麻倉怜士の大閻魔帳

第26回

これがBlu-rayの最高峰。今こそパッケージメディアの意義を問う! 日本ブルーレイ大賞

今年も、ブルーレイの祭典「第12回日本ブルーレイ大賞」が開かれた。注目のグランプリはもちろん誰もが認めるあのタイトル……なのだが、そこに至る経緯が重要とは審査委員長・麻倉怜士氏の指摘。さらに、CGアニメーション頂上決戦や、映画並みにゴージャスなTVドラマ、「あえてパッケージメディア」の意義を問うなどなど、今年のブルーレイ大賞も見どころ盛り沢山。パッケージメディア・ブルーレイの最先端、見逃すべからず。

審査委員長、麻倉怜士氏。今年のグランプリは多くの人が予想した“あの”タイトル。だが、重要なのはその選出過程だと指摘。そのココロ、教えていただきましょう

――年に一度のブルーレイの祭典「ブルーレイ大賞」の授賞式が、今年も開催されました。審査委員長を長年お務めになっている麻倉先生に、今年度のアワードについて語っていただきたいと思います。

麻倉:従来「DEGジャパンアワード/ブルーレイ大賞」と呼ばれていたものが10回目から名称変更し、現在の「日本ブルーレイ大賞」となって第12回を迎えました。この様にひとつのメディアが12年かけて普及し、今尚普及途上というのは珍しい事なんです。例えばLDは81年に出てから97年辺りで終焉を迎えるので、メディア存在期間はだいたい13年くらいです。

DVDは96年に登場し、2006年のブルーレイ登場でバトンタッチしました。ただしこちらは今でも現役メディアとして、根強く流通していますね。そしてブルーレイ、やはり10年というのは一つの節目です。

この様にメディアの普及を語る時、映像と音声を比べると音声メディアは息が長い傾向にあります。実際アナログ時代のメディアだったLPもカセットもまだ健在で、レトロブームに乗って近年人気を博しています。CDは82年に登場し、世界的には退潮傾向ながら日本では今でも元気です。

対してビジュアルメディアは息が短く、ピークも退潮も短期間。何故かと言うとオーディオに比べてビジュアルは刺激が強く、興奮して次ぎに飽きられるところがあるからですね。

――加えてビジュアルはオーディオ以上に技術革新が激しいと感じます。音に比べて映像は元々のハコ(スペック)が小さく、そのためハコを大きくする技術開発の余地が音よりも多くあったのではないでしょうか。

麻倉:「高画質賞 UHD BD部門」というものがある様に、ブルーレイが面白いのは“依拠するフォーマットが変わると違わなければならない”というパッケージメディアの宿命を乗り越えたところにあります。ハイビジョンの登場と次世代規格戦争を経たことで、メディアの主役はブルーレイに取って代わられ、DVDはずっとSDクオリティのメディアという事になりました。戦争の分水嶺はメディアの記憶容量という非常に単純なもので、HD DVDは片面1層で15GBだったのに対して、ブルーレイは25GB(または23GB)。パッケージメディアにおいて、大容量は絶対正義だったんですね。

この容量の問題、現代では4K化による画素数4倍増というUHD BDの情報量をどう達成するかということで再浮上します。従来メディアではこの点を更新するために新規格に取って代わられるのですが、ブルーレイは従来と違うアプローチとして、ディスクの多層化技術と情報量の圧縮技術で対応しました。

多層化は片面4層の128GBを達成し、信号処理はMPEG-2から効率倍増のHEVCに。こういう技術革新を取り入れることで、ブルーレイはサバイバルしているのです。映像メディアのライフサイクルには乗りつつも、そこを超えて新しいメディア・高画質に対応する。それがブルーレイという強い媒体です。

サバイバルの要因はもうひとつ。今回のブルーレイ大賞の様に、メディアの中身の優劣を判断することでユーザーに購入の指針となるよう、ブルーレイ最高の作品を広く知らしめるイベントがあるのも重要なことです。実は今年の授賞式には、毎年お見えになっていた米国DEG会長のエイミーさんが来ませんでした。それどころか、そもそも今年は米国のDEGアワードもないのです(永続的な中止かどうかは不明)。米国DEGアワードはOTT作品もハード機器も評価する、かなり幅広いもの。そうなると世界的に見て、映像ソフトの品質を評価するのは日本ブルーレイ大賞のみです。そういう点からしても本アワードは非常に大切で貴重なものとなりました。

これはそれだけ日本人にとってブルーレイというパッケージが受け入れられている、という証左でもありますね。これはDEGの川合会長も力説していて、授賞式の挨拶で「DEG会員のGfKによる2019年のマーケットウォッチレポートによると、日本のセル市場における2019年ブルーレイ普及率、金額ベースでおよそ60%に到達しました。世界でブルーレイフォーマットがここまで普及しているのは日本だけなんです。日本市場とよく比較されるパッケージが強い市場はドイツ。ドイツのブルーレイ普及率は44%。フランスは30%で、オーストラリアは22%しかないんです」と熱っぽく語っていました。

