鳥居一豊の「良作×良品」

第85回

マランツのネットワーク+DAC搭載アンプ「PM7000N」でガンダムの名曲カバーを聴く

このところ、マランツのアンプが面白い。マランツと言えば、本格派のピュア・オーディオ製品で知られるブランドで、PM10のような超弩級のプリメインアンプを筆頭に、独自のオーディオ技術を駆使した優秀な製品をラインアップしている。もちろん、超高級なハイエンド製品ばかりでなく、ミニコンポ的な一体型コンポや比較的手頃な価格のモデルもあり、いずれも音質の良さだけでなく、なかなかに攻めたアイデアが光る製品となっている。

マランツ「PM7000N」

大きなボディになりがちなAVアンプを薄型サイズに収めた「NR1710」が高い人気となっていることに続き、秋の新製品では、「NR1710」のボディを使ってHDMI入力やネットワーク機能を備えた本格的なプリメインアンプ「NR1200」が実にユニーク。意外とありそうでなかったHDMI入力を持つオーディオ用2チャンネルアンプは、現代のニーズにぴったりとマッチしていると思う。

ここで紹介する「PM7000N」(12万円)は、本格的な2チャンネルのプリメインアンプに独自のデジタルネットワーク機能である「HEOS」を内蔵したモデル。当然ながらデジタルソースの入力に対応するため、D/Aコンバーターなどのデジタル信号処理回路も備える。デジタルソースが全盛である現在、こうした製品は決して珍しいものではないが、マランツとしては“久しぶり”の本格的なDAC内蔵プリメインアンプである。

CD登場以降、音楽ソースのデジタル化は急速に進んできており、その頃からプリメインアンプにDACを内蔵して、CDなどのデジタルソースをデジタルのまま受け取れる製品が登場してきていた。マランツでは、1988年に発売された「PM-95」という製品がある。銅メッキを施したダイキャスト製のシャーシを採用した当時の最上位モデルだ。しかし、当時はDACの性能向上が著しく、日進月歩の速さでより高性能なDACが現れるのに対して、基本的にプリメインアンプはそれに比べれば大きな進歩はないため、プリメインアンプとしては十分に高い実力を持つのに、DAC部分だけが最新モデルに比べると時代遅れになるというチグハグな状況になりがちだった。事実、DAC内蔵プリメインアンプは当時多少珍しがられたものの、その後はほとんど発売されることはなかった。

要するに、アナログオーディオ回路で構成されるアンプと、デジタルソースの信号処理回路は相性が悪いということだ。筐体や電源を共有することでノイズの影響も出てくるなど、本格的なオーディオアンプで無理に一体化するメリットはあまりない。今考えると、オーディオにちょっと詳しい人ならすぐにわかる理屈だ。

ではなぜ、CDが登場して10年も経たないうちにいち早くDAC内蔵プリメインアンプが登場してきたかといえば、あらゆる音楽ソースにあまねく対応することがプリメインアンプの使命だからだ。アナログレコードがまだ高級品だった時代は、プリメインアンプにFM/AMチューナーを内蔵したレシーバーが一般的なスタイルだったし、その伝統は今もミニコンポのようなカジュアルな製品やAVアンプなどに受け継がれている。

現在は、アナログレコードも復権しているし、FM/AM放送も行なわれている。CDもまだまだ愛用者は多いだろう。それに加えて、ハイレゾ音源などのデジタル音源やネットワーク経由のストリーミングサービスが主流の音楽ソースになりつつある。利便性も含めて、プリメインアンプは本来、多種多様な音楽ソースに幅広く対応するのが基本なのだ。

PM7000Nの外観。ミドルクラスのモデルながらも、背の高さは125mmとスリムなサイズだ

おそらくはマランツも、PM700Nのような製品を発売するタイミングを注意深く検討してきたに違いない。アナログ信号とデジタル信号の混在については、AVアンプの開発でノイズ対策などを含めて解決の目処が立った。DACの進化は今も続いているが、対応するサンプリング周波数の拡大、DSDのような新しいフォーマットの登場も一段落したと言える。今後も増大するであろうストリーミングサービスへの対応もソフトウェアの更新などである程度対応が可能だ。

