第458回:MboxやMbox Miniはどうなの? Mbox3機種を検証

~テストしてみると結構違いがあった3機種 ~


Mbox Pro
 昨年12月の記事で取り上げて、音質、レイテンシーともに非常に好成績となったDigidesign改めAvid Technologyのオーディオインターフェイス「Mbox Pro」。

 最近、「MboxやMbox Miniはどうなの?」と聞かれることも多く、個人的にも気になっていた。そこで改めて、Mboxファミリー3機種すべてを借りて、どんな違いがあるのかをチェックした。



■ Mboxがオーディオインターフェイスの世界へ殴りこみ

 もともとMboxは、Pro Tools LEとセットとなったDTMパッケージ製品で、価格も手ごろなことから人気のあったシリーズ。2002年に初代のMboxが登場し、2005年にMbox 2がリリースされた後、Mbox 2 Pro、Mbox 2 mini、Mbox 2 microとラインナップを拡充すると、大ヒット製品となり、昨年に第3世代となるMboxファミリーが発売された。上からMbox Pro、Mbox、Mbox Miniの3ラインナップとなった。

Mbox
Mbox Mini

 ただPro Tools LEを核としたMboxファミリーは、DTMパッケージ製品とはいえ、CubaseやSONAR、Logic、Digital PerformerといったDAWで構築するDTMのシステムとは趣きが異なっていた。基本的にクローズドなシステムであって、ソフトであるPro Tools LEとハードであるMboxの組み合わせでしか動作せず、ほかのDAWを試したり、他社のオーディオインターフェイスに交換するといったことはできなかった。

ハードウェア依存がなくなった「Pro Tools 9」

 しかし、オープンな環境にしたPro Tools 9が昨年11月に登場したことで状況は大きく変わった。Pro Tools 9はWindowsならASIOドライバ、MacならCoreAudioドライバに対応したオーディオインターフェイスで使えるようになり、ハードウェアであるMboxファミリー側もASIO、CoreAudioドライバに対応し、ほかのDAWで利用できるようになった。

 もっとも、この第3世代のMboxファミリーも昨年末の登場当初はPro Tools LE 8とのバンドル製品であり、パッケージとしての位置づけは従来とあまり変わっていなかった。ところが、先日Mboxファミリーのラインナップが大きく改定され、Pro Tools 9とのバンドルとなった。

  • Pro Tools + Mbox Pro (実売価格:94,000円前後)
  • Pro Tools + Mbox (実売価格:73,000円前後)
  • Pro Tools + Mbox Mini (実売価格:63,000円前後)
 さらに、Pro Toolsが付属しない、以下の3モデルも用意された。
  • Mbox Pro (実売価格:72,000円前後)
  • Mbox (実売価格:45,000円前後)
  • Mbox Mini (実売価格:27,000円前後)

 つまり単なるオーディオインターフェイスとしても、Mboxファミリーの販売が開始されたことになる。昨年のAvid Technology副社長へのインタビューでもあったとおり、Mboxのハードウェアとしての性能にかなりの自信を示していた。今回、ハードウェア単体での販売をスタートさせたことによって、Roland、YAMAHA(Steinberg)、TASCAM、MOTU、RMEと多くのメーカーが競い合うオーディオインターフェイスの世界へ殴りこみをかけた格好となった。

 しかも最上位のMbox Proの結果は以前、テストしたとおり非常に好成績であったため、MboxやMbox Miniも同等の性能を持っているとしたら、かなりのコストパフォーマンスといえそうだ。


■ 質感も高くなった、新Mboxファミリー

 まず、これら3機種を並べてみると結構大きさが異なることが分かるだろう。さらに、他社のオーディオインターフェイスとも並べてみた。

上からMbox Mini、Mbox、Mbox Pro上からMbox Mini、Mbox、RolandのOctaCapture、SteinbergのMR816csx第3世代Mbox Mini(左)、Mbox 2 Mini(右)