――日本はパッケージ好きというのは業界の定説ですが、良いものを良いと評価する事がなければ、次の良いもの、その次の良いものが出てくる事はありません。断続的に価値観が維持され、更新されてゆく。これこそ文化にとっての生命線と言えるでしょう。

麻倉:日本ブルーレイ大賞は従来、映画もドラマも音楽もクオリティ最優先の品質至上主義で評価していました。それを10回目の名称変更に際して、クオリティ部門とカテゴリー部門の2系統に分化しています。社会的な影響(要するに売れた実績)を評価するため、インパクト・エビデンスを取り入れ、カテゴリー部門で評価するという新方針を打ち出したのです。一方で従来担っていたブルーレイ作品のクオリティ検証という部分は、クオリティ部門で評価しています。

とまあそういう事ではありますが、そもそもブルーレイは“高画質・高音質”が売りのメディアです。クオリティの観点だけではなく、社会的な評価の観点だけでもなく、当然両者の観点がある。こういったところを頭に置いて、ブルーレイ大賞を観て頂ければと思います。

DEGジャパン会長の川合史郎氏。日本が映像セルパッケージにおける普及比率60%で世界一のブルーレイ市場となったことに際して、かつてオーストラリア人上司に「もっと日本のブルーレイ普及を頑張れよ!」と檄を飛ばされたエピソードを披露。「22%の国に言われていたんですよ!」と、会場の笑いを誘った

麻倉:本年度アワードの概要とトピックについて解説しましょう。今年はクオリティ部門で高画質賞(ブルーレイ)/高画質賞(Ultra HD Blu-ray)/高音質賞の3部門、カテゴリー部門で映画賞(洋)/映画賞(邦)/TVドラマ賞/アニメ賞(洋)/アニメ賞(邦)/音楽賞/ノンジャンル賞の7部門を設置し、この中からグランプリ・準グランプリを併せて3点、加えて審査員特別賞とアンバサダー特別賞を選出しました。

まずはカテゴリー部門とクオリティ部門ですが、以下の通りです。

第12回 日本ブルーレイ大賞 受賞作品

・クオリティ部門
高画質賞(ブルーレイ) ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生 エクステンデッド版ブルーレイセット
高画質賞(Ultra HD ブルーレイ) ライオン・キング 4K UHD MovieNEX
高音質賞 アリー/スター誕生
・カテゴリー部門
映画賞(洋画) ボヘミアン・ラプソディ
映画賞(邦画) 劇場版コード・ブルー –ドクターヘリ緊急救命
TVドラマ賞 ゲーム・オブ・スローンズ 最終章
アニメ賞(洋画) スパイダーマン:スパイダーバース
アニメ賞(邦画) 鬼滅の刃 1
音楽賞 Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018
ノンジャンル賞 4K夜景 2 TOKYO HDR NIGHT

これらの中から選出された準グランプリは、「ライオン・キング」と「ゲームオブスローンズ」の2作品、本年度ナンバーワンのグランプリ作品は「ボヘミアン・ラプソディ」です。これらについては後ほど。

第12回 日本ブルーレイ大賞 受賞作品

グランプリ
ボヘミアン・ラプソディ
準グランプリ(2作品)
ライオン・キング
ゲーム・オブ・スローンズ 最終章
審査員特別賞
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス 完全数量限定 LP ジャケット版 Blu-ray & DVD 2枚組
アンバサダー特別賞
アリー/スター誕生 4K ULTRA HD & ブルーレイセット

講評について、まずはアンバサダー特別賞からお話しましょう。今年のアンバサダーを務める女優の堀田真由さんが選んだ作品は「アリー/スター誕生」。先述のように本作はクオリティ部門の音質賞も取っています。アンバサダー特別賞は個人賞なので、クオリティだけの評価では当然ないですが、音質の良さが非常に高く評価された作品であることは間違いありません。

本作は昔から何度も創作されてきた、定番のシンデレラストーリー。その最新作はレディー・ガガの主演がとても効いています。レディー・ガガと言えば自信の塊のような、奇抜なファッションが印象的なキャラが思い浮かびますが、この映画ではそうではありません。仮面をかぶった姿ではなく、自分に自信が無く周囲からも否定されるような容姿のアリーが、どの様な変身を遂げ、どうやって大スターへの階段を駆け上がるか。そういう物語です。

