日沼諭史の体当たりばったり!
第50回
ソニー「ZV-E1」דカット技法”で短編映画に挑戦! 目指せ動画初心者脱却第2弾
2023年5月18日 08:00
前回の本連載では「動画初心者脱却」と題し、動画撮影の初歩の初歩についてソニーに特別講義をしていただいた。今回はその第2弾。撮影の基礎は理解できたはずなので、次は動画編集を見据え、具体的にどんな撮影方法や編集技法があるのかを事前に学んでおこう、というのがテーマだ。
あわせて、2023年4月に発売されたばかりのVlog向けカメラ「ZV-E1」を使用して動画撮影にもチャレンジした。ソニーが「VLOGCAMの頂点」とアピールするフルサイズセンサー搭載モデルだ。新型ということもあって、今回のテーマに沿って活用できる機能も盛りだくさん。それらの機能を使いつつ、実際に制作した短編動画がどんな出来になったのか、ぜひご覧いただければ!
撮影の基礎のおさらい
まず最初に、前回のおさらい。動画初心者が撮影時に気を付けるべき点を簡単に箇条書きで振り返っておきたい。
1. 撮影開始前にストーリーを具体的にイメージする
2. 基本はフィックス(カメラを動かさない)で撮る
3. ズームしながら撮らない、やるならここぞという場面のみ
4. 動かすときは「5秒フィックス→動かす→5秒フィックス」
いきなり何も考えずに撮影を始めると、グダグダな映像になりやすい。風景を単純に撮影するにしても、何を見せたいのかを頭のなかでイメージしてから撮影を始めることが大事、というのが1つ。
次に、撮影において最も重要なことは「フィックスで撮る」こと。なんとなく被写体を追うようにカメラを振ってしまいがちだけれど、手ブレしたり被写体がフレームから外れたりして映像が安定せず、心理的にも不安な映像になってしまう。
ズームインやズームアウトも同様だ。安定したズーム撮影は初心者には難しく、これも映像のブレにつながってしまう。そうならないよう、注目してほしいものを見つけたなら、ズームイン状態とズームアウト状態の2つのカット・シーンに分けて撮影するのも手だ。そもそもズームは、視聴者としてはそこに何らかの特別な意図を感じ取ってしまうものなので、ここぞという場面でのみ使うようにすべきだろう。
とはいえ変化の少ない風景などでは、フィックス撮影だけだと味気ない映像になるかもしれない。そこで、どうしてもカメラを動かして撮りたいときは、「5秒フィックス→動かす→5秒フィックス」という手順にする。一度に動かすのは一方向、1回のみを原則とし、前後に十分なフィックスの時間を設けたい。動かすときには手ブレしないよう、しっかり脇を固めるか、三脚を利用しよう。
あらかじめ「どんな撮影・編集手法があるのか」を頭に入れておくべし
というわけで、ここからが本題。今回は「編集を見据えた撮影方法や編集技法を事前に学ぶ」というのがテーマなので、前回の気を付けるべきポイントの1番目にある「撮影開始前にストーリーを具体的にイメージする」をより掘り下げたような中身、と言えなくもない。
ストーリーのイメージを固めるにあたっては、シナリオや絵コンテを作ることが有効。ただ、そもそもその前段階として「動画を撮影・編集するためには、どんな撮影・編集手法があるかをあらかじめ知っておくことが重要」とソニーの担当者は説明する。カメラの機能や編集テクニックにどんなものがあるのか知っているのと知っていないのとでは、シナリオづくりにも動画編集の効率にも大きな差が出てくるからだ。
たとえば被写体の動きを印象的に捉えたいと思ったとき、カメラにスローモーション撮影の機能があることを把握していれば、それを前提にしたシーンをシナリオに組み込むという発想ができるだろう。あるいはシナリオ上最も効果的な場面切り替えの方法を考えるとき、さまざまな編集技法が頭に入っていれば、現場で最適な技法を的確に選び出して、それに一番マッチする撮影方法で画作り(えづくり)できたりもする。
そういった知識が全くない状態でとりあえず撮影だけ終えてしまうと、いざ編集しようとしたときに通常速度の映像素材を無理矢理スローモーションにするしかなく、場合によってはコマ送りの不自然な見栄えになりかねない。また、撮影時に場面切り替えを意識していなかったために、イメージに合う映像が撮れていないことに編集中に気付く場合もある。そうなったら「もう一度撮り直し」なんていう“サイアク”な状況に陥る可能性もありうるだろう。
撮影・編集のポイント1:カメラがもっている機能を知っておこう
ということから、最初に知っておくべきことは、今回使用するカメラ「ZV-E1」が持ついろいろな機能。映像作品として作り上げていくとき、「ZV-E1」が備える数多くの機能のなかでも、効果的に使えそうなものとしてソニー担当者が挙げたのが、「シネマティックVlog」、「ルック・ムード」、「ダイナミックアクティブモード」と「フレーミング補正」、そして「スローモーション・クイックモーション」という機能や設定だ。