 第3世代Mboxファミリーに共通していえるのは、かなり分厚いアルミの筐体で作られたボディーで重量感があるということ。AvidのWebサイトでスペックを見ても重量がなかったので、料理用の量りを使って測定してみたところ、Mboxが1,840g、Mbox Miniが1,000gちょうどと結構重い。

 また、第2世代であるMbox 2 Miniが手元にあったので、第3世代Mbox Miniを並べてみると、大きさやデザインも大きく違う。Mbox 2 miniもアルミボディーではあったが、重さは580gであったので、第3世代になって、かなりガッシリとしたことがわかるだろう。

Mbox

 では、オーディオインターフェイスとしての仕様を1つずつ詳細に見ていこう。まずMboxは、Mbox ProがFireWire接続の8in/8out、最高で24bit/192kHzまで扱えたのに対し、USB 2.0対応で、4in/4out、最高で24bit/96kHzまで扱える。4in/4outの内訳はアナログが2in/2out、デジタルが2in/2outとなっている。

 アナログ入力端子を見ると、フロントにDI(ギター)入力を2つ、さらにリアにMic/Lineのコンボジャックが2つ装備され、+48Vのファンタム電源にも対応している。ただ、当然すべてを同時に使えるわけではなく、DI入力の右にあるスイッチを使いフロントとリアのどちらを使うのか切り替えるようになっている。

 またアナログ出力はリアにあるTRS端子のほかに、フロントにヘッドフォン出力があるが、これは共通となっている。そして、デジタル入出力はコアキシャルのS/PDIFとなっている。端子だけを見ると、Mbox 2と同じように見えるが、Mbox 2はUSB 1.1対応であったため、2in/2outで最高で24bit/48kHzまでしか扱えなかったので、仕様的に見てもまったく違うオーディオインターフェイスに進化している。


フロントにDI(ギター)入力を2つリアにMic/Lineのコンボジャックが2つ+48Vのファンタム電源にも対応している

 Mboxのコントロールパネルを開くと、8chのミキサー画面が現れる。左の4chはアナログ(1/2ch)、デジタル(3/4ch)の入力、そして右側の4chはPC側からの出力となっており、これらをミックスできる。一般のオーディオインターフェイスと比較してユニークなのは、Mbox本体内にDSPを搭載しており、ハードウェア的にエフェクトを掛けることができる点だ。以前紹介したMbox Proのものと同様のシステムであり、ミキサー画面下のEFFECT欄でリバーブ、ディレイなどのうちから1つを選択でき、その右にあるDuration、Feedback、Volumeの3つのパラメータで設定できるという仕様となっている。

 このシステムエフェクトに対して8つある各チャンネルからセンド量を設定、マスターボリュームの下にあるFX Returnsからエフェクトからの戻りを設定できる構成となっている。S/PDIF出力に対するミックスは「S/PDIF L/R」タブをクリックして、同様に設定することができる。その信号の流れは画面にも表示されるとおりだ。

 ブロックダイアグラムからも分かるとおり、この内蔵DSPによるエフェクトは、あくまでもモニター用であり、レコーディング自体に影響を及ぼすものではない。つまり、ボーカルをレコーディングする際などにおいて、PCのCPUパワーを消費することなく、リバーブを掛けた音をモニタリングできるというわけだ。

8chのミキサー画面ミキサー画面下のEFFECT欄でリバーブ、ディレイなどのうちから1つを選択でき、右にあるDuration、Feedback、Volumeの3つのパラメータで設定マスターボリュームの下にあるFX Returnsからエフェクトからの戻りを設定できる構成ブロックダイアグラム
チューナーもある

 Mboxにはオーディオ入出力だけでなくMIDIの入出力が1系統用意されているほか、ミキサー画面上にチューナーもあり、ギターなどのチューニング用に使うことができる。もっともライブなどでの使用で、いちいちPCの画面など操作していられないというケースもあるだろう。そんな場合、本体だけでチューナー機能を使うことも可能になっている。フロント右側にあるDIMボタンとMONOボタンを同時に押すとチューナーモードとなり、キーが高ければ02の赤いインジケータ、低ければ01の赤いインジケータが点灯し、ピッタリなら双方が緑に点灯するようになっている。

