AV Watchアワード

ビエラ「MZ2500」ではなくLG「G3」を選んだワケ ~AV Watchアワード座談会・有機EL編

視聴テストの様子

“読者に本当にオススメしたい製品”を決めるべく、11月に発表した「AV Watchアワード」。既報の通り、初代の液晶テレビ大賞としてソニー「XRJ-65X95L」、そして有機ELテレビ大賞としてLGエレクトロニクス「OLED65G3PJA」が選出された。

ここでは、受賞モデル発表後に行なったアワード座談会でのやり取りと合わせ、比較視聴時に測定した各種データを2回に分けて紹介する。後編では、有機ELテレビ5モデルとアワードの総括を掲載する。

パナソニック「TH-65MZ2500」:モニター画質はダントツ。放送・配信が鬼門!?

編集部・阿部:有機ELテレビ編は、パナソニック・ビエラの「TH-65MZ2500」から話を進めていきましょう。

MZ2500は、マイクロレンズアレイ技術搭載の新しい有機ELパネルと、独自の放熱構造を組み合わせることで、高い発光性能を獲得したフラッグシップモデルです。前評判が非常に高く、発売直後は品切れとなり、納期まで数カ月待ってようやく入手できたユーザーもいたと聞いています。発表時点での想定価格は、約52万円前後。メーカー指定価格対象モデルとなっており、11月下旬時点においても価格は約52万円前後で販売されています。

パナソニック「MZ2500」シリーズ

阿部:放送や配信、ゲーム、測定といった総合評価の結果でLGの「G3」が大賞になりましたけど、純粋にHDMI入力でのブルーレイ鑑賞という1点に限って言えば、今回テストしたテレビの中でMZ2500を超える製品は無かった。ほんの少し緑っぽい色味以外は、ほぼマスモニ。

ベタ塗りになりがちな夜景の映像では、暗部の濃淡がマスモニと同じくらい正確に描き分けられていたし、映画「DUNE」でも砂粒が一番リアルに見えました。解像感が他のモデルと違う点は、YouTubeにアップした映像からも伝わると思います。

秋山氏(以下敬称略):MX950と同様に超解像処理が優秀なんだけど、本機ではその精度がさらに上がって見える。シュートアウトすると、MZ2500だけ抜きん出て精密というか、ディティールの描き分けが他と明らかに違ったよね。階調の表現も素晴らしく、画面の向こう側へ抜けていくような奥行き感は、本機の独壇場。いつもはマスモニが近くにあると、そっちにばかり目が行ってしまいがちだけど、MZ2500はそうならないんです。ついつい引き込まれてしまう。これが“テレビ大賞”ではなく“モニター大賞”だったら、間違いなく1番に選んでました。画のクオリティとしては、文句のつけようがないくらい。

RGBバランスの誤差も、ハリウッドのカラリストによるチューニングなのだと思います。ピークの輝度も高いし、グレースケールとRGBCMYWのデルタE値もAvg1.5以下で、EOTFのカーブもほぼ正確。LGがなかったら、測定でも一番の精度でした。

阿部:ブルーレイ/UHD BDラバーなら、選ぶべきテレビは間違いなくMZ2500でしょうね。これまでマスモニしか興味を持てなかった私も、今回は本気で欲しくなりました。審査員特別賞をあげたいくらいです。

秋山:では、どうして大賞ではなかったのか? ……端的に言うと、放送も配信もソース起因のMPEGノイズやアーティファクトがそのまま出てしまっていたから。地デジに関しては、デフォルトではノイズリダクションもほとんどかかっておらずノーケアに見えました。本機がモニターであれば“原画に忠実”と好意的に捉えることもできますが、あくまでテレビですからね。配信もYOASOBIのような4Kコンテンツならばそれが良い方向に作用するのだけど、ポケモンはアップスケーリングの品質も破綻していてちょっと辛かった。

