小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第876回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

足で映像切り替え!? カメラ1人で完パケ、ローランドの2入力スイッチャー

時代はワンマン?

“スイッチャー”と言えば、普通は沢山のソースを入力してそれを集中管理するための機器である。大型のものでは192入力64出力なんて製品も存在する世界だが、これまではどんなに小さくても、3入力または4入力ぐらいが限度であった。2入力なら、それはスイッチャーというよりも“切り換え器”という扱いだったからである。

2chスイッチャー「V-02HD」

ところが今年に入って急に、2入力のスイッチャーが熱くなってきたようだ。今年6月にATVが4K対応の2chスイッチャー「A-PRO-1」を発表したかと思えば、今月ローランドがHD対応2入力スイッチャー「V-02HD」を発表した。特にV-02HDは、本日から幕張メッセで開催される「InterBEE 2018」が初披露ということで、注目の1台である。発売は12月14日の予定で、価格はオープンプライス。店頭予想価格は75,000円前後だ。

そもそも2入力のスイッチャーがこれまで存在してこなかった理由は、ネット放送などを考えても、2系統の切り換えでは少なすぎだろうと考えられてきたからだ。だが小規模な現場で、2系統でいいからスイッチャーがあったらそこそこ便利、という市場が新しく出現したのである。

今回はInterBEEに先だってデモ機をお借りすることができた。V-1HDの流れを生む新コンパクト「V-02HD」を、早速試してみよう。

サイズはちょうど半分

HDMI4入力切り換えのV-1HDもスイッチャーとしてはかなり小型だったが、V-02HDはさらに小型化されており、ちょうど半分の大きさである。スイッチャーは入力数が減っても、実質的な処理回路はほとんど変わらないので、これだけのサイズになったのには、V-1HDリリース時から3年分の進化がある。

V-1HDと比較するとちょうど半分のサイズ

入力はHDMI2系統で、出力も2系統。全入出力にスケーラーを備えているため、カメラだけでなくPC出力など、大抵の入力ソースにも対応する。出力は、片方をプレビューにするか、プログラム出力2系統にするかを選択できる。内部処理は4:4:4 10bitだが、RGBではなくY/Pb/Pr(コンポーネント)処理となる。

HDMIの2IN-2OUT
各入出力にスケーラーを装備

入出力可能なフォーマットは以下の通りだ。

  • 480/59.94i、576/50i、480/59.94p、576/50p
  • 720/59.94p、720/50p
  • 1080/59.94i、1080/50i、1080/59.94p、1080/50p
  • VGA(640×480/60Hz)、SVGA(800×600/60Hz)、XGA(1024×768/60Hz)
  • WXGA(1280×800/60Hz)、FWXGA(1366×768/60Hz)
  • SXGA(1280×1024/60Hz)、SXGA+(1400×1050/60Hz)
  • UXGA(1600×1200/60Hz)、WUXGA(1920×1200/60Hz)

オーディオはHDMIからの音声が出力に出せるほか、ステレオミニの外部入力にも対応。ディレイやイコライザーも内蔵している。正直このスイッチャーでそこまでやるかという問題はあるが、「機材がアレなのでできません」とは言わせないスペックであり、まさにユーザーの腕が試される機器である。

別途音声入力もできる
各音声にはEQやノイズゲート、コンプレッサーまで装備

映像切り換えと一緒に音声入力も切り換える「フォロー」機能も搭載しているため、プレゼンなどでのパソコンつなぎ換えみたいな用途にも使えるだろう。

電源は専用ACアダプタを使用するが、消費電流1.1A、消費電力10.0W程度なので、工夫すればバッテリー駆動も可能だろう。このあたりはメーカーは保証しないが、ユーザーが自己責任で開拓していく部分である。

