西川善司の大画面☆マニア

第286回

激変にピクミン驚愕。どうかしてるぜレグザの「Switch最適化ゲームモード」

西川邸にやってきた、4K有機ELレグザ「55X9900M」

筆者は、昨年の夏、55型の4K有機ELレグザ「55X9900M」を導入した。

その後、液晶テレビ・有機ELテレビの優秀製品を選出する「AV Watchアワード」が開催され、審査員として参加。選出された製品群の評価はかなり深く行なった。その様子や結果は下記記事を参考にしてもらいたい。

このAV Watchアワードの選出モデルにはレグザ「X9900M」シリーズが含まれていたこともあって、55X9900Mのレビューは、完全にそちらの方でやってしまっていた気になっていた。

実際、一般的な映像を表示したときの表示品質については、AV Watchアワードで語り尽くした感がある。ただ、ゲームに特化した機能の評価はもう少し深くやってもよかったなと思い、X9900Mのゲーム性能について改めて紹介することにした。

特にスポットを当てたいのは、レグザが秘密裏(笑)に搭載した“Nintendo Switch最適化モード”である。

55X9900Mを導入中の筆者

Switchを疑似4Kで綺麗に見たい人、あつまれ!

任天堂の次世代機について、まことしやかな噂が流れてくる昨今。しかし、現行機であるNintendo Switch(以下Switch)は依然と元気いっぱい。筆者も昨年は、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』と『ピクミン4』をプレイするために、ケースに収納されたまま充電量ゼロとなっていたSwitchを取り出すやいなや売却し(笑)、初期型に対して微妙に性能が向上したマイチェン後の“有機EL版Switch”に買い替え、2つの新作に夢中になった。

筆者が所有していたSwitchは、2017年発売時の初期型。メインプロセッサのNVIDIA TEGRA X1は、20nm製造プロセスモデルであった。2019年のマイナーチェンジモデル登場時にはTEGRA X1の製造プロセスを16nmへ微細化。この際にサーマルスロットリング(過熱状態時に実効性能を意図的に抑えることで熱暴走を抑止する)機構の動作が緩和された。

また、2019年以降、任天堂は一部のゲームにおいて、瞬間的にCPUやGPUをオーバークロックさせる動作モードを開発現場に開放。しかし、その動作時のピーク性能は16nm版の方が優秀だとされている。比較すれば些細な違いしかないが、仕事柄もあり、初期型から有機ELモデル版に買い替えてみたのであった。

Nintendo Switch(有機ELモデル・ホワイト)

久々にSwitchでゲームをプレイするにあたり、サラウンドサウンドの鳴らし方を思い出すのに一苦労した話は、本連載第281・282回で触れたが、今回取り上げるのは映像方面の話題だ。

Switch向けの大作はゲーム内容に不満がないものの、そのゲームグラフィックスは、PlayStation 5(PS5)や最新PCと比較するとピクセルのカクカク感が目立つ。ハッキリ言えば、今から12年前のWii Uのゲームグラフィックスからそう変わっていない印象を受ける。

実際、ゲーム機のグラフィックス性能を司るGPUの理論性能値で比較すると、Wii Uは0.352TFLOPSに対して、Switchは0.512TFLOPS程度。PS5は10.28TFLOPSなので、Switchのグラフィックス性能はPS5の20分の1しかないことになる。

少しでも上質な映像体験を得るために……と、ネットメディアではゲーマー向けの安価な「アップスケールコンバーター」などを紹介していたりもするが、筆者はああいった商品をあまり奨励していない。

というのも、「この手の商品」の多くがシャープネス・フィルター程度の処理系しか実装しておらず、局所的な陰影強調を行なっているだけの“なんちゃって超解像”商品がほとんど。むしろ、その処理のせいでノイジーな映像になってしまっているものが多いからだ。

こんなグッズを買い増さなくとも、最新世代の日本メーカー製4Kテレビの多くが、先進的な超解像エンジンを搭載しており、(一部のメーカーのもの除けば)入力遅延も小さい。最近は4Kテレビも10万円未満のモデルが多くなっているので、数万払って怪しげな商品を購入するよりも、4Kテレビに手を出した方が大部マシだと思う。