このように状況が整ってくると、ネットワーク経由のさまざまな音楽ソースに対応できることが大きなメリットになってくる。身近に楽しんでいるさまざまな音楽を自宅でも手軽に、しかも本格的な高音質で鑑賞できるようになるのだ。現在のところ、PM7000Nのような製品は、高級オーディオ製品としては首をかしげる人も少なくないだろう。しかし、数年後には、PM7000Nのような製品が主流になるのではないかとさえ思う。すでに、ミニコンポのような身近なオーディオ製品はそれが当たり前なのだから。

徹底した高周波ノイズ対策と、本格的な設計のオーディオ回路を搭載

前置きが長くなってしまったので、さっそくPM7000Nの紹介をはじめよう。プリメインアンプとしては、定格出力で60W+60W(8Ω)の出力を持つ、フルディスクリート電流帰還型パワーアンプを持つ。これは前作にあたるPM7005と同じ出力値だが、大容量トロイダルトランスやカスタムブロックコンデンサーを採用した強力な電源回路を搭載することで、瞬時電流供給能力を45%も向上している。このために、パワーアンプ回路用電源回路と出力段を一体化したショート・パワーライン・レイアウトを採用している。

さらに可変ゲイン型ボリューム/プリアンプ回路を新開発して採用している。これは、一般的な音量ではプリアンプでの増幅を行なわず、パワーアンプだけで増幅を行なうというもの。これによりノイズレベルを大幅に低減している。ボリューム回路も優れた特性を持つJRC製のボリュームコントロールICを使用している。

内部回路

DACなどのデジタル処理回路では、旭化成エレクエトロニクス製の32bit DAC「AK4490EQ」を搭載。DAC後段の信号処理回路では独自のHDAMやHDAM-SA2を使ったフィルディスクリート構成としている。当然ながらデジタル回路基板はシールドケースに封入される。電源ラインに流入するノイズはデカップリングコンデンサーを用いて除去するなど、徹底した高周波ノイズ対策が施されている。また、アナログ入力からの再生時には、ネットワーク機能をはじめ、USBメモリー再生、Wi-Fi、Bluetooth回路をオフにすることも可能だ。

デジタルオーディオ回路をシールドケースに封入
側面。鋼板を使ったシンプルなトップカバーだが、3箇所のネジは銅メッキが施されている
底面。リブによる補強を加えて剛性を高めたシャーシと、樹脂製ながらしっかりとした作りのインシュレーターを組み合わせている

このほかにも、MM対応のフォノイコライザーアンプは、上位機のPM8006と同じくJ-FETを採用するなど、アナログレコード再生の品質にもしっかりとこだわっている。スピーカー端子はマランツオリジナルのスピーカーターミナルで、真鍮削り出しの部品をニッケルメッキ。太めのケーブルやYラグ、バナナプラグの使用も可能だ。マランツらしいのがバックパネルを止めているネジで、金メッキネジはみな同じだが、トップカバーを止めるネジが左右で異なっているなど、細かな音質チューニングが行なわれていることがわかる。

背面。左側上部にデジタル系の入力やUSB端子、ネットワーク端子がある。その下にはアナログ入力があり、サブウーファー用出力もある
スピーカー端子部。パナナプラグやYラグ端子にも対応するマランツオリジナルの端子を採用。掴みやすい形状でしっかり締め込むことができたことに感心した

ネットッワーク機能は、独自のHEOSテクノロジーを採用したもので、さまざまな音楽ストリーミングサービスやインターネットラジオに対応するほか、USBメモリー再生やネットワークオーディオ再生が可能。ハイレゾ音源の再生は、PCM最大192kHz/24bit、DSD最大5.6MHzに対応。Wi-Fi内蔵でワイヤレスでネットワーク接続ができるほか、AirPlay2、Bluetoothにも対応する。大きな注目ポイントとしては、9月にサービス開始となったAmazon Music HDにも対応すること。CDと同等の44.1kHz/16bitのHD音源と最大192kHz/24bitのUltra HD音源の再生が可能だ(サービスの利用には別途登録や契約が必要)。このほか、Amazon Alexaの音声コントロールにも対応する。ストリーミングサービスやハイレゾ音源の対応も実用上十分となっており、最新の音楽サービスを存分に楽しめるだろう。

