藤本健のDigital Audio Laboratory

第876回

世界最小・最軽量で本格録音! ZOOMのPCMレコーダー「F2」を試す

32bitフロート対応で、世界最小・最軽量のZOOMレコーダー「F2」

Digital Audio Laboratoryでは、数多くのリニアPCMレコーダーを取り上げてきたが、今回紹介するZOOMレコーダー「F2」は、過去最小サイズの製品といえる。

液晶パネルもなければ、録音レベル設定もないため、使い方は極めてシンプルなのだが、その見た目とは違って結構本気の高音質機材。なぜなら32bitフロートに対応し、かつ2種類のADコンバーターを搭載することで、小さい音でも大きい音でも、確実に捉えることを可能にしているのだ。一体どのような機材なのか、見ていこう。

Bluetooth機能内蔵の兄弟モデル「F2-BT」(写真右・ホワイト)もある。今回取り上げるのは「F2」(左・ブラック)。価格はオープンプライスで、店頭予想価格はF2-BTが22,500円前後、F2が18,000円前後

32bitフロート対応で世界最小・最軽量のレコーダー

以前、ZOOM「F1」というレコーダーを取り上げた(第761回参照)。

F1は非常に小さなレコーダーであり、ラべリアマイクでレコーディングできるほか、オプションのマイクを取り付けるためのコネクタが用意されており、ここにXYマイクやMSマイク、ショットガンマイクなどを取り付けて使うことができるというものだった。今回取り上げるF2は、そのF1よりもさらに小さいレコーダーだ。

F1とF2を並べてみると、断然小さいのがわかるはず。

F2は、本体のみで32gという軽量さ。このサイズでありながら単4電池2本が入り、アルカリ電池なら約15時間、ニッケル水素電池なら約11時間、リチウム乾電池であれば約21時間もの連続録音が可能というスタミナを持っている。

録音するメディアはmicroSDカード。機材が小さいだけに、カードの出し入れがややし難い印象ではあるが、ここにBWFフォーマットのWAVファイルで記録していく。

写真左が「F1」、右が「F2」
単4電池2本で駆動する

パッケージを開けると、F2本体のほか、ラべリアマイク、マイククリップ、ウィンドスクリーン×3個が入っており、このラべリアマイクを使って録音を行なう。

製品パッケージ
パッケージを開封したもの
マイクやクリップ、風防などの付属品
ラベリアマイク

ラべリアマイクであることからも想像できる通り、F2はモノラルのレコーダーだ。またサンプリングレート的には44.1kHzまたは48kHzという仕様であり、冒頭でも紹介したとおり、32bitフロートでのレコーディングとなっている。

小型のレコーダーで32bitフロートに対応する機材は珍しいが、ZOOMでは以前に紹介した「F6」(第827回参照)でも32bitフロートに対応し、デュアルADコンバーターも搭載していた。その点を見れば「F2はF6の中核となる部分を抜き出して小型化した機材」ともいえるわけだが、これがどういう意味を持つのか、少し解説してみよう。

まずデュアルADコンバーターとは、大きい音を捉えるローゲイン側のADコンバーターと小さい音を捉えるハイゲイン用のADコンバーターの2種類を意味する。ローゲイン側は爆音が入ってもクリップしない性能を持ったADコンバーターで、ハイゲイン側は非常に小さい音でも低ノイズで音を捉えることができるADコンバーター。どちらの音量レベルなのかによって、それぞれを自動的に切り替える仕組みになっているのだ。

ここで問題になるのがダイナミックレンジ。

そんな聴き取れないくらい小さい音から爆音までを記録しようとした場合、通常はダイナミックレンジが足りなく、うまく記録できない。しかし、32bitフロートつまり、浮動小数点を用いたデータとして記録すれば、膨大なダイナミックレンジを実現でき、極小音から極大音までを記録することが可能になる。

“32bitフロート”がどういうことかは、「ハイレゾで注目の『32bit-float』で、オーディオの常識が変わる?」(第572回)で紹介しているので、そちらを参照してみて欲しい。

F2では、そのような膨大なダイナミックレンジを持っており、そのことで実現できてしまったのが“入力ゲイン調整の省略”。

通常、どのリニアPCMレコーダーでも、適度な音量に調整するよう入力ゲインの調整パラメーターが用意されている。ボタンで調整するデジタル型のもの、ボリュームで調整するアナログ型のものなど、いろいろあるが、このF2には、それがないのだ。

ないと言っても、ICレコーダーのようなAGC=オートゲインコントロール機能を装備しているわけではない。AGCがあると大きい音は小さく、小さい音は大きく記録されるので、聴き取りやすいけれど、正確な記録にはならない。

