AV Watchアワード

AV Watchアワード、'23年No.1テレビ決定。有機ELはLG「G3」、液晶はソニー「X95L」

その年に登場した製品から、読者に本当にオススメしたい優れた製品を決める「AV Watchアワード」を開始します。初回は“2023年のNo.1テレビ”。4K液晶テレビ、4K有機ELテレビの中から「最上位」「65型」の2つの条件に当てはまるモデルを編集部が選定、6社から10台のテレビを借り、テレビにうるさい3名の選者による主観評価と、測定器から得られたデータを基に、有機ELと液晶それぞれに「AV Watchアワード」にふさわしいモデルを選定しました。

栄えある初代の有機ELテレビ大賞にはLGエレクトロニクス・ジャパンの65型「OLED65G3PJA」、液晶テレビ大賞にはソニーの65型「XRJ-65X95L」が輝きました。

左から秋山真氏、西川善司氏(撮影は阿部邦弘)

さらに、惜しくも大賞は逃したものの、他にはない魅力を持ったモデルには“副ショウ”を用意。ガチンコテストに参加した連載「大画面☆マニア」でおなじみの西川善司氏、元コンプレッショニストの秋山真氏、そして編集部代表・阿部邦弘の3名による、大賞・2モデルと副ショウ・8モデルへのコメントとインプレッション、および選定を終えての総評を掲載します。文末には、機種の選定から具体的な取材方法、測定の概要を記載しました。

有機ELテレビ大賞「OLED65G3PJA」

LGの65型4K有機ELテレビ「OLED65G3PJA」

衝撃の色精度。地デジ画質も大いに改善し、今年最強のテレビ(秋山真)

なにより衝撃だったのは、デルタE=Avg 0.5という驚異的な測定結果。測定のプロであるエディピット須佐氏をもってして、「これはキャリブレーション後のマスモニレベル」と言わしめるほどの精度で、こんなことが民生機で起こり得るのかと疑心暗鬼になり、再測定を行なったほどだ(もちろん結果は同じ)。

プリセット画質はとにかく明るい。例えば「マリアンヌ」のナイトシーンは、シネマダークでも夜間とは思えないような明るさだが、これが海外でウケることもまた事実である。でも、安心してください。マニュアルで調整すれば、ちゃんとディレクターズインテンションに沿った画質にすることが出来ますよ。なぜならデルタE=Avg 0.5だから。国内メーカーにはカラーバーすら正しく表示できないことは、画作り云々以前の問題であるということを、もう一度よく考えてもらいたい。

また、これまで国内メーカーの後塵を拝していると言われた地デジ画質も、大いに改善していて感心した。私の採点では2位タイ。ゲーミングモニター並みの豪華仕様と相まって、今年最強のテレビとして自信を持ってオススメしよう。

ただし、音質についてはスピーカーがどこにあるのか分からないくらい簡素なもので、ノーケアと言っていい。あと、リモコンの操作性の悪さは途中で何度も発狂しそうになるレベル。LGにはUI周りをもう一度よく考えてもらいたい。

高コントラストかつハイパワー。旧パネルではもう満足できない(阿部邦弘)

“有機ELは暗い”というイメージを吹き飛ばした、2023年のベスト4K有機EL。その輝度表現と来たら、今までの有機ELテレビが数世代前に見えてしまうほどに強烈だ。マイクロレンズアレイ技術の威力は誰の目にも明らかで、G3が描く高いコントラストとハイパワーな画を一度味わえば、旧パネルの画ではもう満足できない。

放送画質は国産メーカーの十八番とも言われてきたが、それも過去の話。精細感をキープしながら、MPEGノイズを程よく低減。ナチュラルな色再現にも不満はない。配信画質も他機に比べてノイズやバンディングが目立たず、スッキリと見やすい。何より輝度性能の高さが功を奏し、ライブ映像がまるでHDR素材のように感じる。注文を付けるとすれば、ひ弱なサウンドくらいだろう。

シネマ系の映像も暗部階調が豊かで、ハイライトの煌めきやクセのない素直な色表現が目を惹く。事実、シネマダークモードにおける色精度(デルタE値)は0.5を記録し、10台の中でダントツの1位。マスターモニターの画に近似していた。またゲームモードにおける入力遅延数値も他社を大きく引き離している。放送から配信、そしてゲームまで、一台であらゆる用途を高画質に楽しめるテレビだ。