フロントパネルは1、2と大きなボタンがあり、その間にスライダーがあるという構造。ボタンは大きめに作ってあり、出力されている側のボタンは赤に、スタンバイ側のボタンは緑に点灯する。PinP(小画面)機能も備えており、その場合は下地となるソースのボタンが黄色に、上に乗っかるソースのボタンは赤に点灯する。

大きなボタンとスライダーで操作

入力ソースとしては2系統だが、内部にメモリーがあり、静止画をキャプチャして出力することもできる。テロップやエンド映像をキャプチャしておけば、3つめのソースして使えるわけだ。静止画は今のところ、2つのHDMI入力からキャプチャするのみだが、将来的にはソフトウェアを使ってUSB経由で流し込みもできるようである。

左肩には「OUTPUT FADE」ノブがあり、デフォルトでは左に回すとブラック、右に回すと静止画にフェードする。番組開始前、または終了時に使う機能だ。このあたりも、メニューで動作変更ができる。

エフェクトとして、MIX、WIPE、PinP、Keyと一通りの機能が揃っている。またVFXとしてリアルタイムエフェクトも装備しており、機能的にはV-1HDと遜色ない作りだ。2入力でここまでやる製品は珍しい。

ビギナーからベテランまで使える構成

では実際に製品を動かしながら、細かいポイントを見ていこう。基本的には2入力を切り換えて1系統にして出すのが役割なので、1と2のボタンを押すとその映像が出る。しかし設定を変えると、1ボタンを押したらカットで逆側へ切り換え、2ボタンを押すとミックスで逆側へ切り換え、といった具合に、テイクボタンとしても機能する。わかりやすさを優先するか、合理性を優先するかで選べばいいだろう。

ワイプパターンは9種類とそれほど多くないが、オーソドックスなパターンは網羅しているので、今どきパターンが足りないとは思われないだろう。

ワイプは任意の太さでボーダーが付けられる

PinPは、フロントパネルのCONTROL1、2ノブを使って自由なポジションに置けるだけでなく、サイズ変更やクロップにも対応している。また形も四角だけでなく、丸や菱形にもできる。

PinPはクロップも可能
丸や菱形にもできる

KEYは、ルミナンスキーとクロマキーを装備。またローランドのスイッチャーには珍しく、キーを色で穴埋めするフィルキーや、キーエッジも付けられるようになった。ボーダーやドロップシャドウはテロップに有効だが、ドロップが斜め下ではなく横だけといった微妙な制限が見られる。

テロップはドロップシャドウも付けられる

クロマキーは、低価格スイッチャーとしては珍しく、サンプリングマーカーによる色のピックアップが可能になっている。プレビュー画面には小さいスポイトアイコンが出るので、その先端を動かして抜きたいカラーを選択できる。マニュアル調整では上手く行かない場合や、だいたいのあたりをつける際に便利だろう。

クロマキーは色をサンプリングできる

VFXは、モザイクをはじめとする16種類を装備した。VFXをONにすると、可変できるパラメータがCONTROL1、2ノブに割り当てられるので、リアルタイムでのエフェクトコントロールが可能だ。

カラーエフェクトなど16種類を装備

かなり使えるフットコントロール

機能としては以上なのだが、これをどういう現場に、あるいは誰に向けて投入するかというところがこの製品のもっとも大きなキーになる。その点で注目したいのが、フットペダルによるコントロールだ。

本体背面にはCTL/EXPと書かれた端子があり、ここに楽器用のフットスイッチを繋ぐ事ができる。ローランド/BOSSブランドには楽器用のフットスイッチが沢山あるので、いろんなスイッチをテストできた。

いろんなペダルをテスト

まずA/B2つのフットスイッチ「FS-6」は、本体の1、2ボタン同様、切り換えたいソースを踏めばそっちに変わるという設定もできるが、Aはミックス、Bはカットといった切り換えにもできる。両手が塞がっているカメラマン自身で映像を切り換えたい場合、カット切り換えはともかくフェード切り換えは、足では難しかった。あらかじめトランジションタイムを設定しておけば、綺麗に切り換えられる。

