西田宗千佳のRandomTracking
第434回
新「Mac Pro」実機はインパクト極大! 6K液晶Pro Display XDRも
2019年6月4日 10:03
米国時間の6月3日、アップルは年次開発者会議「WWDC 2019」の基調講演にて、プロ市場向けのMacである「Mac Pro」(5,999ドル、約64万7,700円~)の新モデルと、組み合わせて使うためのディスプレイ「Pro Display XDR」(4,999ドル、約53万9,700円)を発表した。
発売は秋とまだ先だが、実機をじっくりと見ることができた。また、いくつかの新技術について、デモも体験している。
基調講演詳報の前に、まずは「インパクト極大」のMac Proの実機レポートをご覧いただこう。
パワー重視のプロモデル、放熱を最大限に配慮したデザインに
今年のWWDC基調講演は、例年以上に盛り上がった。参加しているデベロッパーの熱気が高く、特に「場が暖まっていた」感が高かったこともある。もちろん内容が面白かったこともあるだろう。
だが、なんとも特異な盛り上がりを見せていたのがMac Proのお披露目だった。
特にパワーと拡張性が必要な製品であることから、毎回Mac Proはデザインが注目される。パンチング処理を施したアルミボディだった2012年まで、内部への拡張性よりエアフローとコンパクトさを重視した円筒形で「ゴミ箱に似ている」とも言われた世代を経て、今回は実に6年ぶりの大型刷新である。
性能よりなにより、まず目を惹くのはそのボディだ。なんというか、穴だらけ。細かいものが集まっているデザインが苦手な人は、生理的にちょっと厳しい……と思われるかもしれない。正直、基調講演会場に投写されたCGを見た時には、筆者もちょっと引いた。
だが、プレス向け内覧会場で実機を見ると、そこまで悪くない。穴が立体的な構造であり、奥にえぐれているからかもしれない。
こういう構造になっているのは、それだけ大量の空気を取り込み、吐き出して、システムの持つ熱を排出するためだ。
新Mac Proは最高スペックの場合、28コアのIntel Xeon Wプロセッサー(2.5GHz)、1.5TBのメインメモリー(DDR4)、GPUとしてAMD Radeon Pro Vega IIをデュアルで搭載できる。さらには、FPGAを使ったProResおよびProRes RAW形式の映像コーデックのオリジナルアクセラレータである「Afterburner」も搭載できる。8Kネイティブのストリームを3つ同時に編集するレベルだ。電源出力は最大1.4kWに達する。
シンプルなフレームに必要なパーツを組み付けつつ、全体をしっかりと冷やし、さらに「静音性もできるだけ維持する」ことが必要……ということになると、単に穴を開けるのではダメだ。空気が丸くえぐられたくぼみに入り、スリットを通って流れる段階で、表面積をできるだけ稼ぎつつ「風切り音」が出ないように工夫した構成なのだろう。この形状は、後ほど述べる「Pro Display XDR」の背面にも共通している。こちらも冷却が重要なプロダクトだからだろう。
シンプルにアクセス可能な中身をアピールするためか、アップルはARで中の構造を確認するアプリまで作りデモしていた。前のモデルが拡張性を犠牲にしたモデルなので、今回は「中身を変えつつ長く使える」ことをアピールしたかったのだろう。
576個のLEDでローカルディミング、高輝度・高解像度なプロの作業ディスプレイ「Pro Display XDR」
組み合わせて使う「Pro Display XDR」もなかなかインパクトがある。6K、HDR対応、P3対応で、ピーク輝度が1,600nits、全体輝度では1,000nitsという、ハイエンドな作業用ディスプレイだ。
高輝度・高コントラストを維持するために、バックライトは576個のLED群で構成された直下型ローカルディミングになっている。パネルは32型のIPSで、これだけの数の高輝度LEDを並べるとなると、当然発熱はかなり大きくなるので、Mac Proと同じような削り出しの「穴がたくさん開いたアルミ」のバックパネルが使われている。
最終製品ではないので画質を云々するのは早いだろうと思うので、その辺の評価は保留する。しかし、アップルが「高輝度」「高色域」「高解像度」をウリにしたいのはよく分かる。こちらもMac Proと同じく、構造を説明するARアプリが用意されていた。
画質よりも解像感の高さのインパクトは大きく、この解像感でネイティブ8Kの映像をスルスル編集していく「力業」はやはり魅力だ。
iPadをMacのサブディスプレイにする「Sidecar」
最後に、iPadOS・macOSの新機能として基調講演で紹介されたものの一部が実際にデモされていたので、それもご紹介したい。
まずは、macOSの新バージョン「Catalina」に搭載される「Sidecar」だ。
これは、簡単にいえばiPadをMacのサブディスプレイにする機能。今もサードパーティー製アプリで実現されているが、それをアップルが公式に搭載してきた、ということになる。
MacとiPadの間は、USBケーブルで有線接続するか、Bluetoothによる接続になる、という。今回のデモは「会場の無線通信環境が悪いため」(デモ担当者)有線で行なわれていたが、秋に登場する時にはBluetoothも使われることになるそうだ。
iPadはマルチディスプレイとして普通にMacに認識されており、ウインドウを手動で移すとリサイズも行なわれている。だがそれよりも便利なのは、ウインドウのリサイズボタンをクリックすると現れるサブメニューを選んで、「iPadへ送る」ことだろう。そうすると、作業中のアプリのウインドウをiPadで表示できる。
iPadの持つタッチやApple Pencilなどの機能はすべて有効なので、iPadがそのまま高性能ペンタブレットになる。ペンで書き込みをする機会の多い業種や、イラストレーター・漫画家の方には待望の機能ではないだろうか。
ARアプリ開発のハードルを下げる「Reality Composer」
もうひとつ、デモがあった新機能はARに関するものだ。今回のiOS/iPadOSでは、AR機能が順当な進化を備えている。特に、ARアプリ開発の手間を減らすものとして用意されたのが「RealityKit」だ。3Dのレンダリングはもちろん、物理演算やアニメーションなどの基本フレームワークが用意されており、基礎的な部分を自作する必要がなくなっている。
そのRealityKitをより簡単に使うためのツールが「Reality Composer」というアプリだ。これはMacとiOS/iPadOSに用意されており、本当に「モデリングなし」「プログラミングなし」でインタラクティブなARアプリが作れる。
アプリに多数のオブジェクトや文字が用意されていて、それを選び、動きや出現タイミングを指定すれば、ARアプリになる。指定方法は、PowerPointやKeynoteのようなプレゼンアプリに近い。
そうやってできたデータはもちろんARアプリとして配布することもできるが、iOS/iPadOSの場合、ARモデルをプレビューするために使われていた「AR Quick Look」が使えるため、メールなどでデータをシェアするだけで体験できる。
これは、誰でも使える簡単なツールで、非常に興味深い。教育などにも使えるものだと感じたので、ぜひ広く普及させてほしい。