西川善司の大画面☆マニア
第285回
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激変プロジェクタに100型級テレビ、向こうが見えちゃう3Dモニタ。まだあるよ新技術
2024年2月19日 07:00
2回に分けてお届けしている、“CESで見た最新ディスプレイ技術事情”。前編では、マイクロLEDディスプレイの技術的な現状を中心に、パネル製造から最終製品開発・製造まで垂直統合を実現しているサムスンの本気度、そして要素技術開発で奮闘する日本企業を紹介した。
後編では、「当面は富裕層向けとなるであろうマイクロLEDディスプレイ」から離れ、一般ユーザー向けの大画面技術や大画面新製品を取り上げていくことにしたい。
前後編の最新映像技術を抑えておけば、キミも2024年を大画面☆マニアとして生き抜けるに違いない(笑)。
超短焦点プロジェクタは“レーザーテレビ”へ!?
今回のCES 2024では、超短焦点の新しいDLPプロジェクタが数多く登場していたことも大きなトピックだったように思う。また、驚きのプロジェクタ向け新技術の展示もあり、プロジェクタファンにとっても見どころの多いCESだった。
今や、液晶・有機ELパネルを採用した薄型テレビは50型台が普及サイズとなってきているが、65型を超えた……例えば70型台、80型台も日本メーカーがラインナップするようになってきた。
しかし、約100インチクラスか、それ以上の大画面となると、コストパフォーマンス的にはまだまだ“プロジェクタで投写する画面サイズ領域”という認識が強い。
とはいえ、プロジェクタは“部屋の後ろに設置して大画面を得る映像機器”というイメージが大半で、「設置が大変」「運用が面倒」と思われがちだ。
そんなユーザーの不満を和らげる超短焦点プロジェクタの台頭が、近年、大画面☆マニアの間で認識されるようになってきた。
超短焦点プロジェクタは、100インチ画面の投写をわずか20cm台で行なうことができる。ほぼ、画面(スクリーン)の直下に置くだけで大画面が得られるため、映画やゲームをカジュアルに楽しみたいユーザーから注目度を上げてきているのだ。
近年、特に人気を博しているのはフルHD解像度のテキサスインスツルメンツ(TI)社製のDMD(Digital Micro-mirror Device)パネルを用い、各画素を複数方向に時分割シフトして、比較的高品位な疑似4K投写を行なうDLPプロジェクタだ。今年のCESでは、光源にRGB三波長レーザーを採用し、色再現性を劇的に高めた新製品群が注目を集めていた。
例えば、アメリカの新興メーカーAWOL VISIONの超短焦点プロジェクタ「LTV-3500 Pro」や「LTV-2500」は、まさにRGB三波長レーザー光源採用の超短焦点プロジェクタの代表格だ。最大輝度と北米価格は、LTV-3500 Proが3,500ルーメンで約6,000ドル、LTV-2500が2,000ルーメンで約3,000ドルとなっている。
国内では、モダニティが取り扱っており「LTV-3500」は792,000円、「LTV-2500」は495,000円で展開中。ビックカメラのほか、大塚家具でもモデル販売(期間限定)されている。
同じく、アメリカの新興メーカーNexiGoも、同性能の三波長レーザー・超短焦点プロジェクタ「Aurora Pro TV」を発売した。最大輝度は2,400ルーメンで、価格は約3,000ドル。
超短焦点プロジェクタの台頭とともに、急速に進化したのが、超短焦点プロジェクタ専用スクリーン(あるいは超短焦点プロジェクタ最適化スクリーン)だ。
いわゆる「Ambient Light Rejection」(ALR:環境光除去)型スクリーンと呼ばれるもので、各スクリーン素材メーカーが独創的な光学技術を盛り込んだ特殊スクリーンを開発し、「超短焦点プロジェクタ向けスクリーン」として発売している。「ALRスクリーン」として検索すれば、日本市場でも様々な製品が流通していることが分かるはずだ。
スクリーン素材の代表的なものとしては、レンチキュラーレンズを組み込んだDNPの「Supernovaスクリーン」、フレネルレンズを組み込んだDNP「Supernova STSスクリーン」、プリズム構造を組み込んだ有沢製作所「プリズムスクリーン」などがある。
