レビュー
ソニーのBluetooth/NC全部入りヘッドフォン。「無線でもハイレゾ相当」の実力は?
(2016/3/24 10:00)
ソニーから、ハイレゾ対応ヘッドフォンのワイヤレスモデル「h.ear on Wireless NC(MDR-100ABN)」が3月12日に発売された。Bluetoothを搭載し、ワイヤレスでも“ハイレゾ相当”の音声伝送ができるというLDACコーデックをサポート。さらにデジタルノイズキャンセリングにも対応した待望の“全部入り”モデルだ。
'15年10月に発売された有線接続のヘッドフォン「h.ear on(MDR-100A)」は、これまでの同社ヘッドフォンから一新した本体デザインと鮮やかなカラーリングなどで、ウォークマンと共にハイレゾの浸透を図るモデルとして登場した。しかし、それでも一歩足りなかったのはワイヤレスへの対応だった。今回のh.ear on Wireless NCは、スマホで音楽を聴く人にも利便性の高いBluetoothモデルで、ノイズキャンセリングにも対応。実売35,000円前後という価格からも、ソニーのハイレゾ普及への本気度が伝わる。
プレーヤーとしてハイレゾ/LDAC対応のウォークマンA(NW-A16)や、iPhone 6sと組み合わせて、h.ear on Wireless NCの、Bluetoothやノイズキャンセリングなどの使い勝手と、音質をチェックした。
待ち望んでいた、ワイヤレスでも“隙なし”のヘッドフォン
新モデルの概要を簡単に説明すると、40mm径の「HDドライバーユニット」を備え、40kHzまでの高域をカバーするハイレゾ対応の密閉型ヘッドフォン。この点は、有線のh.ear onと同じだ。新たにBluetooth 4.0に対応し、スマートフォンやウォークマンなどとワイヤレス接続可能になったのが最大の特徴。コーデックはSBC/AAC/aptXのほか、ソニー独自のLDACもサポート。これにより、Bluetoothでも“ハイレゾ相当(最大速度の990kbps伝送時)”を実現。NFCで、対応スマホ/ウォークマンなどをかざしてペアリングできる。
さらに、デジタルノイズキャンセリングにも対応。周囲の騒音と逆位相の音を発することでノイズを低減する機能で、ハウジングの内と外に備えたマイクで高精度にノイズを抑える「デュアルノイズセンサー」により、音楽に集中できるという。
ソニーの今までを振り返ると、ノイズキャンセリング(NC)とハイレゾの両方を利用したい場合、ウォークマン「A20HNシリーズ」に付属するカナル型(耳栓型)イヤフォンや、単体イヤフォン「MDR-NC750」を使えばよかったが、“ヘッドフォン”ではハイレゾかNCのどちらかを諦めるしかなかった。“ハイレゾ相当”のBluetooth/LDACに対応したヘッドフォンは「MDR-1ABT」という製品が存在するが、NC機能までは備えていない。
今回の「MDR-100ABN」はBluetooth/LDAC/NCの全てをカバーしたことで、ハイレゾ対応ウォークマンの相棒として最適なヘッドフォンとして登場。それだけでなく、前述の通りBluetoothのコーデックはaptXやAACもサポートし、単体でNCも使えるため、iPhoneやAndroidスマホなどウォークマン以外との接続時も十分に機能を活かせる、隙の無いモデルに仕上がっている。
本体デザインは、既存の有線モデル「h.ear on」と同様に、ハウジングやヘッドバンド、イヤーパッドまで1色でまとめているのが特徴。カラーはビリジアンブルー、シナバーレッド、チャコール・ブラック、ライムイエロー、ボルドーピンクの5種類。鮮やかな色使いと、幅広のヘッドバンドは好みが分かれると思うが、カラーによって装着した時の印象が大きく変わるため、「高音質ヘッドフォンだから落ち着いた色」のような従来のイメージに囚われず、単純に好きな色が選べるのは新鮮だ。
Bluetooth/NCでも、広大な音場で繊細な描写