ついに液晶機を上回るまでの低遅延性能を手に入れた(西川善司)

液晶と同様、各有機EL機で見比べた際、本機が、発色・階調・コントラストにおいて「突出した良さ」はなかったものの、様々な映像を表示しても及第点以上の評価を獲得したため、消去法で選出。「有機EL機の模範生」という感じだ。

今回、正直、評価開始前は「日本メーカーのモデルと比較すると厳しいのでは?」という先入観は少なからずあった。しかし、他機種との比較試聴、そして各種計測を進めていくと「あれ? なんか負けてないね」という印象が強くなっていき、時折、日本勢の機種で不得意な評価軸があった時にも、このモデルは「問題なし」となることがあり、結果的に「あれ? 目だって悪いところないね」と評価メンバーで顔を見合わせたのであった。

日本市場参入時の2010年頃のLGテレビは地デジ放送の品質が芳しくなかったが、13年経った今では、日本勢と同等の綺麗な絵を出せている。「モニター」としてはもちろん、「テレビ」としての実力も高くなっていた。

それと、ゲーミング性能は、あのレグザを上回る性能をマークしたことにも驚かされた。焼き付き抑止機能による遅延もなくなり、LGの有機ELテレビは、ついに液晶機を上回るまでの低遅延性能を手に入れたのだ。

液晶テレビ大賞「XRJ-65X95L」

ソニーの65型4K液晶テレビ「XRJ-65X95L」

徹底した安定志向。円熟期に入ったことを感じさせる液晶ブラビア(秋山真)

セッティングを終えて、はじめてシュートアウト映像が映し出された時、その場にいた複数の編集部員から「X95Lが一番マスモニに似ていますね」という声が上がった。長年、「ブラビアとBVMは全然違う。同じソニーなのにどうして?」と、文句を言い続けていた私も、たしかにパッと見の雰囲気は似ていると思った。あれほど赤味を帯びていた色相もだいぶ改善され、測定結果を見ても、スタンダード、シネマともに、デルタEの平均値が液晶テレビの中では最も優秀な値になっていることが分かる。

そんな本機の画質を一言で表すならば「徹底した安定志向」。直下型ミニLEDバックライトとローカルディミングの強化で、ピーク輝度最大30%、分割数20%アップを謳ってはいるが、それを“攻め”ではなく“守り”に使っている。全白と10%のピーク輝度がほとんど変わらないのも、ピーキーな振る舞いになることを避けるための配慮であろう。

地デジは穏やかな画調ながら、ノイズ感が丁寧に抑えられていて、今回の10モデルではベスト。突出したところは無いが、液晶ブラビアが円熟期に入ったことを感じさせる仕上がりとなっている。

一方の音質面では、フレーム自体を震わせて高音域を創り出す「アコースティック マルチ オーディオ プラス」が目新しいが、こちらはまだチューニング不足のようで、今後の改良に期待したい。

ハデ過ぎず地味過ぎず、絶妙なバランスの画作り。LED制御も優秀(阿部邦弘)

チェックした項目で隙を見せなかった、2023年のベスト4K液晶。画質傾向としては、ミニLEDバックライトを巧みに使った明るくメリハリある描写と記憶色が特徴だが、決してハデ過ぎでもなく、そして地味過ぎでもないという絶妙なバランスに収まっているのがニクイところ。認知特性プロセッサー「XR」の威力なのか、テレビ任せであらゆるコンテンツを華麗にメイクしてくれる印象だ。

放送は適度にノイズを抑えながら、人肌は赤味を乗せて健康的に。配信は描画線の周辺にノイズは残るものの、階調部分を滑らかに見せるバンディング処理はトップクラス。暗室で観るシネマモードもマスターモニターに近く、忠実な再現を目指しているのが好印象。力感は物足りないが、拡がりとS/Nの良さが光ったサウンドもグッドだ。

そして、様々なコンテンツを表示させても、バックライト制御が安定して動作していたのも良かったところ。明部が強すぎたり、暗部が浮いて見えたり、映像とスムーズに連動できずにLEDが不自然に変動してしまうようでは映像に没入することはできない。バックライトマスタードライブなど、定評あるLED制御技術は本機でもしっかり継承されている。画、音ともに、ハズレのない模範的モデルだ。

画質に関しては模範生的なモデル。ゲーミング性能は改良を望む(西川善司)

地デジ画質、配信映像画質、UHD BDの画質において各液晶機において“良し悪し”が現れる中、本機は画質面では発色、階調、コントラストにおいてバランスがよくまとまっており、「他を圧倒する良さはない」ものの、逆に「文句を付けたくなる弱点もない」ことから、自分は消去法で選択した。いわゆる「優等生」ではないが、「模範生」的な液晶テレビにはなっていると思う。もし、購入検討をしている人がいて最終候補で本機が残った状態で、筆者に「これどう?」という相談が来た場合、自信を持って「それでいいんじゃない?」と答えると思う。決して「買って失敗した」と言うことにはならないと思うからだ。

筆者的に、本機が今後、改良すべき点を挙げるとすればゲーミング性能だろう。PS5を有するソニーブランドでありながら、入力遅延性能が今回評価した液晶機の中でワーストは不名誉だ。ゲーミング用途を重視するならば本機を選ぶべきではない。

それと、本機は倍速駆動における補間フレームの品質も相対的には低めだった。一方で、発色は良好で、入力された映像を美しく表示するためのモニター的な実力は高いと思う。

有機ELテレビ:副ショウ

シャープ「4T-C65FS1」:
BT.2020カバー率は全モデル中ベスト“色鮮やかでショウ”(西川)

シャープ「4T-C65FS1」

2008年、他社で白色LEDバックライト採用が進む中、「RGB-LED」バックライトを採用して「色域の広さ」をアピールしたことがあった。まだ採用例が少ない「量子ドット技術で色域を広げたQD-OLEDパネル」を採用する本機は、まさにあの時の「鮮烈さ」を現代に甦らせたモデルだといえる。原色表現がとにかくエグい。

「本当にこれで合っているのか」と見るものを不安にさせることすらあるほどだ。今回の評価で、この「鮮烈な原色表現」が見事にハマっていたと実感できたのは音楽ライブ映像を見たとき。

レーザー光線を活用したエフェクトやLEDビジョンが非常にリアルで他の競合機を圧倒していた。屋内型の音楽ライブ映像は暗い場所で行われることが多いので、黒の締まりがいい有機ELの優位性も際立つ。

「鮮烈な原色」×「黒の締まり」がハマるコンテンツとしては、その他、花火、夜景、CG映画、アニメなどにも相性がいいはずだ。

ソニー「XRJ-65A95K」:
画音一致でクリアな音声“グッドサウンドでショウ”(秋山)

ソニー「XRJ-65A95K」

北米では2023年モデルのA95Lが展開されているが、日本では未発売。様々な事情があるのは分かるが、本気で有機ELテレビに取り組んでいるのか? とソニーには問いたい。そう苦言を呈したくなるのは、ソニーが本気になった時の凄さを我々は知っているからだ。

その好例が本機の音質だろう。オーディオビジュアル再生の理想形である「画音一致」を、画面を震わせて音を出すことで実現した「アコースティック サーフェス オーディオ」は、初代A1に採用されて以降、年々改良が重ねられて、今ではそんじょそこらのサウンドバーを遥かに凌ぐ、薄型テレビ史上最高音質に仕上がっている。

一方の画質は、夜景のネオンサインや、ライブのサイリウムの鮮やかさにQD-OLEDのポテンシャルを感じさせるものの、暗部表現などでは課題が散見される。来年モデルではクオリティ面でも画音一致に期待したい。

パナソニック「TH-65MZ2500」:
BD再生に最高のパートナー“アカデミー賞テレビでショウ”(阿部)

パナソニック「TH-65MZ2500」

最新の「マイクロレンズ有機EL」と、放熱効率に優れる独自のディスプレイ構造の合わせ技で、輝度を極限までブーストしたMZ2500。事実、テストした2つのモードにおいて、ピーク輝度1,400nits超をマークした唯一の有機ELテレビだった。