森口博子の「GUNDAM SONG COVERS」をハイレゾ音源とCDで聴く

PM7000Nで聴く音源は、森口博子の「GUNDAM SONG COVERS」を選んだ。今、一番よく聴いているアルバムでもあるし、なによりも森口博子の歌唱力に改めて驚かされた。このアルバムはNHKの番組で発表された「国民が選んだガンダムソングベスト10」から選ばれたもので、その10曲を多数のアーティストがアレンジやレコーディングに参加して制作されたもの。筆者はアニメソングも大好きだが、テレビ放送などでさんざん耳に馴染んだオリジナル曲が一番で、カバー曲はあまり好みではない。本人が歌う「2019バージョン」であっても、微妙な歌い方の違いが上手い下手を超えて違和感を感じてしまうのだ。

森口博子の「GUNDAM SONG COVERS」

特にアニソンはその傾向が強いような気がするし、そもそも多くのファンが選んだ10曲だ。これをアーティスト性を前面に押し出して別物のようにアレンジしてしまうのは許されないだろう。聴く前は少し心配だったが、どの曲も原曲の持つ雰囲気をきちんと尊重したものになっているし、なによりも森口博子のうたう歌がほぼ原曲のメロディーそのままで、オリジナル曲の歌手の歌唱に寄り添ったものになっていた。それでいて、物真似やカラオケ番組での即興カバーに成り下がっていない。自分の曲もそうでない曲もきちんと歌いこなして、自分の歌にしていること、その豊かな表現力には脱帽だった。

アイドル歌手としては残念ながら大成できず、バラエティーなどに数多く出演するなど、タレントとしてのイメージの方が強い彼女だが、“この人は本当に歌手になりたくて、ずっと歌手で、今も歌手なんだなぁ”などと、感慨に耽ってしまった。

というわけでさっそく聴いていこう。「GUNDAM SONG COVERS」は、CDの発売のほか、ハイレゾ版の配信もされているが、まずはハイレゾ版(96kHz/24bit、WAVE)を聴いてみた。

ハイレゾ音源はNASなどに保存した楽曲をネットワーク経由で再生する方法と、USBメモリーに音源を保存して、PM7000Nの背面にあるUSB端子経由で再生する方法があるが、今回はUSBメモリー再生を行っている。音質が良かったからだ。ネットワーク経由の再生とUSBメモリー再生の音質の違いにはいろいろな理由が考えられるが、我が家の場合は家庭内LANを経由することだと思う。ハブやルーターを経由すること、有線ネットワークの配線長などが原因で、機器に直接セットするUSBメモリー再生と比べると、音場の見通しの良さや音の純度にやや差を感じがちだ。使用する機材や環境による違いもあるので、それぞれ比較して聴き比べてみるといいだろう。こんなわずかな違いまできちんと描き分けてしまうのも、本格的な実力を持ったPM7000Nだからこそできることだ。

ソースの切り替えはもちろん、楽曲の選択などはすべて前面のディスプレイを使って操作ができる。前面ディスプレイは漢字表示も可能な3行表示で、いくつかのフォルダに分けて楽曲を保存しているNASからの再生であっても、戸惑うことなく選曲が可能だ。

前面ディスプレイ。見やすい日本語表示でネットワーク設定から選曲までスムーズに操作が可能
付属のリモコン。入力切り替えやボリューム操作のほか、再生用の機能も一通り備えている。メニュー操作や選曲は十字キーで行なう

とはいえ、楽曲の一覧性などでは、スマホ用アプリの「HEOSアプリ」を使った方が便利だ。オーディオ機器を離れた位置に置いていても、手元で操作できるのも便利だ。Amazon Music HDやSotify、AWAといったストリーミングサービスも含めて、まとめて操作できるので、ネットワーク機能を利用する場合にはユーザー必携のアプリだ。

