藤本健のDigital Audio Laboratory

第792回

新iPad Proをオーディオ/電子楽器として使ってみる。USB Type-Cで劇的便利に

すでに購入されたという方も多いと思うが、11月7日にiPadの新モデル、12.9型のiPad Pro、および11型iPad Proが発売された。CPUが高速化したり、グラフィック性能が上がったり、Apple Pencilが強力だったり、FaceIDに対応したり……と進化点は様々だが、iPadをオーディオ機器、電子楽器と捉えた場合、最大の変化点はLightningからUSB Type-Cに変わったこと、そしてヘッドフォン端子がなくなったことだ。これがどんな変化をもたらしたのか、オーディオ性能的にどうなのか、11型を購入してみたので、レポートしたい。

11型のiPad Pro
LightningからUSB Type-Cに変わった

よりオープンなUSB Type-Cに

これまでiPhone、iPadの拡張端子はApple独自のものが使われてきた。第一世代では30ピンのDockと呼ばれるものが使われ、その後はLightningが使われてきた。いずれも単にApple独自仕様というだけでなく、ライセンス管理もしていたので、ハード的に同じ形状であってもAppleが認可していない機器を使えなかった。つまりメーカーはAppleにお金を払ってライセンスを受ける必要があるし、ユーザーはライセンスされた高い製品を買わないと動作が保証されないという縛りがあったのだ。

非ライセンスであっても動作する製品をメーカーが作っても、OSのアップデートで使えなくなる、というイタチゴッコも繰り返されてきた。Appleとしては、ユーザーに粗悪な製品を使わせないように……というユーザー保護の観点からそうしてきたのだとは思うけれど、ライセンス商売で儲けているApple、と見えてしまう部分があったのも事実だった。だからこそ、オープン志向なAndroidと、クローズドなiPhone/iPadという見方をされていたのだ。

しかし、今回のiPad ProでAppleはクローズドな世界からオープンな世界へと踏み出したようだ。Lightningを廃し、よりオープンなUSB Type-Cを採用したのである。iPhoneも、今後Lightningを辞めると発表されているわけではないが、USB Type-Cに切り替わるのはほぼ間違いないだろう。

これまで使ってきた10.5型iPad Pro(左)と、新しく購入した11型iPad Pro(右)
Lightningの旧型iPad Pro(下)とUSB Type-C採用の新型iPad Pro(上)

USB Type-Cになるという話は1年以上前から噂されていたので、大きな驚きはなかった。「Appleのことだから端子の形だけUSB Type-Cで、Appleが認証した機器しか使えないのでは?」とも疑っていたが、これまでAndroidで使っていたUSB Type-C - TypeAの変換ケーブルを使い、ACアダプタに接続すると問題なく充電できた。

充電だけではなく、PCとの接続においても同様。PCからしっかりiPadの中身が見え、データのやり取りもできた。そもそも新型iPadに付属するのは両端ともにUSB Type-Cのケーブルと、USB Type-CのACアダプタのみ。そのためUSB Type-C端子のないPCと接続するのためには、別途ケーブルを購入しなくてはならないのだが、わざわざApple製品を買わなくてもいい。もっとも、アクセスの仕方自体は従来機種と同様。つまりドライバとiTunesをインストールする必要があり、Androidほど自由度が高いわけではないが、ここはそういうものだ、と割り切ればいいのかもしれない。

これまではUSB-Lightningアダプタを使えば、各種USBクラスコンプライアント対応機材を接続し、利用できた。USB DACでもオーディオインターフェイスでも、USB-MIDIキーボードでも基本的に使えたわけだが、今度のiPad Proはどうなのか?

最初は疑っていたので、念のためにiPad Pro購入前に発売されていたApple純正のUSB-C to USBアダプタを入手して準備していたのだが、実際に使ってみたところ、純正のアダプタを使わなくても拍子抜けするほどあっさりすべてが動いてしまった。

Apple純正のUSB-C to USBアダプタと200円で購入したUSB Type-CのOTGアダプタ

DTM機材の検証については、発売された11月7日当日に筆者のブログ、DTMステーションでレポートしているので、ここでは割愛するが、USBクラスコンプライアントな機材であれば、USB Type-CのOTGアダプタを介せばどれでも接続可能だった。

その際、特筆すべき点は、従来のiPhone/iPadにLightning-USBカメラアダプタ経由して接続しても電力不足で動かなかった多くの機材が新型iPad Proからの電源供給で動作したこと。たとえば、Steinbergの「UR22mkII」の場合、iOS機器と接続した場合でも電力不足にならないようmicroUSBにACアダプタを接続して電力供給できるような仕掛けが用意されていたのだが、それを使わなくても動作するのだ。

Steinbergの「UR22mkII」が、ACアダプタを接続せずに動作する

試しに以前iPhone XSでテストした際、普通のLightning-USBカメラアダプタでは電力不足で動かなかったTEACの「UD-301」を接続してみた。すると、こちらも問題なく使うことができ、44.1kHzや48kHzはもちろん、96kHz、192kHz、さらにはDSD 2.8MHzや5.6MHzでも動作することを確認できた。