西川:配信の高画質化はいま、各社が力を入れてるところだからね。高画質なソースを入力して使う、みたいなモニター的用途ならダントツの製品なんだろうけど、これがシュートアウトの怖いところだよね。加えて僕は、評価ポイントとしてゲームも重視していたから、結果的にレーダーチャートが広がるような感じのスコアにならなかったかな。

阿部:サウンドに関しては、上品すぎて物足りなさを感じました。ボリュームが小さく、映像の迫力に負けている。Hi-Fiよりエンタメ色の強い、パワフルなチューニングにして欲しいですね。

秋山:あと、これは開発陣への要望ですが、電源ケーブルを是非着脱式にしていただきたい。電源ケーブルで画音が変わるかどうかの議論はここでは避けますが、ディーガの「DMR-ZR1」は着脱式になっていますよね。テレビだって同じ。高画質・高音質を謳う製品で、直出しの貧弱な電源ケーブルだなんて、変態の愉しみを奪っているようなものです。液晶のMX950は着脱式なのだから、決して不可能ではないはず。次期モデル以降の変更を期待しています。

【AV Watchアワード】有機ELテレビ①PANASONIC「TH-65MZ2500」~マスターモニターとの映像比較
※これはHDRで撮影した映像です。鑑賞時は、HDR対応のテレビ、PC、スマートフォンなどを使用してください。SDR環境では、正しく表示されません。
推奨設定:ガンマ/HDR10、色域/BT.2020、色温度/D65
パナソニック「TH-65MZ2500」
映像メニュー「シネマプロ」(デフォルト時)における、Calman Ultimateのプレキャリブレーション結果
キャリブレーションターゲットは「白色点:D65」「カラースペース:BT.2020」「EOTF:SMPTE 2084(PQ)」
映像メニュー10%輝度
(最大)
全白輝度
(最大)
オートAI1,328cd/m2233cd/m2
シネマプロ1,440cd/m2212cd/m2
カラースペクトラム
映像メニューBT.2020
1931カバー率
BT.2020
1976カバー率
シネマプロ72.70%75.19%
画素構造
蛍光灯の映り込みの様子
映像モード入力遅延
4K60p
入力遅延
2K120p
ゲーム
ゲームプロ
10.9ms2.6ms
HDMI入力信号対応状況
4K120fps
ゲーム用HDR10
ゲーム用Dolby Vision60Hzまで
4K50Hz
1440p
非圧縮ステレオ
非圧縮5.1ch
非圧縮7.1ch
ドルビーデジタル
DTS
Dolby Atmos
DTS:X
入力信号対応
リニアPCM 2ch(192kHz/24bit)
入力時のARC伝送 ※1
ー(48kHz/16bit)
リニアPCM 5.1ch
入力時のeARC伝送 ※2

※1:UHD BD「宮古島」→パナソニック「DMR-ZR1」→TV→マランツ「MODEL 40n」
※2:Nintendo Switch→TV→シャープ「AN-SX8」

電源ケーブル対応
着脱

レグザ「65X9900M」:ノイズレスな放送。色の濃さは量子ドット液晶を意識?

阿部:TVS REGZAの「65X9900M」は、ミリ波レーダーシステムとレグザエンジンZRαで、視聴距離に最適な画音質に自動調整してくれるフラッグシップモデル。顔検出によるアニメ高画質化や3種類のゲームモードといった新機能のほか、十八番のタイムシフトマシン、まるごとチャンネル、みるコレなど、レグザならではの独自機能も継承されています。発表時点での想定価格は、約59.4万円前後。11月下旬時点では、40万円を切る価格で販売されているところもあるようです。

レグザ「X9900M」シリーズ

阿部:液晶レグザと同様、有機ELレグザにおいても従来より濃い目の画が印象的でした。人肌もやや赤寄りになっていましたね。

秋山:液晶ほど赤味は強くないですが、映画プロでも色を乗せてきていました。量子ドット液晶の画作りに引っ張られている印象です。量子ドットのような発色の良さを有機ELでも出そうと試行錯誤した結果、画作りの方向性を変えてきたのかも知れません。

