本田雅一のAVTrends
第195回
ネットワークスピーカー最強!? 世界で売れてる「SONOS」の凄さ
2019年8月16日 08:00
そのブランド名を最初に聞いたのは、ずいぶん前のことだ。筆者は2000年ぐらいからLANを通じてデジタル音楽ファイルを再生するネットワークプレーヤーに注目し、さまざまな製品を購入、使い続けてきた。squeezebox(現在はLogitech、日本ではロジクールが買収している)などがその代表例だが、ネットワークオーディオ初期から生き残り、そしてグローバルでナンバーワンの座にあるブランドがある。それが「SONOS」だ。
SONOSは2002年に起業し、他のネットワークオーディオ事業者が使いにくいUPnPやファイル共有プロトコルを用いた音楽共有のシステムを模索していた中、標準技術を用いながらも独自の実装で使いやすさを実現するシステムとして知られるようになり、“日本以外の地域”では存在感を高めた。
その後、紆余曲折の中で様々な機能を統合。多様なサービスに対応するSONOSのシステムは、海外では着実に存在感を増していって、いまやスピーカーを出荷するメーカーとしてはグローバルのトップメーカーだ。SONOSのシステムを保有する世帯は700万、1,900万台(2018年8月時点)が使われている。
ところが、日本への参入は2018年10月と極めて遅かった。すっかりネットワークを用いたオーディオ機器が市場に馴染んだ後の参入は、日本のユーザーには“後発”とうつるかもしれない。しかし、新製品のSONOS Ampを他の主力製品と共に使ってみると、売れている製品の実力を認めざるを得なかった。
SONOSが提供するネットワークオーディオのサービス、アプリは、実に多様な使い方、サービス、コンテンツに対応し、家庭内にあるすべてのSONOSを同期させ、柔軟な設定で自由に設置できる。おおよそ考えられる限りの使い方に対応できるにもかかわらず、エンドユーザーが自分自身で設定できる容易さも兼ね備えている。
さらにSONOS Ampという製品では、クアルコム製の最新デジタルアンプモジュールを採用したアンプ部の品質も高く、おおよそ7万円という価格はバーゲンとも言える質の高さだ。
オーディオシステムをピュアに追求したいのであれば、もちろん、他にもっと多くの選択肢があるだろう。しかし好みのスピーカーを使ってネットワークオーディオシステムをシンプルに構築したいなら、他に選択肢はないほどユニークな存在だ。
AIスピーカーではあるが、AIスピーカーではない?
SONOSの主力製品は「SONOS ONE」(直販23,800円)というモノラルのネットワーク対応アクティブスピーカーだ。このように書くと、よくあるAIスピーカーの類似品と思われるかもしれない。実際、SONOS ONEはGoogleとAmazon、両方のAIアシスタントサービスに対応しており、いずれとも連動させることが可能だが、SONOSはもっと幅広い機能とサービスを提供している。
まずは、SONOSというシステムの特徴を整理するところからコラムを始めることにしよう。
SONOSはAIスピーカーが普及するはるか前から存在している。起業は2002年で、最初の製品は2005年2月に出荷された。もっとも基本的な特徴は製品同士が相互に通信しながら自律的に機能する、メッシュ型ネットワークで動作する点にある。
たとえば前述のSONOS ONEはモノラルスピーカーだが、別のSONOS ONEを追加するとステレオになったり、あるいは別の部屋に設置して同じ音楽、別々の音楽を再生するといったマルチルーム再生をパソコンやスマートフォンなどのアプリから一括管理できる。
各スピーカーはWi-FiやEthernetといったLANで完全な同期が保たれ、自由にステレオスピーカーのペアリングを行なったり、あるいはサラウンドスピーカーを割り当てて4チャンネルサラウンドにすることも可能だ。アナログのLFE出力もSONOS Ampには備わっているが、ワイヤレスサブウーファーのSONOS Subもラインナップには存在している。自動設定対応の置くだけという極めてスマートなサブウーファーで、高価ではあるが(直販81,800円)同時に効果的なので隠れたオススメである。
