樋口真嗣の地獄の怪光線
第25回
おうち時間こそ4K UHDでスター・ウォーズ! ”お皿の中身”は最高だよジョージ!
2020年6月9日 08:30
さてどうしましょう。自分たちが育ててもらい、育ってきたかけがえのない世界が大きく変わろうとしています。
世の中にはないと生きていけない業界と、なくても生きていける業界とがあります。自分がどっちなのかはだれかに言われなくてもわかります。誰かに必要とされているから、今まで生きてこれた。そう感じてきましたし、感謝をしなかったときはないです。でも、それ以上に誰もが生き延びることを第一に考えなきゃいけない世の中。あるとあらゆる手段を講じてみなさんに驚きと喜びをお届けしたいと考えます。
なんて大上段に構えたところで、家から出るな命令、仕事もするな、というか現在進行中の作業も軒並み遅延、延期、予定は未定。何しろ公開するはずの映画がどんどん延期になってます。
そりゃ上映する映画館が閉まってたんだから当たり前だけど、映画のラインナップってすごい前から決まってるんです。動勢を分析して、公開時期を見極めて、年末年始、そして来年には我が社はこんな映画を用意します、とスケジュールを組むのです。
業界では“番組”なんて呼んで、それはあたかもテレビのよう言い方です。番組――テレビのようなものになったとあまり良い意味でなく言われたりしてますが、その役割、ビジネスとしての正しい成立のさせ方は紛れもなくテレビのようなものになっていたのかもしれません。
とりわけ今年は、夏にオリンピックが控えていましたから(過去形ですが)、夏はオリンピックの出場観戦問わず、世界中からあらゆる人々が押し寄せて東京都内は公共交通機関の移動もままならず、みんなステイホームでオリンピック観戦……ということが想定されていました。「そんな時期に映画やってもヒットは見込めない」と踏んで、ほとんどの映画会社が通常であれば当て込んできた夏休みの超大作、家族連れを見込んだファミリームービーを撤収させて、どちらかといえばやや小粒なラインナップを発表していたわけです。
それも予想を裏切る形で元の木阿弥。とはいえ夏の仮想敵であったオリンピックさまが来年に延期され、ビッグイベントが吹き飛んだ今年の夏休みはビジネスチャンスじゃないかと思いきや、その元凶であるパンデミックは本原稿執筆時にはいまだに終息の気配を見せておりません。
たった数カ月後の利益の予測が誰もつかないから、申し合わせたかのようなお見合いで様子見という異常事態。映画館から新作映画がなくなり、新作公開の見通しさえ立たない状態なのです。
でも我々はこんな事態を見越して、日頃から家族の白眼視に耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、捲土重来の機会を虎視眈々と狙っておりました……なんていうともっと怒られそうですが、ご家庭で映画を! 映画館を凌ぐクオリティをご家庭で! という神輿を担ぎ続けてきたのです。
しかもリモートワーク、遠隔授業、そして退屈凌ぎに配信番組を垂れ流すという新たなニーズに、ネット回線が集中し従来の家庭内通信環境は崩壊。たった数メガバイトの添付ファイルを送受信するのに数十分かかったり、それだけでなくストリーミング配信はデータ量を節約するためにビットレートに制限を加えて自慢の高画質・高音質で楽しめなくなるというのですよ。
せっかくのお家時間なのにハイクオリティではない! なんということでしょうか?
でも大丈夫! 我々(←誰だよ)はネットワークの通信速度に依存しないスタンドアローンで高画質・高音質の再生環境を構築し、家族の白眼視に耐え難きを……(以下略)して、秘かに買い揃えてきたコレクションが火を吹く時が今こそやって来たのです!
いでよ! 高画質・高音質の4K UHDブルーレイ軍団!