「シネマティックVlog」設定は、映画のような雰囲気の画作りを可能にする新機能。16:9の映像の上下に黒帯が入り、実質「2.35:1」のより横長のシネマスコープサイズで映像が記録されるモードだ。フレームレートは24p(23.98fps)固定となり、まさに映画っぽいニュアンスの映像に仕上がる。
「ルック」は、撮影段階で映像のコントラストや彩度を変えられる機能。映画風の「S-Cinetone」、爽やかな印象の「CLEAN」、彩度を落として重厚感を出す「CHIC」、色鮮やかな「FRESH」、モノトーンの「MONO」という5つのプリセットが用意されている。
それに似た機能の「ムード」は映像全体の色味を変えられるもので、ホワイトバランスの設定に近いものとなる。こちらは周囲の環境に合わせて最適な色合いに調整する「AUTO」のほか、色温度高めの「GOLD」、クールな「OCEAN」、ノスタルジックを感じさせる「Forest」の4種類。これらの「ルック」と「ムード」を組み合わせることで合計15パターンの色合いに簡単に調節し、そのシーンにおける撮影者の意図に合った色味で記録できるのだ。
「ダイナミックアクティブモード」は、これまでソニーのカメラで実現していた「アクティブモード」の手ブレ補正をさらに進化させ、動画撮影にも適用できるようにした新機能。従来の光学式5軸手ブレ補正によるアクティブモードに加えて、電子式の手ブレ補正も加えることで、補正効果を「従来比30%向上」させたというものだ。画角は若干狭くなるものの、カメラを手持ちして歩きながら撮影するようなときに、確かな手ブレ軽減効果が得られるだろう。
それと併用することで、より確実に被写体を捉えられるようにする機能が「フレーミング補正」機能となる。「ダイナミックアクティブモード」利用時に「フレーミング補正」機能も有効にすると、AIにより自動で被写体をトラッキングして映像を最適な形でトリミングし、フレーム内の一定位置に被写体をほとんど固定した状態で撮影できる。人やペットを追いかけるような場面で活躍する、特に動画初心者には心強い機能だ。
最後の「スローモーション・クイックモーション」は新機能というわけではないが、「ZV-E1」では最大5倍のスローモーション撮影(120fps記録、24p再生)や最大120倍のクイックモーション撮影(1fps記録、120p再生)が可能となっている。スローでは動きの早い被写体をはっきり視認できるように、反対にクイックではタイムラプスのような早回し動画を作るときなどに役に立つ。
撮影・編集のポイント2:「カット」は5秒を基準にしよう
次に学んでおきたいのが、動画の撮影・編集における「カット」の技法。カットせずに長時間撮影したままの映像を見せることももちろんあるが、それこそ映画を撮影するときのような「入念な準備」が必要になる。動画初心者にとってはハードルが高いため、短いカットをつないで作り上げていく方法がまずはおすすめだ。
短いカットで構成することを想定しておくと、セリフをミスしたり、背景に余計な物が映り込んだり……といったアクシデントを避けやすい。撮影の難易度が下がるほか、編集時には映像にリズムができて見やすくなる効果もある。ただし、あまりにカットの切り替えが多すぎると、かえって見ていて疲れるものになってしまう、という点には気を付けておきたい。
ということもあり、カットの尺は短くても「5秒」が基準。「5秒あれば30文字は話せる」ことや、ネットCMでは「最初の5秒が肝心」(5秒以内に興味を引けなければ離脱してしまう)とされていることを考えると、5秒は短いようでいて動画としては長く感じられるものと言える。
しかしながら、動画配信サイトで最近人気のショート動画は通常1分以内ということもあり、カットなしで投稿しているものも少なくない。しかも、ショート動画では「最初の2秒が勝負」とも言われているのだそう。配信の形態によってカットの有無や長さを変えた方がいいこともある、というのも覚えておきたいところだ。
撮影・編集のポイント3:撮影の時点で「カット」を意識しよう
どうせ後で編集するのだから、撮影の時はとりあえず長回ししておいて、最終的に必要なところだけ選んでカットすればいいや、なんて思ったりするかもしれない。が、編集時に必要なシーンかどうかを確認するには、基本的に実時間をかけて動画再生することになるわけで、とても効率的とは言えないだろう。
そんなわけで、撮影の時点でカットを意識しておくことはとても大切。動画のトリミング(カットやクリップの長さ調整)が最小限になり、余計な作業工数が発生せずに済む、というのはもちろんのこと、そこで節約できた時間を作品としてのブラッシュアップに充てられる、という見方もできる。カットを意識した撮影は、最終的に完成度の高さにもつながるわけだ。