このように宅内にあるすべてのスピーカーを、ネットワーク内で自由に構成できるインテリジェント(自律的に機能する)スピーカーシステムなのだ。SONOS自身がオーディオストリームを解釈して再生するため、対応するプラグインを追加することで、DLNAやHomePNAなどを通じてLAN内で共有される音楽ファイルだけではなく、さまざまな形式のインターネットラジオやオーディオストリーミングサービスにアクセスできる。
グローバルでもっとも売れているネットワーク対応スピーカーであるため、配信地域に制限があるTIDALやQobuzなどのサービスを除けば、米欧のほとんどのサービスが利用できる(ただし、日本ローカルのサービスは対応していないことが多い)。その数は日本から接続できるものだけで50以上で、さらに増え続けている。
近年はSONOSにもマルチマイクが装備され、前述したようにGoogle AssistantやAlexaを用いた音声コントロールへ対応しているため、それらのスキルを通じてradiko(ラジコ)などを使うことも可能だ。
もちろん、インテリジェントに動作しているため、スマートフォンやパソコンアプリを閉じても再生が中断することはない。
一方でAirPlay 2にも対応しているため、Macなどから外部スピーカーのように扱ったり(動画とのリップシンクも完璧に取られる)、Apple HomeKitを通じたSiriでの再生制御も行なえる。
このように独自の柔軟なネットワークオーディオの枠組みの上に、各社のオーディオアプリケーションやサービスが載っている形だ。日本ローカルのサービスに(AIアシスタントサービスを経由せず)直接繋ぎたい場合を除けば、SONOSを選んでおけばほぼ困ることがないという万能性が、このブランドの価値を高めている。
第2世代DDFAアンプ搭載で良好な音質
さて、そんな全体像を持つSONOSだが、昨年より製品ラインナップのリフレッシュが進行していた。SONOS Oneがその代表例だが、HDMI ARCに対応するサウンドバーとしても使えるSONOS Beamも含め、近年のトレンドに適応した設計・仕様へと調整したとも言えるだろう。
いずれもスマートフォンアプリ(とマイク)を用いて簡易的な音場補正を行なえるなど、適当に設置しても、心地よい音が楽しめるよう自動調整するなどの工夫が施されている。こうしたスマートスピーカーの新製品ラインナップとは別に、SONOSのシステムを内蔵したネットワークオーディオ再生機能付きプリメインアンプとして開発されたのが7月に出荷が開始されたSONOS Ampだ。
SONOS Ampはバナナプラグ対応のスピーカー出力を持ち、タッチパネル操作も可能ではあるがマイクは内蔵していない。このため音声コントロール機能を利用する場合は、別途、SONOS Oneなどと組み合わせる必要がある(Amazon Echoなどと連動させることも可能)。
内蔵アンプはクアルコムの第2世代デジタルアンプ「CSRA6620」が採用されている。
このデジタルアンプは、もともと英ケンブリッジを拠点としていたCSRが開発していたDDFA(Direct Digital Feedback Amplifier)方式を採用したモジュールだ。CSRはクアルコムが買収し、それ以降、クアルコム製品として出荷されている。
特徴はデジタル領域で信号比較を行ないながらフィードバックをかけるデジタルフィードバックと、最終的なアンプのアナログ出力をデジタル変換し、入力信号との差分をフィードバックすることでS/Nを改善するアナログフィードバックを組み合わせ、特性を高めている点にある。
1チャンネルあたりの出力は125Wと充分だ。デジタル入力はPCMが最大384kHz/32bit、DSDが5.6MHz(DSD 128)と必要充分なもので、全可聴帯域において歪み率は0.001%以下。ダイナミックレンジは117dB以上と優秀。残留ノイズも60uV以下で、総合的な評価でもアナログアンプなみのクリーンな特性を備えている。
2017年にこのアンプモジュールがリリースされると、デノンが真っ先にPMA-50で採用したが、その時からデジタルアンプらしいコンパクトかつ低発熱、しかも駆動力が高いという特徴に加え、アナログアンプに近い細かな情報量を伝えるSNの良さに感心した。近年、このアンプモジュールを高級オーディオメーカーがアクティブスピーカーに採用しているのも当然の流れ……そう思うだけの実力があるアンプモジュールだが、実際にSONOS Ampに組み込んだ状態で評価しても、総合的な音質は良好だ。
空気感を表現できる情報量の多さに驚く
