本田雅一のAVTrends

第209回

小型で高音質、機能も価格も揃ったサウンドバー「Sonos Ray」を聴いた

Sonos Ray(ホワイト)

製品に本当の自信があるメーカーは低価格製品だからといって“ケチる”ことは決してしない。低価格製品はそのジャンルの製品を初めて購入する“エントリーユーザー”が多数いるからだ。最初にそのブランドに触れる時、安普請で低品質だったとしたら、その次に同じブランドを購入しようと思うだろうか。

2泊という弾丸日程でニューヨークでの発表会に出席することを少しばかり躊躇していたが、そこで発表されたSONOSの新製品「Sonos Ray」は、279ドルという同社製サウンドバーでは最も低い価格で、6月7日より米国と欧州の主要地域で発売される(日本は今秋を予定)。

ニューヨークで発表会が開かれた

559×95×71mm(幅×奥行き×高さ)というコンパクトサイズと、1.95kgの軽さは、サウンドバーという製品の性格を考えれば、必ずしもプラスとは言えない。スピーカーの常識では、小さくて軽いことは音質的な不利を意味するからだ。

同社が昨年発売した小型のワイヤレス、ポータブルなスピーカー「Sonos Roam」(23,800円)は、500mlペットボトルサイズながら高音質で好評を博したが、テレビと組み合わせるなら少々大きくてもいいじゃないか、と思うだろう。

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しかし、Sonos Rayはエントリー価格の製品にも関わらず、極めて納得感のある高い質のユーザー体験をもたらす製品だった。

心地よい音場とフォーカスの良いヴォーカル。しかし、それだけではなかった

デモルームでは、ソファーが置かれた部屋にテレビ、そしてテレビを置くサイドボードの中にSonos Rayが置かれていた。

驚いたのはサイドボードの上ではなく中だったこと。棚の中に置いたのでは、棚の中に回り込んだ音が共鳴し、音質が悪くなってしまう。ところがSonos Rayは繊細なヴォーカル曲から、シンセベースが印象的なEDMの楽曲までバランスよく鳴らし、しかもヴォーカルのフォーカスがよく歪感の少ない心地よい声を楽しめる。

ピュアオーディオ的な低域再生能力は求められないが、しっかりとベースの質感も表現され、何より女性ヴォーカルの高音の心地よい響きから、男性ヴォーカルの太く厚い質感までしっかりと、しかもフォーカスが甘くなることなく表現できていた。

一方でもちろん、価格なりの品位ではあるが、その中で音楽表現が的確で心地よく、嫌な感触がない。これなら一日中、音楽を聴いていても聴き疲れせず、だからと言って音楽表現を損ねることもない。そんな音だった。

Sonos Ray(ブラック)

もちろん、サウンドバーという製品なのだから、テレビと組み合わせて使うことが最優先だろう。しかしSONOSのワイヤレススピーカーは、サウンドバーであっても音楽ストリーミングサービスを自律的に再生できる能力を持ち、ボイスアシスタントにも対応。AirPlay 2でのリモート再生にも対応する。

SONOSは「Sonos Arc」(129,800円)、「Sonos Beam(Gen2)」(59,800円)というサウンドバーも販売しており、今回のSonos Rayは最も低い価格レンジではあるが、音質面でのキャラクターには一貫性があり、iPhoneを用いて音場調整するTureplayによる音質チューニングも相まって、音楽体験はサイズを超えたものだった。

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日本での価格は未定というが、もしこれで35,000円程度のプライスタグが付くならば、ライバルは早晩、製品の見直しが必要になるだろう。

しかし、この製品の良さはそれだけではない。

サウンドバーの本来の目的であるテレビの音質改善も確実にこなしてくれる。

映画向けオーディオのポイントを押さえた音作り

“低価格だが音質が良い”とはいえ、上位モデルもあるのだから、どこかに低価格化の要素はある。Sonos Rayの場合、サウンドバーに必要とされる必要最小限の機能構成とすることでハードウェアの価格を下げているようだ。

例えば、Wi-Fiは5GHz帯には対応していない(当然、Wi-Fi 6でもない)。HDMI端子は装備していないため、HDMIのARC(オーディオリターンチャンネル)を用いたテレビとの連動もできず、従ってテレビ側からHDMIを通じた制御も行なわれない。

オーディオ入力は光デジタル端子のみで、リモートコントロールは赤外線のみの対応だ。テレビメーカーのコードを登録することで、テレビのリモコンに対してSonos Rayが反応するという仕組みだ。

オーディオ機能のほとんどはAlexa、あるいはスマホのSONOSアプリから行なえるため、実際の不自由はほとんどない(海外モデルはGoogleアシスタントも使用できる)。

Dolby Atmosの対応もないが、これもフロントだけのコンパクトなサウンドバーということを考えれば、そもそも対応の必要性があるとは思えない。Atmos対応が必要ならば、SONOS Arcなどを検討すべきだろう。

とはいえサラウンドに非対応かと言えばそんなことはなく、ドルビーデジタル、あるいはDTSの信号を入れてあげると、しっかりと大きな音場で迫力のある音を楽しませてくれる。所詮バーチャルサラウンドというなかれ。別売のSonos Oneをサラウンドスピーカーとして追加することでホームシアター環境も構築できる。

