大河原克行のデジタル家電 -最前線-
接続率50%へ。異次元のネット接続提案を行なうパナソニック新VIERAの戦略
(2013/4/23 11:00)
パナソニックが、4月下旬から発売する薄型テレビ「VIERA」シリーズの新製品は、これまでのテレビとは一線を画すものとなっている。「新たなVIERAシリーズで目指したのは、大画面化を加速するとともに、ネット接続を前提としたスマートテレビの提案」というように、パナソニックは新製品の方針を語る。
ネット接続を前提とした提案という点では、テレビの初期設定において、受信チャンネル設定の前に、まずはインターネットの設定から行なうことや、電源を入れた時にも「マイホーム」と呼ばれる画面が最初に表示されることからもわかる。
パナソニックが新たなVEIRAに込めた想い、そして、それによって実現されるスマートテレビの世界とはどんなものなのか。パナソニック 日本地域コンシューマーマーケティング部門コンシューマーマーケティングジャパン本部AVCグループテレビチーム・千田康一チームリーダーに話を聞いた。
次元が異なるネット接続への提案
この3月で終了した2012年度の国内テレビ市場は、オリンピック需要での盛り上がりが期待されたものの、地デジへの完全移行に伴う需要後の大幅な反動もあり、厳しい環境を余儀なくされた。
2012年度の国内テレビ出荷は、575万台前後に留まったとみられ、2010年度の2,568万台、2011年度の1,660万台から大幅に縮小している。
そして、テレビメーカー各社が赤字に転落し、テレビ事業の構造改革に挑まざるを得ない状況に陥っているのは周知の通りだ。
だが、そうしたなかでも、テレビメーカー各社は、この1年をかけて、テレビのコンセプトそのものの改革に取り組んできた。その結果が、各社が発表したテレビの新製品づくりに表れている。
高解像度技術の進化や、4Kテレビへのシフトを鮮明にしたり、大画面テレビを事業の軸に据えるメーカーなど、各社各様の戦略を打ち出していることが新製品発表を通じて感じることができる。
そうしたなかで、パナソニックが前面に打ち出してきたのが、ネットに接続したテレビの進化であった。
パナソニック 日本地域コンシューマーマーケティング部門コンシューマーマーケティングジャパン本部AVCグループテレビチーム・千田康一チームリーダーは、「テレビをインターネットに接続することによって、新たなテレビの楽しみ方を提案するのが、2013年のパナソニックの提案」だと宣言する。
とはいえ、パナソニックがネット接続を打ち出してきたのは今年が初めてではない。2007年のアクトビラへの対応を皮切りに、2008年には「テレビでネット」をキャッチフレーズに、YouTubeやSkypeに対応。2011年からはVIERA Connectによる各種ネットサービスも提供してきた。
だが、「今年のVIERAは、昨年までのVIERAとは次元が異なるほど、ネット接続に力を注いだものになっている」と千田チームリーダーは語る。
それは昨年までの反省を生かした結果導き出した、パナソニックならではの回答ともいえる。
実は、パナソニックでは昨年、スマートVIERAの発売によって、同社製品におけるネット接続率を50%以上にまで高める計画を持っていた。しかし、結果としては、20%強の接続率に留まってしまった反省がある。
「欧米では50%を超えているネット接続率が、なぜ、日本では高まらないのか。要因を分析してみると、日本では、テレビとネットの世界が乖離していること、テレビでネットコンテンツを利用する必要性を感じていないといったこともある。そして、それ以前に、インターネットへの接続設定を難しく感じてしまう、ネット利用時に操作がしにくいといったことがあげられた」と、千田チームリーダーは語る。
その一方で、家庭内への無線LAN普及率は75%に達していること、多くの人がテレビにネットを接続できるという事実を知っているというポジティブな要素もあった。
「接続設定や操作のストレスを解決するために、簡単な設定や操作を実現できれば、ネット利用による新たなテレビが提案できる」というのが、今年のVIERAの基本的な考え方だ。
起動時の表示が番組のフルスクリーンではない理由
その解決策において、最大のポイントとなるのが、「マイホーム」である。
マイホームは、「見る人の生活シーンにあわせて、テレビをつけたらすぐに楽しめる」というコンセプトで開発されたものだ。
従来のスマートVIERAが、テレビ専用のアプリによって、ネットコンテンツを使いやすくすることを目的としていたのとは意味合いが大きく異なるものだ。
「テレビのホーム」と呼ばれる画面では、テレビ番組のほか、各局が現在放送中の裏番組のメニューや録画一覧、VIERA Connectなどのネットで提供されるコンテンツが、サムネイルで同時表示される。いつでもネットに行けるという環境が用意されているのだ。