抜きんでていたのが、HDMI接続によるブルーレイ・UHD BD映画との相性。通常の有機ELでは“黒一色”に潰れがちな暗部は階調が豊富で、ディテールは丸見え。そして高級レンズのような抜けの良さとバキバキの解像感を併せ持ちながら、グレインは決してノイジーに見えない妙技が印象的だった。高濃度な情報をしっかり再現したいと願うブルーレイ・UHD BDラバーに最高のパートナーだ。

TVS REGZA「65X9900M」:
Switchもキレイに超解像“ゲーム画質マニアックでショウ”(西川)

TVS REGZA「65X9900M」

「ゲームモードの低遅延性能のナンバーワン」の座は、大番狂わせでLGが獲得してしまったが、レグザにはまだ強みがある。

それは、レンダリング"実"解像度がフルHD未満のことが多く、ジャギーやエイリアシングの強いSwitchのゲーム映像を、「自己合同性超解像」技術と「再構成型超解像」技術をアグレッシブに適用することで美しい4K映像にしてしまう「ゲームセレクト」機能だ。

開発陣の中では任天堂Switchモードとも呼ばれていた新機能で、特に「ロールプレイング」モードは「ゼルダの伝説」で最適化が行なわれているというから面白い。ホント、レクザの開発チームはどうかしている(笑)。このモードを活用しても追加入力遅延は1ms未満(0.1ms~0.2ms)という誤差レベルなのでSwitchゲーマーは是非活用すべし。

ちなみに、この機能は、映像エンジン「ZRα」搭載モデルに限られており、本機以外には液晶モデル「Z970M」が搭載機に該当する。

液晶テレビ:副ショウ

シャープ「4T-C65EP1」:
強力フレーム補間で配信もヌルヌルに“動きが滑らかでショウ”(西川)

シャープ「4T-C65EP1」

筆者は倍速駆動における補間フレーム挿入が嫌いである。どのくらい嫌いかといえば「呪術廻戦」に登場する投射呪法の使い手、禪院直毘人が劇中、敵にたれる講釈に、概ね同意できるほどには。だがしかし! 本機の補間フレームは凄かった。粗がほぼ目立たない。

補間フレーム挿入で厄介なポイントは2つ。

1つは、映像中の局所領域に対する動きベクトルを見失ったときに、その領域の補間ピクセルを打つのをやめてしまうこと。そうなると、映像としては、局所的に原フレーム(オリジナルフレーム)のカク付きが露呈する。つまり「ヌルヌルと動く箇所」と「カクカク動く箇所」が混在する映像となるのだ。これはキモイ!

2つ目は「遮蔽物から現れた動体」と「遮蔽物に隠れ行く動体」に対し、動きを誤認し、動きベクトルに誤差を生じるケース。この時、映像中の対象領域が振動を起こしたり、ノイズが現れたりする。これもキモイ!

今回評価したテレビの中で、ほぼ補間フレームエラーを出さなかったのが本機のみであった。ヌルヌル映像がお好きならば本機はオススメだ。たぶん、禪院直毘人も本機は気に入るはずである。

※筆者注:禪院直毘人は、アニメ/漫画「呪術廻戦」に登場し、触れた敵の動きを毎秒24コマに制限してしまうという変態能力を持つ呪術師。劇中で「最近のテレビの補間フレームが嫌いだ」と、トム・クルーズみたいなことを言っているキャラです

ハイセンス「65UX」:
放送・配信の画は国内メーカーに匹敵“ダークホースでショウ”(秋山)

ハイセンス「65UX」

これまでの同社のテレビは、良くも悪くも「ジェネリックREGZA」と呼ばれることが多かったが、もし今回のアワードに「敢闘賞」が用意されていたならば、私は迷わず本機を推していた。

増強された直下型ミニLEDバックライト、独立構成の量子ドットフィルム、細分化されたローカルディミング制御、低反射・広視野角の倍速パネルという組み合わせは、39.8万円という、もはやジェネリックでもなんでもないプライスタグに見合ったものであり、それらに裏付けされた基礎体力の高さで、白飛びも恐れない豪快な押し相撲を展開する。