【お詫びと訂正】記事初出時、「Roamを2台をサラウンドスピーカーとして使う」と記載しておりましたが、サラウンドを構築できるのはSonos Oneのみでした。お詫びして訂正します。(5月13日11時)

と、少しばかり話が逸れたが、感心したのはセリフの聞き取りやすさ。

これはサラウンドのセンターチャンネルに対し、セリフが明瞭に聞こえるようチューニングをかけているのだという。さらにSONOSアプリを用いれば、セリフの音量を調整してより聞き取りやすくすることも可能。

包み込むような音場の大きさと明瞭なセリフ表現。この小さなサウンドバーの中で、映画向けのオーディオ製品に求められる重要なエッセンスがきちんと配合されているのだ。

発表会では、開発陣も登壇

“音楽専用音声コントロール”も

Sonos Rayは、もっともコストパフォーマンスが高い、音楽ストリーミングも楽しめるサウンドバーとしてSonos Roamに匹敵するヒット商品となりそうだ。ここまで音楽との親和性が高い(音質だけではなく音楽に関連したサービスとの親和性も含む)製品は他にないからだ。

今回SONOSは、Sonos Rayと同じタイミングで「SONOS Voice」という音声コントロールサービスも発表した。呼び出しのキーワードは「Hey, SONOS」だ。

まずは英語のみの対応で、近くフランス語対応も行なわれるという。ただ、残念ながら日本語への対応は現時点では未定となっている。

しかしそもそもSONOS製品は、Googleアシスタント(海外のみ)やAlexaにも対応している。そこに加えて自分達の音声コントロール機能がなぜ必要なのだろう。

実際に使ってみると、なるほどと思える部分があるのだが、その前に説明しておくとSONOSの音声コントロール機能とAlexaは共存することができる(Googleアシスタントとは共存しない)。

SONOS VoiceでもAlexaでも、必要に応じて使い分ければいいのだが、SONOSの音声コントロールは音楽再生に特化しているところが、使い勝手に大きな違いをもたらしている。

多くの音声アシスタントはさまざまなスキルを備えているため、いちいちスキル名を指定しなければならなかったり、音楽ストリーミングやラジオ配信のサービスを指定せねばならない。

しかしSONOSの場合、SONOSのスピーカーで音楽や音声のストリーミングサービスを使うことが前提だから、いちいち同じ言葉を何度も発言する必要はない。

例えば「Apple MusicでXXXを再生して」と最初にいうことはあっても、その後はApple Musicであることを明示する必要はない。またSONOSは独自のインターネットラジオチャンネルも開設したので、気分やタイミングに合わせての音楽をかけてほしいという依頼にも柔軟に対応できる。

SONOSアプリでできることは、たいていの場合、すべて音声で操作でき、また機能の範囲が狭いため音声の認識精度も高いようだ。日本語になったとき、さてどこまで体験レベルが高まるかには注目したいところだが、ひとまずこの機能に関しては肯定的。あるいは他ワイヤレススピーカーに対する大きなアドバンテージになるかもしれないと思っている。

なお、この機能はBluetooth経由でも利用可能。SONOS製品は基本的にWi-Fiを通じて自律的にインターネットのサービスにつながるが、Bluetoothスピーカーとして利用している場合は、スピーカー自身がコマンドを認識して接続されているスマートフォンを通じてコマンドを実行する。

人気のRoamに自然をテーマにした3色

最後に昨年発売され、日本でSONOSの認知を広げることに大きく寄与したSonos Roamに、新色が追加された。

これまではホワイトとブラックの2色展開だったが、ここにOlive(オリーブグリーン)、Wave(オーシャンブルー)、Sunset(サンセットオレンジ)が加わる。

いずれも防塵・防滴設計で長時間のバッテリ駆動を実現できるSonos Roamの特徴をイメージし、アウトドアでのアクティビティにインスピレーションを受けたものとのこと。価格はそのままだ(23,800円、国内発売は今夏)。

Sonos Roamに新色が追加される。左からSunset、Wave、Olive

日本では2018年の参入であまりブランドとして知られていない同社だが、実は2005年にネットワークオーディオプレーヤーをリリースした時から、一貫してユニークな存在であり続けてきた老舗だ。

そしてAppleが力を注いでいるにもかかわらず、グローバルでは圧倒的な存在感で他の追随を許していない。なぜなのか? それはSonos Rayのリーズナブルな価格と、そこから出てくる音の質を聴けば理解できるだろう。

オーディオ製品は結局のところ音質が命だ。音が悪ければ、どんなに素晴らしいデザインと性能があったとしても、誰も欲しいとは思わない。

結論は体験会ではなく、自分自身の環境での評価の後に出したいが、まずはニューヨークまで足を運んだことに後悔はない、とお伝えしておきたい。

本田 雅一

テクノロジー、ネットトレンドなどの取材記事・コラムを執筆するほか、AV製品は多くのメーカー、ジャンルを網羅的に評論。経済誌への市場分析、インタビュー記事も寄稿しているほか、YouTubeで寄稿した記事やネットトレンドなどについてわかりやすく解説するチャンネルも開設。 メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。