評価されたのは初めてスタジアムでデュエットする時の音声。コレは確かに素晴らしい。まず伴奏のギターがクリアでヌケが良い。バックバンドのサウンドも優れていて、声もクリアさやヌケ感、シャープネスがあります。男性歌手の声の太さも良いですが、やはりガガ様の空気を引き裂くような突進力のある声の鋭さを、ハイクオリティ、ハイフィデリティで出してきたことは大きな魅力です。ストーリーの面白さもさることながら、Atmosも含めた音の魅力も優れた作品で、高音質賞ノミネート作品の中で評価はダントツでした。

これだけ音の良さが際立つ作品ですから、私がやる最近のイベントでもヘビロテ入りで、先日やったAVACでのジェネレックイベントでもかけました。実はジェネレックはシアターのサラウンドで良い音を出してくれるスピーカーです。アクティブならではの反応の良さに加えて、エンクロージャー形状による音の分散特性、音場特性の癖をキャンセルするDSP処理がジェネレックの三本柱。こういった要素に対して、冒頭のギターから会場の歓声、両ヴォーカルと、このスピーカーの良さを伝えるのに最適なコンテンツがアリー/スター誕生なのです。

ガガ様がシャウトする時の、会場の歓声がよく録られていますが、これがサラウンドの中で濃密な音場感をつくっている。作品性ならではのクオリティと言えるでしょう。

アワードの本年度アンバサダーを務めるのは、女優の堀田真由さん。アンバサダー特別賞には、レディー・ガガの主演で話題を呼んだ「アリー/スター誕生」を選出
歴代アンバサダーのドレスコードとなっている青基調のコーディネイトで、堀田さんは登壇。映画意外には音楽ライブのブルーレイに興味があり、自宅にちゃんとしたスピーカーを据えて楽しみたいと話していた。堀田さん、オーディオビジュアルの世界は実に愉しいですよ!(手招き)

麻倉:音質の話が出ましたので、高音質賞の他作品についても話をしましょう。ノミネートされたのは「アラジン」「アリー/スター誕生」「ボヘミアン・ラプソディ」「ガンダム」「コードギアス」など9作品。クオリティ部門は基本的に画質賞が主戦場で、実のところエントリー/ノミネートの段階でメーカーの戦略があり、本命作品がある場合はエントリーを他所に移すこともしばしば見られます。

――やはり“ブルーレイ=映像”というイメージが強いですから、メーカーとしても音よりも絵で評価されて欲しいのでしょうね。個人的には、そういうところで変なヒエラルキーが出来て欲しくはないと思います。

麻倉:高音質賞の中で残念なのは、キングインターナショナルが居ないこと。従来ヨーロッパのコンサートブルーレイ作品を数多く輸入していて、本アワードでも高音質賞の常連でした。実際のところ高音質賞という事で言うと、映画より音楽モノの方が取りやすい訳で、元々評価が高いヨーロッパの名演作品が来ると、だいたいそれが取ってゆく傾向にあります。ですから出来れば来年、同社には是非復活してほしいと願います。その意味からすると、ボヘミアン・ラプソディは高音質賞に留まらず全部門にエントリーしています。メーカー戦略としては「どこからでも来い!」状態で、グランプリにしても「取るべくして取った」と言えるでしょう。

画質・音質の観点から言うと、ディズニーのアベンジャーズはAtmosのサラウンド効果があり、音のダイナミクスも特筆すべきものでした。そのほかの作品では、警察に来た1本の通報電話から始まるデンマークのサスペンス映画、カルチャーパブリッシャーズ「ザ・ギルティ」。これは意外なめっけ物です。電話の音が重要な手がかりで、そのクリアさが刮目に値します。

「アリー/スター誕生」はアンバサダー特別賞と同時にクオリティー部門高音質賞も獲得。Atmosサラウンドで歌い上げるガガ様のライブシーンは、ホームシアターの醍醐味が詰まっている

麻倉:次は審査員特別賞の話をしましょう。受賞作品はギャガの「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス 完全数量限定 LPジャケット版 Blu-ray&DVD2枚組」。商品名にもある通り、30cm LPサイズのジャケットが面白いんです。

パッケージメディアにおいて、これは結構重要なことです。と言うのも、コレクション欲をくすぐるトータルなパッケージ性は、ブルーレイの様な物理メディアには絶対に必要です。何せ現代はネットを介していつでもどこでも好きな作品を観られるのが当たり前の環境となっている訳で、その中で何故あえてパッケージを選ぶか、というところでパッケージメディアは勝負しなければなりません。ズバリそれは「パッケージならではの魅力があるから」。

ジャケットにしても単にディスクメディアを保護するケースに留まらず、パッケージそのものをより良く見せるデザインであり、構造であり、装飾であること。または、ライナーノーツを含めた解説が充実していること。こういった本編プラスアルファの部分というのが、実はこちらの方がパッケージにおける本質ではないでしょうか。事ここに至って、ブルーレイにはそういうところが求められるのだと私は考えます。