しかし、F2は膨大なダイナミックレンジを持っているから、小さい音は小さいまま記録し、大きい音は大きいまま記録することができる。もちろん、32bitフロートの場合、24bitと比較すると1.33倍の容量を食うことになるが、そもそもモノラルなのでステレオと比較して半分。しかも44.1kHzまたは48kHzなので、96kHzや192kHzに比較すると半分とか1/4以下であり、あまりサイズを気にすることもないのだ。

そのためF2は、ラべリアマイクを接続し、電池とmicroSDカードを入れた後、電源を入れれば、調整なしに即レコーディングへと入れる。

調整無しに即レコーディングできる

デフォルト設定でレコーディングしてみた

実際、何の設定も行なわずに、デフォルトの状態のまま、イヤフォンだけ接続して、外にF2を持って出た。電源を入れると、ラべリアマイクから入ってくる音がモニターできる。さらに録音ボタンを押すと、赤いLEDが点灯するとともに、録音が開始される。

録音開始すると、赤いLEDが点灯

公園に行って録ってきた音がこちらだ。

【録音サンプル】
公園・鳥の音
ZOOM_F2_bird3248.wav(7.41MB)
※編集部注:48kHz/32bitフロートの録音ファイルを掲載しています。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

モノラルなので、臨場感が足りないのは確かだが、かなりリアルに音を捉えているのが分かるはずだ。5mくらいの高さの木の上のほうにヒヨドリが数羽いて、それらが鳴いているなか、砂利道を人が通り過ぎていったという状況。周りに道路もあるので、そうしたノイズも捉えている。

そのまま、歩いて、踏切のほうに行って録音したのが、こちら。

【録音サンプル】
踏切の音
ZOOM_F2_train_3248.wav(8.56MB)
※編集部注:48kHz/32bitフロートの録音ファイルを掲載しています。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

やはりヒヨドリが鳴く中、目の前を電車がすれ違っていったのだが、モノラルなので、すれ違っていく様子はわかりにくいものの、かなりのダイナミックレンジがあるのはわかるはずだ。

いずれも32bitフロートの48kHz音声。手元に波形編集ソフトがあれば、それで一部を切り出して拡大してみると、小さな音までしっかりと捉えているのが分かるはずだ。さらにCDを鳴らしたものを捉えたのがこちら。

【録音サンプル】
CDプレーヤーからの再生音
ZOOM_F2_music3248.wav(7.56MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:48kHz/32bitフロートの録音ファイルを掲載しています。編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

上記も32bitフロートのままだが、24bitに変換した上で、efu氏のフリーウェア「WaveSpectra」で周波数分析した結果が下記の写真。これもモノラルなので、音楽用という面ではちょっと寂しい部分はあるけれど、かなりオリジナルに近い結果になっているのが分かる。

フリーウェア「WaveSpectra」での周波数分析結果

PC接続で幾つかの設定が可能。波形編集ソフトもバンドル

F2本体で行なえる操作は、スイッチのオン/オフと録音、停止、再生、それにモニター用の出力音量の調整のみで、ほかには何もない。

ただ、このF2をUSB-Cケーブルを使ってPCと接続するとともに、ZOOMサイトからダウンロードするF2 Editorというソフトを使うことで少しだけ設定ができるようになっている。

USB-CでPCと接続
F2 Editorで設定が行なえる

画面を見るとわかる通り、デフォルトではオフになっている80Hzのローカット機能をオンにできるほか、デフォルトで48kHz/32bitフロートとなっているのを44.1kHz/32bitフロートに変更することもできる。

さらに、日付時間の設定やファイル名の付け方の設定、それにバッテリータイプが、アルカリ電池か、ニッケル水素か、リチウムかを選ぶ設定、もうひとつオートパワーオフの設定ができるようになっている。たったこれだけではあるけれど、必要あれば、PCを使うことで多少設定できる。

なお、F2にはSteinberg「WaveLab Cast」というソフトもバンドルされており、これを利用することが可能だ。これはWindows/Macの両方で使える波形編集ソフトでWaveLabの簡易版に相当するもの。

バンドルソフト「WaveLab Cast」

それほど多くの機能はないが、普通に切り貼りができるほか、スぺクトロスコープやレベルメーターで表示したり、3D解析を行なったり、エフェクト処理もできる。各メディアに対するラウドネスの最適化機能なども用意されているので、F2と組み合わせて使う上で、便利に活用できそうだ。

切り貼りの編集も可能
スコープやレベルメーター表示
3D解析画面
エフェクト処理のメニュー

以上、ZOOMのF2について紹介したが、いかがだっただろうか?

32bitフロートを採用したことで、本体での操作があまりにもシンプルで拍子抜けしてしまうほどだが、便利で確実に録れる機材でもある。モノラルであるという制限はあるが、モノラルで問題がなければ、かなりお勧めできるレコーダーと思う。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto