本田雅一のAVTrends
AppleのHomePodは、AmazonやGoogleと全く異なるスマートスピーカーになるはずだ
2017年6月6日 15:36
例年になく新たなハードウェアの発表が続いたアップルの開発者向け会議「WWDC 2017」。米カリフォルニア州サンフランシスコからサンノゼへと会場を移して開催された同イベントだが、“チラ見せ”でAV Watchが取り扱うジャンルの……しかも極めて興味深い製品が登場した。その名は「HomePod」。ワイヤレス接続のシンプルなアクティブスピーカーである。
たかだかワイヤレスのスピーカーシステム? と訝しむ読者も多いかもしれない。しかし、製品を紹介したアップル上席副社長のフィル・シラー氏が「ホームオーディオのシステムを再発明した」という自信作は、確かに画期的なトライアルだ。
第1世代のHomePodがどこまでの完成度となるか、その結論は今年12月となる発売(グローバルでの発売は来年予定)まで待つ必要がある。その製品コンセプトは、ホームオーディオシステムの枠組みを大きく変えるものになるかもしれない。
HomePodのAppleらしさ、ユニークさとは?
HomePodは一部でAmazonのEchoに対抗する新製品と紹介されている。そして、GoogleもGoogle Homeとしてスマートスピーカーを年内に日本で発売予定で、このジャンルの製品が盛り上がりを見せているように見える。
なるほど、たしかにHomePodにはノイズキャンセリング機能を持つ6つのマルチマイクが搭載され、音楽を奏でている中でも正確に音声を拾い上げ、電子アシスタントのSiriを通じたさまざまなサービスを利用可能になる予定だ。
HomePodにはiPhone 6シリーズにも搭載されたA8というシステムチップが搭載され、インテリジェントに動作。それ自身が、スピーカーシステムとしては比較的高い処理能力を有している。もっとも、349ドルという価格はホームアシスタントとして高価(Echo Dotは49.99ドル~、Google Homeは129ドル)であり、どのような機能を提供するのか、スライドの中でさらりと触れられてはいるものの、その実力値や想定されるアプリケーション、サービスなどの具体的な機能実装は不明なままである。
しかし、オーディオ機器として捉えてみると、HomePodは既存のオーディオ技術を継承しながらも、スマートでユニークなホームオーディオ製品として極めてキャラクターが立った、他に類似する製品を思いつかないほど興味深い製品となりそうだ。
HomePodはメッシュのファブリックで覆われた円筒状の筐体を持ち、前述したように6つのマイクとビーム型ドライバユニットが搭載されている。このビーム型ドライバには強い指向性が付けられているようだ。“ようだ”というのは、まだ詳細な技術について紹介されていないためだ。
ビーム型ドライバというと、ヤマハのYSPシリーズ(サウンドプロジェクター)を思い出す方もいらっしゃるだろう。YSPシリーズはアレイ状に並べられた小型スピーカーの位置関係を考慮しながら、時間をずらすことで”位相干渉(音の波同士が重なり合うことで干渉すること)”を意図的に発生させ、音を放出する方向ごとに増幅、減衰させ、結果的に特定の方向にのみ音が放出されるよう制御する。
たとえば最上位モデルのYSP-5600は本体に44個のビーム型ドライバを配置することで多くのビームを同時に制御可能とし、7.1.2ch構成のDolby Atmosを1台のユニットで実現してしまうのだ。
スピーカーを構成するドライバユニット単体で強い指向性を出すことは難しいため、おそらくHomePodでも、ヤマハYSPと同様の技術が使われているのではないだろうか。ただし、上下方向の指向性を出すには上下にもユニットを並べる必要がある。円周上に配置された6個のスピーカーで指向性を制御しているのであれば、上下方向に強い指向性はなく、円周方向に大まかな指向性を出せる程度ではないか? と予想している。
HomePodはオーディオの新たな姿を生み出せるのか?
なお、HomePodについては発表されたWWDC会場でもデモは行なわれていないため、位相干渉を使ったビーム型ドライバであるというのは、あくまでも筆者の予測だ。しかし、円周上に小型ドライバを配置してビーム化し、さらに同じ数……すなわち6個の円周配置マイクアレイを搭載すると、さまざまなことが可能になる。
たとえば、HomePodは1台の筒状のユニットを置くだけで優れたステレオ音場を生み出せるというが、それ以前にHomePodは部屋の状況……音を反射する壁の位置や距離、特性などを把握するのだそうだ。
そのためにもっとも簡単な方法は、HomePod本体を置く位置を決めたなら、測定用マイクを接続してリスニング位置に置き、あとは自動測定する……というものだろう。しかし、ユーザー体験としてはあまり良いものではない。
そこで、HomePodは放射状に指向性を持たせ、ぐるりと360度順番に音を放出する回転させ、それをマイクアレイで拾うことで部屋の特性を計測し、外部マイクなしでの音場測定を採用しているのではないかと予想する。
このように部屋の状況を把握した上で(フィル・シラー氏が言うように)、ヴォーカルなど中央定位の音像に対しては本体正面(電源コードの正反対)に音のエネルギーを集め、左右の適切な方向に左右に定位する音像を配置。さらに背面となるスピーカーを使って壁反射の音を使ったアンビエントの音を出すことで、リッチな音場感を創り出すという。
実際の音質はチェックできないものの、円周配置のスピーカーアレイなら“それらしい音”で聴かせることも可能だろう。ポンと1台を置くだけで整った音場が得られるとすれば、やはり画期的と言えよう。
なお、フィル・シラー氏は最後に、2台のHomePodを置くことで連動させることが可能とも話していた。そうすることでステレオの各チャンネルを1台づつのHomePodで分担すれば、より良い音質と音場になるだろう。
当然だがHomePodはApple Musicと連動し、単体で音楽ストリームを再生できるようになる。もちろん、AirPlay2にも対応するに違いない。しかし、そうした機能面よりも、このユニット構成でどこまでのステレオ音場を出せるようになるのか。その登場が待たれる興味深い製品である。
なお年内に発売されるのは米英に加えオーストラリア。日本を含むグローバルでは、来年の発売が予定されている。