――これは非常に重要な指摘です。ブルーレイ大賞記事を毎年書いていますが僕はその度に「本アワードはあくまで“ブルーレイ”大賞。物語性や役者の演技の評価はいっそ他の映画賞に任せてしまおう、ブルーレイというパッケージそのものの評価をする事に本アワードの意味がある」と言ってきました。この点はアンバサダーの堀田真由さんも暗に指摘していて、授賞式後の囲み取材で「ブルーレイは基本的にレンタルして、それが良ければ買います」「特典でメイキング映像がよくありますが、それを観るのが好きなんです。そうなった(ブルーレイ特典が良かった)場合は絶対に購入しますね」と話をしていました。

麻倉:その意味で本作は、映画の持つ逞しいエネルギーや音楽の陽気さ、キューバという土地が内包する音楽的事情など、多様な切り口があってファンも多い作品です。特にLPサイズというのは、昔から音メディアの基本のメタファーの様なところがあります。パッケージメディアならではの、パンチが効いた存在感です。

本作はやはり審査員特別賞に相応しい。加えてこの賞はノミネートの有無に関わらず、審査員が一致してメッセージを出すという意味合いがあり、今回もほぼ全会一致で選出しています。これからの時代、パッケージにはどんな意味があり、またどういう意味を持たせないといけないのか。パッケージとしてどんなものが相応しいのかという、ひとつの指針を表しているのです。

審査員特別賞は「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」の数量・販路限定LPジャケット版が獲得。OTT全盛の今だからこそパッケージの価値を考え直し、その意味を問い続けることがパッケージを愛するすべての人に求められる。そんな問いかけを、審査員団は本作の受賞に込めて我々に向けて投げかけている

麻倉:ここからはカテゴリー部門の見どころをいくつかご紹介しましょう。まずは音楽賞を受賞した「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」です。昨年は安室ちゃんの引退コンサートがこの部門を取り、今年は宇多田ヒカルです。実のところ昨年の安室ちゃんコンサート、画質的な良さはあったのですが、音楽賞でありながら音はもう一声欲しいクオリティでした。つまりドキュメンタリー映像としては良かったものの、作品性としてはどうだろうというところがあったんです。

対して今年の宇多田ヒカルは絵も音もかなりクオリティが高い。単に宇多田ヒカルがツアーをした記録という以上の、作品性を持っているブルーレイソフトです。その意味では“音楽賞”に相応しいでしょう。これもやはり“売れた”ということが大前提ですが、それだけではなく作品性もきちっと評価されたタイトルなのです。

――売上実績を評価すると言えど、やはり音楽賞のタイトルは音質の良いものに輝いてほしいですよね。今後とも本作のようなライブものは是非、高音質による飽くなき興奮の追求をしてもらいたいと切に願います。

麻倉:次はノンジャンル賞を受賞した、ビコムの「4K夜景 2 TOKYO HDR NIGHT」。ビコムの特別プロジェクトは何らかのカタチで毎回必ず評価されてきましたが、今回は非常に出来が良いです。例年お伝えしている通り、ビコムはクオリティに対して極めて先進的にのめり込んでいるソフトハウスで、4年前の第9回で審査員特別を受賞した「宮古島 〜癒しのビーチ〜」は今でも高画質UHD BDの定番。リファレンス的存在として相変わらず画質チェックのヘビロテに組み込まれています。加えて前作「4K夜景【4K HDR ULTRA HD ブルーレイ】」も大変ハイクオリティで、摩耶山から見た神戸の夜景シーンは今でも画像チェックのリファレンスです。

今回素晴らしかったのは「東京ってこんなに美しかったっけ?」と思わせるところ。ビコムには意外と東京の作品が多いですが、本作は私のような首都圏住まいの人間にとっても驚きの発見をさせてくれます。ポイントはHDRの使い方がとても上手いこと。HDRの良さは光源を映しても白飛びしなかったり、光反射が上手く出たり、単なるきらめきだけでなく、高輝度部分で色情報が潰れないというところにあります。本作はそうした特徴をうまく活かしており、夜景でもSN比が良く優れた映像美が見られます。

チャプター2の東京駅、一昨年に駅前広場を含めた丸の内駅舎の復元が完成しましたが、この夜景の映像で石造りの質感が非常に良いですね。そのほかの見どころは、隅田川に輝くネオンのブリリアントな光などが挙げられるでしょう。東京ならではの光のゴージャスさがよく捉えられています。

