鳥居一豊の「良作×良品」

第83回

有機ELの実力を引き出した、パナソニックの“本気”が伝わるVIERA「TH-55GZ2000」

高額な薄型TVでも人気殺到で入手困難! 秘密は自社設計・組立の有機ELパネル

今回取り上げるのは、パナソニックの有機ELテレビ「TH-55GZ2000」(42万3,360円)。3シリーズがラインアップされた有機ELテレビの最上位モデルだ。高額な高級薄型テレビだが、なんと現在生産が間に合わずに出荷に遅れが生じているという。品薄なので当然だが、他社の有機ELの上級機と比べても割高な価格となっていながらもこの人気というのは、低調な時期が続いた薄型テレビでは久しぶりだ。そうした高い人気となった理由も含めて、くわしく紹介していきたい。

TH-55GZ2000

有機ELテレビは、国内外のメーカーから発売されているが、そのパネル自体は世界で唯一大型有機ELパネルの量産を実用化したLGエレクトロニクス1社が供給している。これは多くの人が知っている事実だろう。その有機ELパネルは、有機ELパネルと駆動のためのIC群(T-CON)などがセットになったパネルモジュールとして各メーカーに出荷される。各メーカーは、ここに自社で開発した高画質エンジンなどを組み合わせて、画質を仕上げているわけだ。

有機ELパネルは国内メーカーが採用するようになって3年目となるが、3代目となる2019年仕様の有機ELパネルはそれまでとは異なり、T-CONの輝度系のパラメーターが開放され、よりメーカーごとに積極的な画質設計ができるようになったことが特徴だ。昨年モデルまでの有機ELパネルはT-CONは完全にブラックボックスでテレビメーカーが手を加える余地がなかったのだ。

この理由は、自発光デバイスである有機ELの信頼性をキープするため。有機素材を使うため寿命が生じるし、使い方によっては焼き付きという現象が発生してしまう。こうしたトラブルから保護するため、T-CONはパネルの駆動を制御するだけでなく、焼き付きを低減するための機能なども盛り込まれている。言わば保護回路の役割も果たしているのだ。当然ながら有機ELパネルの信頼性は重要だが、パネル自体に手を加える余地がないと、他社との画作りの差別化にも限界はある。

これにより、各テレビメーカーでは、有機ELパネルの耐久性や信頼性をキープしつつ、有機ELが苦手とすると言われていた最暗部の階調性や、画面の明るさ(平均輝度)の向上などを独自に行なうようになった。すなわち、画作りの幅が広がり、各社の映像の違いもより明瞭になったのだ。使いこなしの余地も増え、各社ともに自前の高画質技術をぞんぶんに注ぎ込んだ結果、より大きな進歩を果たしている。ここまでは各社の2019年仕様の有機ELテレビは同様の条件だ。

そんな中、パナソニックだけはさらに一歩踏み込んできた。有機ELパネルを完成したパネルモジュールとして入手するのではなく、パネル部品、T-CONをはじめとするIC部品など、部品ごとに調達して自社の工場で独自のパネル設計とパネル組み立てを行なうことにした。つまり、使っている主要な部品は同じだが、細かな部分の設計や組み立てを独自で行なっているということだ。

自社開発・自社設計の詳細は明らかになっていないが、パネルを支えるフレームなどの構成部品を独自に設計した。たとえば焼き付きの原因となるパネルの温度変化に着目し、放熱性を高めるといった開発を行なったと思われる。もちろん、組み立てやパネルごとに微妙にバラツキのある発光特性の調整もより高精度に行なわれているだろう。これは、かつてはプラズマパネルを自社生産していたパナソニックだからできた力技とも言える。

この結果、パネル自体の高輝度化が可能になり、より明るく、ハイコントラストな映像を再現できるようになった。数値的なスペックは大きく変わるものではないようだが、眩しいほどの強い光と高輝度部分の階調表示では、大きなアドバンテージを得ているようだ。