西川:X9900Mのカラースペクトラムを見ると、600nm付近で窪みが出来ていて、同じW-OLEDのLGやビエラに比べると、赤の稜線がクッキリと出ています。これは多少輝度を犠牲にしてでも色を良くしよう、色域を拡げようという狙いともとれる。ただ、輝度を抑えているわけだし、そもそも量子ドット液晶テレビほど明るくもないのだから、X9900Mの本領を十分発揮するなら、なるべく暗い環境で視聴した方が良さそうです。

西川善司氏

秋山:色の傾向だけでなく、おまかせAI時のノイズリダクションが一段強くなったのも新しい画作りの特徴です。たしかに地デジのテロップ周りのモスキートノイズは目立たなくなっている。ただその一方で、細部のディティールは潰れ、輪郭が太り全体のキレが失われた印象です。これまでレグザの放送画質は、キレ味とノイズの少なさが高次元でバランスしていたので、この点は非常にもったいなく感じます。

西川:僕は、放送も配信も、ノイズの消し方は相変わらず上手いなと思いましたね。ノイズを消すか、解像感を保つかはトレードオフなので、NRを強めたことで画が多少甘くなってしまうのは仕方がないでしょう。

秋山:サウンドに関しては、ワイドレンジで、空間の広がりも感じることが出来ました。X9900Mでは有機ELパネルを振動させて音を出す仕組みですが、レグザ初の方式ながら、完成度は高かったと思います。

阿部:映像に関して言えば、高輝度なマイクロレンズ有機ELやQD-OLEDとの比較になってしまった今回は、正直分が悪かったのは否めないでしょう。横に並べると輝度は倍ほど違いますし、今までHDRに見えていた映像が“SDRプラス”ぐらいに感じてしまうほどの差があった。これもシュートアウトの怖いところですね。一方で、タイムシフトマシンやゲーム超解像、詳細情報表示など、レグザならではの多機能っぷりは健在ですから、来年は新パネルでのリベンジに期待したいです。

秋山:ちなみに、レグザはX930以降、電源ケーブルが着脱式になっています。これは当時、私がリクエストして応えてもらった仕様です。ところが本機では着脱式になってはいるものの、IECインレットが狭く奥まった場所に変更されたため、事実上、オーディオ用の高級ケーブルを挿すことができません。なぜこんなことが起きてしまうのか。

厳しいコメントが多くなってしまいましたが、レグザはマニアのニッチな要望にどこよりも真摯に取り組んでくれた、我々にとって駆け込み寺のような存在です。だからこそ地デジの件もそうですが、開発チームにはこれまで積み上げてきたレグザの価値というものを、もう一度よく考え直してもらいたい。いちユーザーとして切に願っています。

【AV Watchアワード】有機ELテレビ②TVS REGZA「65X9900M」~マスターモニターとの映像比較
※これはHDRで撮影した映像です。鑑賞時は、HDR対応のテレビ、PC、スマートフォンなどを使用してください。SDR環境では、正しく表示されません。
推奨設定:ガンマ/HDR10、色域/BT.2020、色温度/D65
TVS REGZA「65X9900M」
映像メニュー「映画プロ」(デフォルト時)における、Calman Ultimateのプレキャリブレーション結果
キャリブレーションターゲットは「白色点:D65」「カラースペース:BT.2020」「EOTF:SMPTE 2084(PQ)」
映像メニュー10%輝度
(最大)
全白輝度
(最大)
おまかせAI591cd/m2153cd/m2
映画プロ608cd/m2153cd/m2
カラースペクトラム
映像メニューBT.2020
1931カバー率
BT.2020
1976カバー率
映画プロ71.38%75.72%
画素構造
蛍光灯の映り込みの様子
映像モード入力遅延
4K60p
入力遅延
2K120p
ゲーム「スタンダード」
ゲーム「RPG」
ゲーム「シューティング」
3.0ms3.1ms
HDMI入力信号対応状況
4K120fps
ゲーム用HDR10
ゲーム用Dolby Vision60Hzまで
4K50Hz
1440p60Hz SDR/HDR
VRR 48-60Hz SDR/HDR
非圧縮ステレオ〇/〇 ※1
非圧縮5.1chー/ー ※1
非圧縮7.1chー/ー ※1
ドルビーデジタル〇/ー ※1
DTSー/ー ※1
Dolby Atmos〇/ー ※1
DTS:Xー/ー ※1

