【新製品レビュー】

「ZAPPIN」採用で“フリースタイル”のウォークマンW

-D&D対応でサブ機としても魅力。ソニー「NWD-W202」


6月13日発売

標準価格:オープンプライス

実売価格:1万円前後


 5月26日に発表された、ウォークマン新シリーズの「ウォークマンW」(NWD-W202)。ネックバンドイヤフォンとプレーヤーが一体型という“ウェアラブル”を特徴とした製品で、同社は「新しい提案型のウォークマン」と位置づけている。

 デザイン以外にも、再生機能として新思想の「ZAPPIN」(ザッピン)を採用したことや、SonicStageを使わなくてもドラッグ&ドロップで楽曲転送ができる点など、「パソコンユーザーとの垣根を低くすること」も意識したという。ディスプレイを持たない製品で、再生機能などの使い勝手をどこまで高めてきたか、試したい。



■ 装着しても邪魔にならないネックバンド型

 2GBメモリ内蔵のオーディオ専用プレーヤーで、ネックバンドデザインはウォークマンとしては斬新だが、決して目新しいものではなく、ジョギング用の製品として、海外メーカーなどが販売してきた例もある。だが、これまでのイヤフォン一体型モデルは、ハウジングやプレーヤー部が大きすぎる、スポーツウェア以外には合わないなど、普段使いとしてはデザインが気にいらないものが多かった。

カラーバリエーションは4色

 W202は、本体が細身のBluetoothヘッドセット程度のサイズで、装着しても耳全体が隠れることはなく、シンプルな形状。本体カラーはブラック、ホワイトというスタンダードな色に加え、ピンクとライムグリーンという目立つものもあるので、どれを選ぶかで大きくイメージは変わりそうだ。今回はホワイトモデルを試用した。

 装着方法は“耳掛け”ではなくイヤーピースを耳穴に挿入するだけ。磁石でくっついている左右の本体を離してから耳に着ける。ネックバンドはワイヤー状で、バンドと外耳の間に適度なスペースができるため、メガネをかけていても邪魔にならないことは好印象。髪型にもあまり影響せず、着けたまま仰向けに寝てもほとんど気にならない。なお、磁石が強いので、バッグに入れた際にクレジットカードなどに影響しないよう、左右の本体を付けたまま固定できる専用ケースが付属する。別売でソフトキャリングケース(8月下旬発売/実売2,000円前後)も用意される。

左右の筐体にカナル型イヤフォンが一体となった形状装着例。髪型によってはネックバンド部分がほとんど隠れる

 本体の重さは約35gでヘッドフォンとしても軽量。ユニットから角度を付けて飛び出したイヤーピースを耳穴に入れるだけの装着だが、耳の一部に負担がかかるほどの重さではない。これは「アングルド・イヤーピース」と呼ばれているが、ユニットとイヤーピースを垂直にした同社の「密閉型バーティカル・イン・ザ・イヤー方式」のイヤフォンのように、より耳の奥に入れられると遮音性が高く、快適だったとは思う。ヘッドバンド型や耳掛けにしなかったことで頭部や外耳への圧迫が無いことはうれしいが、装着感には個人差がありそうだ。

付属ケースは透明で、左右の本体をつなげたままホールドできるケース装着時

 この製品はジョギングなど運動での利用も想定している。試しに着けたまましばらく走ってみたが、走っているうちに大きくずれてしまうことはなかった。過去のウォークマンを含め、衣服にクリップで留められる小型プレーヤーも少なくはないが、腕などにケーブルがひっかかる心配が無いという違いは大きい。なお、防水・防滴仕様ではないので、汗や雨などには気を付けたい。



■ けっこう気持ちいいZAPPIN

 再生フォーマットは、ATRAC/MP3/WMA/AAC/リニアPCM(WAV)。DRM付きファイルは全て再生できないという割り切った仕様で、従来のウォークマンとは異なりmoraで購入したATRAC楽曲や、着うたフル、着うたフルプラスも再生できない。ATRAC Advanced Losslessはサポートせず、ドラッグ&ドロップ転送すると再生できないが、SonicStageで転送するとATRAC3plusに自動変換され、再生できた。

 再生/一時停止と曲送り/戻しの操作はR側にあるジョグダイヤルで行なう。曲送りはダイヤルを左(装着時は前方)に、戻しは右(後方)に勢いよく回すことで行なう。ちなみに、ゆっくりまわした時に機能は割り当てられておらず、曲の早送りや早戻しには対応していない。