それでいてノイジーな映像になっていないのは、こちらもフラッグシップ専用の16bit処理エンジンの威力だろう。手元の採点表では画質面で本家を僅かに上回ったことを告白しておく。色相が緑に寄るのは血筋か。音質も若干ナローだが迫力があって悪くない。

パナソニック「TH-65MX950」:
真っ昼間のリビングに置いても暗くない“明るさ推しでショウ”(阿部)

パナソニック「TH-65MX950」

「パナソニックはいつ出すのか?」とユーザをヤキモキさせていた中で投入された、ビエラ初のミニLED×量子ドット機。緻密なLEDバックライト制御による有機ELライクなメリハリある映像を表示すると思いきや、他社のそれとは異なり、本機は“明るさ”にフルスイングした画作りに仕上げてきた。

その明るさは蛍光灯を点けた会議室でも目立つほどで、ニュースやバラエティなどの放送番組も明るくパワフルに、クッキリと表示してくれる。暗部は積極的に沈めることはせず、コントラストを抑えた見通しのよさを重視。発色はナチュラルで、色味も赤や緑に偏ることがなくニュートラル。明るいリビングで普通に楽しめるモデルに仕上がっている。惜しいのは、配信の画質と視野角性能か。次期モデルでの改善に期待したい。

TVS REGZA「65Z970M」:
ノイズ少なめ味濃いめ“店頭でもバッチリでショウ”(秋山)

TVS REGZA「65Z970M」

最近、同社のYouTube「レグザチャンネル」を観ていて感じるのは、有機ELからミニLED液晶への戦略シフトだ。その勢いが実際の画質からも伝わってくる。これはMETAパネル非搭載のX9900Mが、今回のシュートアウトではインパクト不足だったという側面もあるが、それ以上に、レグザ全体の画作りの方向性が変化し、液晶向きの画質傾向になったことが影響していると思う。

具体的にはこれまでの薄化粧から一変し、色乗りが濃厚で、色相も従来とは真逆の赤寄りに。ノイズリダクションの効きもかなり強くなっている。こうしたバッチリメイクは明らかに店頭映えを意識したものだろう。

伝家の宝刀タイムシフトマシンはもちろん搭載。ゲームにも強く、マニア向けの機能も満載だ。ハイファイ調の音質も好印象で、あとは従来のレグザファンがこのシン・画質をどう評価するかだろう。

選定を終えての総評

「変態の変態による変態のためのテレビアワード」を終えて(秋山)

「変態の変態による変態のためのテレビアワード」を開催することは私の長年の悲願であり、この結果を読者や関係者がどう受け取るのか若干の不安はあるものの、ひとまずは無事に発表までこぎ着けることができたことに安堵している。

メーカーの人間が立ち会うことすら認めないガチ中のガチ審査は、言い換えれば、皆様の大切なご子息をお預かりして試験を受けさせているようなもので、結果次第ではその将来を左右することにもなる。

審査は土日を含め8日間にも及んだ。その間は朝から晩まで集中力が求められ、一切のミスがあってはならないという緊張感と、何度も繰り返されるテレビ移動の疲労感で、胃薬と栄養ドリンクがどんどん消費されていく過酷な現場であった。

さて、記念すべき第1回の大賞は、有機ELがLG、液晶がソニーに決まったが、正直に言うと、個人的にはこの結果は全くの予想外だった。メーカー内覧会で観た際に、「今年はどちらもビエラが強い!」という印象を持っていたからだ。

そのビエラが大賞を獲れなかったのは、内覧会では披露されなかったコンテンツで採点が伸び悩んだからである。具体的にはMZ2500は地デジや配信の画質が芳しくなく、MX950は暗部に問題を抱えていた。特にMZ2500については、HDMI入力+シネマプロの画質だけならブッチギリのナンバーワンであり、仮に「モニター大賞」が用意されていれば文句ナシで受賞していただろう。しかし、我々が求めたのは「テレビ」としての総合力である。