今こそご家庭で映画館、いや映画館を越えるハイクオリティ鑑賞環境で、ハイクオリティ映像を心ゆくまで…そんなタイミングに数ヶ月前に予約完了していたスターウォーズ全9作が4K-UHD化された「スター・ウォーズ スカイウォーカー・サーガ 4K UHD コンプリートBOX」が玄関脇の宅配ボックスにドカーンと届いたではありませんか。
「宇宙からのメッセージ」派なので、実は「ジェダイの復讐」が大好きです
このマンジリともせずに過ごす夜に昼に、ピッタリのスカイウォーカー一族の宇宙をまたにかけた大冒険。しかも気絶しそうなぐらいの高画質と他のレビューをチラ見するだけでテンションは上がるけど、俺にこんな仔細なレビューは無理だなぁと下がったり、大忙しですよもう。
今更私とスター・ウォーズのことなんて改めて書き連ねなくてもいいと思うんですが、私は「宇宙からのメッセージ」派なので、実は一作目「新たなる希望」よりも「帝国の逆襲」が好きで、それよりも「ジェダイの復讐(現タイトル:ジェダイの帰還)」が大好きなんですよ。
というよりも、あの映画がやって来るときの高校二年のワクワク感。その後、幾度となく踊らされる惹句――三部作完結編! に胸躍らされ、一作目の登場から大きなうねりとなって、アメリカをはじめとした世界各地(日本は除く)で花開く特殊効果を用いた驚異の映像イメージの総括をするかのような、続々登場する新キャラクター、スケールの大きな舞台設定。通常の映画で用意されたクライマックス級の見せ場が文字どおり釣瓶打ち。
しかも、ヴィジュアルエフェクトスーパーバイザーが異例の3人体制。
ジョン・ダイクストラが去った後、「帝国の逆襲」以降のILMを取り仕切って「レイダース/失われたアーク≪聖櫃≫」や「ポルターガイスト」で驚異的なオプチカルイリュージョンを魅せ、本作を最後にILMを離れてボス・フィルムを設立、「ゴーストバスターズ」や「2010年」といった作品で古巣ILMとしのぎを削ることになるリチャード・エドランド。
「未知との遭遇」のダグラス・トランブルの下で撮影助手のキャリアをスタートさせて、「ドラゴンスレイヤー」や「E.T.」を手掛け、のちに「アビス」や「ターミネーター2」、「ジュラシック・パーク」で映画のデジタル革命を牽引する中心的存在になるデニス・ミューレン。
「スタートレックII カーンの逆襲」を担当し、本作後に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズでロバート・ゼメキス監督と組んで、「フォレスト・ガンプ」やILMからソニー・ピクチャー・イメージワークスにヘッドハンティングされてからも「コンタクト」などで数々の名作を生み出すケン・ローストンの3人のスーパーバイザーに加え、クリーチャーエフェクトに「ロボコップ」や「スターシップ・トゥルーパーズ」の天才アニメーターのフィル・ティペット、そしてアートディレクターとしてメカデザインやストーリーボードを描き、のちに監督になり「ロケッティア」「ジュマンジ」「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」を撮るジョー・ジョンストンという、もうメインスタッフだけでも視覚効果の歴史上人物のオールスター戦の様相を呈していたのが「ジェダイの復讐」だったのです。
銀河系を恐怖に陥れていた帝国軍が、辺境惑星の原住生物である可愛い子熊(に見える生き物)の勇敢だけど、トンチに溢れる作戦で瓦解するとか、シリーズを本気で観ていた熱心なお客さんは怒り狂ってましたが、それを補って余りあるインパクトのある映像……爆散する砂漠の浮舟、森に生茂る巨木の幹を縫うように低空を高速でチェイスするエアバイク、建設途中の巨大な宇宙要塞。攻撃のために集結する宇宙艦隊。
攻撃隊に群れをなして襲いかかる敵戦闘機の罠。原始的なトラップにかかって転倒する二足歩行戦車、濃密な森の大気の彼方にそびえるシールド供給のための巨大なアンテナが木っ端微塵に爆破され、帝国軍の迎撃をかいくぐった攻撃隊は複雑に入り組んだ宇宙要塞の内部に突入していく……などなど。
書き連ねていくと、今ではデジタルで物量や質も向上しているとはいえ、根本的なアイディアはなんら進化していないのではないかと思えるほどのエバーグリーンなマスターピース感。
それよりも4K UHD盤のフィルム撮影・フィルム合成の原版による初期3部作のリマスターの素晴らしさはなんなんでしょうか?