……と、そんな感じの話題を「ゲームはレグザ」で有名なレグザの画質担当エンジニアと某所で雑談していた時のことだ。

「実は、2023年レグザのゲームモードから選べる“ゲームセレクト”機能の一部を、Switchに最適化しちゃいました」という話が。

なんでも「Webサイトとかカタログで細かく解説するとややこしいので、あまり表立っては話していない」とか。「それは面白そう!」ということで、詳しい話を伺った。

新レクザの“Switch最適化ゲームモード”とは

“Switch最適化ゲームモード”と呼ぶべきモードが搭載されているのは、液晶「Z970M」と有機EL「X9900M」の2シリーズのみだ。

2023年モデルは上記以外に、液晶「Z870M」シリーズもあるが、当該機能を実現する映像エンジンが省かれているため、Switch最適化ゲームモードは搭載されていない。

85型「85Z970M」
65型「65X9900M」

では、Switch最適化ゲームモードとは一体どのような内容なのか。

ちなみに“Switch最適化ゲームモード”なるものは、あくまで開発チーム内での通称だ。実際の開発段階において、この機能の評価にSwitchからのゲーム画面を表示して行なったことから便宜上、そう呼んでいるだけである。別にSwitch以外の、それこそ、Wii UやPS4以前の「フルHD映像出力は行なえたものの、描画“実”解像度がフルHD以下だったゲーム映像」に対しても、この画質モードは有効という。

今から二世代前のゲーム機である「PS3」「Xbox360」「Wii」は、ゲーム機の仕様上は、フルHD解像度出力できたものの、GPUの性能不足により、ゲーム映像の描画解像度(レンダリング解像度)は1,280×720ピクセル前後(場合によってはそれ以下のケースもあり)になっていて、これをアップスケール回路でフルHD(1,920×1,080ピクセル)にして表示するケースが多かった。

また「PS4」「Xbox One」「Wii U」の時代になっても、一部の高度な陰影処理を優先させたゲーム映像においては、“実”描画解像度はフルHD未満で、アップスケールしたフルHDを表示させるケースも少なくなかった。

つまり、Switch最適化ゲームモードの動作実態は、「フルHD以下の“実”解像度で描画されたゲーム映像が、4K画面に表示されたときに際立って見えるジャギーやエイリアシングを、自然な見え方に補正することに主眼を置いた画質モード」ということになる。

ちなみに「ジャギー」とは“ノコギリの歯のような”という語源の通り、斜め線や曲線が、画面上でギザギザ状に見える現象のこと。そして「エイリアシング」とは、本来見えるべきではない輪郭線、段差、模様などが見えてしまう現象を指す。まあ、広義的にはジャギーもエイリアシングの1つである。

そうした「アップスケール表示」の際のジャギーやエイリアシングの低減を行ないつつ、あたかも“失われた解像度の復元”を行なっているかのような処理系が「超解像」(Super Resolution)処理になる。

超解像処理のイメージ
画像全体。この画像の一部を約3倍に拡大(アップスケール)すると……
……単純に拡大しただけではドットの粗が露呈する
算術補間技術(バイキュービック法)による拡大。ドットの粗は露呈しないが、ややボケた味わいになる
超解像処理による拡大。輪郭も鮮明でくっきりとした見映えになる

この超解像処理に関して、2023年モデルのレグザ「Z970M」「X9900M」では、フルHD以下のゲーム映像に対して「自己合同性超解像」と「再構成型超解像」技術が適用されるようになっている。これはZRαエンジンを使った、2023年の新機能だそうだ。

ZRαエンジン

自己合同性超解像とは、より高解像度な情報がその周囲(映像のそれ自身)に存在するという仮定で行なう超解像処理のこと。例えば、映像中の輪郭線とその周辺に着目した際、「その輪郭線の軌道」と「輪郭線付近の陰影の変化率」から、失われた解像度情報を推察する。この超解像処理系は主に「ジャギーの低減」(場合によってはアンチエイリアス効果が得られる場合もあり)に効く。

再構成型超解像は、現在の映像は「より高解像度な映像が、カメラなどの撮像素子で撮影されたり、ダウンサンプル処理で間引かれたことで低解像度化したものである」と仮定し、一段高い高解像度の映像を解析学的に求める手法だ。

入力画像を適当に高解像度化したあと、もう一度低解像度化して、オリジナル画像と比較してどのような変化が現れたかをヒントにして高解像度映像を近似的に求めていく。この超解像処理系は、主に「陰影の復元」に効くとされる。

最近では、ゲームグラフィックスにおいて、数段階低い解像度で描画したゲーム映像を超解像技術を用いて4K映像にアップスケールする、GPUメーカー謹製の超解像技術が人気となっている。