TEACの「UD-301」も動作する

一方、以前取り上げたクリエイティブ・メディアの「Sound Blaster X G6」にも数百円で購入したUSB Type-C - microUSBケーブルを使って接続してみた。こちらもすぐにランプが点灯するとともに、特に問題なく再生、録音ができることが確認できた。

Rolandの小型ミキサー「GO:MIXER」でも試してみた。こちらはもともとMFi認証をとっている製品であり、Lightning端子にも接続できるようになっていたほか、Androidでも接続できる機材だったが、Sound Blaster Xで使ったのと同じUSB Type-C-microUSBケーブルで接続してみたところ、問題なく使うことができた。

「Sound Blaster X G6」とも接続
Rolandの小型ミキサー「GO:MIXER」

ただここで問題になるのがiPad Proのバッテリー容量。それなりに大容量とはいえ、ここからUSB電源供給しながらアプリを動かしていると、やはりバッテリーの減りは速くなる。そこで考えられるアイディアはUSB Type-Cの端子をハブで分岐させて、充電しながら別のUSBデバイスも使うという方法。

試しにAmazonで購入した「Novoo USB 3.0 Type-Cドッキングステーション」という製品を使ったところ、iPad Proに充電しつつ、2つのUSB端子を使うことができた。これであれば、USB-MIDIキーボードで演奏しつつ、USBオーディオインターフェイスから音を出す……といった使い方も無理なくできるわけだ。なお、このハブを接続すると数秒間、青いUSBハブのアイコンが右上に表示されるのもこれまでのiPadにはなかった点だ。

「Novoo USB 3.0 Type-Cドッキングステーション」
2つのUSB端子が利用できた
ハブを接続すると数秒間、青いUSBハブのアイコンが右上に表示される

もう一つ試してみたのが、Apple純正の「USB-C to Headphone Jack」という製品。冒頭でも触れたとおり、この新型iPad Proにはヘッドフォン端子がないため、音を出すにはiPad内蔵のスピーカーで鳴らすか、USB DACかオーディオインターフェイスを接続したり、Bluetoothでワイヤレス接続する必要がある。

iPhone XやiPhone XSの場合、ヘッドフォン端子は無いが、標準でLightning接続のヘッドフォン、およびLightning-3.5mmの変換アダプタが付属していたが、新型iPad Proにはそれらが付属していない。

仕方ないので、Apple純正の「USB-C to Headphone Jack Adapter」(実売約1,080円)を購入しておいた。単にUSB Type-Cをヘッドフォン端子に変換する機材ではあるが、この小さなケーブルの中にはDACチップが入っており、これが小さな小さなUSB DACとなっているのだ。

Apple純正の「USB-C to Headphone Jack Adapter」

もっとも、これが特殊というわけではなく、同様の大きさでAndroid用の安いものもいろいろある。が、きっとApple製のものは音質的にも悪くないはず、という期待でApple純正品を試してみたのだ。

もちろん、何ら問題なく使うことができたわけだが、以前iPhoneでも実験していた音質テストも実施してみた。サイン波とスウィープ信号を用意した上での実験結果がこちら。iPhone XSと比較してみると、少しSNが向上している。

Apple純正の「USB-C to Headphone Jack Adapter」をテスト
サイン波とスウィープ信号を用意して実験

これがアダプタのせいなのか、iPadのせいなのかは分からないが……。残念だったのは、このアダプタを前述のUSBハブのUSB Type-C端子に接続しても使えないこと。この端子はどうも電源供給用のみで、USB端子としては機能してくれないようだ。探せば、しっかり利用可能なUSBハブもあるかもしれないが、これについては引き続き情報を集めつつ試していきたい。

ところで、このUSB-C to Headphone Jack Adapter、今後登場するiPhoneでも使えると思われるが、そもそもこれがオープンな規格であれば、PCでも使えそうだ。まずは絶対に動くと思われるMacBook Proで試してみたところ、接続するだけですぐに認識され、使えた。

MacBook ProにApple純正の「USB-C to Headphone Jack Adapter」を接続、問題なく使えた

一方、IntelのベアボーンPCである「NUC 7i7BNH」というマシンにもThunderbolt兼USB 3.1のUSB Type-C端子があるので、試してみた。こちらも接続するだけで、すぐに認識されて使うことができた。せっかくなので、MacBook ProおよびNUCそれぞれでもサイン波、スウィープ信号を使って、先ほどと同じ実験をしてみた結果がこちら。

Windowsマシンでも問題なく使えた
MacBook Proでのサイン波の結果
NUC 7i7BNHでのサイン波の結果
MacBook Proでのスウィープ信号の結果
NUC 7i7BNHでのスウィープ信号の結果

これらの結果を見ると、やはりiPad Proの音質が優れている……ということが言えそうだ。まあ、ちょっと聴いた感じにおいては、ほとんど差は分からなかったが、データ上これだけの違いが出てくると、やはりiPad Proのノイズ対策などがしっかりしているということなのだろう。

以上、新型iPad Proのオーディオ機能について見てきたがいかがだっただろうか? ヘッドフォン端子はやはり残しておいて欲しかったけれど、iPadがオープンな姿勢に方針転換したことについてはもろ手を挙げて歓迎したい。まだだいぶ先になるのだろうが、次世代iPhoneにも期待したいところだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto