西田宗千佳のRandomTracking

第586回

XREALが「空間ビデオ撮影可能なAndroidデバイス」発売。CEOに開発意図を聞いた

XREAL Beam Pro。XREAL Airなどと組み合わせて利用する

サングラス型ディスプレイで知られるXREALが、新しいデバイスを発表する。

名前は「XREAL Beam Pro」。XREAL Airなどと接続して使うデバイスだ。価格は3万2,980円から。6月19日より予約販売を開始し、8月6日より発送を予定している。

どんなデバイスなのか、実機をチェックしながら、同社創業者でCEOのチー・シュー氏にインタビューすることができた。先の展開も含め、彼のコメントと共に新製品の概要をチェックしていこう。なお、インタビューはオンラインで行なわれた。

XREAL 創業者でCEOのチー・シュー氏

【更新】発売時期やスペック情報などを最新のニュースリリースを反映したものに更新しました。(6月19日13時)

スマホのようでスマホでない「空間を扱うAndroidデバイス」

まずはXREAL Beam Proの外観をご覧いただきたい。見た目にはまるでスマートフォンだ。
ただ、スマートフォンとは異なる製品である。

XREAL Beam Proの実機

外観ではわからないが、通信機能はあるが通話機能はない。海外では5Gを搭載する上位モデルも用意されているが、今回日本で発売されるのはWi-Fiのみに対応した製品。5G対応については携帯電話事業者との話し合いを続けていく予定だと言う。

本体底面を見ると、XREAL Airをつなぐためのコネクタと充電用のコネクタがそれぞれ用意されている。

左は電源用、右はXREAL Airを接続するためのUSB-Cコネクタ

そして背面には2つのカメラ。これは「広角と望遠」のような使い分けではなく、いわゆる「空間フォト」「空間ビデオ」を撮影するためのものだ。

背面にあるステレオカメラ。それぞれは5000万画素で、空間ビデオと空間フォトの撮影に対応

以下のスペックを見ていただければお分かりのように、中身はほぼスマートフォンと考えていい。Google Playストアも搭載されており、そこからAndroidアプリをダウンロードして使える。

シューCEOは、「この製品はBeamのアップグレード版に当たる」と説明する。

昨年6月に発売された「XREAL Beam」

XREALはXREAL Airと接続する周辺機器を多数開発してきたが、その中に「XREAL Beam」という製品がある。

これはディスプレイ非搭載だがAndroidを採用したデバイスで、「スマホやNintendo Switchとの接続」「XREAL Airへの簡易的な給電機能」「Netflixなど限られたアプリを動かしてのコンテンツ視聴」ができるものだった。

ただ狙いはわかるが、機能的には物足りず、消費者にはわかりにくい製品だったようにも思う。

そこで新しいデバイスを作る上で、考え方を大きく変えたのが「Beam Pro」となる。

XREAL Air 2 Ultraと接続するとこのような感じに

今年の1月、XREAL・シューCEOに単独インタビューをしているのだが、そこで「最高のAR体験が提供できる独自端末を開発中」とのコメントが得られていた。

その独自端末こそが、XREAL Beam Proということになる。

シューCEO(以下敬称略):Beamを発売後ユーザーからは、コンテンツやリッチなインターフェースが不足している、という要望が寄せられました。我々はBeamを、スマートフォンなどと接続するアダプターとして設計したのですが、それでは複雑すぎるし、ニーズも満たせていないとわかったのです。

Beamをもっと強力で使いやすいものにするのはどうすべきか、と考えたとき、結局のところ、スマートフォンのコンテンツ・エコシステムを持ち込んで、問題なく見られるようにする必要がありました。

だから、前面カメラが、ディスプレイが必要で、Google Playストアも必要になります。

今回の製品は「スマホ型」であることが特徴だ。だが、通話機能はないこと、Wi-Fiのみの製品も用意されていることなどからスマホそのものではない。こうした選択はなぜ行なわれたのだろうか?

シュー:私はこの製品を新しいカテゴリーだと考えています。新しいカテゴリーのものを市場に投入する際には、できるだけ安い製品であることが望ましい。

安い製品を今作るにはどうしたらいいのか? それは、スマートフォンのフォームファクターを使うことです。多数のパーツがあり、コストも下がっていて、設計も容易になってきていますからね。

だからXREAL Beam Proは「スマホのような形」を選んだんです。

しかし、この製品をスマホとは思って欲しくありません。別のものです。通話機能をつけなかったのはそのためでもあります。データ通信機能があるタブレットに似ています。

しかし(XREAL Airを外付けにして使うので)ディスプレイがタブレットのように大きい必要はありません。逆に小さくしてしまうと、今度はコストが上がっていきますし、バッテリーの容量も減ります。

また我々は、多くの人に簡単に使って欲しいとも思っています。スマホならみなさん使い慣れていますし。

この判断は非常に論理的だ。6.5インチサイズのディスプレイを備えたAndroidスマホは最低でも数千万台規模で作られており、部材調達も容易だろう。本体だけを使う場合にも、戸惑う人は少ないはずだ。インターネットベースならともかく、携帯電話網での通話待ち受け機能を搭載するにはけっこうなコストがかかるので、それをカットする判断も、こうした製品なら「アリ」だろう。

XREAL Airとの連携は別として、「Wi-Fiで動いてスマホのコンテンツが使える安価な機器」を求めている人にも刺さりそうなデバイスではある。

操作はAndroidそのもの、Google Playストアも搭載

シューCEOが言うように、XREAL Beam Proはスマホと同じようなフォームファクタになっている。そして、Google PlayストアからAndroidアプリをダウンロードして使える。