そう、AMDがRadeon RXシリーズ向けに提供している「FildelityFX Super Resolution」(FSR)や、NVIDIAがGeForce RTXシリーズ向けに提供している「Deep Learning Super Sampling」(DLSS)、IntelがARCシリーズ向けに提供している「Xe Super Sampling」(XeSS)などだ。やや大げさにいえば、レグザのSwitch最適化ゲームモードは、発想としては、そうした“超解像ポストエフェクト技術”に近いものだといえる。

FSRにおける品質比較(参考)
FSRには、フレームレート重視の「Performance」(描画実解像度は1,920×1,080ピクセル)、品質と速度の折り合いを付けた「Balanced」(同2,259×1,270ピクセル)、負荷は高いが品質を重視した「Quality」(同2,560×1,440ピクセル)と「Ultra Quality」(同2,954×1,662ピクセル)が用意されている。画面は左がネイティブ4Kで、それ以外はFSRによって超解像処理されたもの。下図は、鎧の太もものあたりの柄を拡大したものである
ネイティブ4K
フレームレート重視の「Performance」
負荷は高いが品質を重視した「Ultra Quality」

さて、一般的なテレビに搭載されている超解像処理系は、実写に最適化されている場合が多いため、アニメ調の、シンプルな陰影・彩色のゲーム映像とは相性が悪いとされている。しかしSwitch最適化ゲームモードでは、映像全体の見た目としての“平坦度”判別も行なっており、画質調整は平坦度に合わせて適応型処理が実践されるらしい。

“映像の平坦度”と言われてもピンとこない人もいるかもしれないので補足解説をすると、アニメ調の映像は広い面積を同一色で塗りがちなので、画面の全体の見た目として色変化や輝度変化は“なだらか”といえる。つまり、比較的「平坦度は高い映像」と判断できるのだ。

対して、実写映像、あるいはフォトリアルな映像は、色や輝度が細かい粒度で変化することから、逆に「平坦度は低い映像」と判断できる。この情報を元に、レグザのSwitch最適化ゲームモードでは、超解像のかけ方の特性を切り換えているのである。

レグザの当該モデルでは、映像の傾向を判別して、最適な超解像処理や高画質化処理を行なう。上の写真は、実写映像においては“実写表現の顔面”を、アニメ映像においては“アニメ表現の顔面”を認識していることを表すデモモードの様子。このデモモードは実際の量産製品にも搭載されているので、オーナーは試してみるといいだろう

Switch最適化ゲームモードの使い方

ここまで、“Switch最適化ゲームモード”と呼んできたが、実際のレグザの当該モデル(Z970M、X9900M)で同機能をどのように利用するのか、その使い方を解説していこう。

まずは「ゲーム」モードに設定しよう。具体的には「映像メニュー」を「ゲーム」に変更する。これで、入力遅延が最小に抑えられるようになる。

ちなみに、当該モデルのレグザでは、4K/120Hz入力時の入力遅延はゲーミングモニター顔負けの0.83ms、フレームレート換算で0.1フレーム分の遅延しかない。

フルHD/60Hz入力時の入力遅延は、X9900MとZ970Mとで違っており、X9900Mの方は2.4ms・フレームレート換算で約0.14フレーム分の遅延となり、Z970Mは9.2ms・フレームレート換算で約0.55フレーム分の遅延となる。

X9900MとZ970Mは、共に倍速駆動対応モデルだが、X9900Mの方は、入力映像にあわせてリフレッシュレートを60Hzや120Hzに適宜変えることができる“ゲーミングモニター的な機能”を搭載している。

対して、Z970Mは、従来の倍速駆動テレビ同様に、リフレッシュレートが120Hz固定となるため、60Hz映像入力時は理論値で0.5フレーム分遅延してしまうのだ。120Hzの倍速駆動テレビの方が、60Hz映像入力時に遅延が大きくなってしまう理屈について知らない方は、本連載過去回で解説済みなので、未読の方はぜひそちらを参照していただきたい。

レグザの当該モデルには「ゲームモード」内に、ゲームジャンルごとの画質モード「ゲームセレクト」というサブメニューが追加されている。

「ゲームモード」における、ゲームジャンルごとの画質モードとして新設された「ゲームセレクト」設定

この「ゲームセレクト」とは、“ゲーム用の画質(≒超解像)モード選択”に相当するもので、「シューティング」「ロールプレイング」「スタンダード」が選択可能。最も低遅延かつ原画主義なモードが「シューティング」で、前述した入力遅延の値は、このモード時の値だ。