「HEOSアプリ」の起動画面。ネットワーク接続された対応機器を自動的に検索し、画面にリスト表示する。複数の機器が接続されている場合は連携操作なども可能
PM7000Nを選択した後のソース選択画面。PM7000Nで選べる再生ソースが表示される。ネットワーク再生の操作だけでなく、アンプ操作も一通り可能
各種設定画面。対応製品の追加をはじめ、各種の選択が行なえる
曲目を表示した状態。iPhone 7の画面では8曲まで一覧表示ができた。下にあるアイコンでトップ画面/楽曲検索/再生操作が切り替えられる
再生画面では、写真のプレイリスト表示のほか、アルバムアートなどを表示できる曲表示も可能

芯の通った力強い音。瞬発力のある低音の鳴り方も好印象

さっそく聴いてみよう。スピーカーは自宅のB&W「マトリックス801 S3」を使用。バイワイヤリング接続としている。まずはよく聴くクラシック曲などを一通り聴いてみたが、決してハイパワーとは言えない定格出力60W+60W(8Ω)というスペックながら、マトリック801 S3をなかなかしっかりと鳴らしてくれた。音場の広がりや奥行きもしっかりとしていて見晴らしのよいステージが目の前に広がる。では、緻密で繊細な音場型の鳴り方かというと、そんなことはなく、厚みのある中低音に支えられ粒立ちの良い音のひとつひとつの芯の通った力強さがある。

低音はやや細身の感触ではあるが、打楽器のアタックを歯切れ良く描くので、パワー不足は感じない。音の厚みや中低音のエネルギーの高さはどちらかというと男性的な鳴り方とも感じる。こうした鳴り方が女性ボーカル曲の再生でどんな表現になるかが楽しみだ。

まずは1曲目の「水の星へ愛をこめて」。森口博子のデビュー曲だ。富野由悠季監督は、ガンダムに限らず、自分の監督作の主題歌などで自ら作詞することが少なくない。これは、ただのマンガ映画の歌ではなく、作品に寄り添った主題歌を使いたいということから始まったようだ。劇場公開された「THE IDEON 接触篇/発動篇」の主題歌は、女性ボーカルによる静かなバラード曲で、とても良い曲だ。こんなふうに、ガンダム作品でもロボットアニメらしからぬ曲が主題歌となることが少なくない(富野監督作品以外でもその伝統は継承されている気がする)。「水の星へ愛をこめて」もそんな曲だ。

ジャズ・ヴァイオリニストの寺井尚子による美しくも情熱的なイントロで始まるこの曲は、ヴァイオリン、ピアノ、ベース、ドラムスという編成のジャズ風にアレンジされている。ジャズ風のアレンジながらも、原曲の雰囲気はそのままで、まるで違和感がない。森口博子の歌も、思った以上に違っていて、デビュー仕立ての10代の少女の歌声と同じ声で、表現力が倍加している。歌手としての熟成が際立ってよくわかる歌声だ。

PM700Nは、そんな演奏と歌を、実に粒立ちよく、忠実感のある自然な音で鳴らす。それだけに音像の厚みとエネルギー感の高さがよくわかる。最初に男性的と感じた力強い鳴り方は、森口博子の声の強弱、思い入れたっぷりの気持ちの入った歌い方を実に鮮やかに描き出した。しっとりとした調子ながらも、実に情熱的なヴァイオリンの演奏も弦を擦る感じの力強さ、繊細な音色の響きまで鮮明に描く。

森口博子の声はしなやかで透明感のある高音の伸びが魅力だが、それだけでは美しいが華奢になる。美しい高音を支えるしっかりとした力強い歌声を、PM7000Nはしっかりと描いてくれた。1曲目を聴いただけでほぼほぼ評価は固まった。“これはいいアンプだ”と。

2曲目の「哀戦士」でも、エネルギーたっぷりの歌声を存分に味わえる。押尾コータローによるアコースティックギターの伴奏だけのシンプルな構成の曲だ。原曲はクライマックスで使われたこともありパワフルなロック・サウンドなので、それに比べるとバラード調とまではいかないが、落ち着いた感触のアレンジになっている。だが、声の力強さや、ギター1本といいながらも、ギターの胴を叩いて刻むリズムの切れ味の良さが出て、案外しっかりとロック・サウンドになっている。こうしたアレンジはやはり見事だと思う。異論があるのは認めるが、「機動戦士ガンダム」はDVD版で、アフレコまですべてやり直した5.1ch音声版があり、「哀戦士」は劇中で使われずにエンディングのスタッフロールで使われる。これがオリジナル劇場版とかなり印象が変わってしまったため、ファンには不評だったが、このアルバムの曲のようなアレンジされたものだと、また印象が変わったのではないかと思う。

