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4Kテレビには4K世代レコーダを。UHD BD初対応AQUOSブルーレイの狙いを聞く

 シャープは、同社初のUltra HD Blu-ray(UHD BD)再生機能を備えたレコーダ「AQUOSブルーレイ BD-UTシリーズ」を3月24日に発売する。

AQUOSブルーレイ BD-UT3100

 日本は「プレーヤーよりもレコーダが多い」市場であり、UHD BD対応のレコーダは普及に重要……と言われてきたが、これまで、レコーダとしてはパナソニックしか選択肢がない状況が長く続いていた。日本におけるUHD BDの盛り上がりの弱さの一因は、パナソニック以外の企業の動きの鈍さにある、といってもいいだろう。

 そこに、シャープが参入する。シャープはこのレコーダをどういう位置づけの商品として開発したのだろうか? 商品企画と開発を担当した、デジタル情報家電事業本部・国内事業部・第二商品企画部長の上杉俊介氏と、同・第二商品企画部(AV機器) チームリーダーの伊藤公宜氏に話を聞いた。

左から、シャープ・ディスプレイデバイスカンパニー・デジタル情報家電事業本部・国内事業部・第二商品企画部(AV機器) チームリーダーの伊藤公宜氏と、第二商品企画部長の上杉俊介氏

UI・表示を徹底して「4K化」、システムLSIは新規設計

 今回の新製品の特徴はなんだろう? 伊藤氏は一言で「4Kで出力できるレコーダです」と言い切る。

 いまどき4K出力なんて当たり前では? と思われるだろう。だが、「すべてが4K出力を前提に開発されている」という条件になると、意外と守られていない。

 例えばUI。特にSTBなどに多いが、4Kで映像出力はできても、UIは2K以下の解像度を前提に作られており、文字やアイコンなどは解像度が低いままだったりする。こうしたことは、特に番組表などの文字が多い部分で顕著な差が出る。また、映像も4K出力とはいうものの、60pに対応しておらず、30pでの表示となる場合があった。すべてのシーンで4K解像度と60pのなめらかさを両立するには、かなりのパフォーマンスが必要となる。

 シャープは、そうした部分すべてをケアし、「4Kになれば当然求められるであろう」部分をすべてカバーするために、新機種を開発した。例えば、番組表はネイティブ4K対応になったので表示は圧倒的に鮮明になったし、録画番組や番組表のサムネイルも、解像度が従来比で縦横ともに倍になっている。サムネイルの中身でも番組のイメージがきちんとわかるほどだ。特に、スポーツ番組でシーン再生を行なう場合、ポップアップするサムネイルで様子がわかりやすくなるため、有用性が増している。

「4K世代」に合わせて、表示系を4K化。番組表やサムネイルの表示も高精細化した
左が2K世代の、右が4K世代の番組表。精細になって見やすくなっただけでなく、画面左下に放送番組のサムネイルが出るようになったところに注目。ここも4Kに合わせて高精細だ
4Kに合わせて、番組サムネイルは縦横の解像度が倍になり、高精細で見やすいものになった
「見どころポップアップ」でも、サムネイル高精細化の効果は大きい。特にスポーツ番組で中身がわかりやすくなる

 利用しているシステムLSIも、今回刷新された。シャープは「4KマスターエンジンBD-PRO」と命名している。具体的な開発メーカー名は未公表だが、「これまでもシャープと共同開発の経験がある海外企業と、今回も共同開発した」(伊藤氏)という。

 パワーアップした分、UIの4K対応やUHD BDの再生がサポートできた、ということだが、他にも余禄がある。「1.5倍再生では、コマの間引きを減らし、よりなめらかに再生できるようになりました。これも、エンジンの処理能力アップが理由です」と伊藤氏は説明する。

エンジンは一新。4K世代向けの「4KマスターエンジンPro」になった
機能メニュー

 シャープのレコーダの特徴は、ドラマやアニメなどの新番組を自動的に録画しておく「ドラ丸」だ。ドラ丸は「ドラマ」、「アニメ」、「バラエティ」などのジャンルに応じ、そのジャンルの番組を自動的に全部録画してくれるもの。元々はドラマを狙って作られたものだが、今は3ジャンルから1つを選んで自動録画する機能に変わっている。番組は4週間で自動消去され、新しいものに入れ替わっていく。もちろん、指定した番組はずっとそのまま、最終回まで残るようになっている。

 ドラ丸は以前から存在した機能で、今回大きく機能アップしてはいないが、サムネイルなどのUI部分は4Kに合わせて変更されている。

ドラ丸。シャープなりの切り口で作られた自動録画機能で、今や同社のレコーダのウリのひとつだ

 今回の新機種に合わせて大きく変わったのが「番組表の改良」である。番組表が4K対応したのはもちろんだが、これまで別れていた地上波・BS・CSが一気通貫なものになり、各番組の詳細には、出演者や番組の代表的な画面などが表示されるようになっている。番組表は放送波から取得しているが、画像などの付帯情報は、インターネットを介してGガイドのサーバーから取得している。こうした画像情報は、出演者の人名で検索する際にも使われるようになっており、このレコーダ全体のUIビジュアルを向上させることに一役買っている。