本作はカテゴリー部門での受賞でしたが、その内容は画質賞に値するハイクオリティなものです。ビコムならではのクオリティに対する思いが表面に出たタイトルでした。

――本作はUHD BD版に加えてBD版の「夜景 2 TOKYO NIGHT」も販売されています。ですが同社の山下社長によると、もっぱらUHD BD版ばかり売れているそうです。小話として授賞式では何故かBD版のジャケットが表示され、ビコム陣営が苦笑いを浮かべたことも添えておきましょう。

カテゴリー部門音楽賞は、昨年に続いてポップスジャンルのライブソフトが獲得。麻倉氏曰く、昨年の安室奈美恵引退ライブソフトよりも、今年の宇多田ヒカルの方が音質が良い
ノンジャンル賞には、アワード常連のビコム「4K夜景2」が輝いた。授賞式のタイトル紹介パッケージ印影でUHD BD盤ではなくBD盤が表示されたのには、ビコムの山下社長も苦笑い

麻倉:そんな中でカテゴリー部門から準グランプリに輝いたタイトルが、TVドラマ賞を受賞したゲームオブスローンズです。本作の特徴は“とにかくカネをかけている”ということ。TVドラマという範疇にはとても収まらない、映画を作るのと同じくらいの作品性を持っていると言って間違いありません。

最近ハリウッドのスタジオを訪ねると、本業の映画はもちろんですが、大画面での視聴に耐える本格的なテレビドラマづくりに力を入れているんです。それもそのはず、NetflixやAmazon Prime VideoなどのOTT陣営はハナから配信によるテレビ視聴しか考えていないので、大量の資金を投入してテレビドラマを制作するのはハリウッドにおけるひとつの常識となっています。では本作はと言うと、1話につき制作費およそ1,000万ドル。巨額の制作費に見合う、非常に重厚で映像美に溢れたドラマが展開されてゆきます。

一般論で言うと、映像エンタメのヒエラルキーは映画が頂点にあり、TVドラマ以下点々と下がっていました。DVDくらいまでは特にこの傾向が強いのですが、その理由はDVDと映画との間に天と地ほどのクオリティ差があったから。

でも今はテレビが4Kだ8Kだという時代で、映画はようやく4Kになったところです。劇場だけでなく家庭でも映画作品を楽しむ時に、なんと家庭の方が高画質になってしまった、そういう前代未聞の時代なのです。これに適合した映像を如何に作るかというのが、これからの映画の大きなポイント。その意味で今やテレビファーストの時代であり、この世情を象徴するのがNetflixと言えるでしょう。

映画産業の中でも、映画だけでなくテレビドラマをテレビファーストで作る。しかもそれを映画に劣らぬ作品性とクオリティで。これにより作品の力そのものが非常に強くなり、テレビを舞台にそういうものづくりをしてやっていく。それを体現しているタイトルがゲームオブスローンズなのです。故に本作は視聴環境を整えて観るべき作品。つまり、なるべく高画質な大画面で、かつサラウンドを整えた環境で観てほしい。ご家庭で万全の体制をもって挑むに相応しい大作です。

――色んな意味で、本作は“規格外”のTVドラマだと言えますね。
こういう現状をまざまざと見せつけられると、やはり日本のTVドラマはどうなのかというのが気になってしまいます。今回のTVドラマ部門の結果を受けて、日本のドラマ製作に対して先生から何か一言頂けますでしょうか。

麻倉:先述の通り、ゲームオブスローンズは映画と変わらぬ陣容と豊富な資金環境で製作しています。コンテンツ内容から絵作り、大道具小道具に至るまで、どれを取っても映画と変わりません。対して日本のタイトルはと言うと、ドラマはドラマ、映画は映画として撮り方を分けているのが現状です。ドラマの撮り方は反映画的で、小さな画面を意識してか、パンフォーカスで画面を作りズームを多用するなど、映画とは違う、言ってしまえばお手軽な製作での作品作りが基本となっています。なのでどうしても軽薄短小になってしまう。

かと言って高画質にすれば良いのかと言うと、そんな単純な話でもありません。映画にはある種の特別なトーンがあり、その中で物語が綴られるのに対して、ドラマはSD時代から明るくクッキリ、鮮やかで、いかにもビデオ的な撮り方が主力です。

この流れに対するアンチテーゼとして、テレビ東京が4Kを始めた時にドラマに力を入れると宣言し、映画のカメラマンを撮影に抜擢しました。ズームは使わず単玉撮影に挑み、背景をぼかして主人公に視線を集めるなど、映画では当たり前の撮影メソッドを適応することで、テレビではものすごくユニークな切り口として捉えられたんです。

逆に言うと、こういう映画の文脈でドラマを作った、そういうことが日本のテレビドラマではまだ珍しいという状況と言えるでしょう。すべての意味において、残念ながら日本のTVドラマは未だにお茶の間の範囲を出られていません。