XREAL Beam Pro内にはGoogle Playストアがそのまま搭載されていて、スマホアプリがダウンロードして使える
UI自体もAndroidそのままだ

XREAL Beam ProにXREAL Airを接続すると、目の前にはアプリケーションを利用するための空間が広がる。その中では、Google Playから提供される一般的なAndroidアプリも使える。要は、動画配信であろうが電子書籍であろうがゲームであろうがクリエイティビティ系であろうが、あらゆるアプリを3D空間に置いて使うことが可能になるのだ。複数のアプリを同時に使うこともできるという。

シュー:Google Playストアがあれば、知っているアプリは全て使えるようになります。

アップルはVision Proで多くのiPad用アプリを使えるようにしていますが、そこが大きな価値になっています。Metaは彼らのプラットフォームの中でGoogle Playストアを使おうとしましたが、うまくいっていません。

我々は空間でアプリを扱う技術を持っていて、Google Playのアプリを取り込むことに成功しました。

さらに、我々のプラットフォーム「Nebula」のために開発されたアプリケーションは、すべてXREAL Beam Proの中で使うことができます。

ここで気になることがある。

特にAndroidプラットフォームを使った空間アプリは、スマホ側に高い性能を要求する。

一方、XREAL Beam Proについては、どんなプロセッサーを使っているのか、XREALから公表されたスペックシートではわかりにくい。ただ、コア数が8とされ、価格も安くなっていることから、今年のハイエンド向けほど性能は高くないだろう。

これでパフォーマンス的には問題はないのだろうか?

シュー:今回我々は、このデバイスに向けての最適化を行ないました。ですから、汎用のスマホを使うよりはパフォーマンス面で有利だと考えています。

Nebula向けに作られた全てのアプリケーションと互換性があります。

さらに、「XREAL Air 2 Ultra」をつないだ場合、6DoFやハンドジェスチャーなどの機能も使えます。我々はBeam Proを、弊社製品のためのベストなプラットフォームにしたいのです。

XREALの最上位機種である「XREAL Air 2 Ultra」は、本体に搭載された2つのカメラをセンサーとして使い、位置把握と手の認識を行なう。結果としてより高度なARアプリを開発可能なのだが、それもXREAL Beam Proで動作することになる。

空間ビデオは大きな可能性あり

XREAL Beam Proは、背面に2つのカメラを搭載している。冒頭で説明したように、これは空間ビデオ・空間フォトの撮影を可能にするものだ。XREAL Airの中からはそれらがちゃんと立体的に見える。シューCEOも、この要素が大きなものだと説明する。

空間ビデオのためにステレオカメラを搭載したのが大きな特徴でもある

シュー:「空間ビデオ」はとても重要な要素であり、全くの新しいキラーユースになると確認しています。

重要なことは、空間ビデオ撮影機能を持つことで、単に動画ファイルを作ることだけでなく「空間ビデオのライブ放送」も可能になるということです。

確かにこれはその通り。

空間ビデオを撮る方法は多々あるが、立体の空間を撮影してすぐ見る方法は意外と少ない。Apple Vision Proではワンタッチで空間ビデオと空間フォトを撮影し、その場で見ることができるものの、現状、その視界をライブストリーミングすることはできない。

XREAL Beam Proの場合も、XREAL Airをつないだまま撮影すればすぐにその場で空間ビデオが見られる。また、そういうことができるアプリを用意すれば……という前提にはなるが、空間ビデオをストリーミングすることも可能ではある。

あくまでメガネの方ではなく、デバイスにカメラが付いているので「自分の視界を相手に伝える」というわけにはいかないのだが、「思い出を空間としてシェアして簡単に見る」という意味で、とても良いデバイスであることは間違いない。

年末には新メガネ型デバイスも。激しさを増す市場での競争

では今後、XREALの製品はどうなっていくのだろうか? 将来的な展望についても聞いてみた。

シュー:多くの人々はゆっくりと移行していくことになると思います。

(XREAL Airをつけていたとしても)まず使うのは2Dのアプリケーションが中心です。

だからこそ我々はGoogle Playストアの搭載を決めたのですが。その先でARアプリケーションが次第に使われていくことになるでしょう。そのために我々は、アプリケーション構築用のSDKを開発し続けています。

この要素が欠けているMetaは苦しい。だからHorizon OSという独自のプラットフォームを打ち出したのだと考えています。

現在、GoogleもXRプラットフォームを開発中だと聞いています。正直、その詳細を我々も知りません。ただ、彼らには適切なパートナーが必要でしょう。スマートフォン向けのAndroidの初期では、GoogleにとってHTCが重要なパートナーでした。HTCの知見が、ビジネスをスケールしていくために重要なものだったからです。

同様に今回も、Googleは適切なパートナーを見つける必要があるでしょう。

ARの世界でのキラーアプリケーションは人それぞれです。プロダクティビティが重要という人もいれば、ゲームが重要だという人もいます。私は、生産性・エンターテインメント(映像や音楽)・ゲームが3つの柱になるだろうと考えています。

空間ビデオも新しいキラー要素になるのは間違いありません。

まだ詳細はお伝えできませんが、今年の末には新しいメガネ型デバイスを発売すべく準備を進めています。この製品でまた、大きな可能性を拓けると確信しています。

現在、サングラス型ディスプレイ関連メーカーは激しい競争を繰り広げている。先日もVITUREのトップインタビューをお届けしたが、そこでも、すでに新製品の存在と概要が語られている。

新製品が発売されたばかりで先の話をするのはタブーでは……という印象も持つのだが、彼らはそこに頓着せず、とにかく競い合って製品を作り続けている印象だ。

このジャンルでの中国系企業の勢いと意気込みは相当なものだ。それだけ急成長しているということであり、市場の期待も大きいということなのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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