早速、ウォークマンAとの組み合わせで使ってみた。ペアリングは、NFCで左側のハウジング部にウォークマンをかざすと認識。ヘッドフォンからの音声アナウンスで「Power on」、続けて「Bluetooth connected」と流れ、無事接続したことが分かる。ウォークマン側のBluetooth設定でコーデックをマニュアル設定していたため、LDAC(音質優先)で接続された。
LDACの特徴を改めて説明すると、ソニーが開発したオーディオコーデックで、Bluetooth接続でもSBCなど他の圧縮とは異なり、ハイレゾ音源(DSDを除く)をダウンコンバートすることなく処理。効率的な符号化やパケット配分の最適化により、最大990kbps(96/48kHz)または909kbps(88.2/44.1kHz)でデータ送信を可能とし、“ハイレゾ相当”の高音質を実現するという。
ペアリングした状態でヘッドフォンを装着。立体縫製の柔らかいイヤーパッドで耳が包み込まれるような高いフィット感が得られる。製品名は「hear on」だがオンイヤー型ではなく、耳全体を覆うアラウンドイヤー型に分類されるだろう。このイヤーパッドだけでも高い遮音効果が感じられる。また、イヤーパッドの厚みなどでハウジング内部の空間に余裕があり、耳介(耳の外側の部分)が押さえられるような窮屈さは無い。筆者のように、やや耳が“立っている”(耳介が前方に起きている)人にとっても、長く装着した時の負担が少なそうだ。
初期状態では電源ONにするとNCも動作。このモデルはNCの利用を前提とした音質になっており、ソニーによれば「NCをOFFにしても同じ音になることを目指したが、基本の音質はNC ONの状態」とのこと。有線接続も可能だが、電源ONを前提にした音作りだという。
筆者は長距離の電車移動や飛行機などで利用する時はウォークマンのNC機能を付属イヤフォンで使っているため、騒音低減性能の高さは実感している。ただ、今回のMDR-100ABNで聴くと、耳全体を覆うヘッドフォンならではの高い遮音性で、思っていた以上に深く音楽に没頭できるのが分かる。
何曲か聴いて感じるのは、外観は派手で骨太なデザインだが、音の印象は大きく違うこと。密閉型ヘッドフォンながら狭苦しさが全くない、広いステージに響かせる音作りだ。一方、音の輪郭はシャープで、高速なシンバル連打の細かな打音も甘くならず繊細に再現されている。低域については、量感は適度に持ちながら、音像の鮮明さやスピード感の高さがとにかく際立っている。ベースやバスドラムが前に出すぎてボーカルが隠れるようなことはまずない。
山中千尋「Somethin' Blue」を聴くと、バスドラムが要所でズシッと全体を締めながらも、サックスやトランペット、ピアノなどの各ソロ部分は濃密さがしっかり前へ出てくることで、全体に立体感が生まれている。SHANTIが様々な名曲をカバーしたアルバム「KISS THE SUN」では、「ジャスト・ア・ガール」や「ダウン・タウン」で、イントロから深く沈みこむドラムによって、体が自然に動きだす心地良さを味わい、この作品の主役であるボーカルが始まると、芯の強い声へと自然に意識が向く。曲の“聴きどころ”を指し示してくれるような、丁寧な作り込みを感じる。
では、Daft Punk「Get Lucky」のように全体的に豊かな低音が特徴の曲では迫力不足かというと、そうではない。低域を、ボリュームの大きさや“コッテリ感”でうまく聴かせるヘッドフォンとは少し違って、解像感やスピード感を忠実に再現することで、全体に重厚感が生まれている。
何よりも、ここまでの音をBluetoothで実現しているのが驚き。LDAC接続時は最大990kbpsで、既存のSBC(328kbps)比で約3倍という違いは、数値だけではないことが分かる。使用中、伝送がBluetoothであることは、ほとんど意識させない。
“ほとんど”と書いたのは、色々な場所へ移動して使っていると、まれに接続の問題で音が途切れる場合があったためだ。ウォークマンを上着のポケットに入れて歩いているとき、何かのきっかけで接続状態が悪くなると、ブツブツというノイズになったり、一瞬途切れた後に早回しのように再生される場合があった。同じ場所で聴き続けている時には問題はほとんど起こらなかったが、接続の問題が少しでも起きると気持ちのいいものではない。どういった時に途切れやすいかという特定はできなかったが、例えば人で混雑するJR新宿駅の近くで、ある一カ所を歩くと必ず接続が悪くなるという場所もあった。