この文脈で行くと、今年は邦画が今ひとつでした。邦画賞を受賞したコード・ブルーも確かに売れ行きは良いですが、画質の観点で言うと残念ながら特筆すべきほどの中身ではありません。ここで引き合いに出したいのは、昨年邦画賞を受賞した「8年越しの花嫁 奇跡の実話」(松竹)。あの様なテーマにしてみると異様に画質が良くて色の絢爛さがあり、主演女優の魅力を猛烈に引き出していた作品でした。審査員の我々としても「邦画がついにハリウッドへ挑む領域に到達したか!」と色めき立ったものでしたが、残念ながらそのインパクトが今年は続かなかった。なんともお茶漬け的な、薄味の映像が散見され、昨年に続けなかったのは実に残念でした。これは業界として、今年の反省点です。

超弩級TVドラマ「ゲームオブスローンズ」。あらゆる面でハリウッド映画水準の作品作りが高く評価され、カテゴリー部門テレビドラマ賞から本年度準グランプリのタイトルを獲得した。日本のTVドラマも、そろそろ映画水準の作品作りを目指してほしい

麻倉:ここからはクオリティ部門の内容に移りましょう。高音質賞は既に話しましたので、高画質賞の2タイトルについてです。ブルーレイのタイトルに輝いたのは、ハリー・ポッターシリーズのスピンオフ作品ファンタスティック・ビーストの第2弾。

ハリポタシリーズは常に時代における画作りの規範となっており、ソニーのビジュアル製品におけるデモとしてもクリップがよく使われています。シリーズの特徴は全体的に画面が暗めなこと。従来で言うと暗部に対して力が入っていて物語も暗い中で進むのですが、それが普通の暗部ではなく、物凄く暗い暗部です。なので画質評価の最前線に置いても、シリーズの特定シーンで黒の階調を見ることが多々あります。

――これはシリーズそのものの性格に起因する絵作りだと僕は考えます。と言うのも、ハリポタシリーズそのものが回を追うごとにシリアスさが増してゆく構成です。加えて文化的背景を考察しても、そもそも西洋の価値観において魔法という題材そのものが、教会勢力という光に対する影の部分を煎じて煮詰めたものです。そういった事情もあるから、物語は必然的に闇の中の闇を覗き込むように進み、それに比例して画面は暗くなってゆく。なるべくしてなった暗部の映像美がハリポタシリーズの映像作品なのでしょう。

麻倉:ビジュアル的観点で言うと、単に物語に即した映像美と言うだけでなく、それが機能として画質そのものをチェックできるレベルというのが非常に魅力的です。本作はファンタジー性があり、色が絢爛で、なおかつ階調豊か。今回特に観たのはチャプター4、パリでのサーカス団のシーンで、質感豊かで色が絢爛。物語としての切り口が、ファンタジックなところをたいへん上手く映像美・色彩美に転嫁していました。コントロールが効いた絵作りが高く評価された作品という印象です。

ブルーレイ部門での受賞ですが4Kも含めて高画質映画の典型で、これぞゴージャスな画質大作と言えるでしょう。

ブルーレイ賞その他のノミネート作品は「アベンジャーズ」「トイ・ストーリー4」「男はつらいよ」「ガンダム」「コードギアス」など14タイトル。この中で素晴らしいのは、カテゴリー部門ノンジャンル賞を取ったビコム「夜景2」でした。

あと「アリータ:バトル・エンジェル」も画質的に素晴らしいですね。20世紀フォックスの自薦コメントとして「モーションキャプチャーとパフォーマンスキャプチャーによって表現された主人公アリータの、微細な表情変化が、非常に細部まで書き込まれている」とありり、これはつまりひじょうに画像情報量が多い事を示しています。色数の多さやS/Nの良さ、階調性、だけでなく、解像感の良さなど、スゴいと言っていいくらいの表現で出来ています。

本作で興味深いのは、Dolby Vision/HDR10/HDR10+という3方式のHDRに対応しているところ。と言うのも、発売元の20世紀フォックスはHDR10+陣営なので、業界政治の観点で言うとわざわざDolby Visionに対応させる必要は無いわけです。

――ユーザー的には多彩なフォーマットに対応してくれるのは嬉しい事です。いつの時代でも、フォーマット戦争で割りを食うのはユーザーですから。

麻倉:旧作分野では「シンドラーのリスト」の初ブルーレイ化も注目でした。35mmモノクロネガを4KスキャンしHDRでグレーディング、SN比が良く解像感が高い絵に仕上がりました。モノクロ世界の中で女の子だけ赤いコートを着ている、その子が無事に隠れ通すという本作において、背景のモノクロ部分が階調もSN比も良いので、赤のクリアさがより際立っていたと思います。