では、実際のところカットするタイミングをどう考えるといいのか。ソニーの担当者いわく「4コマ漫画のような起承転結を考えるとわかりやすい」とのこと。さすがに映像作品が4つのカットで済むことはないにしても、ストーリー全体として起承転結の「4コマ」を思い描き、それに必要そうなカットを決めていく、という方法だと初心者でもやりやすそうだ。
撮影・編集のポイント4:作業しやすいようにタイムラインを整理しよう
次は、ごく基本的な動画編集の手順。動画撮影が終わったら、それを動画編集ソフトに取り込んで映像素材をつなぎ合わせて編集する。1つの作品として作り込むにあたってはテクニックを駆使して凝った見栄えにしたいところだが、その前の準備段階の作業も意外と重要だ。
準備作業では、基本となる手順が「撮影時間順にカットを並べ」た後、「それぞれのカットの不要な部分(撮影に失敗した箇所など)をトリミング」し、さらに「不要なカットを削除」する、というもの。こうすることでとりあえず必要なカットが(撮影時の)時系列でつながった状態になり、全体の見通しが良くなる。
ただし、これだと想定したストーリーに沿った順番になっていないかもしれない。現場では必ずしもストーリーの流れ通りに撮影しているとは限らないからだ。なので、ストーリーに合わせてドラッグ&ドロップでカットを入れ替え、さらに追加で必要になったカットや静止画などの素材も適切な場所に挿入する。
このあたりの手順は、動画編集に慣れるにしたがって自分なりに効率的な方法に変わっていく可能性もありそうだが、最初はこうした基本を守っておくと後で応用も利きやすいのではないだろうか。
撮影・編集のポイント5:さまざまなカット技法を理解しておこう
100年以上も前から映画が作られてきたこともあり、映像制作の歴史は長く、そのなかでさまざまな表現手法が発明されてきた。場面切り替えに関わるカットに限っても多数の技法が存在する。それらの種類や使い方、視聴者に与える印象を知っておけば、自分がこれから作ろうとしている映像作品の完成度を高める助けになるに違いない。あるいは、撮影時に意識しておくべきことがより明確になる、という効果もあるだろうか。
そんなカット技法(素材のつなげ方)の代表例としてソニー担当者が1つ目に挙げたのが「クロスカッティング」(クロスカット)。2台以上のカメラを使い、たとえば引きの映像と寄りの映像など、異なる被写体を同時並行で撮影し、編集時にそれら2つ以上の映像素材が交互に切り替わるようにカットするものだ。同じ場所で撮影したものでもいいし、異なる場所で撮影したものを組み合わせてもいい。海外に飛び立とうとしている人のシーンと、それを止めようと急いで空港に向かっている人のシーンを交互に見せる、みたいなのもこの「クロスカッティング」だ。
2つ目は「フラッシュバック」。単純に言うと、クロスカッティングに短いカットを挟むことで、印象を強めたり、緊張感を演出したりする手法だ。たとえば役者Aと役者Bが電話で会話しているのを交互に見せつつ、その会話のなかから思い出された役者Bの記憶を瞬間的に挿入する、といったようなシーンが考えられる。
3つ目は「ジャンプカット」。これについては撮影時にカットをあまり意識せず、長回しした映像素材を元に、必要なところだけ抽出してつなげていく、という手法になる。料理手順を紹介する動画で、余計な言いよどみや失敗作業などをどんどん省き、短い尺に情報を整理して詰め込む、というようなものが例として挙げられる。もしくは、遠くからカメラに向かって走ってくる人の途中経過を細かいカットで刻んで、時間経過や勢いを表現したりする時に使えるだろう。
最後は「カットアウェイ」と「マッチカット」。いずれも動画初心者には難しい技法だが、「カットアウェイ」は一連のシーンのなかで、それと直接的には関係していない(つながっていない)カットを入れ込むもの。たとえばレースカーが走っているシーンの途中で、観客の手に持っているポップコーンが吹き飛ばされるカットを差し込み、元のレースシーンに戻る、というのも「カットアウェイ」と言える。
「マッチカット」は、ジャンプカットに似たところがあるものの、前後のカットにおける被写体の動作や映像の構図を一致(マッチ)させるという点で異なる。テレビ番組などでよく見る「マッチカット」の例としては、ロケなどで出演者がジャンプした直後、場面転換して別の場所に着地する、というようなものがある。「カットアウェイ」も「マッチカット」も、撮影時にきちんとカットを意識しておかないと利用できない手法だ。
カメラ機能を把握、必要な知識を得て、ついに動画作品が完成!