SONOSはシステマチックでスマートな、ネットワーク時代の洗練されたシステムで、伝統的なオーディオの価値観とは無縁のものという印象だったが、SONOS Ampは質の高い、また駆動力のあるデジタルアンプを搭載したことで、オーディオ機器としてのパフォーマンスと最新オーディオデバイスの利便性の両立を実現している。
SONOS Ampは個人的に購入した製品なのだが、書斎にあったシステムを完全に置き換えてしまった。パソコンで仕事をしながら音楽を楽しむ、わたしの書斎における主役になるとは想像していなかっただけに、意外な驚きだ。
書斎ではmhiというメーカーのEvidence MM01Aという小型スピーカーを使っているが、試しに知人宅に持ち込みプレミアムクラスの4ウェイスピーカーLINN Akurate 242SEに接続してみた(筆者はマルチアンプ方式のアクティブスピーカーをメインシステムとしているため)。
このスピーカーは端正なデザインとは裏腹に、パッシブで鳴らす際のアンプ側に瞬発力が要求される。キレイに鳴らすことができれば、フォーカスの定まった細書きの筆で絵書き込んだような精緻な、そして透明感のある音場が浮かび上がる(筆者はこのスピーカーを使っていたことがあった)。
比較的あっさりとした描写だが、息切れを見せる感もなく余裕で駆動。Akurate 242SEしていた。このあたりは効率の良いデジタルアンプならではの駆動力だ。あっさりとした描写は、アンプ特性というよりも、D/Aコンバータのフィルタ設定によるものではないかと思われる。
実際、SONOS Ampの良さは、単に駆動力があることではない。デジタルアンプならこのぐらいの駆動力はあるものだ。あっさりとはしているが、一方で細やかな情報が失われ、音像ばかりでニュアンスが失われ、音場に漂う音の密度が低いといったデジタルアンプの悪癖は感じられない。
それはアナログ入力で顕著だ。RCAピンプラグのアナログ入力にOPPO Sonica DACを接続してみると、グッと中域の情報密度が上がり厚みが出てくる。パワーアンプの素性は極めて優秀と言えるだろう。
製品連携も快適。SONOS Oneを用いたシステム拡張
SONOSのシステムで最も驚かされるのは、冒頭でも紹介したようにネットワークで多数のSONOSデバイスを連動させても、その“隊列”が乱れないことだ。
複数のSONOSデバイスをバンドルし、同じ音楽ストリームを再生させると、接続が有線であろうと無線であろうと、すべてのスピーカーは見事に同期して同じように同じ音楽を奏で始める。
2個のSONOS Oneをステレオ使いにすることもできると紹介したが、2つのSONOS OneにAirPlay 2で映像の音声を出すと、直接は接続していないふたつのスピーカーからステレオ音声が出力され、さらにはリップシンクまで取られる。世の中進歩したものだ。
サラウンド環境も無線で構築できるのでは? と設定を見ると、やはりサラウンド設定がある。そこでSONOS Oneを2台借り、4チャンネルのサラウンド設定で使ってみた。
ステレオ音声再生時、サラウンドチャンネルから何を出すかは設定で変更できる。ステレオ音声をそのまま後ろからも出すモードと、アンビエント成分のみを再生するサラウンドモードだ。なお、SONOS Oneの内蔵マイクやタッチ操作はサラウンドでも利用可能。つまりSONOS Ampが音声対応し、Alexaなどを通じてradikoが聴けるという嬉しいポイントもある。
実際に聴いていたところ、位相差成分のみを抽出しているというわけではなく、フロントに近い音を、音量を抑制しながら出しているようだ。
HDMI ARCから入るサラウンド音声には効果的だが、ここにひとつだけSONOS Ampの弱点がある。これはSONOS Beamでも同じなのだが、HDMI出力を備えていないこともあるのだろう。HDMI ARC(オーディオリターンチャンネル)でしか繋がらない。
たとえばパソコンのHDMI出力や、HDMI出力が2つあるプレーヤー/レコーダーを接続したくともARCではないため受け付けてくれない。HDMI ARCに絞るのではなく、一般的なHDMI信号も受けて音声のみを再生してくれれば問題解決するのだが……。
とはいえ、マルチルームの同期再生も含め、SONOSが自宅内に複数あるとどんどん便利になっていく。
一度投資すれば、買い足すことで価値が上がっていくというのは、ネットワークで同期しながらシステムが増殖するSONOSならではの価値観だ。