クオリティ部門の高画質賞(ブルーレイ)を獲得したのは、ハリーポッターシリーズスピンオフの最新作「ファンタスティック・ビースト」。暗部の描き分けをシビアに出す、仄暗い世界の奥深さを我々に見せ続ける

麻倉:UHD BD賞の受賞作は「ライオン・キング」。対抗馬は「トイ・ストーリー4」「アリータ」など、ほとんどブルーレイ賞と同じタイトルで、こちら特有のものは「ルパン三世」「4K桜」「ウルトラマンアーカイブ ウルトラQ」などが挙げられます。中でも面白いのがウルトラQ。60年代初頭の作品を4Kリマスターしたもので、ブルーレイでも出ているのですが比較すると特に黒と白の階調がUHD BD版ではよく出ていて、解像度まで上がったように見えます。実に丁寧に修復された作品だと感心しました。

惜しくも選外となった注目作としてビコムが手掛けた「4Kさくら 春を彩る華やかな桜のある風景【4K Ultra HDブルーレイ版】」も推しておきましょう。映像作品において桜は中間色が難しい、花びらが複雑で細かい動きをする、それが互いに光が影響し合い、枝ぶりも複雑に絡むという様に、制作陣の力量が試される難しい被写体なんです。

――淡い色彩で細かい要素が多いですから、桜は漫然と撮るとごちゃごちゃしたりパッとしなかったりするんですよね。かと言ってクローズアップを多用すると満開の美しさはスポイルされてダメ。派手な画調にしてしまうと、さり気ない気品や散り際の儚さといった部分が台無しになる。日本人の奥底に刻み込まれている多様な美意識と直結する被写体なので、美しい桜というのは本当に難しいです。

麻倉:そんな題材を前にして本作は白飛びと黒つぶれのプレッシャーと戦いながら、コントラストと階調にこだわりを持って作ってある。こういった挑戦は流石と言うべきです。

さて、今年のUHD BD賞はまれに見る熾烈な争いが繰り広げられた事をここでお伝えしましょう。「トイ・ストーリー4」対「ライオン・キング」、ディズニー本社対ピクサーのハリウッドCGアニメ頂上決戦です。軍配が上がったライオン・キングは準グランプリまでも獲得する“驚異の実写CG”でした。

CGには特有の“CG調タッチ”が存在し、どうしても実写にはなり得ないところがありました。ところがライオン・キングは本物以上に本物らしい質感と解像感です。なんでも「超実写版」と言うらしい、その絵は全く実写にしか視えないですが、風景も含めて全てがCG。実写もアニメも超えた技法なのです。特に毛並みの細やかさ、その動きの生々しさは動物そのものでした。

非常にリアルな映像美がありながら、同時にCGなのでどんな絵でも作れる。本物以上に本物らしい光と質感や動きで、CGだけが成し得る芸術作品でしょう。実にアーティスティックでHDRが徹底的に効いていて、色数は多く階調性も良く、毛並みも思わず触ってみたくなるよう。そんな新しい切り口のCGが今回は高画質賞と準グランプリを取ったのです。

対抗としてピクサーが作ってきたのは、透明感があり光り輝く様な従来からの質感の究極、「トイ・ストーリー4」です。シリーズを通してずっと同じタッチで、のっぺり感があるオモチャの質感でありながら、その階調性がより細かくなりました。「ホンモノに近い」という言い方が出来るかは分からないですが、描写が高度になり、より繊細でしかも絢爛な光のドラマが本作にはあります。

人工美の極致をゆくトイ・ストーリー、実写感の到達点のライオン・キング。両者ともハイクオリティながら、テイストがまったく違うのが面白かったです。

――CG映画を語る際にいつも感じるのが、60年代に米国の絵画界で出てきた「スーパーリアリズム」と呼ばれる潮流です。ある意味で写実主義の極地を更に過激に突き詰めた絵の世界ですが、これが動くとどうなるのかというのは映像趣味を持つ者としてずっと気になっています。一方でゲームの世界では、例えば「グランツーリスモ」シリーズなんかがCGによる超現実の極限を目指している。本物よりも本物らしい絵の世界には、まだまだ我々の知らない驚きがあるに違いない、ライオン・キングを見るとそんな事を思いました。

今年のUHD BD高画質賞は、ハリウッドCGアニメの頂上決戦だった。名乗りを上げたのは老舗中の老舗であるディズニーの「ライオン・キング」と、CGアニメの雄であるピクサーの看板タイトル「トイ・ストーリー4」。勝どきを上げたのは、アニメを超えた“超実写CG”のライオン・キングだった

麻倉:お待たせしました、グランプリ作品の「ボヘミアン・ラプソディ」をこれから語りましょう。

――昨年の列島に旋風を巻き起こした、フレディー・マーキュリーを中心とするロックバンド・クイーンの物語ですね。本作によってクイーンというバンドが再評価されたように思います、かく言う僕も複数回劇場へ観に行き、その度に熱狂してきました。