3曲目は個人的に一番大好きな「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」。このアルバムは基本的にすべて新録だが、この曲だけは2015年収録のストリング・アレンジ・バージョンだ。いわゆる弦楽四重奏(ヴァイオリン×2、ビオラ、チェロ)とエレキギター、アコースティックギター、ベース、ドラムスの編成だ。弦楽四重奏によるアレンジとはいえ、原曲のイメージ通りだし、特にイントロの弦の鳴り方は劇中で使われたときのイメージそのままに感じた。静かなステージに弦の音色が美しく響く様子が、宇宙空間を彷徨う主人公の姿に重なる。オーディオ的に表現するのも興醒めだが、SN比が良いので弦の音がフワッと目の前に浮かぶ。弦の音も余韻まで鮮やかに描かれるので、空間の広さや深さがしっかりと出る。

本格的なプリメインアンプにDACやネットワーク機能を盛り込んだことで、ノイズの影響を心配する人は少なくないと思うが、前述の通り対策は万全で、こうしてハイレゾ音源を聴いていても、そうした影響をほとんど感じない。また、PM7000Nのデジタル入力やネットワーク機能はあくまでもオマケ的なフィーチャーで、“本命はあくまでもアナログ入力の音のはず”と思う人もいるだろう。それは当然間違っていないが、デジタル入力やネットワーク再生、USBメモリー再生の音もかなりレベルで仕上がっている。だからこそ、あえてデジタル入力の音から紹介しているわけだ。

5曲目は「嵐の中で輝いて」。一年戦争時の地球上での連邦軍のドラマを描いたOVAの主題歌だ。田ノ岡三郎がアコーディオン演奏を行なっており、タンゴを思わせるアレンジとなっている。小気味の良いリズムとドラマチックとも言えるアコーディオンの音が、熱気たっぷりの密林で必死に生きる兵士達のムードとよく合っていると感じる。

ちなみに新録された楽曲はすべて、伴奏の演奏と歌唱を同時に収録する形でレコーディングが行なわれているという。森口博子の歌唱の力の入り具合、演奏と一体となったグルーブ感はどの曲からも感じるが、情熱的なラテンのリズムもあって、この曲も一層一体感を感じる。当然ながら、PM7000Nのアタックの切れ味の良い再現は、小気味よいリズムを鮮やかに鳴らす。正直に言えば、低音域はもう少し量感があってもいいと思うが、低音のスピードの速さと解像感の高さは見事なもので、不満はほとんど感じない。

8曲目の「めぐりあい」はアカペラ(声だけの演奏)で、メインボーカルと30人のコーラスのすべてを森口博子が担当している。コーラスはいわゆるコーラスだけでなく、ボイスパフォーマンスによる伴奏のメロディーやリズムも入り、アカペラとは思えない大編成のサウンドに驚く。

一人アカペラというのも、デジタル録音ならではのものだが、すべての声が同じ人だけにその音色の統一感が凄まじい。森口博子の歌唱力の高さを思い知る曲でもあるし、ボーカルとコーラス、ボイスパフォーマンスの音が絶妙に調和しながらも溶け合わずにそれぞれが粒立ちよく描かれる様子は圧巻。ステージの広さ、奥行きの再現が見事なこともあって、まさに宇宙空間をステージにして歌っているような感覚になる。

豪華なメンバーとの共演ということもあるし、録音もかなりよく出来ており、このアルバムをスマホと付属イヤフォンの組み合わせのような、お手軽な機器で聴くのはもったいないと感じる。もちろん、スマホと付属イヤフォンでも曲の良さ、歌の良さはきちんと伝わるが、それだけでこのアルバムを聴いた気になっている人はちょっともったいないことをしていると思ってしまう。今すぐPM7000Nとそれに釣り合う優れたスピーカーを手に入れて聴いてみて欲しいところだが、ちょっとしたオーディオ店などで試聴してみるだけでも、このアルバムの良さを改めて理解できるはず。