前回の動画撮影の基礎を踏まえつつ、カメラの機能、意識しておくべきカット技法などを頭に入れたうえで、いよいよ短編動画の制作に挑むことにした。周囲には撮影小物として使えそうなアイテムがふんだんに用意され、なんとモデルの女性もスタンバイ。撮影メンバーは筆者と、AV Watch編集部2人の計3人のみ。ここまで舞台を整えてもらってヘタな動画は作れない。3人ともプレッシャーを感じて目を泳がせている状況のなか、最初は「プランニング」から入ることになった。
ホワイトボードに「動画のテーマ」「ストーリー」「起承転結」という3種類の要素を書き込み、全体の構成を考えていく。全くのノーアイデアからスタートしたが、室内でひときわ目立っていたキノコ型の椅子と、それに似た形の卓球のラケットに着目して、ほとんど思いつきで、真っ先に「起承転結」の「結」を決定。そのオチに向かって室内にある他のアイテムを組み合わせることで、なんらかのストーリーが作れないかを検討していくことにした。
大まかな「テーマ」と「起承転結」が定まった後は、「ストーリー」に具体的な撮影シーンを書き連ねる。室内のどこで撮影するか、演者がそこで何をするか、シーンとシーンの間はどうつなぐか、といったところを考えながら流れを作っていく。もちろんそのなかでは、シーンごとにカメラのどの機能を使い、どういうカット技法で見せるかもある程度決める。「ZV-E1」の目玉機能の1つである「ルック・ムード」の使い分け、「スローモーション」機能の使いどころにもこだわった。
「ZV-E1」の設定は全編を通して「シネマティックVlog」とし、動画の記録方式は「XAVC S 4K」、記録設定(映像品質)は「60M 4:2:0 8bit」とした。レンズはズーム可能な「FE 28-60mm F4-5.6(SEL2860)」や、単焦点の「FE 24mm F2.5 G(SEL24F28G)」「FE 50mm F2.5 G(SEL50F25G)」などを使用し、カメラ2台体制で撮影している。
そうしてできあがったムービーが下記だ。参考までに、おまけとして動画内で使用したカット技法とカメラ機能を字幕として入れたバージョンのムービーも用意した。
動画編集に関しては、今回は単純に素材をつないでフェードイン・アウトのエフェクトを使う程度に止めた。カラーグレーディングのような、いわゆる色・明るさ調整などの加工は一切行なわず、撮影時の映像そのままの色合いとしている。それでも、「シネマティックVlog」や「ルック・ムード」の効果がうまく表れており、無調整ながら雰囲気のある画になったのではないだろうか。
「ZV-E1」の他の細かい機能に助けられる場面も多かった。たとえば撮影中にフォーカスを手前と奥とで切り替えたいときは、モニターのタッチ操作で狙った箇所にスムーズにフォーカスを合わせられる「AFトランジション」機能が大活躍。トランジションの速度もある程度調節できるので、撮影者の意図に近い切り替わり方を再現できる。
また、手前の小物にフォーカスを合わせたままにしたいときは「商品レビュー用設定」が便利だ。奥の被写体に不意にフォーカスが切り替わったりしないため、見せたいものをしっかり見せられる。これも撮影効率アップに貢献してくれる機能の1つだろう。
ちなみに動画をご覧いただくとわかる通り、今回の撮影内容やストーリーであればカメラ1台でも問題なくこなせたとは思う。ただ、2台使用することで頻繁にレンズ交換する必要がなくなり、シーンによっては異なるアングルからの撮影を一度に済ませられるなど、2台体制ならではのメリットを実感する場面が少なくなかった。特に撮影時間が限られているようなときは、カメラが複数台あると有利なことは間違いないだろう(機材コストの問題は置いておくとして……)。
一度は挑戦してみてほしい「動画作品」づくり
あらかじめストーリーを決め、それに沿って試行錯誤しながら撮影し、作品(的なもの)に仕上げていくという作業は、筆者と編集者の3人にとってほとんど初めての経験。だけれど、その一連の過程を経験することで初めてわかる「動画の難しさや楽しさ」がたくさんあったように感じる。
どうすれば自分たちの意図を効果的に表現できるのか、そのためにはどんなカットが必要で、1つ1つのカットをどこでどんな風に撮影すべきか。メンバーや演者とコミュニケーションを取りながら、それぞれが「いい」と思える中身になるよう試行錯誤を繰り返していくのは、たしかに難しいことだらけとはいえ、時間を忘れるほど楽しいひとときでもあった。
なんとなく気になったものを動画撮影してそれで終わり、ということが普段は多いかもしれない。けれど、ときにはこんな風に、しっかりストーリーを考えて動画作品として一生懸命に作り上げていくことで、新たな動画の楽しみ方、これまでとは違ったカメラとのふれあい方にも気付けるのではないだろうか。みなさんもぜひ家族や仲間と力を合わせて、渾身の動画作品づくりに一度チャレンジしてみては?