そう考えれば、LGが有機EL大賞を獲ったのは当然の結果と言えるだろう。驚愕の測定結果は、主観評価よりも測定データが重要視される欧米市場を勝ち抜くための日々の鍛錬の賜物であり、有機ELの画質を新たなステージに押し上げたMETAパネルも、QD-OLEDや量子ドットミニLED液晶との熾烈な覇権争いのなかで生み出されたものだ。当初はオーバースペックに思えたゲーミング仕様も、今ではLGテレビが選ばれる強力な武器となっている。

テレビ業界に限らず、昨今の国内メーカーは「やる理由」よりも「やらない理由」を探しているような気がしてならない。資金不足、リソース不足、それも分かる。しかし、それでは世界市場で戦う海外メーカーには勝てない。そういった意味では、守りに徹していた感はあるものの、ソニーがハイセンスの追い上げをかわして液晶大賞を獲ったことには意義がある。

では、国内市場がメインのレグザやシャープに大賞の可能性はないのか? そんなことはない。幸い審査員3名は日本人の変態である。日本人が好きな画質、日本人が喜ぶ機能を徹底追求することで、ワン・アンド・オンリーの存在として、来年のアワード(あるのかな?)も大いに盛り上げてくれることを期待している。

秋山真 プロフィール

20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米し、パナソニックハリウッド研究所に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を活かし、評論活動も展開中。愛猫2匹の世話と、愛車Golf GTI TCRのローン返済に追われる日々。

画質で選ぶなら有機EL一択。ただしQD-OLEDは、発色以外発展途上(阿部)

頂上決戦を制したのは、ソニーの液晶テレビ「X95L」とLGの有機ELテレビ「G3」という結果になった。総評では、ベストモデル以外の製品で感じた部分を記しておきたい。

まずは液晶からだが、バックライト制御の思想が異なる「MX950」を除いて、「当初予想していたほど画質差は大きくなかった」というのが本音だ。液晶テレビの画質を底上げするミニLED×量子ドット技術を導入した、ブランドを代表する最上位機ということもあってどれも基本レベルは高い。ただ、「EP1」は料理がペンキのような蛍光に見えてしまうサイケな化粧、「Z970M」は赤く濃厚な味付け、そして「UX」はややディテールが潰れ気味になってしまう点が好みの画とは違っていた。

有機ELに関しては、マイクロレンズアレイ技術を搭載したWOLED勢「G3」「MZ2500」と、青色OLEDと量子ドットを組み合わせたQD-OLED勢「FS1」「A95K」による“高輝度パネル合戦”という様相で、長いこと「暗い」と言われ続けてきた有機EL新時代の幕開けだと感じた。もちろん、高輝度パネルとはいえ、全白のような画面全体を明るく表示する性能こそ液晶に敵わない。しかし、液晶には描けないコントラストと奥行き感は何ものにも代え難い。2択で問われたら、自身は迷わず有機ELを選ぶ。

注目の最新パネルQD-OLEDは、定評通り発色性能が凄まじい。BT.2020カバー率は約89%と、WOLED勢よりも15%程高く、ライブ映像のレーザー、サイリウムがひと際“ばえる”。夜の街のネオン看板を捉えた映像でも、WOLEDだと橙色に薄まって表示される色も、QD-OLEDでは深紅に。視野角がWOLEDより広いのも長所だろう。ただ、階調性は発展途上のようで、明部も暗部も飽和が早く意外とレンジが狭い。全体がノイジーと感じる点も気になる。WOLEDも10年の時間を要した。QD-OLEDがどこまで本気でパネル性能を改善するか、そしてどこまでそれをメーカーが使いこなすか、今後に注目したい。

阿部邦弘 プロフィール

オーディオ・ビジュアル専門誌の編集に約13年従事した経験を活かし、AV Watchでは主に映像系のネタを担当。自宅では、液晶(BVM)と有機EL(PVM)のソニー製2K業務用モニター、4K HDR対応のキヤノン製モニター、24型のHD対応CRTモニターを夜な夜なシュートアウトさせてニヤニヤしている拗らせ変態。

初回ということもあり「ちょっとガチで評価しすぎた」(西川)

評価作業を実際に始めるまでは、もう少し簡単に終わるものかと思っていた。定番の評価映像をささっと全モデルで見て、前評判の高いアレが優秀な成績を収めて「ハイ終わり」みたいなものになると思っていた。だって他誌がやってるアワードだって大体そんなもんでしょ?