※1:ゲーム音声オフ/オン時

入力信号対応
リニアPCM 2ch(192kHz/24bit)
入力時のARC伝送 ※2
ー(48kHz/16bit)
リニアPCM 5.1ch
入力時のeARC伝送 ※3

※2:UHD BD「宮古島」→パナソニック「DMR-ZR1」→TV→マランツ「MODEL 40n」
※3:Nintendo Switch→TV→シャープ「AN-SX8」

電源ケーブル対応
着脱

シャープ「4T-C65FS1」:彩度が高く鮮やかな発色。サイリウムやネオンが映える

阿部:最新のQD-OLEDパネルをいち早く採用したのが、3モデル目のシャープ・アクオス「4T-C65FS1」です。独自の放熱構造と駆動回路によって、輝度と色彩性能を最大化。AQUOS XLEDに負けない、鮮やかな発色を実現しました。発表時点での想定価格は、約59.4万円前後。11月下旬時点では、50万円を切る価格で販売されているところもあるようです。

アクオス「FS1」シリーズ

秋山:シャープの画作りは一貫していますよね。液晶も有機ELも、彩度が高く鮮やかな発色を重視していて、他社とは一線を画した独自路線を貫いている。純度が高いRGBが採りだせる量子ドットは、彼らの思想に一番合致している技術なのかもしれません。

阿部:技術者は「放熱プレートに制約が出る“画面振動スピーカー”ではないため、輝度が稼ぎやすい」と話していました。実際の映像も非常に明るくて、測定データではマイクロレンズ有機ELのLG、パナソニックとほぼ同レベルの高い輝度をマークしました。

秋山:同じQD-OLEDパネルを使うブラビアとは、暗部階調の見せ方が大きく異なるのも面白いですね。ブラビアはQD-OLED特有の暗部ノイズが見えないギリギリのところまで粘っているけど、アクオスは思いっきり暗部を引き込んでバッサリと切っている印象。これは明部も同じ傾向だから、極端なコントラストに見えてしまう。

西川:色域においても、QD-OLEDパネルの素がそのまま出ている。じゃじゃ馬なQD-OLEDをブラビアはなんとかしてコントロールしようとする一方で、アクオスは放任している感じ。だから、ライブのサイリウムや夜景のネオンみたいに、コンテンツがハマるとすごく映える。暗闇に浮かぶ、あのビビットで色がたっぷり乗ったライトやネオンは、W-OLEDでは出せないよね。

秋山:FS1のプレキャリブレーション結果を見ると、RGBバランスも、色精度を示すデルタEのアベレージも悪くないけれど、実際の映像はかなり派手でまるで別物です。これはYouTubeの動画でぜひ確認してもらいたい。測定結果だけで判断してはいけないテレビです。

西川:音の事なんだけれど、僕はバーチャルサラウンド感が良かったかな。液晶アクオス(EP1)の音も良かったけど、画面の外側から音が聞こえてくる感じが好印象でしたね。