一方、“Switch最適化ゲームモード”と開発チーム内で呼ばれていたのは「スタンダード」と「ロールプレイング」の2つ。この2つの画質モードは、前述した入力遅延時間に0.1ms~0.2ms程度(60fps換算で0.006フレーム遅延相当)のごく僅かな追加処理時間と引き換えに、ここまで解説してきた高度な超解像技術を実装している。

格闘ゲームや音楽/リズムゲームなどの“低遅延=命”タイプのゲームをプレイするのであれば、「シューティング」を選ぶのがオススメだが、画質優先でプレイする場合は「スタンダード」か「ロールプレイング」がよさそうだ。

開発チームによれば、「スタンダード」と「ロールプレイング」の違いは「超解像処理の強度と暗部の引き込み具合」(≒コントラスト感)のみだという。また、「ロールプレイング」はゼルダ系のゲームで作り込んだので「ゼルダシリーズをプレイするならばこのモードがオススメ」とのことであった(笑)。

3つある「ゲームセレクト」設定。「シューティング」は低遅延重視用。「ロールプレイング」「スタンダード」は0.1ms~0.2ms程度の追加負荷で実現される高画質モードに相当する

観よ! これがSwitch最適化ゲームモードの実力だ

冒頭で触れたように、筆者は55X9900M導入時、Switchの2大タイトルにハマっていたので、プレイの際には、この“Switch最適化ゲームモード”を積極的に活用した。

Switchの大作系ゲーム映像は、グラフィックス表現の凝ったものになると、“実”描画解像度が1,600×900ピクセル以下になることが多い。輪郭線にジャギーが目立ったり、テクスチャ表現もピンボケ気味になっているのが目立つのだ。

『ピクミン4』で、Switch最適化ゲームモードを検証中の筆者

ところが、Switch最適化ゲームモードにすると、前述した二段構えの超解像処理によって、ジャギーは自信たっぷりで描かれた線分となり、ピンボケ気味だった陰影も、視力が上がったような見た目となってくれる。

以下は『ピクミン4』のタイトル画面の「Press Any Button」表示画面の一部を「シューティング」(原画重視)と、「ロールプレイング」(高画質化処理強め)で、拡大気味にカメラで撮影したものだ。

文字の斜め線のジャギーが驚くほど滑らかになっていることが分かる。これは「自己合同性超解像」が効いている証拠。疑似4K表示としては上出来と思う。また、背景側の菓子パンに注目すると、その陰影が復元されており、菓子パンの質感の情報量が増強されていることにも気がつく。

「ゲームセレクト=シューティング」の場合
(C)2023 Nintendo
「ゲームセレクト=ロールプレイング」の場合
(C)2023 Nintendo

下も同じく『ピクミン4』から。ゲーム中の登場するアイテム「イチゴ」のクローズアップを「シューティング」(原画重視)と「ロールプレイング」(高画質化処理強め)にて撮影した。

分かりやすいのは、イチゴの表面の種のあるところの凹みの陰影が復元され、イチゴの表面の微細な凹凸感が伝わってくる。そして、背景の壁の木目にも興味深い超解像効果が現れている。「シューティング」では、淡い低周波の年輪しか見えていないが、「ロールプレイング」では、高周波の木目が顕在化し、木材としてのリアリティが向上した感じだ。

「ゲームセレクト=シューティング」
(C)2023 Nintendo
「ゲームセレクト=ロールプレイング」
(C)2023 Nintendo

次も『ピクミン4』の映像から。ゲーム中に登場するピクミン達の家・オニヨンのクローズアップを「シューティング」(原画重視)と「ロールプレイング」(高画質化処理強め)にて撮影した。

前出のイチゴと同様で、オニヨンのまだら模様が「ロールプレイング」では、細かく復元されて描き出されている。よく見ると背景のモコモコとした柔らかそうな床や、右側の砂場の砂粒などの「微細凹凸感」が増強されている感じもする。

「ゲームセレクト=シューティング」
(C)2023 Nintendo
「ゲームセレクト=ロールプレイング」
(C)2023 Nintendo

次は『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』から。下のシーンを表示させた状態で、画面の各部を「シューティング」(原画重視)と「ロールプレイング」(高画質化処理強め)にて接写したものを示す。