もちろん、これまでのテレビのように、起動時にテレビ局が放送している番組をフルスクリーンで表示する設定も可能だが、購入後に、自分で設定を「マイホーム」などの画面に、簡単な操作で、変えることができる。
「スマートテレビの新たな世界を実現するには、マイホームを標準設定にして出荷すべきといった声も社内にはあった。最後の最後まで、その点は何度も議論した」ということからも、パナソニックが新たなテレビに挑戦しようとしていたことがわかる。
電源を入れた時に表示される映像が、テレビ番組のフルスクリーン表示に設定されていない初めてのテレビということさえも、視野に入れた製品だったというわけだ。
【訂正】
記事初出時に「マイホームを標準設定として出荷」としていましたが、ユーザーによる出荷後の設定変更が必要になります。(4月24日)
新たなVIERAでは、「テレビのホーム」以外にも、天気予報やメモ、カレンダーなどを表示する「くらしのホーム」、よく見るサイトを一覧表示する「ネットのホーム」を用意。さらに、個人の趣味にあわせた独自のページも用意でき、フルスクリーン表示を含めて、全部で8種類のホーム画面が設定できるようになっている。
このようにテレビとネットをひとつの画面から操作できる環境になっており、テレビ、ネットといったソースの違いを問わずに、家族それぞれが知りたい情報を画面に表示することができるのが大きな特徴だ。
また、テレビを購入して最初に設定する作業がネット接続というのもこれまでのテレビにはないパターンだ。
従来の薄型テレビは、まずはテレビ視聴をするために、視聴エリアごとのチャンネル設定から行なうケースが多く、ネット接続の設定は最後の方に行なうのが一般的であった。
ネットにつなげることを前提として、初期設定作業を行なうのは、今年のVIERAの購入者にしかわからない隠れた特徴だといえる。ここにもネットを前面に打ち出した新VIERAのコンセプトが見え隠れする。
プラズマテレビのVT60シリーズおよびGT60シリーズ、液晶テレビではFT60シリーズ、DT60シリーズ、E60シリーズ、X6シリーズにおいて、無線LAN機能を内蔵しており、簡単な操作で無線LANに接続できるようにしている。
音声認識がネット利用を促進させる
そして、ネット利用をさらに促進しているのが、付属のマイク内蔵リモコンを使用した音声入力機能である。パナソニックは、マイホームとマイク内蔵リモコンの組み合わせによって、テレビでのネット利用を次元の違うものに変えた。
テレビを見ていて検索したい言葉があった場合、リモコンのマイクに向かって話せば、自動的に検索してくれる。検索ワードだけを話した場合には、そのあとに検索サイトからの検索なのか、画像や動画、録画一覧からの検索なのかといったことを選択するメニューが出るが、「○○をインターネットで検索」としゃべれば、検索ワードを直接、Googleで検索してくれる。
これまでのテレビは、リモコンの文字入力における操作性の悪さから、検索ワードの入力などに手間がかかり、結果として、使われなくなるという悪循環が起きていた。だが、これが音声入力で一気に解決される。
実際に、マイク内蔵リモコンを試してみたが、この音声認識率はかなり高く、ネット利用のハードルをかなり低くする。
マイホーム機能は、5シリーズ13機種に搭載されているが、マイク内蔵リモコンは、VT60シリーズ、FT60シリーズにのみ標準搭載されている機能。これは早い段階で、多くの製品に搭載してほしい機能だといえる。
なお、音声機能は、テレビ視聴時のチャンネル変更や音量変更などにも利用できる。
また、VT60シリーズとFT60シリーズの2つのシリーズでは、顔認証機能に対応しており、VT60シリーズでは、マイホームにおける音声操作時にカメラが起動し、操作している人の顔を自動的に認識して、その人のマイホームに簡単に移動することができる。
パーソナライゼーションではなく、家族で楽しむ提案
マイホーム機能は、今年1月に米ラスベガスで開催された2013 International CESで、「my Home Screen」として発表していたものであり、その際には「パーソナライゼーション」という言葉ととともに機能が紹介されていた。
今回の国内向けVIERAに搭載したマイホーム機能も、個人ごとに自分の画面を設定できる点では、テレビのパーソナライゼーションという言葉が当てはまるが、日本では、その機能を活用しながらも、家族のための「マイホーム」機能という打ち出し方を強調する姿勢をみせている。
「日本の家庭には、家族が集まってテレビを視聴するという姿がある。『マイホーム』機能によって、個人個人が楽しむテレビを実現できるのは事実だが、テレビ視聴の際に、ネットもストレスなく利用できるようにすることで、家族が揃って楽しむテレビを提案したい。子供がテレビ番組を見ていてわからないことがあれば、ネットを使ってお父さんが検索してその場で教えてあげる、といった、家族のコミュニケーションが生まれることも期待したい」とする。