もっとも、接続が悪くなるのはBluetoothヘッドフォン全般に起こり得る問題で、完全に解決するのは難しい。他社のヘッドフォンを使った場合でも、何かの拍子で途切れることはゼロでは無い。ただ、前述の通りLDAC接続時は伝送量が多いため、ビットレートを落としたり、コーデックを別のものに変えることで、問題を回避できるケースがある。
今回のようにウォークマンの設定でLDACなどの“音質優先”で接続した時は、ペアリング時にウォークマン側で「再生が途切れる場合はワイヤレス再生品質を変更してください」と案内される。Bluetoothでも音質は妥協したくないが、接続環境が悪い場合は、音が途切れるよりは、“接続優先”や他のコーデックを選ぶ方が良いだろう。
なお、今回はウォークマンの設定で接続モードを変更したが、ヘッドフォン側にも接続優先/音質優先のモードが用意されている。iPhoneなどウォークマン以外を使っている時はこの機能を切り替えると良いだろう。初期設定では音質優先になっているが、ヘッドフォンのボリューム-(マイナス)ボタンを押しながら電源を入れると、接続優先モードになる。音質優先に戻したい場合は、+(プラス)ボタンを押しながら電源を入れる。
Bluetooth接続中は、右ハウジングの後方にあるジョグレバーを上下に動かすと曲送り/戻し、押し込むと再生/一時停止になる。スマホとのペアリング中に着信があった場合は、このレバーを押し込んで応答と終話の操作ができる。
NC機能はもう当たり前に?
ハイレゾ音源の良さを損なわず聴くための、もう一つの大きな要素であるNC機能についても、改めてチェックしたい。
MDR-100ABNは「AIノイズキャンセリング」を搭載し、周囲の環境音を解析。その場に応じたNCモードを自動で設定する。NCモードの種類は、旅客機などで効果的な「NCモードA」と、バス・電車などの「NCモードB」、オフィス環境(パソコン、コピー機、空調など)に対応する「NCモードC」があるが、ユーザーが特に意識することなくモードを使い分けてくれる。周囲のノイズが強くない場合はNCの効き具合も抑えることで、耳への圧迫感も低減される。
NC対応ヘッドフォンを持っている人は、電車や飛行機など特に騒音が多い場所で使う場合が多いと思う。ただ、普段の室内などで聴くときには「音がこもった感じがする」などのイメージから、使わないという人もいるかもしれない。
前述した通り、MDR-100ABNはNCをONにした音が基本のため、試しにOFFにしてみると極端な変化ではないが、密度が少し損なわれたる印象に変わる、悪く言うとややスカスカした音だ。当然、身の回りのノイズも漏れ聴こえてくるため、音にも良い影響は無い。静かだと思っていた室内でも、NCをOFFにすると、エアコンや他の家電が動作する低音が耳に入ってくるなど、普段から多くのノイズに囲まれていることに改めて気付く。
屋外で聴いているときは、さらにNCのメリットは大きい。通勤時、電車に乗っていなくても地下鉄のホームや階段を歩いていると、あまり意識していなかった「ゴー」という空調などの音が至る所で鳴っているのが分かる。NC ONだと、急にシンと静まり、外出先でも、アコースティックな音源などで曲の雰囲気に浸れる。ボリュームを上げすぎずに聴けるため、耳の安全と、周りへの配慮という意味でもうれしい。
騒音が特に大きい地下鉄の一つだと思う都営大江戸線でも試したところ、ノイズが全く消えるまではいかず、走行中の「シャー」という高めの音などはどうしても聴こえたが、ゴーッという低周波は大部分が消え、音楽の低音部分がしっかり聴こえた。ヘッドフォン自体の音質の高さとNCを組み合わせることで、屋外でもなるべくいい音で聴きたいという要求に応えてくれる。