映像全体
(C)2023 Nintendo

背景の樹木の皮や岩肌の微細凹凸が作り出す陰影の復元、リンクの衣装の図柄のディテールのあぶり出し効果は「再構成型超解像」によるものだろう。また、リンクの顔面や腕の輪郭線などの曲線のジャギー低減化は「自己合同性超解像」によるものと思われる。

ゼルダの伝説は、アニメ調の絵柄だが、適度に情報量の多い劇画タッチも介入する。そのため、疑似4K化は難しそうな印象があるが、上で解説した「映像の平坦度」を元にした適応型の超解像処理が行なわれた効果の恩恵によって、原画テイストと解像感増強を“いい案配”でまとめ上げていると感じる。

「ゲームセレクト=シューティング」
(C)2023 Nintendo
「ゲームセレクト=ロールプレイング」
(C)2023 Nintendo
「ゲームセレクト=シューティング」
(C)2023 Nintendo
「ゲームセレクト=ロールプレイング」
(C)2023 Nintendo

総括すると、“Switch最適化ゲームモード”は、オリジナル映像のテイストは存分に残しつつも――

  • ジャギーの低減
  • 階調が飛び気味の明部や暗部の中に埋もれてしまった陰影を甦らせる

――といった画質補正を行なう特性のようだ。

2017年発売のSwitchと言うゲーム機のライフタイムは終盤に入ってはいるが、まだまだ面白いゲームはたくさん出ているし、普段からよくプレイするSwitch用タイトルも少なくないはず。機会があれば是非ともレグザの“Switch最適化ゲームモード”を体験してみて欲しい。

それと繰り返しになるが、Switch最適化ゲームモードとはいっても、本質的には“フルHD以下のゲーム映像を疑似4K化するモード”なので、Switch以外にも活用できるのは言うまでもない。PS4以前、Xbox One以前、Wii U以前の旧世代ゲーム映像にも効果的に働くので、レトロゲーマー全般にもオススメだ。

【おまけ】シャープ「AN-SX8」とレグザを使って、Switchのサラウンドを聴く方法

冒頭でも紹介した「Nintendo Switchのサラウンド問題」(前編)(後編)の中で――

  • Switchは5.1chサラウンド出力に対応している。しかし、Dolby Digital等の圧縮オーディオではなく、非圧縮なリニアPCMでのサラウンド出力にしか対応していない
  • SwitchのリニアPCM 5.1ch出力に対応した「バーチャルサラウンドヘッドフォン」は数が少ない。聞くことができても、2chステレオに残響を加えただけの“なんちゃってサラウンド”の製品ばかり

――という事実をまとめた。

この記事の掲載とタイミングをほぼ同じくして、SwitchのリニアPCM 5.1ch出力をサポートしたバーチャルサラウンド再生対応ネックスピーカー「AN-SX8」がシャープより発売される。

そう。前出の記事ではタイミングが合わず、AN-SX8を試すことができなかったのだ。

前出の記事が掲載された後、筆者はAN-SX8を購入。自宅導入した55X9900Mで、このAN-SX8を活用する実験を行なったところ、ちゃんとSwitchのリニアPCM 5.1ch出力をAN-SX8でバーチャルサラウンド再生できることを確認した。

最後に、本稿のおまけ企画として、この話題をお届けしよう。

シャープのネックスピーカー「AN-SX8」

レグザでeARCを活用するための“おまじない”

AN-SX8で、リニアPCM 5.1chを再生するためには、AN-SX8をeARC(HDMI)で運用する必要がある。

AN-SX8は光デジタル音声信号を入力することができる専用トランスミッターが付属してくるが、光デジタルでは、リニアPCMは2chまでしか受け付けない。通常のARC(HDMI)でも同様だ。

つまり、リニアPCM 5.1chサラウンドをAN-SX8で聞くためには、テレビ側は通常のARCでも光デジタルでもダメで、eARC対応が必須ということ。前出したように、Dolby DigitalはARCで通すことができるが、SwitchはDolby Digitalに対応していない。リニアPCM 5.1chをAN-SX8に入力するにはeARCしか手段がないわけだ。

AN-SX8に付属するトランスミッターの背面。HDMI端子が目に付くが、“通常のHDMI入力”ではなく“eARC/ARC専用”仕様となっている。ARCではリニアPCMは2chまでなので、リニアPCM 5.1chの入力にはeARCの利用が必須
55X9900M側面の接続端子部。AN-SX8の付属トランスミッターのHDMI端子と、レグザ側のeARC対応のHDMI 2端子をHDMIケーブルで接続しよう。接続にはHDMI 2.1対応ケーブルを用いること