マイホームによって、家族が楽しむテレビの提案をしていくのが、新製品の訴求方法のひとつになりそうだ。
大画面戦略で10インチのサイズアップを提案する
今回の新VIERAで、パナソニックが訴求するもうひとつの提案が、大画面化である。
ここでは、既存製品からのインチアップの提案と直結させる考えだ。
「薄型テレビの買い換えサイクルは7年。需要がデジタルテレビからデジタルテレビへの買い換えとシフトしたなかで、同じスペースで10インチものサイズアップが可能なことを提案していきたい」と、千田チームリーダーは語る。
2003年に発売した32型液晶テレビのTH-32LXの場合、サイドスピーカーとなっていたこともあり、横幅は100.0cmとなっていた。これが2013年モデルの場合、42型のTH-42FT60の横幅が95.6cm。32型テレビが設置してあった場所に、42型が設置できるということになる。
また、2003年モデルの42型プラズマテレビのTH-42PX20の横幅が114.0cmであったのに対して、2013年モデルの55型液晶テレビのTH-L55FT60は123.8cm。左右に4cmずつスペースがあれば、ほぼ同じスペースに10インチ大きなテレビが収まるというわけだ。
「狭額縁のデザインによって、こうしたインチアップの提案ができる。市場全体では、2012年度には50型以上の構成比は6.3%だったが、これがまもなく10%を超えるだろう。パナソニックは、13~15%程度にまで50型以上の構成比を高めていきたい」とする。
大画面化に向けては、VT60シリーズでは、最新のプラズマパネルとなる「フル・ブラックパネルIVプラス」を搭載し、赤色蛍光体を採用することでより鮮やかな色再現力を実現したほか、新超解像技術の「ファインリマスターエンジン」を搭載。さらに「ハリウッドカラーリマスター」によって、映画オリジナルの豊かな色も再現しているという。また、液晶テレビでは、1フィールドごとに検出した映像の特徴に応じ、LEDバックライトの光量を制御する「コントラストAI機能」のほか、映像の質感を高める「キラメキ復元効果」を搭載。SD映像のノイズを抑え、見やすく補正する「ランダムノイズリダクション」も搭載している。これらの機能により、大画面化した際の映像表現にもこだわりをみせた。
なお、そのほかの機能として、プラズマテレビ「VIERA GT60シリーズ」では、タッチペンにより、テレビ画面に表示した写真などに直接文字や絵を書いて、スマートフォンなどに転送できる機能を搭載。そのほか、主要機種では、スマートフォンやタブレットとのコンテンツ共用が可能な「VIERA remote2」にも対応している。
新VIERAでネット接続率50%を目指す
2013年度のパナソニックの薄型テレビ事業においては、まずは、ネット接続率が重要な指標となる。
千田リーダーは、「今年は、なんとしてでもネット接続率50%以上を達成したい」と語る。
パナソニックがこの段階でネット接続率50%を目指す背景には、VIERA Connectによる収益確保といった側面もあるが、今後のホームセキュリティシステムとの連動、家庭内の電力管理をはじめとするHEMS連携などにおいても、ネット接続が不可欠になるという点が見逃せない。住宅事業を将来の柱に据えるパナソニックの将来的なビジョンに照らし合わせても、「リビングの中心だったテレビを、家の中心へと置き換えるには、ネット接続は不可欠」という戦略は明らかである。
パナソニックでは、新VIERAの購入者を対象に、ネット接続を行なうと最大1万円のキャッシュバックを行なうキャンペーンを5月31日まで実施する。
「VIERA購入者にネット接続に関心を持ってもらうこと、そして、量販店店頭においては、ネット接続が可能なテレビの商談を、お客様に切り出すためのきっかけになればと考えている」とする。
機種数を大幅に絞り込み、訴求ポイントを明確化
ネット接続率の向上は、パナソニックの次の一手に向けた重要な一手になるといえよう。
だが、その一方で、テレビの機種数は大幅な絞り込みをみせる。
2102年度のオリンピック商戦においては、プラズマテレビでは42型~65型まで9モデル、液晶テレビでは19型~55型まで25モデルをラインアップしていたが、今年の商戦ではプラズマテレビでは50型~65型までの4モデル、液晶テレビでは19型~60型までの16モデルに絞り込んでいる。
このようにラインアップを絞り込んだなかで、訴求ポイントを明確化。スマートテレビに的を絞った、パナソニックならではの優位性を訴えていくことになる。
「ようやく本格的なスマートテレビが登場してきたという評価を販売店からいただいている」と前評判は上々だという。
2013年モデルのマーケティングメッセージは、「あなたに合わせて、テレビが変わる」。テレビの変化を前面に打ち出したものとなっている。
電源投入後に、テレビ放送をフルスクリーン表示しない新たなテレビが、市場からどんな評価を受けるのか。パナソニックのテレビ事業の新たな挑戦が始まる。