【AV Watchアワード】有機ELテレビ③SHARP「4T-C65FS1」~マスターモニターとの映像比較
※これはHDRで撮影した映像です。鑑賞時は、HDR対応のテレビ、PC、スマートフォンなどを使用してください。SDR環境では、正しく表示されません。
推奨設定:ガンマ/HDR10、色域/BT.2020、色温度/D65
シャープ「4T-C65FS1」
映像メニュー「シネマ」(デフォルト時)における、Calman Ultimateのプレキャリブレーション結果
キャリブレーションターゲットは「白色点:D65」「カラースペース:BT.2020」「EOTF:SMPTE 2084(PQ)」
映像メニュー10%輝度
(最大)
全白輝度
(最大)
AIオート1,301cd/m2217cd/m2
シネマ1,180cd/m2222cd/m2
カラースペクトラム
映像メニューBT.2020
1931カバー率
BT.2020
1976カバー率
シネマ85.10%89.62%
画素構造
蛍光灯の映り込みの様子
映像モード入力遅延
4K60p
入力遅延
2K120p
ゲーム12.0ms3.1ms
HDMI入力信号対応状況
4K120fps
ゲーム用HDR10
ゲーム用Dolby Vision60Hzまで
4K50Hz
1440p60Hz/120Hz SDR/HDR
VRR 48-120Hz SDR/HDR
非圧縮ステレオ
非圧縮5.1ch
非圧縮7.1ch
ドルビーデジタル
DTS
Dolby Atmos
DTS:X
入力信号対応
リニアPCM 2ch(192kHz/24bit)
入力時のARC伝送 ※1
ー(48kHz/16bit)
リニアPCM 5.1ch
入力時のeARC伝送 ※2

※2:UHD BD「宮古島」→パナソニック「DMR-ZR1」→TV→マランツ「MODEL 40n」
※3:Nintendo Switch→TV→シャープ「AN-SX8」

電源ケーブル対応
着脱

ソニー「XRJ-65A95K」:“サウンドバー不要”の音の良さ。ワンソニー希望

阿部:ソニーの「XRJ-65A95K」は、2022年7月に発売した4K有機ELブラビア。国内のテレビで、初めてQD-OLEDを採用。認知特性プロセッサー・BRAVIA XRとの組み合わせによって、「あらゆる輝度レベルで鮮やかな色とリアルな質感表現」を目指したフラッグシップモデルとなっています。発表時点での想定価格は、約66万円前後。11月下旬時点では、50万円台前半で販売されているようです。

ブラビア「A95K」シリーズ

西川:原色の再現性というか、発色の良さは光っていましたね。アクオスのFS1よりも色がコントロールされているし、放送で見た刺身の色も蛍光色になっていない。ただ、現状のQD-OLEDパネルの特性というか、黒の沈み込みが早いのが難点でした。

秋山:配信やブルーレイを視聴して感じたのは、画が重いということ。アクオスほどではないけど、やはり暗部階調が見えないんですよ。

西川:自発光デバイスって“暗く光らせる”のがもともと難しい。プラズマテレビが苦労したように、時間方向や空間方向に分割して光らせるなどの特殊なノウハウが必要になってきます。量子ドットも蛍光体に近く、残光時間のバラつきも想定され、技術的には難しいと思われます。LGディスプレイは、W-OLEDを10年以上かけて完成度を高めてきたわけですから、QD-OLEDが真価を発揮するまではもうしばらく時間が必要なのだと思います。

あと、入力遅延の低減や1440p対応など、ゲーミングが弱いのは残念。PS5があるのだから、是非ワンソニーで対応して欲しいですね。

秋山真氏

秋山:A95Kに関して言えば、他のテレビに比べて音が圧倒的に良かったことが挙げられます。とにかくヌケがよく、クリア。迫力も空間表現もあって、下手なサウンドバーよりも遥かに音がいい。A95Kにサウンドバーは不要ですね。

ソニーは初代の4K有機EL「A1」から“画面を振動させて音を出す”方式を採用していて、それには正直拒絶反応がありました。画面を震わせるとは、何事だと。ただ、上手く帯域分割をしているせいか、正直、私の目では画質面での悪影響は見えなかったですし、何よりも世代を重ねてここまでのレベルに仕上げてきた事に感動しました。結果発表時のテキストでも書きましたけど、A95Kの“画音一致”はオーディオ・ビジュアルの理想形だと思います。