ということで、レグザ側の設定としては「HDMI連動設定」を開いて、この中の「eARCモード」設定を「オン」とする必要がある。この他、念のために「HDMI連動機能:使用する」「電源オン時優先スピーカー:オーディオシステム」も設定しておこう。

「eARCモード」設定をオンに。さらに「HDMI連動機能:使用する」、「電源オン時優先スピーカー:オーディオシステム」も正しく設定しておこう

がしかし。各項目を設定をしたにもかかわらず、AN-SX8を試すも5.1chで上手く鳴らなかった(笑)。

これについて色々調査したところ、実は、もう一個設定しなければならない項目があることを知った。それが「デジタル音声出力」の設定を「PCM」から「ビットストリーム」にすることだ。

Switchの5.1chサラウンド出力がリニアPCMなのだから、ここは「PCM」のままでよさそうな印象があるが、それは間違い。

しかもトリッキーなことに、「ビットストリーム」設定にしただけではダメ!!

「オート」設定でもダメ!!

サブメニューに潜って「デジタルスルー」に設定しなければならないのだ!!

ここは盲点となりやすいので要注意である。

eARC設定に加えて「ビットストリーム:デジタルスルー」設定に変更しなければならない

実際に、SwitchからリニアPCM 5.1ch信号が伝送されているか否かは、Switch起動後に現れる歯車アイコン内の「設定」メニューから「テレビ出力」-「テレビのサウンド」項目を「サラウンド」にしたうえで、「テストする」を実行しよう。

6回分の音がAN-SX8から鳴れば“ちゃんと鳴っている”と診断してOKだ。

Switchのサウンド関連の設定は歯車アイコンの「設定」メニューの「テレビ出力」のところにある
工場出荷状態では「自動」になっているので、ここを「サラウンド」に明示設定してあげよう
「テストする」を実行すると、サラウンド環境が正しく動作しているかどうかをチェックできる

なお、「テレビのサウンド」の設定が「自動」になっていた場合も、初めてサラウンド機器に接続する際には、改めて「サラウンド」を選択して「テストする」の実行を推奨する。

『ティアキン』をプレイしてサラウンドを聴いてみた

実際に、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(ティアキン)を5.1chでプレイして見たところ、前方方向は確かに画面の外から鳴っているようなワイドな定位感が得られており、高い没入感が楽しめた。

ティアキンのボス戦では、逃げ回る動作も重要となるが、その際、視界内にボスを捉え続けておくことが難しい局面も多い。

その場合は、逃げ回りながら、視界外のボスの位置を推測する必要があるのだが、その際の視界外の“あっち/そっちにいる気配がする”という感覚を掴むことができた。

AN-SX8を装着する筆者

では、背後に回る音像の定位感はどうか。

前面にあった音像が側面にまわると、たしかに真横方向から聞こえてはくるが、その定位感は、実際よりもやや接近したような聴感となる。

これが背後に回りだすと、さらに聴感上の遠近の距離感は近くなり、真後ろ付近に定位する音像はうなじの付近まで近づいたような感じがする。

例えば、仮に今、音像が球体の内壁360度に定位するとして、AN-SX8ユーザーたる自分が、この球体の内部にいたとすると、AN-SX8の360度の聴感特性は、その球体の中心点付近ではなく、そこから真後ろにそこそこ後退した位置にいるようなイメージ。後ろに回った音像は、後頭部やうなじあたりに収束していくような感じを想像してもらいたい。

実勢約3万円という価格を考えれば、十分によく出来た製品だとは思う。コスパ重視でSwitchのリニアPCM 5.1chをバーチャルサラウンドで体験したい…という人は購入を検討しても良いだろう。

シャープへの要望もある。それは、もっとユーザーの間口を広げるためにも、付属するトランスミッターユニットを、HDMI ARC(eARC)専用仕様ではなく、普通のHDMI入力(パススルー)に対応させて欲しい、という点だ。

もしそうなれば、テレビ以外の機器……例えば、ゲーミングモニターやプロジェクタなどでも連携して使えるようになるので、潜在的ユーザーを増やせるようになると思うのだが、どうだろうか。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
Twitter: zenjinishikawa
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