樋口真嗣の地獄の怪光線

第37回

Netflix映画「新幹線大爆破」は緊迫したおじさんたちの顔でいっぱいです

Netflix映画「新幹線大爆破」4月23日世界独占配信!!

あれ?約2年ぶりの連載再開なのに、何故か関係がないガンダム劇場版の話をダラダラ書き綴ったのはどう考えても原稿執筆直前に見たあの映画のせいなんだけど、あの高揚感と幸福感はなんだったんだろう。

途中でこれはオレにしか通じない魔法なのではないか、あるいはあの時代を共に生き抜いたもののみが享受できる特異なモノなのではないかと心配になったけど、みんなほとんど同じ気持ちになったようなのでちょっと安心。

ということでワテクシの新作映画。

映画と言っても映画館で上映するわけではございません。

世界最大の動画配信プラットフォーム、Netflixで配信されますが、連続ドラマと差別化するために「映画」とカテゴライズされます。

とはいえ、それが正しいかどうかよく考えずに突っ走ってますが、やってることはいつもと同じ映画のつもりでやってます。

4K/HDRというスペック最大限のフォーマットでNetflix独自の細かいクオリティチェックもあります。さすが外資!というかようやくチャンとしてきたというべきでしょう。

おかげでいつものようなiPhone並べていろんなアングルで撮っちゃえって作戦が通じません。

なんと撮影当時最新機種だったiPhone15系列の動画撮影機能はNetflixの基準を満たしていないので主力撮影機材として使えなかったのです。全体の中の割合が低ければ使ってもいいけどそれは本当に劇中で端末を使って撮影したカットとか特別な意図がないとダメだという事です。

その厳しいクオリティコントロールのおかげで、フードトラックで作るジョン・ファブローの手料理や世界を巡って取材した屋台料理とか、腹ぺこフィルが平らげる数々のごはんとか、お坊さんが作る韓国冷麺とかが美味しそうに見えるのです。

Netflixオリジナルシリーズ「ザ・シェフ・ショー ~だから料理は楽しい!~」
脚本家や監督として活躍し、食を愛するジョン・ファヴローとシェフのロイ・チョイの2人が、料理界のプロや親しい有名人と共に、キッチンの内外で食の世界を探求する番組

残念ながら「新幹線大爆破」は車内で美味しそうに駅弁を食べるのが目的の映画(そういう要素をもっと入れればよかったのか?)ではないので、緊迫したおじさんたちの顔でいっぱいです。

その厳しいクオリティはサウンドにも及び、ドルビーアトモスでやれと言われます。

事これに関しては捲土重来、待ってましたと小躍りするぐらい嬉しい展開です。

なにせ停車不可能な高速走行中の密室を舞台にしたお話ですからこれをアトモスにしなくて何をアトモスにするって言うのでしょうか?

樋口監督の事務所天井に設置されたDolby Atmos用スピーカー

今までせっかく事務所にアトモス再生環境を整えても他人様の作品ばかりで自作は7.1ch再構成の「シン・ウルトラマン」しか掛けるものがないのは忸怩たるものだらけですが、日本で映画をアトモスをダビングできる環境は東映大泉撮影所のデジタルセンターと洋画の日本語版を多く手がけるグロービジョン、そして去年の秋に新装した角川大映スタジオのダビングステージの三つのみ。贔屓の東宝スタジオは何をしてるのかというと現在絶賛改装中で5月には稼働開始予定。

それじゃ間に合わないよー!と思いきや、Netflixは配信オンリーだから劇場での再生を前提にしなくていいそうなんですな。ドルビーアトモスの家庭再生を前提にしたフォーマット“ドルビーアトモス・ホーム”であればいいのです。

Netflixがパートナーに求めている納品要件(URLはコチラ)

それであれば東宝スタジオにも映画用に比べれば小規模だけど十分なダビング環境が準備されています。

東宝スタジオ「ポストプロダクションセンター1」のDolby Atmos対応MAルーム

Netflixも現状はプロダクションによってサラウンド音声の規模は選べるようで、この製作規模感で5.1chでしかできないの?って言うのも少なくありません。

オリジナル作品はもとより、買い付けてきたリリース済みタイトルも――例えばクリストファー・ノーラン作品なんかは監督が5.1ch以上の音響に疑問があるのか、あえての5.1chだったり、あるいは配信会社と権利元の契約上の関係や配信時のトラフィック確保のためにあえて最高品質でないパッケージを配信に使っていたり事情はさまざまかもしれませんが、全てがアトモスになっているのなんて夢の環境は今のところApple TVぐらいでしょうか?

一体どのぐらいアトモスで配信されているのか見てみましょう。

Netflixの主なDolby Atmos配信作品
※2025年3月上旬時点、編集部調べ

・Netflix映画「シティーハンター」
・Netflix映画「バック・イン・アクション」
・Netflix映画「ビバリーヒルズ・コップ:アクセル・フォーリー」
・Netflix映画「ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!」
・映画「ヴァチカンのエクソシスト」
・Netflixシリーズ「イカゲーム」
・Netflixシリーズ「三体」
・Netflixシリーズ「寄生獣 -ザ・グレイ-」ほか

Prime Videoの主なDolby Atmos作品(見放題のみ)
※2025年3月上旬時点、編集部調べ

・映画「レッド・ワン」
・Amazonオリジナル「ロード・オブ・ザ・リング 力の指輪」
・Amazonオリジナル「フォールアウト」
・Amazonオリジナル「リーチャー ~最後のアウトロー~」
・Amazonオリジナル「ザ・コンチネンタル:ジョン・ウィックの世界から」
・Amazonオリジナル「トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン」
・Amazonオリジナル「ペリフェラル ~接続された未来~」
・Amazonオリジナル「シークレット・レベル」ほか

U-NEXTの主なDolby Atmos配信作品(見放題のみ)
※2025年3月上旬時点、編集部調べ

・音楽 Ado 2ndライブ「カムパネルラ」
・映画「DUNE/デューン 砂の惑星」
・映画「マトリックス レザレクションズ」
・映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
・映画「ラ・ラ・ランド」
・映画「MEG ザ・モンスター」
・ドラマ「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」
・ドラマ「THE LAST OF US」ほか

ディズニープラスの主なDolby Atmos配信作品
※2025年3月上旬時点、編集部調べ

・映画「タイタニック」
・映画「アベンジャーズ/エンドゲーム」
・映画「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」
・映画「エイリアン:ロムルス」
・ドラマ「デアデビル:ボーン・アゲイン」
・ドラマ「スター・ウォーズ:スケルトン・クルー」
・ドラマ「X-MEN '97」
・音楽「ジョン・ウィリアムズ IN TOKYO」ほか

こんなにイッパイありますが、これもいつまでやっているかわからないのが配信の安心できないところであります。いつまでもあると思うな親と配信、であります。

では、これをどうやって手軽に体験するのが一番良いか次回へつづきます!

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。