RGB三波長レーザー光源採用の超短焦点プロジェクタ製品と、そうしたALR型スクリーンをセットにした商品を、北米市場では“Laser TV”という大胆な製品ジャンル名で呼ぶ風潮となりつつある。
かつて“定着こそしなかった”が、サムスンがLEDバックライト搭載液晶テレビを「LED TV」と呼んだときのように、新技術と従来技術の組み合わせに“新しいブランド”を与えるマーケティング手法は定期的に行なわれがちだ。
実際、前出のAWOL VISIONは、超短焦点プロジェクタ製品を“Laser TV”として訴求しているし、北米で大きなシェアを取るようになったハイセンスも、RGB三波長レーザー光源に対して“TriChroma”と言うブランドを付与している。さらにハイセンスは、同社が独自開発したALR型スクリーンとセットにしたパッケージ製品を“Laser TV”シリーズとして北米市場に積極展開する方針を打ち出した。
そんなハイセンスが、2024年のイチオシ製品としてブースでアピールしていたのが、独自開発の88インチ「Fresnel ALR」(フレネル環境光除去)型スクリーンと、業界最小サイズを謳う、輝度2,500ルーメンクラスのTriChroma対応超短焦点プロジェクタをセットにした「Ultra Slim 4K Laser TV」だ。北米価格は約5,000ドルを想定。
ハイセンスは、独自開発ALR型スクリーンの最新作「Ultra-Black Technology」も発表している。この新作スクリーンは、前出のALR型スクリーンの解説で示したような、特殊微細光学フィルムを適用したALR型スクリーンの一種のようだが、構造の詳細は不明。ただし、外光カット率94%というスペックがアピールされていた。近々、新製品としてもリリースされることだろう。
なお、昨年から急激に始まったRGB三波長レーザー光源の超短焦点プロジェクタの発売ラッシュは、DMDチップ開発・製造元のテキサスインスツルメンツ社が「RGB三波長レーザー光源搭載の超短焦点プロジェクタのコアモジュール」のOEM提供を開始したためだと推察される。
ついにプロジェクタでエリア駆動!? DLS技術とは
プロジェクタ環境は、黒の締まり具合が部屋の明るさによって決まってしまう関係上、映像内に明るい映像要素が存在した時点で部屋が明るくなり、コントラストが低下してしまう課題を抱えている。
また、部屋に照明を灯した時点で同様の事態に陥るため、プロジェクタ環境で高画質を楽しむためには“部屋を真っ暗”にする必要があり、これが利用シーンを限定させてしまうという課題もある。
この課題を解消すべく進化しているのが、前出のALR型スクリーン技術なわけだが、別角度からの改善も進んでいる。
それが、プロジェクタ機器にも「エリア駆動」(またはローカルディミング)技術を実装しようとするアプローチだ。
今や液晶ディスプレイ向けの光源技術としては当たり前となっていて、映像の各フレームの明暗分布に応じて、液晶パネルに照射する光の明暗分布を最適化させる技術のこと。
このエリア駆動を、プロジェクタ機器で行なう技術として、特に「Dynamic Light Steering」(以下DLS)、直訳すれば“光を操舵する”技術が有効とされている。
今回のCESにおいては、ハイセンスが業務用プロジェクタメーカーの大手Barcoと共同開発したDLS技術「Barco Bright」を発表。そして、この「Barco Bright」を採用した超短焦点プロジェクタの試作実動機を、ハイセンスブース内に展示し、HDR映像のデモ表示を行なっていた。
筆者の撮影ミスで、DLS技術展示コーナーの撮影が失敗していたので、代わりに、アメリカのプロジェクタ専門メディア「ProjectorScreen.com」がDLS技術展示コーナーで行なっていた開発者インタビュー動画を以下に貼っておく。動画に登場する右側の男性が、DLS技術のキーマンの一人、BarcoのRaveen Kumaran氏だ。彼には9年前にDLS技術について直接、取材をしたことがある。当時は、DLS技術をビジネス化するために起業したベンチャー企業、MTT Innovation社のエンジニアだった。