麻倉:注目すべきはボヘミアン・ラプソディ、実はクオリティ部門は取っていないという点。これは本アワードでは結構珍しいことで、社会的な影響を評価するとは言いながらもグランプリはあくまでクオリティを基本に選出する傾向にありました。日本ブルーレイ大賞とはそういうアワードなのです。その点で言うと本作がカテゴリー部門洋画賞からの選出というのは少々不思議に映るかも知れないですが、でも作品自身は非常にクオリティが高く、画質・音質の基本的な地力はきちんとあります。しかもカテゴリー部門の映画賞は4K・2Kを問うていません。

高品質かつ社会的インパクトもあった。その意味で昨年におけるブルーレイのアクティビティを代表するに相応しい作品が、社会的な評価というフィルターを通して生まれた。これがひとつの、ブルーレイの評価として重要なことです。つまりマニアのためのメディアというところから、一般的に「観たいものを観る時はブルーレイを買う」という流れになっている、それがボヘミアン・ラプソディがカテゴリー部門からグランプリを得た意義でしょう。ハイクオリティだからわざわざ評価するのではなく「売れたでしょう? 皆観たでしょう? 文句なしだよね」という流れです。

パッケージはおそらく100万枚近く売れていますが、その前にまず劇場で大ヒットを記録し、それがパッケージでも続きました。これ自体はこれまでも「マッド・マックス」など何度かあった流れですが、ボヘミアン・ラプソディの場合はスケールが段違いです。本作のポイントは、日本で特筆して評価を得ていること。考えてみるとクイーンは日本が特に評価したバンドであり、クイーン自体も日本に特別な思い入れがあり、来日公演もありました。実際作中ではフレディー・マーキュリーの自宅に金閣の御札が貼られていたりもしていることから、これは明らかでしょう。

そんな事から、日本社会とクイーンとの間にはとても深い関係があります。当然当時のファンが劇場へ観に行くし、その子供もついて来る。そんなディズニークラシックの様な流れが、本作にはあるのです。

――やっぱりクイーンという題材は強いと感じます。クイーンのバンド活動を詳しく知らないけれど、「We Will Rock You」や「We Are The Champions」などの代表作は耳にしたことがある……そういった人にも、クイーンというバンドが実際にどういう世界を目指して音楽活動をしていたのか、そんなところをまざまざと見せつけられた訳です。

麻倉:これを機会にして、またクイーンを愛する人達が増えました。これは音楽にとって新たな生命を得たとも言えます。

グランプリ、ボヘミアン・ラプソディ。昨年の日本映画界に空前のクイーンブームを呼び込んだ本作、アワード受賞に異を唱える人は、よもや居るまい。それが本作最大の受賞理由だった。グランプリ作品紹介クリップが、ウェンブリー・スタジアムが絶叫した「ウィーアーザ・チャンピオン」のシーンだったというのは、なかなかニクい演出だ

麻倉:そんな本作ですが、編年体によるクイーンの成長史で、最後にウェンブリー・スタジアムでのライブを持ってくる流れも秀逸です。この様な音楽編年体によるストーリーの流れは「ロケットマン」へつながってゆく、これもひとつ面白い。更に映像も凄く考えられていて、最初は緑が主体で段々と色が加わってゆくという様に、歴史を物語る色使いがテーマごとに与えられています。

えてHDRの使い方も上手いですね。例えばスタジオの上からの照明やライトなど、物語の進行を象徴する様な光があらゆる場面で多数出てきます。これらのシーンはHDRを使うことで光の中の色をキチンと出している、さり気ない演出を効果的にする、画質趣味の醍醐味と言えるでしょう。

それからパッケージ性、映画を見ただけではわからないところまで深堀りができます。本作ラストシーン、ウェンブリー・スタジアムでの伝説のライブ・エイドですが、パッケージ版には特典としてフルシーンが入っています。このシーンだけでもパッケージとしての価値があり、映画を観て感動した人も、もっと全体を観たいと思った時にパッケージ版を観ることでしょう。音の観点で言うとAtmosがよく効いていて、非常に迫力ある音を出しています。

物語や画質・音質にパッケージングと、色んな意味でまさに昨年のブルーレイシーンを代表するタイトル、それがボヘミアン・ラブソディでした。本作がグランプリとして広く日本の聴衆に愛されたのが、「2019年度3000万枚以上売れている中で」のナンバーワンタイトルとして全く相応しい。審査委員長としてそう感じさせる、今年のブルーレイ大賞でした。

歴代アワード受賞作品。来年はどんな作品がこの棚に並ぶか、今から楽しみだ

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表

天野透