AV Watchアワードは、ちょいとガチで評価をやり過ぎたと思う。主観の評価軸を軽視はしないが、計測器による測定値に重きを置いたのだ。ただ、それだけでは、人間が評価する意味がない。なので測定値を踏まえた上で、主観評価を行なうこととした。逆に言えば、他のアワードとの違いはそれだけ。

ただ「その違い」が大変だったのだ。

お天道様が上がっている時から地平線に沈むまで、ずっと測定して、一通り測定してから、そのデータシートを踏まえて、実機に多様な映像を映して見る。評価者はそれぞれに見たい映像を持ち寄るので、それを全部みんなで見る。4K/HDR映画は当然として、地デジ放送だけじゃなく、YouTube番組も見たし、アニメも見た。これを丸二日もやった。

んで、頼まれもしないのに、自分は、レギュレーション以外の測定も別途行なった。いつもの大画面☆マニアのレギュラー回でやっている測定に加えて、今夏、大画面☆マニアで取り扱った「任天堂Switchのサラウンド出力問題」(前編後編)について、今回取り扱った全てのテレビ製品に対してテストを行なった。結果、任天堂Switchと直結して非圧縮5.1chサラウンドが再生出来るテレビ製品の存在を突き止めた。

そうそう、件の記事で取り上げるも製品入手が間に合わなかった、シャープが今夏発売したバーチャルサラウンド対応のショルダースピーカー「AN-SX8」を自腹購入して、ちゃんと使えるかどうかのテストも行なった。その結果は、後日アワードの座談会で発表したい。

評価に参加した全メンバーが、評価レギュレーションとそれ以外の評価を行なった上で、大賞をどれにするか、最後に話し合ったのだが、当然、意見が一致しない。自分は「有機EL機、液晶機、両方に大賞に該当するモデルはなし、とさせていただきます」と述べたら、編集部代表の阿部氏にずっこけられた。「初回の開催でいきなり該当モデル無しは尖り過ぎでしょ」という彼に対し、「だって、どの評価軸も完璧なモデルはなかったじゃないですか」と反論したが、いろいろあって、他の評価者の意見を聞いた上で、自分は、消去法(というか減点法)で投票させてもらった。結果は、ご覧の通り。

いまだ完璧なモデルは存在しないが、最も減点要素の少ないモデルが、大賞モデルということになる。換言すれば「最も欠点の少ないモデル」ということになる。減点法の筆者の評価と、他の評価者の意見が一致したのだから、結果としては一定の整合性はあるのではないか。

逆に「突出して良い点があるモデル」については副ショウの形で選んでいる。それぞれの副ショウには評価者一人がコメントを添えてはいるが、この手のアワードにありがちな「審査員の独断で決めた特別賞」とは微妙に異なり、全ての評価者が「その副ショウの内容に納得している。反対者はいない」ということは強調しておきたい。

初回ということもあり「ちょっとガチで評価しすぎた」というところが今回の反省点だ。この方向性で行って問題ないのか、ご意見は編集部まで。

なお、西川善司自身は、次回についての意見は募集していません。恥ずかしげもなく、初回開催で「該当モデルなし」を言い放った自分は、次回は評価メンバーから蹴り出されるかもしれないので(笑)。

西川善司 プロフィール

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。

テスト概要

機種選定について

2023年8月の取材時点で、発表・発売済みの4K液晶テレビ、および4K有機ELテレビの中から、「最上位」「65型」の2つの条件に当てはまるモデルを編集部が選定。シャープ、ソニー、ハイセンス、パナソニック、LGエレクトロニクス・ジャパン、TVS REGZAの6社から10台のテレビを借りた。市場で販売されているものと同等の量産品を借りているが、貸出機の都合で試作品も含まれる。設置と並行して、全機種を完全リセットし、工場出荷状態に戻して取材を行なっている。

比較したテレビ製品

有機ELテレビ
・シャープ「4T-C65FS1」
・ソニー「XRJ-65A95K」
・パナソニック「TH-65MZ2500」
・LG「OLED65G3PJA」
・TVS REGZA「65X9900M」