大画面☆マニアでは、DLS技術が提唱されたばかりの2015年にその技術解説をしているが、なんと9年も前のことなので、本稿でも軽く触れておきたい。
上で、DLS技術を“プロジェクタ機器向けの光源のエリア駆動技術”と解説したが、効果の説明としては正しいものの、これではやや説明不足となる。
液晶パネルにおけるバックライトのエリア駆動は、液晶パネルの背面にマトリックス状に配置した複数のLED光源の光らせ方(明暗制御)を、表示する映像の明暗分布に連動させるものだった。
DLS技術は、液晶ディスプレイのLEDバックライトとは異なり、光源自体は平面方向に複数実装されていなくても構わない。面発光として発光できていれば光源自体は単一でもOK。DLS技術では面発光状態の光を、映像パネルに平行光源として照射する際に、表示する映像の明暗分布に合わせて“再配置”するのだ。
どういうことかといえば、映像パネルにおいて、明るく表示しなければならない領域に対しては、光源からの光量を多く振り分け、暗く表示しなければならない領域に対しては、相応の光量しか振り分けない。そう、従来のプロジェクタ機器では、映像パネルに対して、明るく表示したい領域にも、暗く表示したい領域にも、同じ光量を当てていたのを、無駄なく再配置するわけである。
つまり、明るい表示にしたい領域には、より多くの光予算を多く振り分けられるので、同じ輝度性能の光源を使ったプロジェクターでも、DLS技術を採用したプロジェクターの方が、高輝度表現は、断然に明るく表示できることになる。
DLS技術は、いわば「従来のプロジェクタでは、黒く表示する領域に無駄に当てていた光を、明るく表示する領域に回す技術」ともいえるので、「光の利用効率が良くなる」という表現もできる。
そんな、動的な“光の再配置”(≒光利用の最適化)をどうやって行なうのか。これには「Spatial Light Modulator」(SLM:空間光変調器)を用いる。
SLMとは、光の振幅、位相、軌道などを空間的に変換できるデバイスで、実体構造としては液晶パネルのような平面デバイスである。
我々が普段見慣れている液晶パネルは、画素単位で光の透過率を制御できるものだが、SLMは、画素単位で入射光の光の振幅、位相、軌道を操作する役割を果たす。SLMは透過型液晶だけではなく、反射型液晶(LCOS)ベースでも実現できる。どちらでもよい。
では、このSLMを用いて、どうやって映像の明暗分布に応じた光の再配分を実現させるのかというと、光の回折現象を応用するのだ。回折格子にレーザーのような位相の揃った光を入射させて、これをスクリーンに投写させると、光の波長に応じた干渉縞が投写される。
もし、この干渉縞のでき方を空間的(映像の場合は二次元平面方向)に制御して、表示したい映像の明暗分布に近い、干渉縞の合成像を生成できるとしたら、それは光の再配置に相当するではないか。これがDLS技術なのだ。
なお、動画は複数枚の静止画(フレーム)からなるので、時間方向に明暗分布が変わる。つまり、SLMで作る回折格子の回折パターンも、毎フレーム変化させなければならない。この動的に回折パターンを作り出せる「動的な回折格子」の役割を果たすのがSLMということになる。
この“動的な回折パターン”は、SLM上の各画素を制御することで作り出すわけだが、入力フレームの明暗分布を分析し、その結果から、SLMに表示すべき回折格子パターンを決定するには、膨大な周波数領域での演算が必要となる。10年前の最初期のDLS技術実験においては、その計算にGPGPU技術(NVIDIA GeForceのCUDA)を用いていた。恐らく今は、専用のカスタムプロセッサで演算を行なっているのだと思われる。
ブースでは、DLS技術適用あり/なしの比較映像が投写されていた。実際に、その映像を見てみたが、明暗差の際立ち方は凄まじかった。
今回のハイセンスのデモは、このBarco Bright技術を超短焦点プロジェクタに適用していたわけだが、DLS技術自体は、あらゆるプロジェクタ製品にも応用が利く。今後、プロジェクタ製品全体の画質革命がもたらされるかもしれない。
ホームシアターはプロジェクタから大型ディスプレイへ?