【AV Watchアワード】有機ELテレビ④SONY「XRJ-65A95K」~マスターモニターとの映像比較
※これはHDRで撮影した映像です。鑑賞時は、HDR対応のテレビ、PC、スマートフォンなどを使用してください。SDR環境では、正しく表示されません。
推奨設定:ガンマ/HDR10、色域/BT.2020、色温度/D65
ソニー「XRJ-65A95K」
映像メニュー「シネマ」(デフォルト時)における、Calman Ultimateのプレキャリブレーション結果
キャリブレーションターゲットは「白色点:D65」「カラースペース:BT.2020」「EOTF:SMPTE 2084(PQ)」
映像メニュー10%輝度
(最大)
全白輝度
(最大)
スタンダード1,001cd/m2212cd/m2
シネマ940cd/m2120cd/m2
カラースペクトラム
映像メニューBT.2020
1931カバー率
BT.2020
1976カバー率
シネマ85.65%89.55%
画素構造
蛍光灯の映り込みの様子
映像モード入力遅延
4K60p
入力遅延
2K120p
ゲーム
拡張フォーマット
12.4ms4.3ms
ゲーム
拡張フォーマット(VRR)
16.9ms12.5ms
HDMI入力信号対応状況
4K120fps〇/〇 ※1
ゲーム用HDR10〇/〇 ※1
ゲーム用Dolby Visionー/60Hzまで ※1
4K50Hz〇/〇 ※1
1440pー/ー ※1
非圧縮ステレオ
非圧縮5.1ch
非圧縮7.1ch
ドルビーデジタル
DTS
Dolby Atmos
DTS:X

※1:拡張フォーマット/ドルビービジョン優先

入力信号対応
リニアPCM 2ch(192kHz/24bit)
入力時のARC伝送 ※2
ー(48kHz/16bit)
リニアPCM 5.1ch
入力時のeARC伝送 ※3

※2:UHD BD「宮古島」→パナソニック「DMR-ZR1」→TV→マランツ「MODEL 40n」
※3:Nintendo Switch→TV→シャープ「AN-SX8」

電源ケーブル対応
着脱

LG「OLED65G3PJA」:測定とゲーム対応は文句なし。放送画質も大幅改善

阿部:最後はLGエレクトロニクスの「OLED65G3PJA」です。マイクロレンズ有機ELパネルを搭載し、一般的な有機ELテレビよりも明るさが最大70%向上したフラッグシップモデル。2ch音源の9.1.2chアップミックス化や好みの画を選択するだけでユーザー好みの画質に調整してくれる「パーソナルピクチャーウィザード」など、他社のテレビにはない独自機能も搭載されています。発表時点での想定価格は、約61万円前後。11月下旬時点では、40万円台後半で販売されているようです。

LGエレクトロニクス「G3」シリーズ

秋山:大賞の理由の1つが「測定結果」。プレキャリブレーションの結果を見てもらうと分かりますが、ターゲットのHDR信号(D65/SMPTE 2084/BT.2020)に対して、シネマダークモードの値がほぼドンピシャでした。RGBバランスの乱れもなく、21段階のグレースケールでも色精度(デルタE)がアベレージ0.5。EOTFのカーブも規定通りで、測定を行なった専門の方も「この数値はちょっと信じられない」とこぼす程の正確さでした。

西川:4K60p時で「1.5ms」、2K120p時で「0.9ms」という入力遅延も全10モデルの中で最小。4系統全てのHDMI入力が4K120p信号をサポートしている事や、120HzまでのDolby Visionゲーム、1440p対応など、幅広いゲーム信号をカバーしている点も他社と差を付けていましたね。

秋山:ただ、測定結果だけだとMZ2500と同じで“モニター大賞”になってしまう。決定打だったのが、地デジと配信の画質でしょうか。これまで地デジ画質といえば国内メーカーのお家芸だったし、海外メーカーの放送画質は確かに酷かった。でもG3は、高輝度パネルを活かしたメリハリのあるチューニングで、ノイズリダクションの弊害を上手くカバーして、見栄えの良い放送画質に仕上げている。配信画質は時折フレーム補間のエラーはあるものの、スケーリング処理やバンティング対策もしっかり出来ていた。結果的に、どんなコンテンツを再生しても及第点以上の画質だった本機が、総合得点で大賞に選ばれたということです。