人前でアニメソングを聴くのは恥ずかしい。と感じる人もいるかもしれないが、このアルバムを聴いてアニメソングだと気付く人は同好の士なので恥ずかしがる必要などない。アニメソングに興味のない普通の人は普通に良い曲だと思うだけだ(CD版の初回特典のスリーブケースは隠した方がいいかもしれないが)。下手に格好を付けて、聞き慣れていないクラシックの名録音盤などで試聴しても、そのオーディオ機器の良さを聴き取ることはできない。

CD版をアナログ接続で聴いてみた

8曲目の「Z・刻をこえて」は、CD版で聴いてみた。プレーヤーはパナソニックのDP-UB9000だ。PM7000Nは本体前面にある「ピュアダイレクト」をオンにし、すべてのデジタル系回路、Wi-FiやBluetoothなどの無線などの電源をカットした状態で聴いている。

曲はわざわざ説明するまでもなく、「機動戦士Zガンダム」の最初の主題歌だ。ニール・セダカのロック・サウンドをよりホットなファンク・バンド風のアレンジとしている。

パワフルでエネルギーたっぷりの曲ということもあるが、CD版はより音の厚みが増したような感触で、ボーカルもより定位が明瞭になる。ハイレゾ版と聴き比べると、ステージの広さや音の細かな再現などに差を感じるし、絶対的な音質の良さはハイレゾ版の方が上だと感じる。だが、ボーカルをはじめとして大事な音をくっきりと描くような再現はより好ましいと感じる人もいると思う。これはCD版とハイレゾ版のマスタリングの違いだとも思うし、CDの音の特徴をうまく活かした音作りの妙だと感じる。

もちろん、PM7000Nのアナログ入力の音の良さによる部分も大きい。マランツで最初にPM7000Nの試聴をさせていただいた時に伺ったのだが、PM7000Nの音はまずアナログ入力で煮詰めていき、デジタル系の音はアナログ入力の音と同等のクオリティーに近づくようにして仕上げているという。だから、アナログ入力の音が一番良いと感じるのは当然の結果ではある。勘違いしないで欲しいのは、デジタル系の音質が悪いというわけではないということ。アナログ入力の音が良すぎるのだ。

ハイレゾ音源とCD音源の微妙な音の違いを明瞭に描き分ける表現力も見事だし、SN感や音場の広がりなど質的な落差をほとんど感じない。基本であるアナログアンプとしての完成度が高いからこその、質の高いデジタル音源の音になっていることがよくわかる。なんどか比較試聴をしてみて、改めてデジタル音源系の音の良さを実感するし、PM7000Nの実力の高さを実感できる。

ストリーミング音楽サービスの音の良さを改めて実感できる今の時代のHiFiアンプ

今回は詳しくは触れないが、当然ながらストリーミング音楽サービスも音の良さにびっくりする。ストリーミング音楽サービスは、Amazon Music HDのようなロスレスの高音質サービスを除けば、基本的にロッシー圧縮を採用しているので、音質的には有利とは言えない。勘違いしやすいのは、元々音質が良くないのだから、高い機材で聴く必要ないと思いがちなところ。むしろ、元々音質の良いハイレゾ音源ならば、スマホで聴いても良い音がする。PM7000Nには、ロッシー音源をアップサンプリングしたり、失われた情報を補完するような機能があるわけではないが、元の質が良くない音源ほど、しっかりとした機器で再生すると、思った以上に良い音が出るのは間違いない。基本的な作りの良さというのは、むしろ質の劣る音源で差が出やすいのだ。

PM7000Nは、アナログアンプとして高い実力を持つモデルだが、最大の魅力はさまざまなデジタル音源もより良い音で楽しめることだと思う。ストリーミング音楽サービスを良い音で聴くために本機を手に入れる人がいても不思議はないほどだ。冒頭でも述べたように、デジタル系音源に対応したアナログアンプは決して珍しいものではないが、PM7000Nはデジタル音源に対応した初めての本格的なHiFiアンプだと言いたくなる。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。