大画面の本場であるアメリカでは、前述した「超短焦点プロジェクタの台頭」とは別に、約100インチ(あるいはそれ以上)の大画面環境を直視型ディスプレイで家庭に導入したい、という要望が強くなってきているようだ。
とはいえ、数万ドル(≒数百万円のイメージ)という予算が出せる超富裕層はアメリカでも少数派。前編で取り扱った、マイクロLEDディスプレイは、現在、やっとこの超富裕層向けに降りてきたところ……と言うイメージだ。
以前は、その価格帯で100インチ級の直視型映像機器を購入することは夢のまた夢だったが、最近ではそうでもなくなりつつある。その有望株となっているのが、"マイクロLED"ではなく"ミニLED"をバックライトに配置した大画面液晶テレビや、大型パネルの量産が本格化しつつある有機ELテレビだ。
TCLは、今回のCESで115型のQD-MiniLED TV「115QM891」の量産品を展示した。最大リフレッシュレートは240Hzまで対応しており、ゲームファンにも響きそうな仕様だ。価格は未定としながらも、ぎりぎり1万ドル台になるとの話だった。
なお、日本進出も果たしているTCLは2023年秋、日本市場でも98型のQD-MiniLED TV「98C955」を90万円台で発売しており、直視型大画面の流れを日本にも持ち込もうとしている。
TVS REGZAも、2023年12月に100型レグザ「100Z970M」を130万円台で国内販売したばかりだが、今回のCESでは、同社ブースに実機を展示。大画面の本場である北米ユーザーに、100インチレグザをアピールしていた。
LGも、CES 2024で量子ドット技術ベースの98型液晶テレビを発表している。
LGといえば、2023年末に97型の有機ELテレビ「LG SIGNATURE OLED97M3PJA」を、日本を含むグローバル規模で発売したばかり。しかし、このOLED97M3PJAは、電源供給以外をワイヤレス化した“ワイヤレス有機ELテレビ”という特殊モデルとして製品化したため、4Kテレビとしてはだいぶ割高な約430万円という値段になっている。
しかしCESでは、コストパフォーマンス重視で開発した98型4K液晶テレビ「98QNED85T」を発表したのだ。
98QNED85Tの映像エンジンは、Alpha 8(最新はAlpha 11)。いちおう、QNEDシリーズの一部なので量子ドット技術は採用するが、ミニLEDではなく通常サイズの青色LEDをバックライトに採用している。また、液晶パネルもVA型パネルとなる見込み。その代わり、価格は1インチ1万円前後となる可能性が高い、と見込まれている。日本市場にも大画面サイズを投入し始めたLGなので、このモデルの日本導入の可能性は高い。
日本にも「100インチ100万円前後の直視型大画面の波」が来つつあるのか。
ハイスペックなゲーミング有機ELモニターが続々登場
有機ELパネルは、小型画面のスマートフォンに積極採用の後、薄型テレビへの採用も進んだ。さらに十数インチ台の中型有機ELパネルはハイエンドノートPCへの採用が目立ち始め、近年では、有機ELパネルを採用したハイエンドゲーミングモニターの新製品ラッシュが続いている。
今回のCESでは、サムスンが量子ドット技術を用いた有機ELパネル「QD-OLED」パネルを採用したWQHD(2,560×1,440ピクセル)解像度、リフレッシュレート360Hzに対応した27型のゲーミングモニター「OLED G6」(G60SD)と、4K(3,840×2,160ピクセル解像度)でリフレッシュレート240Hzに対応した「OLED G8」(G80SD)を発表した。
QD-OLEDパネルは発色も良いので、デザイン業務用途にも人気が出そうだ。予想価格はOLED G8が1,300ドル、OLED G6が1,000ドルとなっている。
LGも、32型のアスペクト比16:9の4K解像度の有機ELゲーミングモニター「32GS95UE」と、WQHD(3,440×1,440ピクセル)解像度のウルトラワイド有機ELゲーミングモニター「34GS95QE」「39GS95QE」を発表した。なお、CES 2024のLGブースにいずれの実機の展示はなかった。
32GS95UEは、前出したサムスンOLED G8の競合機。4K表示時のリフレッシュレートは240HzでOLED G8と同等だが、フルHD表示時はリフレッシュレートを480Hzにまで引き上げられる点が競合機に対して優れた点だとアピールしていた。
34GS95QE、39GS95QEは、それぞれ画面サイズが34型と39型で、最大リフレッシュレート240Hz対応、画面の湾曲率800R、という部分は共通仕様となる。