西川:これは取材している我々自身もショックでした。数年前であれば「放送画質なら〇〇社」「ゲームなら〇〇社」などど言い表すことができましたが、この現状を知ってしまうともう言えなくなる。

秋山:マイナス部分がないわけではありません。例えば、シネマダークモードで「マリアンヌ」を見ると、プリセット値が明る過ぎて夜のシーンが明け方に見えてしまったりと、キャリブレーション時の振る舞いと実際の視聴の印象にやや乖離がある。世間一般では「夜が明るくて何が悪いの? 見やすくていいじゃない」という反応かもしれませんが、こういった所はMZ2500の方が圧倒的にしっかりしています。

西川:フィルムメーカーモードでも見たけど、同じように明るかったよね。たぶんトム・クルーズが怒るレベル(笑)。

秋山:気になるのは明るさだけで、色相などはそれほどズレていないから、設定メニューから「OLEDピクセルの輝度」を100から40くらいに下げるとほぼ満足のいく画質が得られますが、どうせならば測定結果をそのまま反映したモードも用意してほしいと思います。

LGには今後、Gシリーズをガチの画質マニアに向けた製品に育てていってもらいたいですね。そのためにも、まずは、電源ケーブルを着脱式にしてください(笑)。

【AV Watchアワード】有機ELテレビ⑤LG Electronics「OLED65G3PJA」~マスターモニターとの映像比較
※これはHDRで撮影した映像です。鑑賞時は、HDR対応のテレビ、PC、スマートフォンなどを使用してください。SDR環境では、正しく表示されません。
推奨設定:ガンマ/HDR10、色域/BT.2020、色温度/D65
LGエレクトロニクス「OLED65G3PJA」
映像メニュー「シネマダーク」(デフォルト時)における、Calman Ultimateのプレキャリブレーション結果
キャリブレーションターゲットは「白色点:D65」「カラースペース:BT.2020」「EOTF:SMPTE 2084(PQ)」
映像メニュー10%輝度
(最大)
全白輝度
(最大)
標準1,228cd/m2216cd/m2
シネマダーク1,331cd/m2197cd/m2
カラースペクトラム
映像メニューBT.2020
1931カバー率
BT.2020
1976カバー率
シネマダーク72.92%75.02%
画素構造
蛍光灯の映り込みの様子
映像モード入力遅延
4K60p
入力遅延
2K120p
ゲームオプティマイザ
入力遅延の防止「標準」
9.1ms0.9ms
ゲームオプティマイザ
入力遅延の防止「ブースト」
1.5ms0.9ms
HDMI入力信号対応状況
4K120fps
ゲーム用HDR10
ゲーム用Dolby Vision120Hzまで
4K50Hz
1440p60Hz/120Hz SDR/HDR
VRR 48-120Hz SDR/HDR
非圧縮ステレオ
非圧縮5.1ch
非圧縮7.1ch
ドルビーデジタル
DTS
Dolby Atmos
DTS:X
入力信号対応
リニアPCM 2ch(192kHz/24bit)
入力時のARC伝送 ※1
ー(48kHz/16bit)
リニアPCM 5.1ch
入力時のeARC伝送 ※2

※1:UHD BD「宮古島」→パナソニック「DMR-ZR1」→TV→マランツ「MODEL 40n」
※2:Nintendo Switch→TV→シャープ「AN-SX8」

電源ケーブル対応
着脱

総括:選者から愛をこめて「ライバル意識を持て!」「変態よ立ち上がれ!」

阿部:というわけで、全10モデルを振り返ってきましたが、今回のテレビ比較はいかがでしたか?

