レビュー

JBLが本気で作ったアクティブスピーカー「4305P」。この値段でJBLの音!

JBLパワードモニタースピーカー「4305P」。奥にあるのがハイエンドのJBL K2 S9900だ

低価格だが本格的なオーディオ用アクティブスピーカーに注目が集まっている。以前、どちらも自前で購入した10万円を切るBluetooth対応アクティブスピーカー、Q Acoustics「M20」と「AIRPULSE A80」の比較記事をAV Watchに掲載した。その流れで、編集部から「JBLからも登場した同コンセプトのアクティブスピーカー4305Pも使って欲しい」との申し出が。10日間ほど使ってみたので、そのインプレッションを述べてみたい。

10万以下で驚異の音! Q AcousticsアクティブSP「M20」をAIRPULSE A80と比較

4305Pはの価格はペア22万円。先にご紹介した「M20」、 「A80」と比べると2倍強の値段となるが、音を聴き、その価格が十分納得できる魅力を有していることが確信できた。ワタクシ長年のJBLユーザーですが、このスピーカー、間違いなくJBLの音がします。パリッと爽快なあの音が。

というか、最近のJBL製品の中で自分はこの4305Pがいちばん好きかもしれない。音質・機能・価格を掛け合わせて考えると、これほど魅力的な製品は近年稀だろう。

JBLはここ最近、オーディオの黄金時代を懐かしむ後ろ向きの商品企画ばかりを続けていて、たしかにある一定層に売れるのはわかるけれど、これじゃ過去の遺産を食いつぶしているだけじゃね? とおじさんはモヤモヤしておったのです。

しかし4305Pは違う。斬新な提案が随所に盛り込まれた、完成度がきわめて高い新世代アクティブスピーカーなのである。

伝統のデザインに最新機能

4305Pは、幅210×高さ336×奥行235mmと、奥行以外は「M20」よりも少し大きい。デスクトップでの使用はちょっと難しいサイズだ。

奥行235mm

写真をごらんになればわかるように、1970年代から多くの(とくに日本の)ファンの心をつかんだJBLモニター伝統の「ブルーバッフル」がウーファー面に採用されている。

艶消しブラック仕上げのホーンとの組合せはじつに精悍。このマニッシュな外観は、イームズのラウンジチェアなんぞを置いたミッドセンチュリー・テイストのインテリアによく合うと思う。

JBLモニター伝統の「ブルーバッフル」

HF(高域)ドライバーは、先述のように一般的なドーム型ではなく、 1インチ(25mm)コンプレッションドライバー + HDI(High Definition Imaging)ホーンで、LF(低域)ドライバー(=ウーファー)は5.25インチのリブ付ブラックパルプコーンだ。

高域は1インチ(25mm))コンプレッションドライバー + HDI(High Definition Imaging)ホーン
ウーファーは5.25インチのリブ付ブラックパルプコーン

片方のスピーカーにアナログ入力用のA/D コンバーター、デジタルレシーバー、DSPプリアンプが内蔵されており、これをJBL はプライマリー(主)スピーカーと呼ぶ。

もう一方のセカンダリー(従)スピーカーには、プライマリースピーカー同様に片チャンネル分のデジタルクロスオーバー、LF用/HF用それぞれのD/Aコンバーター(192kHz/24bit対応)、2基のクラスDアンプが内蔵され、バイアンプ駆動される仕組み。つまり、スピーカーケーブルで左右をつなぐ「M20」や「A80」と違って、L/R 両方の電源コードをコンセントに挿す必要があるわけだ。

右チャンネルの背面

プライマリースピーカーとセカンダリースピーカーはワイヤレス接続も可能(レゾリューションは96kHz/24bitまで)だが、高音質を狙うならデジタルケーブル(付属はCAT6タイプ)での接続が推奨される。この場合は192kHz/32bitまで対応する。

入力はUSB-B、光デジタル、LAN端子(RJ45)のほか、アナログのXLRバランスや3.5mmミニジャックも用意されている。低音強化用のサブウーファー出力もあり、その出力には80Hzのハイパスフィルターが動作する仕様だ。

プライマリースピーカーの背面には、0dB/-3dB の低域出力切替えがある。壁の近くや本棚などに置いた場合はバッフル効果や反射によって低音が盛り上がることが予想されるので、その場合は-3dB設定が好ましい結果となるはずだ。