実際のところ、この2モデルは、以前の大画面☆マニアでも取り上げ、筆者を画質面で唸らせた45型の「45GR95QE-B」の、画面サイズバリエーション製品というイメージ。45GR95QE-Bは価格は25万円と高価だったが、今回発表された2モデルはこれよりは安価となることだろう。
今回のCESにおいて、サムスンとLGから発表された有機ELのゲーミングモニターは、どれも画素応答速度は0.03msで一般的な液晶パネルの100倍ほど高速。最大リフレッシュレートも240Hzが基準ラインとなっており、360Hzや480Hzに対応するものが出てきたことは感慨深い。
画素応答速度が0.03msということは、計算上、有機ELモニターの最大リフレッシュレートは3,000Hzまでいけることになるが、今後上限はどこまで上がっていくのだろうか(笑)。
背伸びすると向こうが見える「裸眼立体視ゲーミングモニター」
今回のCES 2024では、裸眼立体視ディスプレイの新作が2製品発表され、実機の実動デモも行なわれていたので紹介したい。
サムスンは、新提案の裸眼立体視ゲーミングモニターのプロトタイプを発表。この試作機は、CES 2024の「Best of Innovation」賞を受賞していた。
「Best of Innovation」賞のサイトには“37インチ”と書かれているが、ブースに展示されていたのはどう見ても27インチサイズだった。ブース内に設けられた体験コーナーは、だれでも体験が可能で、動作していたゲームは2023年秋に発売された「Lies of P」(Neowiz Games)のPC版。
実際に筆者も体験してみたが、ゲームプレイのやりかたは、普通に画面に向かい、ゲームコントローラ(ブースで使えたのはXboxコントローラ)を両手で握ってプレイするだけ。特殊なコントローラは不要。
いってみれば「その映像が裸眼立体視で楽しめる」というだけ……なのだが、しばらくすると、これまでの3Dテレビ(3Dモニタ)でプレイする立体視ゲーミング体験と少々異なることに気がつく。
それは、ユーザーが頭部を動かすと、画面に映る立体映像が、その目線方向からの視界の立体視で再現されると言うところ。
これまでの3Dテレビ(3Dモニタ)による立体視ゲーミング体験は“映像が画面から飛び出て見える”ことに限られていた。しかし、今回のサムスンの裸眼立体視ゲーミングモニターは、ユーザーが頭を動かしたときの視点移動にもリアルタイムに反応するのだ。もちろん、ゲームコントローラの右スティックで動かす視点操作とユーザーの頭部の動きは合成処理されるので違和感はない。
この新しい裸眼立体視ゲーミング体験、どのような時に便利なのか。
例えば、ゲームをプレイしていて、壁に阻まれている局面で、背伸びをして向こう側の景色を覗こうとしたことないだろうか。
あるいは、キャラクターをもう一歩動かすと落ちてしまうような断崖絶壁に立っている局面で、崖の縁から首を伸ばして“遙か下に広がる奈落の底”を覗こうと思ったことはないだろうか。
これまでのゲーミングモニターや3Dテレビ(3Dモニタ)においては、どんなに背伸びや首を伸ばしても“その先”を見ることはできなかった。しかし、この裸眼立体視ゲーミングモニターだと、それが叶うのだ。
そう、このモニターは、換言すれば、ユーザーの頭部の移動による視差(運動視差)の表示にも対応しているわけである。
モニターの上ベゼルには、ユーザーの両眼位置を追跡する、視線トラッキング用の2眼カメラが搭載されており、把握したユーザーの両眼位置をゲーム側へフィードバック。ゲームは右スティックの視線操作と、モニター側が把握した視点位置の両方を加味して、ゲーム映像を描画するための最終的な視線位置と視線方向を決定。GPUはその確定した視点位置からゲームシーンを3D立体視用の2眼分の映像を描画するわけである。
完成した2眼分の映像フレームは、裸眼立体視用に変換する必要があるため、そのまま表示することはできないのだが、より詳細な描画パイプラインについては、後述の「ThinkVision 27 3D Monitor」の解説で触れる。
まあ確かに面白いギミックではあるが、この仕組みにゲームを対応させるのが大変そう……と思った人は多いだろう。しかし、そのあたりもうまく考えられている。
実はこのモニター。ホストPCからは“SteamVR対応VR-HMD”として認識されているのだ(させることができる、と言うべきか)。
つまり、“VRゲームをHMD被らずにプレイできるモニター”として動作させる仕組みというわけだ。