こうした自社開発・組み立ての「Dynamicハイコントラスト有機ELディスプレイ」を搭載したモデルは、「TH-55GZ2000」と「TH-65GZ2000」の2モデルだけだ。下位モデルのGZ1500シリーズとGZ1000シリーズは、従来と同じ完成した有機ELパネルモジュールを使っている。生産数にも自ずと制限はあると思われるが、それ以上にパネル性能を向上したことで画質的にも他社よりも頭一つ抜けたことが、人気に拍車をかけ現在の品薄につながったのだろう。

薄型テレビとしては初のドルビーイネーブルドスピーカー搭載

自社開発・組み立ての有機ELパネルの搭載が一番の特徴であるGZ2000だが、最上位モデルとして充実した機能も盛り込まれている。まず、4Kチューナーは2基内蔵で視聴しながら裏番組の録画が可能(ダブル録画は非対応)。HDR方式には、HDR10/HDR10+/HLG/HLGフォト/Dolby Visionとすべての方式に対応。聞き慣れないHLGフォトはデジタル一眼カメラのための規格で、デジカメで撮影した静止画をHLG方式のHDR表示で記録・再生できるもの。静止画の世界でもHDRが本格的に普及しはじめてくるわけだ。

さらに内蔵スピーカーは、総合出力140Wの「ダイナミックサウンドシステム」を搭載。画面下部に2ウェイ3スピーカー構成のメインスピーカーを左/センター/右の3チャンネル配置。背面にはウーファー2基とパッシブラジエーターで構成されたユニットを2つ装備する。これに加えて、背面の中央上部にドルビーイネーブルドスピーカーも2チャンネル備える。立体的なサラウンドが楽しめるドルビーアトモスに対応した3.2.2チャンネルスピーカーとなっている。

TH-55GZ2000の背面。イネーブルドスピーカーを搭載するため、背面の大部分が厚みのある造りになっている。ディスプレイ部は厚めだが、端子部やスタンド部分はカバーもあり、すっきりとした印象になる

スピーカーだけでなく、駆動するアンプはTechnicsのフルデジタルアンプ「JENO Engine」を搭載。視聴ポジションに合わせて立体音響を調整できる「Space Tune」も備えるなど、オーディオとしての機能も先進的だ。もちろん、最終的な音の仕上げにはTechnicsのスタッフが監修した「Tuned by Technics」となっている。

Technicsロゴも

TH-55GZ2000について、語るべきものは非常に多いのだが、まずは「Space Tune」について詳しく紹介しよう。言わば自動音場補正機能なのだが、AVアンプが備える機能のようにマイクを使って測定するのではなく、設置位置や壁との距離、天井の高さ、画面の高さといった項目で最適なものを選び、それに合わせて最適な状態に補正が行なわれる。マイクの設置やテストトーンの測定のような手間はなく、手軽に使える。これらは、単純に高音質になるというだけではなく、画面の下にスピーカーが配置された薄型テレビでありがちな“画面の下から音が聞こえる”のを低減したり、サラウンド効果を高めたりするのにも有効なので、一度きちんと設定しておくといいだろう。チャンネル設定などの初回設定の時にまとめて済ませてしまえばOKで、後は引っ越しやテレビの設置場所を変えたときでもなければ再設定の必要はない。

音声調整の「Space Tune設定」の画面。調整後は「オン」と「オフ」が選べるようになる。調整は下にある「SpaceTune調整」で行なう
「Space Tune」の画面1。壁寄せ/コーナー置き/壁掛けの3つから設置状態に近いものを選ぶ
「Space Tune」の画面2。後ろの壁からの距離を選ぶ。15cm/30cm/60cmから選択する
「Space Tune」の画面3。テレビの上端から天井までの距離を選ぶ。1m/1.5m/2mから選択する
「Space Tune」の画面4。テレビ画面と視聴位置の目の高さを選択する。上端/真ん中/下側から選択する