 音量は専用ボタンを用意する。シャッフルON/OFFのスイッチも用意する。全曲を通してのリピート再生となっており、アルバム/アーティストごとのリピートには対応しない。左右の本体をマグネットでつなげると、自動で電源OFFとなる。

ジョグダイヤルやシャッフル入/切などの操作部。OPRというランプで動作状態を表す着けたまま右手で操作できる
左右のユニットをつなげた状態。ネックバンドがハートのような形になる

内側のマグネット

ZAPPINの内容(取扱説明書より)

 再生面での大きな特徴は、曲の一部をダイジェスト再生する「ZAPPIN」。楽曲のサビ部分のみを連続で再生するもので、ディスプレイを持たないこのモデルならではの検索機能として採用された。サビの検出には、SonicStageを使った楽曲の「12音解析」を利用し、サビに相当すると判断された部分を抜き出して再生するという。ロング/ショートの2モードを用意し、ロングは1曲につき15秒、ショートは4秒ずつ次々と再生される。

 通常再生中にジョグダイヤルを長押しすると、「ZAPPIN IN」という音声案内とともにZAPPIN再生に移行。曲と曲の間はわずかにフェードイン/アウトし、効果音も入ることで曲が変わったことがはっきり分かる。音楽番組のカウントダウンを聴き続けるような感覚だ。再びジョグダイヤルを長押しするとロング/ショートの切り替えが行なわれる。短押しすると、「ZAPPIN OUT」という声で通常再生に戻り、途中の楽曲が曲頭から再生される。ZAPPINのまま左右の本体をつなげて電源OFFにしても、もう一度再生すると引き続きZAPPINで聴ける。

SonicStageV Ver.5.2
 主な利用シーンとしては、本体へ新たに複数の曲を追加したときに、好みの曲を探すという使い方が想定されている。音楽を聴くのがポータブル中心という人も今は多いと思うので、購入したばかりのアルバムをざっとひととおり聴いてみる、という使い方もアリだろう。

 サビを検出するためには、楽曲の転送前に楽曲の12音解析を行なう必要があり、付属する楽曲管理/転送ソフトの「SonicStageV Ver.5.2」が必要。このバージョンでリッピングするか、リッピング後にメニュー内の「12音解析を開始」を選ぶことで情報が付与され、ウォークマンに転送するとサビ検出が利用できるようになる。Ver.5.2はシリーズ最新バージョンで、以前のバージョンではウォークマンWが転送用の機器として認識されない。

 SonicStageはCD-ROMではなく本体メモリにインストーラが収められた形で提供される。インストーラは本体から削除することも可能で、誤って削除した場合でもサポートページからダウンロードできる。

 なお、ソニーのHDDコンポ「ネットジューク」も12音解析機能を備えるが、ウォークマンWへの転送には対応しない。

USBストレージとして認識

本体メモリ内にSonicStageのインストーラが収められているVer.5.2をインストールしたことで、転送先の機器としてウォークマンWが認識された

 12音解析は、これまでウォークマンやネットジューク、Rollyなどで、曲の特性をもとにジャンル分けしたプレイリストを作成する機能などで使われてきた。サビの連続再生機能は、PCソフトの「VAIO Music BOX」で以前から採用されている。

 前述したように、ドラッグ&ドロップで楽曲転送ができることもWの特徴だが、再生フォーマットのうちWAVとAAC(.mp4/.m4a)にサビ情報を付加することはできない。また、SonicStage以外で転送した楽曲についてはサビ検出は行なわれない。解析されなかった曲については、45秒以降の部分を“一般的にサビが多い”と判断して再生するという。

 一部のミニコンポやCDラジカセなどでは曲頭の10秒前後を連続再生する「イントロ再生」という機能があるが、知らない曲の場合はアタマを聴いても感じが掴めない場合が多い。ZAPPINはこうした機能が進化したものとも考えられる。

 試したところ、特にZAPPINロングでは、手持ちの曲でも古めの歌謡曲やロック、ポップスなど、盛り上がりの部分が明確な楽曲については、まさにサビと思われる部分が抜き出されたことが多かった。サビとは言えないかもしれないが、Smoke on the water(Deep purple)ならイントロ部分を中心に再生するというように、再生する箇所については柔軟に対応しているようだ。