サムスンによれば、基本的にほとんどのSteamVRのゲームをこの裸眼立体視ゲーミングモニターでプレイすることが可能だそう。通常のPCゲームも、SteamVRに対応していればVRモードでプレイすることができるとのことだった。
さらに、最近話題のUnreal Engineベース上で動作しているゲームを強制VR対応するツール「UEVR」を活用すれば、そのゲーム自体がSteamVRに対応していなくても、この裸眼立体視ゲーミングモニターでプレイすることができるという。
どれくらいニーズがあるかは不明だが、なかなか凄いアイディア商品かもしれない。現在はプロトタイプだが、製品化が検討されているとのこと。価格は未定だ。
Lenovoからプロ向け裸眼立体視ディスプレイ
Lenovoが「ThinkVision 27 3D Monitor」という名称の、眼鏡不要の裸眼立体視ディスプレイを発売する。なお、産業用・プロフェッショナル市場向けの製品になると言う。
ハードウェア的なスペックとしては、映像パネルは3,840×2,160ピクセル解像度のIPS型液晶パネルで、3D映像解像度は1,920×2,160ピクセルを想定。裸眼立体視はレンチキュラーレンズ方式を採用、といったところ。
なお、ThinkVision 27 3D Monitorは、いわゆる「既存の3D映像を裸眼で楽しむ」タイプの製品ではなく、「表示面の前のユーザーの目線角度、視点位置にリアルタイムに反応した3D映像を表示するためのモニター」ということになる。
ThinkVision 27 3D Monitorの動作原理、ハードウェア的な仕組みは、前述のサムスンの裸眼立体視ゲーミングモニターと同じだ。
まず、ディスプレイ下部に実装された視線トラッキングセンサーによってユーザーの眼球の位置を追跡し、ユーザーの視線を求め、その視点位置からの映像をホストPCにフィードバック。本機に接続されたホストPCは、その視線から見た映像をリアルタイム生成して表示する。つまり、3D映像はホストPC側のGPUで描画する必要があるわけだ。
実はこの動作原理、ソニーが同じ産業用・プロフェッショナル市場向けに発売している「空間再現ディスプレイ」と酷似している。
では、Lenovoのモデルは「空間再現ディスプレイ」の完全なる真似事なのか? というと、そうでもなさそうだ。
ディスプレイ側には新開発した3Dイメージプロセッサが搭載されており、ホストPCのGPUが描画すべき映像の負担軽減をするという。
ソニーの「空間再現ディスプレイ」では、GPUが描画した3Dグラフィックスをそのまま立体映像として直接表示することができない。描画された3Dグラフィックスを、「空間再現ディスプレイ」の表示光学系と辻褄が合うよう、さらにGPU側でポストプロセスする必要があるのだ。
具体的には、ユーザーの視視がレンチキュラーレンズを通して見る事になる光学系(光路)計算を、GPUが描画した映像フレームの各ピクセルに対して行なって、映像フレーム全体を再加工する必要がある。
これがGPUにとって微妙に重い処理系となるため、ソニーの空間再現ディスプレイでは最低でもGeForce RTX 2060が必要で、ストレスなく使うにはGeForce RTX 2070 SUPER以上の活用が奨励されていた。
ThinkVision 27 3D Monitorでは、この光学系シミュレーションポストプロセスを内蔵された専用プロセッサで賄う。なお、前出のサムスンの裸眼立体視ゲーミングモニターでは、このポストプロセス部分をGPU側でやるのか、モニター側でやるのかについては不明である(サムスン担当者が回答せず)。
Lenovo担当者の説明によれば「専用プロセッサのおかげで、ポストプロセスからGPUが解放されるため、ホストPCの搭載GPUはNVIDIA GeForce GTX 1050程度でOK」とのことだ。
ソニーの空間再現ディスプレイもそうだったように、こうした“運動視差対応型の3D裸眼立体視システム”では、ホストPC側との協調動作が求められるため、専用のミドルウェアが必要になる。
ということで、ThinkVision 27 3D Monitorにおいても、その活用にあたっては、Lenovoが開発した独自の「3D Explorer」「3D Master」といった専用フレームワークに準拠したソフトウェアを利用する必要があるとのことだ。
このあたりの開発環境整備については、ソニーの空間再現ディスプレイの方が、先行して環境整備を行なっているので、ソニー側に一日の長がある。なお、ThinkVision 27 3D Monitorの価格は約3,000ドル、2024年2月に欧米市場での発売を予定している。