その他の機能としては、Wi-Fi内蔵で各種の動画配信サービスに対応するほか、GoogleアシスタントやAmazon Alexaの音声操作に対応するなど、ネット機能も充実。USBでつないだHDDに4K放送を含む録画もできるし、USBメモリーに保存した4K動画などの再生も可能だ。このあたりは、最新の薄型テレビとして当たり前の装備だ。HDMI入力は4系統で、USB端子は録画用を含めて3系統備える。このほかは外部映像入力(コンポジット)、光デジタル音声出力、LAN端子などがある。

背面の接続端子部。アンテナやLAN端子、HDMI1と2、USB1は横向きの配置でカバー内に収納できるようになっている。
背面の中央部を見たところ。保護用のメッシュ越しにうっすらとスピーカーが2つあるのがわかる
付属のリモコン。デザインとしては従来のものと大きな違いはない。動画配信サービスをはじめとするアプリの切り替えがしやすくなっっている

ネットワーク機能では、基本となるネットワーク接続を行なう。有線または無線が利用できる。放送中の番組をスマホなどへ配信する「TVシェア」、BDレコーダなどと連携する「お部屋ジャンプリンク」などの各種の設定がある。対応する機器が必要なものが多いが、多彩な機器とのネットワーク連携に対応している。

「ネットワーク設定」の画面。ネットワーク接続の設定のほか、さまざまなネットワーク連携機能に対応していることがわかる

設定を一通り見ていて、目新しかったのがHDMI関連の設定。「HDMI HDR」設定では、ダイナミック/ノーマル/オフがある。どうやら、Dolby VisionとHDR10+にまで対応するのが「ダイナミック」で、HDR10とHLGのみならば「ノーマル」を選ぶようだ。接続する機器に合わせて選ぶといいだろう。また、「HDMI 2.1」設定は、ALLMの有効/無効を選択できる。これは「Auto Low Latency Mode(自動低遅延モード)」の略で、ALLM情報を持ったコンテンツでは自動的にゲームモードに切り替わる。将来のゲーム機などで採用されそうな機能だ。このほか、ビエラリンク(HDMI)設定もある。使いたい機能に合わせて個別にオン/オフを選ぼう。

「HDMI HDR」設定の画面。基本的には「ダイナミック」のままでいい。Dolby VisionやHDR10+のソフト視聴時に必要な設定だ
「HDMI 2.1設定」の画面。HDMI Ver.2.1で規定されたALLM情報に対応するもの。ゲーム機などが将来対応すると思われる
「ビエラリンク(HDMI)」設定の画面。連動機能が個別にオン/オフできるので、使いやすさに合わせて選ぶ

暗室では眩しいと感じるほどの明るい画面。4K放送もより鮮明で高精細に表示

まずは軽くテレビ放送を見てみた。こうした視聴では基本的に部屋の照明を落とした全暗で行なうのだが、テレビ放送を見ると眩しいほどの明るさで驚いた。パナソニックの画質モードは「スタンダード」が省エネも意識したやや暗めのモードなので、見やすいと感じるのは「リビング」だった。しかし、全暗では「スタンダード」がちょうどいいとさえ感じる。結果的に部屋を薄暗い程度の明るさにして「リビング」で視聴した。当然ながら画面全体が明るいので見やすいと感じるし、より高精細さや色彩感も豊かに感じる。これならば、外光が差し込むような明るい部屋でも不満を感じることはないはず。液晶テレビの高級モデルで感じた力強い明るさが有機ELテレビでも実現できたのは見事だ。

4K放送では、花火大会の中継番組などを見たが、暗く沈んだ夜空に浮かび上がる花火のコントラストが素晴らしい。夜空に大輪の花を咲かせる花火は、眩しい輝きだけではなく燃焼の様子がわかるほどひとつひとつの光が輝き、消えていく様子がよくわかる。時間差で色が変わっていく花火など、最新の花火の美しさが、実物を見る以上に詳しくわかってしまう。背景となる夜空も、HLG収録もあり真っ暗に沈んでしまうのではなくビルの灯りなどをうけて深い青になっているし、花火の煙が広がる様子もしっかりと映し出す。それでいて、眩しい光が次々と輝く。まさに実際に花火を見ているような迫力だ。