 盛り上がりのある部分だけ聴くというのは音楽鑑賞としては邪道かもしれないが、聴いてみると案外面白いものだった。個人的には、外で聴くときはほとんどシャッフル再生なので、なんとなくその時に聴きたい曲がちょうど流れてくると気持ちよいものだが、結局は手動で何度も曲送りをすることが多い。自動で次々と聴きながら、気分に合った曲になったら通常再生するというのは、特に短い移動時間などで聴くのにちょうどいい。



■ D&DやWMPでの転送も

 もう1つの大きな特徴は、ドラッグ&ドロップ(D&D)での転送に対応していること。PCにウォークマンをUSB接続すると「WALKMAN」というストレージとして認識され、エクスプローラ画面で「MUSIC」フォルダにドラッグ&ドロップで転送できる。サビの解析が行なわれないほか、SonicStage上で表示されないなど制限も多いが、ソフトを使いたくないというユーザーにとってはうれしい対応だ。

エクスプローラ画面でD&Dが可能

 フォルダの認識も可能で、8階層まで対応する。再生順は楽曲名やフォルダ名の順(アルファベットなど)。フォルダが含まれる場合は上の階層から順に再生される。プレイリスト再生は行なえないので、曲順を決めたい場合はファイル名やフォルダ名を変えるという方法になるだろう。

 SonicStage以外のプレーヤーのライブラリからのD&Dも試した。Windows Media Player 11では転送可能な機器としてウォークマンが認識され、「同期」メニューで転送できた。また、ライブラリから曲を指定してドラッグ&ドロップで転送することもできた。iTunes 8.1.1では、転送機器としてウォークマンが表示されることは無かったが、ライブラリ画面からのD&Dは行なえた。


エクスプローラ画面でD&Dが可能

WMPでは転送先の機器として認識され、楽曲が転送できたiTunesのライブラリ画面から曲を選んでD&Dも可能
付属スタンドでパソコンとUSB接続できる

 ウォークマンシリーズの高音質機能「クリアオーディオテクノロジー」のうち、採用されているのは13.5mm径ユニットの「EXヘッドホン」のみ。エントリーシリーズでも採用されているクリアステレオやクリアベースは搭載していないので、物足りなさを感じる人もいるかもしれない。

 音の輪郭は明瞭で、量感にやや不足はあるもののメリハリがあり運動中でも聴きやすい。筆者の場合、装着すると耳穴上部にわずかな隙間ができて低音が逃げてしまったので、別メーカーのイヤーピースに付け替えるという対処をしたところ改善された。

 内蔵バッテリでの連続再生時間はMP3/128kbpsで約12時間。付属スタンドでパソコンとUSB接続/充電でき、充電時間は約1.5時間。3分間の充電で約90分間再生できるクイック充電にも対応する。



■ 見た目以上のインパクト

 メモリ容量と価格ではエントリーモデルと位置付けられそうだが、使い方の幅広さを考えると、iPodなど他のプレーヤーのユーザーに2台目としてアピールできる魅力も十分に持っている。

 あまり荷物を持ちたくない場合や、ポケットの無いシャツを着る時など、この製品のアドバンテージが発揮されるシーンはいろいろ考えられる。これまでBluetoothなどのワイヤレスヘッドフォンを使っていた人なら、プレーヤーの分だけカバンに余裕が生まれそうだ。約1万円という価格も、ウォークマンの中でも買いやすいラインではないだろうか。なお、スティック型で着せ替え可能な「ウォークマンE」(NW-E042)の2GBモデルは実売8,000円前後。

 音楽プレーヤーとしては、多くの曲を持ち運べて、見やすい画面で使えることが便利、という意見がもっともであるとともに、画面を見なくても使えることは重要。混み合う電車内でも、簡単に操作できるプレーヤーへの需要は少なくないと思う。その操作性を支えるZAPPINは、曲の検索という意味ではそれほどスピーディーなものではないが、アプローチの仕方として面白かった。W以外のシリーズでも、再生モードの1つとして採用してもよさそうだ。

 難点は、moraを含めたDRMに全て対応しないところ。国内で配信売上の多くを占める着うた系が全て再生できないことは、エントリー層には壁となりそうだ。従来のウォークマンユーザーでmora楽曲をライブラリに混在させている人にも不便だろう。D&Dなど、PCでの使い勝手は少しずつ良くなっているので、例えば上位モデルで大容量化とともにDRMに対応するなど、ラインナップを拡げてもらいたい。


(2009年 5月 29日)