液晶テレビ
・シャープ「4T-C65EP1」
・ソニー「XRJ-65X95L」
・ハイセンス「65UX」
・パナソニック「TH-65MX950」
・TVS REGZA「65Z970M」

取材方法について

「放送画質」「配信画質」「BD/UHD BD画質」「音質」の4項目を重点的に、2023年8月28日から9月4日まで検証。暗幕が常設されている日本オーディオ協会会議室を借用し、液晶テレビ、有機ELテレビをそれぞれ5台横一列に並べて、同時に比較視聴した。

取材中の様子

放送は照明あり(蛍光灯下で約500lx)、配信は照明あり/なし、BD/UHD BDは照明なしと、ソースで環境で変えた。明るさセンサーは動作に応じて入切の映像を確認した。

テレビ側のモードは、BD/UHD BDのみ「シネマ系」(シネマプロ/シネマダーク/映画プロ/映画など)、放送や配信は「おまかせ系」(AIオート/オートAI/おまかせAI/AI自動など)で視聴した。おまかせ系がないLGは「標準」で視聴。ソニーの場合は「シネマ」「スタンダード」を選び、「オート画質モード:入」とした。なお、モード内の細かい設定は変更を加えず、デフォルトを基本とした。

視聴は、液晶→有機ELの順番で実施。リファレンスとして、視聴場所の中央にマスターモニターを設置し、適宜差分を確認した。

視聴場所の中央にマスターモニターを設置
マスターモニターとの差分を適宜確認した

配線に関しては、放送は分配器を経由させて各テレビのアンテナ端子へ接続。配信は1つのWi-Fiルータから各テレビへ無線接続。BD/UHD BDは分配器から各テレビのHDMI端子(4K120p入力対応ポート)へ接続した。アンテナ線・HDMIケーブルは、同一ブランド・同一型番で統一。電源も、テスターを使って極性を確認した後、同一ブランド・同一型番のタップから供給した。

測定について

パネル性能の測定には、キャリブレーションサービスを展開する株式会社エディピットに協力を依頼。視聴に用いる「シネマ系」「おまかせ系」の2つのモードで、色温度D93/D65のHDR信号を入力。カラースペース(BT.2020)、EOTF、RGBバランス、色精度(デルタE)、10%輝度(ピーク輝度)、全白輝度をソフトウェア「Calman Ultimate」で測定し、各種データを視聴時に活用した。なお、リファレンスとしたマスターモニターには簡易キャリブレーションを実施し、RGBのバラツキを補正している。

測定結果は、後日掲載の「アワード座談会」で公開予定!?
主に使用した機材・ソフト一覧

マスターモニター
・ソニー「BVM-HX310」

BDレコーダー/プレーヤー
・パナソニック「DMR-ZR1」

プリメインアンプ
・マランツ「MODEL 40n」 ※ARC伝送テストに使用

ネックスピーカー
・シャープ「AN-SX8」 ※音声信号テストに使用

ゲーム機
・マイクロソフト「XBOX SERIES X」 ※ゲーム信号テストに使用
・ソニー「PlayStation 5」 ※ゲーム信号テストに使用
・任天堂「Nintendo Switch」 ※音声信号テストに使用

HDMI分配器
・イメージニクス「US-88」

HDMIケーブル
・イメージニクス「UHP-5」

アンテナ分配器
・DXアンテナ「8DMLS」

アンテナケーブル
・サンワダイレクト「500-AT001-5BK」

照度計
・横河計測「51011」

照度・輝度計
・コニカミノルタ「CA-410(CA-P427)」

キャリブレーションソフト
・Portrait Displays「Calman Ultimate」

UHD BD/BD
・「トップガン マーヴェリック」
・「マリアンヌ」
・「君の名は」
・「DUNE/デューン 砂の惑星」
・「8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA」
・「宮古島 ~癒しのビーチ~」
・「Spears & Munsil Ultra HD ベンチマーク(2023)」

YouTube
・YOASOBI「アイドル」(Idol) from 『YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"』2023.6.4@さいたまスーパーアリーナ
・YOASOBI - 群青 / THE FIRST TAKE
・【公式】アニメ「ポケットモンスター」第1話「ピカチュウ誕生!」(アニポケセレクション)

AV Watch編集部