ドラマやドキュメンタリー番組でも、4Kらしい精細感で、パノラマ的な風景では豊かな奥行きを感じる。画面の輝度に余裕があるので、実に映像の見通しがよい。こうした映像の明るさの向上は、2年前の有機ELテレビを使っている筆者には一目瞭然だし、同じ2019年モデルの有機ELテレビと並べて見ても、頭一つ抜けている。現在の人気の高さがよくわかる。

一方で2Kの地デジ放送は、ノイズ感を抑えた落ち着いた印象で、無理に精細感を欲張るようなことはしていない。4K放送を見慣れてしまうと、地デジ放送はいろいろと差が目に付くが、画質的な差がよりはっきりとわかってしまう。このあたりは、地デジ放送でもより高精細な映像で再現しようとする他社とは異なるアプローチだ。

また、動画配信サービスなども軽く試してみたが、映像的な質の高さは十分。4Kコンテンツもノイズが目立つようなこともないし、転送レートの低さを考えれば、精細感も十分以上。下手に画面の明るさだけを欲張ると、ノイズが余計に目に付きやすくなるのだが、そうした弊害はなく、明るく力強い映像を満喫できた。

そして、とても便利だったのが、新しくなったホームメニュー。画面の下にアイコンがポップアップする形式で、よく視聴するコンテンツ、放送、主要な動画配信サービスなどを選ぶと、そこでピックアップされた作品のサムネイルまで表示される。放送を見ながら、他に面白いコンテンツがないか探すような場合でも、放送視聴を中断せずにコンテンツ選びができる。コンテンツの切り替えの反応もスピーディーだし、なかなか使い勝手が良かった。

地デジ視聴中にホーム画面を表示した状態。各種のアイコンが一覧表示され、手軽にコンテンツを選べるようになっている。十字キーの上下で、テレビ放送、録画済み番組、YouTubeの主要番組などの表示に切り替えられる
登録可能なアプリの一覧。好みのものを選んで、ホーム画面に登録できる。アプリには動画配信サービスのほか、ショッピングやゲームなどの多彩なアプリも用意されている
よく見るテレビ番組や動画配信サービスなどで、好みに合った番組をまとめて表示できる「アレコレチャンネル」。好みのジャンルなどを登録するほか、視聴履歴を学習して好みの番組を紹介してくれる

いよいよUHDブルーレイで本格的に視聴。Dolby Visionの威力に感激

さて、今度は本命のUHDブルーレイソフトを見てみよう。視聴したソフトのひとつは「バンブルビー」。「トランスフォーマー」シリーズのスピンオフ作品で、仲間よりも一足先に地球にやってきたバンブルビーと出会った少女の物語だ。細かな設定は多少変わっているようにも思うが、バンブルビーがしゃべれなくなった理由などが明かされる。人気の高いキャラクターの活躍をより深く楽しめる内容だ。

本作を選んだ理由は、内容の面白さもあるが、Dolby Vision収録でしかもDolby Atmos音声採用であることだ。Dolby Vision収録の作品はかなり数が増えてきているし、Atmos音声はUHDブルーレイではほぼ標準と言えるほどの採用率なので、こうしたタイトルはかなり数が増えている。言わば、最新鋭の映画館にもっとも近いクオリティで映像・音声を楽しめるものと考えていいだろう。

Dolby Vision自体は、HDRを採り入れた映像記録規格のひとつで、一般的なHDR10が10bit記録であるのに対して、12bit記録となり、HDR10が最大輝度などの表現の幅が作品ごとに固定されるのに対し、Dolby Visionではシーンごとに表現の幅を切り替えることが可能。すなわち、暗いシーンや明るいシーンのそれぞれで最適な明暗の幅を再現でき、トータルでよりダイナミックレンジの広い明暗表現ができるわけだ。