 そのほか、Mbox Proと同様にMultiというボタンもある。Pro Toolsとセットで使う際に機能するボタンで、Pro Tools 9のデフォルトでは、このボタンを押すと「レコーディング開始/停止」を、長押しすると「選択したトラックを追加」することができるようになっており、Pro Tools側の設定画面で変更が可能だ。

Mbox Proと同様にMultiというボタンもあるMultiの動作を変更することも可能

Mbox Mini
 次にMbox Miniを見てみよう。前述のとおり、Mbox 2 miniよりガッチリしてはいるが、仕様的には、ほぼMbox 2 miniのものが踏襲されている。そうMboxと同じUSB接続ではあるものの、こちらはUSB 1.1対応となっているため、2in/2out、最高24bit/48kHzまでと制限され、入出力ともにアナログのみ。この点を見てもMbox Pro、Mboxそれぞれとはハッキリとした差別化が図られている。

 入力端子はリアパネルにあり、01と02の2系統のモノラル入力が用意されている。このうち01はMic/Lineと書かれたコンボジャックとギターを直接接続可能なDI入力の2つの端子があり、スイッチでの切り替えとなっている。コンボジャックはもちろん+48Vのファンタム電源にも対応。一方、出力はメインアウト兼モニターアウトとして使えるようになっているほか、フロントにはヘッドフォンジャックも用意されている。

 このようにMbox Miniはとてもシンプルな構成のオーディオインターフェイスであるだけに、Mboxのようなミキサーはない。サンプリングレートを48kHzと44.1kHzのいずれかに設定できるほか、バッファサイズを指定できるのみだ。


Mbox Miniには、ミキサーはないサンプリングレートを48kHzと44.1kHzのどちらかに設定できるほかは、バッファサイズを指定できるのみ

■ 音質とレイテンシーを検証

 いつものようにRMAA PROを用いてMboxおよびMbox Miniの音質を測定してみた。結果は以下のとおりでMbox Proの結果とは明らかに違う内容であった。Mboxの場合、44.1kHz、48kHzではそれぞれ非常にいい結果であるのに対し、96kHzにするとダイナミックレンジが狭まるとともにIMDの結果が落ちてしまっている。さらにMbox MiniではS/Nはいいものの、高域での伸びが欠けている感じだ。

Mbox 44.1kHz
Mbox 48kHz
Mbox 96kHz
Mbox Mini 44.1kHz
Mbox Mini 48kHz
Mbox、Mbox Miniともにバッファサイズを最小で128samplesにまでしか下げることができない

 次に、ループさせた場合のレイテンシーを、いつものようにCentranceのASIO Latency Test Utilityを使って測定した。Mbox、Mbox Miniともにバッファサイズを最小で128samplesにまでしか下げることができないという点で、64samplesに設定できるMbox Proとは違いがある。

 各サンプリングレートでの結果は以下のとおり。一般的に見ても、そこそこのいい結果ではあるが、高性能だったMbox Proと比較すると見劣りしてしまうのは事実だ。


Mbox 44.1kHz
Mbox 48kHz
Mbox 96kHz
Mbox Mini 44.1kHz
Mbox Mini 48kHz

 MboxおよびMbox Miniについて検証したが、見た目は同じデザインで、いずれもガッチリとした重たい筐体であるだけに、チャンネル数以外の性能は同様に思えたが、実際テストしてみると結構違いがあることも分かった。やはり、音質やレイテンシーの面でもグレードによってハッキリとした違いがあった。

 Mbox Pro、Mbox、Mbox Miniと3種類ともPro Toolsだけでなく、各DAWでも利用可能なので、他社のオーディオインターフェイスとも価格・性能を比較した上で選択してほしい。


(2011年 4月 18日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]