レビュー

無線でも高音質、DYNAUDIO本気のアクティブスピーカー、新「Focus」を聴く

左から、フロアスタンディング型「Focus 30」、ブックシェルフの「Focus 10」

オーディオ用アクティブスピーカーの究極!?

ここ数年ホームオーディオの世界で隆盛を誇っているのが、アクティブスピーカーだ。筆者はAV Watchでこのジャンルの優れた製品をいくつか紹介してきた。「AIRPULSE A80」、「Q Acoustics M20」、「JBL 4305P」、「ELAC DCB41」などである。これらの比較的安価なスピーカーは、BluetoothやWi-Fiにもれなく対応していて、スマートフォンやDAPの音源をワイヤレス再生できることが、大きなアピールポイントとなっていた。

そしてこの夏、そのワイヤレス再生の魅力を極めたと思えるすばらしいアクティブスピーカーに出会った。デンマークのスピーカーメーカー、DYNAUDIOの「Focus(フォーカス)」シリーズだ。

今般わが国に上陸するのは、小型2ウェイ機の「Focus 10」と2.5ウェイ・フロアスタンディング型の「Focus 30」だ。発売日や価格は未定だが、Focus 10がペア90万円ほど、Focus 30がペア140万円ほどになりそうだ。Focus 30の上位に本格3ウェイ機の「Focus 50」がラインナップされているようだが、このモデルの日本への導入は少し先になるようだ。

「Focus 30」、「Focus 10」
Focusシリーズ。中央が「Focus 50」

ワイヤレス再生、サラウンド再生にも対応できる

Focus 10、Focus 30ともに密閉型で、採用されたドライバーも共通している。28mmソフトドーム・ツイーターと14cmMSP(珪酸マグネシウム・ポリマー)コーン型ウーファーで、Focus 10はこの低域用ドライバーを1基、Focus 30は2基をスタガー動作(=受け持ち帯域をずらす)させている。

28mmソフトドーム・ツイータ
14cmMSPコーン型ウーファー

両モデルともに内蔵DSPで構成されたアクティブ・クロスオーバーで帯域分割し、L/Rチャンネルの各ドライバーにそれぞれクラスDアンプを充てたアクティブ型。興味深いのは本機のワイヤレス方式で、96kHz/24bitまでの音声データを非圧縮で最大8チャンネル(7.1ch、またはDolby Atmos再生時の5.1.2構成)で伝送できるWiSA(ワイサ)方式が採用されている。

ちなみにL/Rスピーカー(各種入力端子を備えたプライマリースピーカーとセカンダリースピーカー)間もワイヤレス伝送が基本となるが、一般的なデジタル同軸ケーブルでつないだ場合は、スペック面でワイヤレスを上回る192kHz/24bit伝送が可能となる。

プライマリースピーカーにはRJ45 LAN端子が用意されているほか、Wi-Fiにも対応。本機をネットワーク環境に置くことで各種音楽ストリーミングサービスを楽しむことができる。Roon Ready仕様だ。

「Focus 30」プライマリーの背面
「Focus 10」プライマリーの背面

入力端子は他に同軸デジタル1系統、光デジタル1系統、RCAアンバランス・アナログ入力1系統が用意されている。

また、設置場所(壁際かコーナー配置かフリースタンディングか)によって異なる低域の伝送特性をワンタッチでアジャストできる機能を持ち、バッフルにグリルを取り付けるか、外すかで変化する高域特性の最適化も自動で行なってくれる。

アプリから、設置場所に合わせた低域の特性変更も可能

加えて、より本格的な室内音響特性の補正を行ないたい向きには、欧州発のDirac Liveに対応している点にも注目しておきたい。

Dirac Liveにも対応する

WiSAとは?

ここで、WiSAについて少し説明を加えておこう。これは5GHz帯を利用する高音質無線技術で、先述のように96kHz/24bit/8チャンネルのオーディオ信号を最大11本のスピーカーに非圧縮のままワイヤレス伝送が可能。

送受信可能な距離は屋内で約10m。96kHz/24bit非圧縮伝送時のレイテンシー(遅延)はわずか2.6ms(ミリ秒)で、マルチチャンネル再生時も搭載された補正回路により各スピーカー間の遅れはわずか約5μs(ミクロン秒)に抑えられるという。

また、他の無線機器と干渉が生じた場合は、5GHz帯の空いている帯域へ即座にシフトすることで音切れを回避する仕様となっている。

今回の試聴では「SoundSend」というWiSA対応の送信機。BDプレーヤーなどのソース機器と接続し、再生音をWiSAでワイヤレス送信する

WiSAは10年ほど前に提案された無線伝送技術で、JBL 4305PやKEFのワイヤレススピーカーで採用例がある。WiSAを用いたマルチチャンネル展開については、オンキヨーがクラウドファンディングによって開発した製品がひと頃話題を呼んだが、我が国においてはFocus シリーズはそれに次ぐ提案となる。というか、本格スピーカーによる初のWiSAサラウンドの提案と言うべきかもしれない。

密閉型の弱点を感じさせないFocus 10

DYNAUDIO JAPANのプレゼンテーションルームである「on and on」(東京・新富町)でFocus 10、Focus 30を聴いた。

プライマリースピーカーのLAN端子を用いてネットワーク環境に本機を置き、Roonを用いてハイレゾファイルを中心に試聴した(L/R間はWiSAの無線伝送)。

Focusシリーズのフィニッシュは4種類。今回聴いたFocus 10は白木のブロンドウッド仕上げ、Focus 30はホワイト・ハイグロス仕上げ。どちらも高級感に満ちた、隙のない美しいルックスだ。