このため、収録の作品は、再生するプレーヤー、表示するディスプレイの両方がDolby Visionに対応している必要がある。しかも、Dolby Visionの再生は、ドルビーが決めた厳格なルールがあり、いわゆる映像モードもドルビー側が決めた専用の画質モードでしか再生できない。今回の視聴では、再生プレーヤーは、パナソニック「DP-UB9000」を使用し、Dolby Vision出力を「入」として使っている。TH-55GZ2000側は、映像モードを「Dolby Visionダーク」としている。暗い環境用のモードで、テレビ自体が持つ高画質機能などがほぼすべてオフとなっているなど、モニターライクな画調なのは、他社の同モードと共通している。

設定の映像調整を表示した状態。Dolby Visionソフトを再生していると、メニューが面でもそれが明示される
映像モードを選んだところ。「ダーク」のほか、明るい部屋用の「ブライト」、もっとも映像が明るい「ビビッド」が選べる
映像調整の設定を一通り確認してみると、NR(ノイズリダクション)やHDオプティマイザーといった高画質機能が「オフ」になっていることがわかる
映像調整の「画質の詳細設定」の画面。コントラストを最適化する「コントラストAI」もオフだ
映像調整の「オプション機能」では、ゲームモードがオフ。それ以外の機能もオフでしかもユーザーによる変更もできなくなっている

映像調整のその他の項目を見てみると、「画面の設定」では焼き付き対策のための機能が用意されていることがわかる。これはこれまでの有機ELテレビでも搭載されていたものだが、細かくオン/オフを選べるのはありがたい。特に「画面ウォブリング」は、ごくわずかだが映像への影響もある機能なので、こだわる場合はオフにするといい。ただし、画面を静止したまま放置しないなど、焼き付きに対するケアはユーザーがきちんと行なうこと。また、テレビ放送で画面に右上に固定表示されるロゴマークの輝度を落とす「ロゴ輝度制御」は、プラズマテレビ時代には欠かせなかったもの。同じ自発光パネルで焼き付き対策が欠かせなかったプラズマテレビのメーカーだっただけに、このあたりの充実度はかなりのもの。

「画面の設定」にある機能の多くは焼き付き対策の機能を設定するもの。画面ウォブリングは人間の目では感知できない速度で画面を動かし、同じ画素が長時間発光するのを防ぐ機能。使用していて気になることはほとんどないと思うが、好みに応じて使い分けよう

なお、Dolby Vision収録のソフトを再生した場合は、映像モードもGZ2000本来のものから選ぶようになるし、独自の高画質機能をはじめとして、いくつかの設定が行なえるので、こちらの設定なども確認してみた。映像モードでは、ダイナミックやスタンダード、リビングのほか、シネマとシネマプロ、キャリブレーションやプロフェッショナルといったマニアックなモードが多い。これらは、セミプロユースやプロフェッショナルの現場でモニターに近い役割を果たすためのモードだ。また、HDR明るさ設定では、テレビ側で独自にHDRの明るさを最適化するもの。HDRの明るさを好みに合わせて調整することもできる。HDR10収録のソフトやHLG方式の4K放送で、映像が明るいあるいは暗いと感じる場合に使うといいだろう。

GZ2000本来の映像モードの一覧。スタンダードやリビングといったモードだけでなく、フォトプロなどのセミプロ向けのモードも数多く備える
映像調整にある「HDR明るさ設定」の画面。HDR10やHLG方式での再生時は基本的に「オン」となっている。必要に応じて微調整をすると、より見やすい映像になる

いよいよ上映開始だ。本作は最新のCG技術を駆使して描かれた金属生命体が活躍するアクション映画だが、それ以上に多感な18歳の少女とバンブルビーの交流を描いたドラマだ。