本機は有線/無線LAN接続とBluetooth接続が可能で、Chromecast、AirPlay 2によるSpotifyなどのストリーミングサービスもサポートする。これもM20 やA80には無かったフィーチャーだ。また本機はRoon Ready機で、MQA デコードに対応しているのも見逃せない。

サウンドをチェック

愛用スピーカーのJBL「K2 S9900」の前に置いたスピーカースタンドに載せて4305Pの音を聴いていく。

プライマリースピーカーを右チャンネルに指定、後方の壁から 1メートル以上、側方の壁から50cm以上離したフリースタンディング・セッティングなので、低域出力は0dBに設定した。また、両スピーカーの接続はワイヤレスではなく、高音質が期待できる付属のCAT6ケーブルによるワイヤード接続に。

ここではM20、A80をテストしたときと同様に、PCではなく愛用しているルーミンのネットワークトランスポート「U2MINI」と本機をUSB接続、NAS(DELA N1A/2)に収めたハイレゾファイルや音楽ストリーミングサービスTIDALの音源を中心に聴いた。なお、入力切替えや音調調整などの操作はすべて付属リモコンで行なう。

一言でいえば、“音がぐんと前に張り出してくる緻密な音”の、米国ロスアンジェルスに本拠を置く伝統のJBL サウンドを彷彿させる爽快なサウンドだ。

その放射される音響エネルギーの揺るぎなさは格別だが、これはパッシブ(受動)素子で構成されたクロスオーバー・ネットワークを持たないアクティブスピーカー共通の魅力とも言える。

とくに強く印象づけられるのは、ヴォーカルの生々しさ、ベースやキックの実在感の確かさだ。

ローエンドはさほど伸びていないが、軽量のパルプコーン・ウーファーならではのよく弾む明るい低音で、コンプレッションドライバー + ホーンの中高域は伸びやかで、力強い。
ファンダメンタル(基音)帯域の表情の変化に見事に追随するスピーカーなので、音楽ジャンルによる得手不得手を感じさせないが、もっとも得意とするのは、やはりジャズやロックなどのハイレベル再生だ。

音量を上げていくと、音楽のスケール感がリニアに大きくなる感じで、音ヌケがきわめて良いのである。ピークが不自然に抑えられる印象がないのも、さすがJBL と思う。いっぽうで小音量でも音が痩せることなく、音楽の輪郭をくっきりと描くのも本機の美点だろう。

また、厳格に中高域の指向性を管理した最新のHDIホーンのよさもあり、ライヴ音源などサウンドステージの描写が秀逸で、ホーン型の既成概念を大きく覆すスムースな音場の広がりが得られたことを特筆しておきたい。

加えて、このHDIホーンによってスウィートスポット(L/Rスピーカーと等距離の位置)を外した場所で聴いても聴感上周波数特性に大きな変化は感じられない。指摘されることは少ないが、これもホーン型のとても大きなメリットだと思う。

こういう魅力を持ったアクティブスピーカーなので、映画やドラマの再現も得意中の得意。お使いのテレビの光デジタル出力をプライマリースピーカーとつないで、大型テレビの両サイドに置くのも、とてもよい使い方だろう。

手持ちのiPhoneと本機をBluetoothでペアリングし、Amazon MusicやApple Music の音源をワイヤレスでいくつか聴いてみた。

ルーミンU2MINIとUSB接続して聴いたロスレスのTIDAL音源やハイレゾファイルの音に比べると、ナロウレンジで痩せた音にはなるが、前回聴いたM20の同条件の音に比べると、断然好ましい印象だ。音がいっそう伸びやかで不自然さが少ないのである。

JBLが本気で開発したワイヤレス・アクティブスピーカー

JBLという老舗のスピーカースピーカーが本気で開発した力作ワイヤレス・アクティブスピーカーの魅力に唸らされた1週間。22万円は、若い人には気軽に出せる値段ではないかもしれないが、高音質音楽ストリーミングサービスをちょっといいオーディオで聴いてみたいと考えている大人の音楽ファンに、ぜひ注目してもらいたい製品だ。

単品でネットワークプレーヤー、アンプ、スピーカーを購入し、合計22万円でこの音質を得るのは絶対無理と断言する。

ふと夢想する。18歳のときに自分がこのスピーカーに出会っていたら、きっとオーディオに○○○○万円も注ぎ込むアホなジンセーを送っていなかっただろうな、そして絶対別の仕事をしていただろうな、と。ま、このジンセーに一片の悔いもないですけど(といちおう言ってみる……)。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。