ABそれぞれに違ったアクションを設定できる

次にエフェクターやボリューム用として使われる「エクスプレッションペダル」を試してみた。これは一番手前が0%、足で踏み込むと100%になるというタイプで、途中で止めることもできる。

これを使った場合、例えばミックスでは足を使いながら手動(足動?)で、ゆっくりしたフェーダー動作が可能だ。途中で止めたり、途中で引き返したりもできるので、ダブルミックスのような効果で使っても面白いだろう。

続いては、電子ピアノ用のダンパーペダルを試してみた。ダンパーペダルは、ピアノを弾かない方には馴染みがないと思うが、内部にスプリングが入っており、基本的にはずっと上がっている状態がデフォルトである。踏み込むと効果が100%となり、足を離すと自動的に0%に戻る。その点では、エクスプレッションペダルの一種ではあるものの、自動的に0に戻るというのがポイントだ。

これもゆっくり踏み込めばゆっくり変わり、パッと足を話すとほぼカットで元に戻るという動作となる。もちろん、ゆっくり足を離せば、踏み込み時と同じようにゆっくりと元に戻すことができる。

これはテロップ入れなどに便利だ。テロップの入れ替えで両手を使う場合でも、テロップの出し入れを足でできる。しかも足を離せば0%なので、テロップ落としたはずなのに微妙に乗っかってた、みたいな事故も防げる。

ABスイッチ、エクスプレッションペダル、ダンパーペダルの動作を順にテスト

筆者はスイッチャーを触って35年になったが、足でオペレーションしたことはない。だが昨今は、ワンマンオペレーション故に別のことで両手が塞がるケースもあり得る。こうしたとき、ちょっとした動作が足でできるのは、新しいオペレーションスタイルを開拓できる余地があると感じた。

総論

2系統のスイッチャーは、従来規模のネットの生放送や収録に使うというケースは少ないだろう。それよりも、これまで2つのソースはあるがスイッチャーがないために必死に1ソースでやらざるを得なかった人たちに、新しいツールとして導入される可能性がある。例えば簡単なゲーム中継等は、ゲーム画面にプレイヤーをPinP入れるというスタイルも、ハードウェアベースで簡単にできるようになる。PinPを入れたり出したりも、足でできるので、ワンマンオペレーションが可能だ。

またカメラマン用のモニターツールとしても、大きい市場があるように思う。外部モニタを使って、自分のカメラの絵と別カメラの絵を切り換えて確認したり、放送のリターンをもらって切り換えたりという使い方だ。切り換えだけでなく、PinPも使えるので、常時2画面を確認する事もできる。

使用イメージ

小さくない市場としては、仕事のプレゼンに使って欲しいと思う。大手企業でも、記者説明会の際に、担当者が変わるたびにパソコンをつなぎ換えて、記者全員が注目する中、デスクトップからプレゼン用ファイルを探し、「あれ、これじゃないな、これ1個前のバージョンだ……」などとモタモタするのは、死ぬほどダサイということをもっとビジネスマンは認識すべきだ。むしろデスクトップに並んでいる資料のファイル名から、まだ非公開の製品情報が漏れるというリスクがあることが、意外に認識されていない。

こんな現場に2切り換えのスイッチャーがあるだけで、スピーディなパソコンつなぎ換えとスマートなプレゼンのリレーが可能になる。企業からすれば大した金額でもないのだから、ぜひ広報さんには「ちゃんとして」とお願いしたい。

そんなV-02HDは、今日から幕張メッセで開催されるInterBEE 2018のローランドブースで展示される。いつものようにオーディオ向けのホール4と、映像機器のホール5の境目、ブースナンバー4616だ。

映像配信以外に使いたい方は、ここでご紹介したところ以外の部分がポイントになると思われるので、実機を触って確認していただければと思う。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。