アクションシーンの迫力はもちろんだが、日常的な場面も多く、しかも実に生き生きとした映像になっている。少女がアルバイトをしている薄汚れたスクラップ置き場から、同級生らが集まる海辺など、さまざまな場所の映像が実にリアルだ。これはもちろん、Dolby Visionの高輝度が日差しの強さの違いまで描き分ける表現力を持っているため。GZ2000もそんな実にダイナミックレンジの広い光と影を余裕を持って描いている。陽光の力強さや海辺の輝く様子も見応えはあるが、暗いスクラップ置き場の工場内も暗さを感じさせつつも、精細で細かな部分までよく見える。

特に印象的なのは、自宅のガレージでバンブルビーが擬態したビートルをメンテナンスしようとしたところ、車体の下部にバンブルビーの顔があるのを見つけてしまうところ。薄暗い車体の下に人の顔らしきものが浮かび、それに気がつくと目のような部分が鮮やかに発光する。なかなかにびっくり仰天の場面だ。映像がリアルで生き生きとしているので、こうしたシーンの面白さが際立っていると感じる。

Atmos対応スピーカーの実力を確認。内蔵スピーカーとしては最高レベル

今度はバンブルビーらが迫力たっぷりの格闘戦を繰り広げるクライマックスで、Atmos対応の「ダイナミックサウンドシステム」の実力を確かめてみよう。冒頭でも紹介しているが、画面下に正面向きで配置されたメインスピーカー(フロント左/センター/フロント右)と、背面のサブウーファー、背面上部に2chのドルビーイネーブルドスピーカーを搭載したシステムだ。

このスピーカーシステムでは、設定により常時すべてのスピーカーが稼働するモードと、ステレオ音声の場合はフロント左右のスピーカーからだけ音を出すモードを細かく切り替えることができる。もちろん、スタンダードやミュージックといった音声モードの切り替えや、音質調整なども可能だ。ここでは、「Space Tune」をオン、「ドルビーアトモス」オンで聴いている。

音声調整のメニュー。音声モードはスタンダードやミュージックなどの5つが選べる。コンテンツに合わせて選ぶもので、音質のほかバーチャルサラウンドのオン/オフも組み合わせている
音声調整のバランス調整の画面。各スピーカーの音量バランスを調整できる。「Space Tune」を使っているならば、特に調整の必要はない
Atmosのオン/オフの切り替え。好みに合わせて使い分けてよいが、個人的にはサラウンド音声の作品では「オン」の方がサラウンド感が優れていると感じた
マルチスピーカー音場設定の画面。ダイレクトは入力信号そのままの再生を行う。「スタンダード」はステレオ音声でもすべてのスピーカーが駆動するモードとなっている

まず感じるのは、ダイアローグが明瞭でセリフがよく通る音ということ。これはセンタースピーカーがある効果が大きい。サラウンド再生なので、左右の広がりもなかなかのものだが、バーチャルサラウンドにありがちな広がりは豊かだが音の定位が曖昧に感じやすくなることはなく、広がりのある音場にきちんと画面中央からクリアな音が出てくる。低音の迫力もしっかりとしていて、バンブルビーと敵対するディセプティコンの激しい戦いも十分な迫力が伝わる。中高域の明瞭度やしっかりとした音の定位は見事なもので、テレビの内蔵スピーカーとしてはかなり本格的な音質に仕上がっている。

ダイアローグや前方の効果音などがきちんと画面から聴こえるのも大きな魅力だ。最近の薄型テレビは中級以上のモデルならば音質もなかなかしっかりとしているが、大画面となると画面の下から音が聴こえる感じになりがちだ。GZ2000ではそのような感じはほとんどなく、しっかりと画面と音の位置が揃っている。これはドルビーイネーブルドスピーカーの巧みな使い方によるものだろう。ドルビーイネーブルドスピーカーは天井の反射を利用してトップスピーカーの音を再現するためのものだが、単純に天井方向の音を再生するだけでなく、画面より下に定位しがちなフロントやセンターの音を上方向に持ち上げる使い方も組み合わせているとわかる。有機ELテレビに限らず、大画面テレビではこうした画面と音の一致を意識したスピーカー構成を採用することが欠かせないものになるだろう。