Focus 10のブロンドウッド仕上げ
Focus 30のホワイト・ハイグロス仕上げ

まず、タブレットにインストールした「Dynaudioアプリ」で各種設定を済ませ、専用スタンドに載せたFocus 10から聴いてみた。

「Dynaudioアプリ」で設定が可能

一言でいえば、情報量がきわめて多く、ワイドレンジな最先端ハイエンド・サウンド。驚かされたのは、わずか14cmの小口径ドライバーなのに、低域の伸びと量感が途方もないこと。そしてその低音は剛性が高く、澄明なのである。

Focus 10

家庭用スピーカーに採用例の多いバスレフ型は、fゼロ(低域の最低共振周波数)以下で無制動領域が発生し、音楽信号と無関係な低音を発してしまう。それを嫌って密閉型スピーカーを支持する方は多いが、一方で低音の量感や力感にもの足りなさを感じさせる密閉型も少なくない。

しかし、このFocus 10は違う。歪みを感じさせないクリーンで力強い低音を奏で、音楽に内在する熱量を的確に伝える印象なのである。

エネルギーロスを感じさせないこの低音の押し出しの良さ、揺るぎない再生音は、パッシブ素子を持たないアクティブ・クロスオーバーを用いたメリットだと思うし、ウーファー、ツイーターそれぞれに最適化したパワーアンプが充てられる利点も大きいはず。いずれにしても、低域ドライバーのアクティブ化はいいことだらけだと改めて実感させられた次第。ハイエンドオーディオの世界でもこの流れは加速するのではないかと思う。

また、収録現場の空気がリアルに捉えられたワンポイント・ステレオ録音のライブ作品を聴いて驚かされたのは、マイクロフォンから各楽器の距離が手にとるようにわかることだった。とくに高さ方向の音場の広がりは途轍もない。まさにサウンドステージが「見える」面白さが味わえるのである。これもドライバーユニット間のタイムアライメントを正確に制御できる先進的なアクティブスピーカーならではのメリットかと思う。

威風堂々たる鳴りっぷりのFocus 30

Focus 30

次にFocus 30を聴いてみた。上側ウーファーの受け持ち帯域は2.4kHz以下、下側ウーファーは220Hz以下に設定されており、シングルウーファーのFocus 10に比べて低域から中低域が厚く、スケール感が俄然増す印象だ。とくにオーケストラの威風堂々たる鳴りっぷりは本機ならではの魅力に思える。

一方で、ワイドレンジで情報量の多いその音調はFocus 10と共通しており、クォリティ差はほとんど感じられないので、部屋の大きさによってどちらを選ぶかを決めればよいのではと思う。また、音の俊敏さや切れ味のよさはFocus 10独自の魅力とも言えそうだ。

Focus 30

4.0chサラウンドでも聴いてみる

フロントL/RにFocus30を、サラウンドL/RにFocus10を充てた、4.0ch構成でサラウンド再生も試してみた。

このプレゼンテーションルームには、ソニー製BDプレーヤーがつながったREGZAの大画面テレビが設置されていて、そのHDMI ARC端子とWiSAのトランスミッター「SoundSend」(ネット通販で1万円台で購入可能)を接続してのテストだ。

このトランスミッターにはDolby Atmosを含むサラウンドデコーダーが内蔵されており、WiSAの操作アプリをインストールしたタブレットでチャンネル構成(ここでは4.0ch)やレベルや距離補正などの設定を行ない、各スピーカーに信号を無線伝送する試みだ。

試聴で使ったWiSA対応の送信機「SoundSend」。HDMI ARC/eARC対応で、ドルビーデジタル、TrueHD、Atmosのデコードもできる
SoundSendのアプリで、Atmos信号を確認しているところ
アプリからチャンネルの割り当てなどができる

UHD BDの映画「最後の決闘裁判」や、音楽「ザ・レイディ・イン・ザ・バルコニー/エリック・クラプトン」などのDolby Atmos収録作品を4.0ch再生してみたが、微細な環境音を隈なく拾い上げるとともに、ここぞというところのLFE(Low Frequency Effect)の重低音を難なく再生し、ぼくを驚かせた。

また低域から中低域が充実したFocus 30の持味が活きて、映画のセリフもクラプトンのヴォーカルにも十分な肉が付き、聴き応え十分。トップスピーカーを使用しない4.0ch再生だが、ドライバー間のタイムアライメント補正によって位相ズレを抑えているせいか、3次元的な立体音響の妙味もしっかり味わえることにも感心させられた。

巨大なAVアンプ無しで、しかも部屋の中にスピーカーケーブルを這い回らせる必要がなく、スマートに音の良いサラウンドサウンドが楽しめるこのシステムの魅力は、とてつもなく大きい。巨大でいかついAVアンプに慣れた人ほどこのスマートなワイヤレス・サラウンド・システムを目の当たりにしたときの驚きは大きいはずだ(はい、自分のことを言ってます)。

現状では4本のスピーカーそれぞれに電源ケーブルをつなぐ必要はあるが、いずれ小型大容量バッテリーがスピーカー本体にビルトインできるようになって、一晩充電すれば翌日「完全ワイヤレスで」映画が4~5本サラウンドで観られるなんてことになるのではないか……と今後の発展に期待を寄せたい。そんな強い思いを抱いたFocusシリーズとの出会いだった。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。