人名検索の例。こうした時に、名前と同時に表示される顔写真は、インターネット経由 取得する

UHD BDはトップフィーチャーにあらず、狙うは「テレビとのセット買い」層

 ここまででおわかりのように、シャープのレコーダの軸は、やはり「レコーダ」部分にある。レコーダのUIと画像表示を4K世代に合わせて高度化したことが、レコーダとしての強化点の中心である。

 上杉氏は次のように説明する。

上杉氏(以下敬称略):日本では、ボリュームを追うと自然とレコーダ市場になります。現在、レコーダ市場は厳しい状況です。新規購入のお客様は1割程度で、残りは買い換え・買い増しです。特に付け足す、買い増すというお客様が半分くらいいます。

 特に買い増しのお客様には、テレビとレコーダでのブランドの統一を気にする……というお客様が、我々の調査では半分くらいいらっしゃることがわかっています。特に弊社ではそうしたお客様の比率が多い。「4Kテレビを買ったらレコーダはこれ」という打ち出し方をしていきたい、と思っています。「これまでのレコーダは2Kでした。4Kテレビを買ったならレコーダはこれですよ」というメッセージで売っていきたいと考えています。

 UHD BDが再生できるレコーダ、という形ではないです。現状、UHD BDの認知もまだ低いですし、UHD BDを全面に押し出す、ということではないだろうと考えています。もちろん、UHD BDを魅力に感じていただければいいのですが、それだけでなく「UHD BDから放送録画まで含め、4Kテレビにふさわしいものを用意しました」ということでやっていきます。

上杉俊介氏

 事実、同社は売り場では、テレビとレコーダをセットにした宣伝ポップや什器を用意し、「4Kテレビを買いに来た人に4K世代のレコーダを売る」ことを主眼においている。UIの4K化を中心とした改善は、まさにテレビとのマッチングを考えてのものだ。

シャープが売り場で展開するポップ。レコーダとテレビをセット購入する人に向けて、4K世代のレコーダであることを強くアピールする

 もちろん、UHD BDは今回の製品の主要機能の一つである。シャープとしては、2K全盛の7年ほど前のテレビとレコーダのセットでBDを再生した時と、現在の4K+HDR対応テレビにUHD BDを再生した場合の画質差をアピールし、「4K世代でここまで変わったことを打ち出したい、と考えている。実際改めて比べると、発色やコントラスト、解像感の向上により、映像がよりリアルに……というか立体的に感じる。

「パシフィック・リム」を題材に、2K世代(左)と4K+HDR世代(右)を比較。ディテールが豊かになり、受ける印象は大きく変わった

伊藤:今回のために、光学ドライブも新しくなっています。制御用LSIも新しくなったんですよ。読み取り精度をアップしています。

 UHD BDではディスクの回転数が上がるため、回転音を抑えるために防振が重要になります。またこの設計変更は、ホコリの引き込防止にもなります。

ドライブも新しくなった
伊藤公宜氏

 現状、UHD BDのソフトはまだ少ない。一方で、UHD BDのソフトはBDとのバンドルパッケージになっている場合が多い。これは、BDがスタートしてすぐの頃、DVDを買いたいのにBDを買ってしまったという人が少なからずいてトラブルになったため、各映画会社がそれを避けるためにBD/DVDバンドルパッケージを作るようになったが、それをUHD BDでも行なった、という部分がある。だが一方で、それが「いつかUHD BDプレーヤーを買うから」という発想で、UHD BDとBDのバンドルパッケージを買う、という行為にもつながるだろう。こうした流れは「我々にとっても追い風である」と上杉氏は言う。

ネット配信系は割り切りの仕様、「4K録画の視界不良」が気がかり

 レコーダという市場が厳しくなる中で、シャープは「テレビ連携」というわかりやすい市場から攻める。AVファンの視点だと、UHD BD対応に目が行きがちだが、市場としては、まだそこまで周知もいきわたっていない……というのが実情なのだ。

 そういう意味で、割り切って搭載していない機能もある。ネット配信を使う機能だ。いまはテレビでも外付け機器でも、NetflixやAmazonプライムビデオなどのVODに対応するものが多い。しかし、シャープのレコーダはVOD系の機能をほとんど搭載せず、アクトビラ4Kのみ。これは「テレビと一緒にこのレコーダを買う人は、テレビ側でVODが使えることもあり、レコーダーそのものにVOD再生を求めないだろう」という見立てによる割り切りだ。それはそれで問題ない。

 現状、搭載したくとも搭載できないのが「BS 4K放送録画」だ。今後の4K放送について、録画がどのような方向性になるのか不透明であるため、やりようがない。このモデルは価格を抑えた製品でもあり、将来のBS 4K放送録画への対応が必須、という性質の製品ではない、とは思う。だから、ここで減点というわけではない。

 一方で、技術や製品に詳しくない人が「4K世代のレコーダ」と聞くと、4K放送も今までのレコーダのように録画できるのでは……と期待される可能性もある。これは別にシャープのせいでもなく、単に「時期が合わない」だけだ。ただ、放送から配信への流れ以上に、「4K時代の放送と録画の行方の見通しがはっきりしない」ところに、現在のレコーダ市場の不透明感があるのでは……とも感じてしまう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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