サラウンド感も後方の音も定位感は不足しがちなものの、包囲感や移動感はそれなりにある。本格的な5.1chあるいは5.1.2chのサラウンドと比べれば不満はいくらでもあるが、テレビの内蔵スピーカーとしては十分な出来。あえて言わせてもらえば、映像の密度感や迫力に比べると音が負けているのは言うまでもない。理想を言えば、本格的なサラウンドシステムと組み合わせたくなる。本格的なサラウンドシステムの組み合わせが推奨ならば、内蔵スピーカーにここまでコストをかける必要はないし、このあたりはテレビメーカーとしてもなかなか悩ましいところではある。とはいえ、一般的なニュースなどの放送でも5.1ch再生をする必要はなく、電気代のムダを省く意味でも内蔵スピーカーとサラウンドシステムを使い分けることは誰でもすると思う。気軽にテレビの内蔵スピーカーで楽しむ場合に基本的な音の実力がしっかりとしているというのはやはりありがたいことだ。

また、ちょっとしたサウンドバー型スピーカーと遜色のない実力を持っているだけに、サラウンドの面白さをしっかり味わえることは間違いない。前後左右の音の移動感や音に包まれるような感覚の楽しさに気付くはず。一度サラウンドの面白さに気付くと、映画館での映画鑑賞で後ろから音が聴こえていることに意識が向くようになる。当然ながらそれが映画の面白さを倍増していることにも気付く。そうなってくると、より本格的なサラウンドシステムを使ってみたくなる。そういう意味で、十分にサラウンド対応のスピーカーの入門としてふさわしい実力を備えている。

徹底した作り込みで、映像も音もこれまでの基準を大きく超えた

Dolby Vision収録のソフトも今年発売のものは、より自然でリアルな映像になったタイトルが増えていて、Dolby Vision対応は欠かせないと感じつつある。しかも、自社開発・組み立てによる有機ELパネル自体の性能を引き上げたこともあり、Dolby Visionの広大なダイナミックレンジが活きた映像になっていると感じた。今回も一応はHDR10出力で「バンブルビー」を見ているのだが、明暗の広さ、特に高輝度のピーク感や階調性は歴然とした差を感じた。HDR10出力ではテレビ側の高画質機能も積極的に使えるので、作品に合わせてじっくりと調整をすれば、その差をかなり狭めることは実は可能だ。だが、作品ごとに細かく画質調整を行うのはかなり大変だ。そうした手間もなく、より本来の映像を楽しめるDolby Vision対応は有効だと思う。

また、HDR10+のソフトとして「ボヘミアン・ラプソディ」も見てみたが、こちらもDolby Visionと同様にシーンごとにHDRの輝度レンジを変更できるので、より豊かな高輝度表示や暗部の再現性を楽しむことができた。こちらのクライマックスは昼間行なわれたチャリティー・ライブ「ライブエイド」なので、昼間の明るさと照明の感触の違いなどがさらに際立ち、より生々しいライブ映像が楽しめた。

さらに、ライブの音も見事なもの。サラウンド感としては前後に音が移動するようなことはないので大きな不満はないし、肝心の音質がしっかりとしているので聴き応えも十分。ボーカルの定位、ギターやベース、ドラムスのエネルギッシュな演奏が十分に堪能できた。改めてGZ2000の音の実力の高さを確認できた。4K HDR対応の薄型テレビも本格的な普及期に入って来ているが、本機は従来の4K HDRテレビの基準を大きく超え、これからのテレビのひとつのリファレンスになったと思う。

TH-55GZ2000のようなメーカーの本気が伝わってくるテレビに出会えるのはうれしいし、それが高価格にもかかわらず一般のユーザーにも受け入れられていることもさらにうれしい。今年の有機ELテレビはどのメーカーのものも出来は優秀なのだが、事実上GZ2000シリーズが圧倒してしまっている。これは他社にとっては悔しいことでもあるが、良い物を作れば結果もついてくるという事実は、今後の開発に一層の拍車をかけるものでもあるはず。こうした良い競争が今後も続くことに期待したい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。