「新たなる希望」のチュニジアロケのリッチな奥行感、大団円の式典会場のもはやゴージャスと言っても言い過ぎではない歴史の重み、その情報量。不可逆非圧縮メディアの実力がこれなんですよフィルム万歳! そしてそれは今まで見てきた映画館での体験よりも、映画としてのステージが違ってさえ見えるのです。正直、別物です。
今まではなんで手を入れたんだよジョぉぉォ…ジ! といった気持ちでたまらなくなった蛇足的な追加CGの違和感も、ここまで馴染めばもう赦してやる! とそこまで上から目線でほざくテメエは何様なのかは棚にあげつつ、いい! 良い! いいじゃないかもう最高だ!
ケースが特殊すぎて、4K UHDディスクの列に並べられないよ
とまあ、お皿の中身が最高な分だけお皿以外の部分がもう今更どうなんだよ、と。あんまり言いたかないけど。
そもそも! このセットを買うほどのユーザーのほとんどは、今を遡ること9年前の、2011年発売の「スター・ウォーズ コンプリート・サーガ ブルーレイBOX」は購入済みだろうし、そのユーザーのほとんどは、そこからさらに遡ること7年の2004年に発売された「スター・ウォーズ トリロジーDVD-BOX」を購入済み。
で、それからさらに10年前の1994年に片面30分しか収録できないけど高画質のCAVで全編収録して、しかもTHX仕様で副音声には前述のスタークリエイターによる音声解説に加えて豪華200ページの写真集つき“これぞ決定盤”と銘打って発売された「スペシャルコレクション スター・ウォーズ トリロジー」のレーザーディスクも……って、書いてて思い出したけど、この時にしか収録されていない特典がいっぱいあるんだよなあ! もう!
ま、そんな事はどうでもヨロシイ。出たらその時の最高峰のフォーマットで収録されているから、これ以上のものは出ない! これが最高峰だと己に鞭打ち、ここまでお付き合いいただいた奇特な、というかスターウォーズと高画質と新フォーマットが大好きなユーザーさま同様に、そういう特別な仕様にかれこれ30年はお付き合いしている身と致しましては、もうそんじょそこらのアイデアでは驚きも、心も踊りも致しません。
特別編集のビジュアルブックも、元ネタになる写真やイメージボードはほとんどどっかで見たことあるし、かといって全てを網羅している訳でもないし、その上なんだか表紙がベトベトしてるし……
そもそも映画を見る度に豪華なボックスに指紋や傷がつくのを心配しながら開けて、ディスクを入れるケースというか、3つ折りのトレイを取り出して、このケースにまた傷がつかないように黒い紙が内側に入っているんですよ配慮を効かせて!
しかもその黒い紙が畳んだ拍子にズレてしまい、折れ曲がっちゃったよ。ただの傷除けの黒い紙だけど、ディスクを出し入れするときにいちいち神経擦り減らすんだよただの黒い紙に! そんなものいらないよ!
観るたびにボックスから出し入れして、その度に机の上に恭しくディスクケースを広げて……って正直めんどくさい!
俺たちは見たい時に見たいだけなんだよ! 最高の画質の、最高の音質のスターウォーズが! そしてそれまで集めた4K UHDディスクの列に並べたいんだよスターウォーズを!
時間をかけて稟議を通して実現した商品を頭ごなしにクサすのも実作者としてあまりにも大人げないし、このコロナ禍で持て余し気味の創作意欲がこんなきっかけで吹き出しました。調べてみたら、4K UHD用のケースが単体で売り出されているではありませんか。
というわけで、これを手に入れてジャケットを自作すれば、俺が望んでいた“スター・ウォーズ スカイウォーカー・サーガ9部作”になるわけですよ。
4K UHDのドルビーアトモスでガンガン観るためにはまずパッケージを作らなければ、せっかくの美麗なボックスがボロボロになっちゃうか出し入れが面倒になって見なくなっちゃうかのどちらかです。
ならば、欲しいものは自分で作れ。定めなのさ〜でございます、とっつぁーん。
ポスタービジュアルはなるべく初出のオリジナル版のキービジュアルを選んで構成しますが、この変遷をみるだけで映画作りの軸足の変化が見て取れて面白いです。で、近所のコンビニで写真画質でプリントアウトして、こんなのできました。これでゆっくり9本みることができます。