NCをONにした方が音が良いと思ったため、このヘッドフォンを使う場合はNCをOFFにする必要はなさそうだ。ユーザーが意識する必要なく、当たり前に高い性能を発揮するという点が、NC機能の完成度の高さを感じさせる。
これまでのBluetoothに不満な人、初めてのNCヘッドフォンにも
今回試したのはウォークマンでの再生が中心だったが、スマートフォンなどBluetooth接続機器であれば、音楽再生、通話などに利用可能。手持ちのiPhone 6sで、Google Play MusicやAmazon Musicなどの配信サービスを聴いたところ、AAC接続でも、ヘッドフォンの音質の良さは実感でき、広い音場で楽しめた。LDAC接続と比べると、曲によっては音源のビットレートの低さなどが分かるものの、ハイレゾ音源でなくても、極端に満足度が下がることは無かった。
使い勝手の面では、音楽用と通話用の機器を同時にBluetoothでつなぐマルチポイント接続にも対応するため、ウォークマンとiPhoneの2台を使う人も、着信に気付かないという失敗は防げる。ただ、同時接続中はウォークマンが音楽用、iPhoneが通話用のプロファイルで接続するため、iPhoneで音楽を聴く場合は、ウォークマンのペアリングを一旦解除する必要がある(解除しないとiPhoneの本体スピーカー側から音が出る)ことは注意したい。
マルチポイント接続中は、音楽再生中に着信があった時は再生が一時停止、通話が終わると再生が自動で再開された。このほか、iPhone/iPadで音声アシストのSiriを起動して操作することも可能。iPhone/iPadとBluetooth接続した状態で、ジョグレバーを長押しすると、Siriが起動する。なお、音声でSiriを立ち上げる「Hey Siri」はヘッドフォンからは利用できない。
ケーブルの制約から解放されるワイヤレス接続が、このヘッドフォンのベストな使い道だとは思うが、接続状況が悪かったり、バッテリが少ない場合などは仕方なく有線で使う場面もあるだろう。ソニーによれば「ヘッドフォンケーブルを接続して、電源を入れて使用すればハイレゾオーディオ再生に対応する」とのことで、実際に付属ケーブルの接続で聴いてもワイヤレス接続の時とかなり似た傾向の音質だと感じる。なお、ケーブルを接続すると自動でBluetoothがオフになり、ボリュームボタンや再生/一時停止などのジョグ操作は効かなくなる(プレーヤー側での操作になる)。
試しに、ケーブル接続中に電源をOFFにして聴いてみたところ、特徴的だった広がり感が抑えられ、耳との間にフィルターでも挟んだような、こもった音に変わってしまった。バッテリが完全に無くなった時に、音を出すにはこの手段しかないが、あくまで緊急避難的な使い方と言える。内蔵バッテリでの動作時間は、NC/Bluetooth(LDAC接続)両方がONでも約20時間なので、長距離の移動でも、片道でバッテリが切れる心配はほぼ無いだろう。
スペック面から期待も大きかったMDR-100ABNは、実際に聴いた音も満足度が高く、利用シーンが幅広い。BluetoothやNCといった個々の機能で選ぶというより、どこから見ても不足がなく、家の中でも外でも、毎日使えるヘッドフォンとして申し分ないことを確認できた。
ただ、本体のデザインと色は、好みが分かれるかもしれない。従来の落ち着いたデザインが気に入っていて、インパクトの強い新モデルは受け入れづらいという人もいるだろう。個人的な好みを言えば、メーカーロゴが控えめで、マットな表面仕上げのMDR-100ABNは気に入っている。まだ飛行機でのNC機能の効果はチェックしていないので、出張などを含め、様々な場所で使い続けたいと思っている。
特に、NCヘッドフォン未体験の人や、従来のBluetooth/NCヘッドフォンの音に対して良い印象を持っていない人にも聴いてもらいたい。周囲からのノイズがNCで緩和され、これまで聴こえていなかった微かな音まで分かり、聴き慣れた曲も新鮮に感じられる体験を、多くの人に味わってほしい。
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