、Pi5 S2を聴いたあとだと、低音を含めた全帯域のサウンドに、かなり物足りなさを感じてしまった。

なにより、AirPods Proではなかなか感じなかった「音楽や映像を心地よく楽しむときに使いたい」と思えるTWSに仕上げられていたところに、あらためてピュアオーディオブランド・B&Wの実力を思い知らされた。

6月に入って価格もかなり手の届きやすいところに落ち着いてきているので、筆者のように“音変”したいオーディオ好きの人だけでなく、初めての1台、ステップアップの1台にもピッタリのモデルと言えるだろう。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

酒井隆文