西川:世界を相手に、熾烈なシェア争いを展開しているメーカーの強さを見た気がしました。QD-OLEDもマイクロレンズ有機ELも、サムスンとLGという強烈なライバルメーカーがバチバチに競った結果生まれた産物であって、海外ではサムスンとLGが有機ELテレビで明るさ競争を繰り広げていますよね。

決してパネルを作れとまでは言いません。ただ、競争がいい技術を生むことは間違いない。日本メーカーも以前のように他社に対してライバル意識を強く持つべきだし、国内ブランドではなく世界シェアトップクラスのLGやサムスンと闘うぐらいの攻めの姿勢が見たい。そうでないと機能的にも、そして画質的にもいずれ負けてしまうと思いました。

秋山:LGテレビの“全HDMI入力・4K/120p対応”だって、当初は「120pのコンテンツなんてまだ限られているし、誰が4入力も使うの? オーバースペックじゃない?」と思われた。でも結局はゲームユーザーに支持されたし、今でも他社は2入力止まり。入力遅延も他社が敵わなくなってしまった。

西川:LGも以前はテレビ部隊とモニター部隊が分かれていましたが、5年ほど前から互いの強みを共有するようになったと聞きます。テレビでも入力遅延がしっかり対策されるようになったし、モニターにはテレビの高画質ノウハウが使われるようになった。“ワンLG”が機能してるのですよね。

秋山:G3が測定でマスモニレベルの精度を出したのも、海外でアワードを獲るための対策の1つなのだと思います。欧米では製品を測定器で測ってそのデータを公開するのが普通ですし、測定の数値だけで製品の優劣が付けられてしまう場合もあるくらい評価がシビア。

でもこの話を国内メーカーにすると、測定なんて意味が無いですよ、って必ず言われたものです。たしかに日本ではそれが売り上げに直結しないかもしれない。でも意味があるかないかは購入者が決めることです。

なにかにつけて「リソースが……」と口に出してしまいがちな昨今ですが、やらない理由を見つけて消極的になるより、やる理由を見つけて攻めの姿勢に切り替えて欲しい。守りに入ってしまうとあっという間に海外勢に抜かれてしまうし、気が付いたら、結局「ウチには強みが1つもない……」なんてことになりかねない。

阿部:このアワードを開催したことが、「ニッチな機能かもしれないが、AV Watchアワードを獲るためにはやろう!」というモチベーションになってくれたら嬉しいですよね。

例えば、ARCの問題。いまHDMI(ARC)を搭載した2chアンプがオーディオメーカー各社から発売されていますが、テレビのARC端子と接続しても、2chアンプに伝送できるフォーマットは48kHz/16bitまでなのです。今回実際にマランツ「MODEL 40n」を借りて、接続テストを行ないましたが、ハイレゾ信号を伝送できた最新テレビは1台もありませんでした。

いま各社に調査中ですが、受け側のアンプがeARCでもハイレゾ伝送はできないようです。詳細は後日また別記事でお知らせしたいと思います。

秋山:これは現状ではどのテレビメーカーも汎用SoCを使っているのが原因だと思いますが、例えばLGならば自社チップでハイレゾ伝送を実現できてしまうかもしれない。結局こういうことの積み重ねなんです。

西川:LGの実力の高さやハイセンスの頑張りを見ると、TCLやFUNAIなど、海外で闘っているブランドはもう無視できないと思いますね。TCLのテレビは数年前に、大画面☆マニアでレビューしましたが、今どこまでのレベルに来ているのか見てみたい。北米のシェアは、1位がサムスン、2位がTCL、3位がLG、4位がハイセンスになっていますからね。

秋山:「変態の変態による変態のためのテレビアワード」と謳いましたけど、国内メーカーで製品を作っている方の中にも絶対に変態はいるんですよ。だからこのアワードをキッカケに「攻めましょう! やらないと負けます!」と、技術や企画の変態さん達に立ち上がって欲しい。そして、そういった方々が脚光を浴びることができるようなアワードに育てていくことが、我々の使命だと思っています。

AV Watch編集部