小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第904回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ノマドや船旅にも! 小型軽量でクリアサウンド、フルデジタルスピーカー「OVO」

フルデジタルの時代が来る?

音楽を聴くためのツールとして、もはや30代でもすでに“ラジカセを使ったことがない”というところまで来た。家庭内の音楽再生環境としては、スマホ+Bluetoothスピーカー、もしくはBluetoothイヤフォンというのが一般的なのだろう。

JD Soundの「OVO」

しかしそことは別の文脈で10年ぐらい前から「PCオーディオ」というジャンルが存在する。USBからDACを使ってアナログオーディオに変換し、スピーカーで鳴らす。ハイレゾの黎明期は、皆こうやってオーティオを楽しんだものだ。

そんな中、DACを使わず“デジタルのままでスピーカーを鳴らす”という技術も登場した。Trigence Semiconductorという日本の企業が開発した「Dnote」という技術だ。このDnoteを使ったフルデジタルのオーディオシステム開発に熱心だったのが、オーディオテクニカとクラリオンで、すでにヘッドフォンやカーオーディオシステムが市場投入されている。

一方で、USB接続するオーディオ機器という文脈では、フルデジタルスピーカーの座が永らく空席となっていた。そこを埋めてきたのが、JD Soundの「OVO」という事になるだろう。2018年にクラウドファンディングで登場し、現在はAmazonほかECサイトや、大手家電量販店でも販売が開始されている。直営ショップ価格は税込み24,624円。

Bluetoothスピーカー全盛の今、多くの方はUSBスピーカーというジャンルをご記憶ないかもしれないが、国産のユニークな製品を、じっくり試してみよう。

色々常識を覆す構造

OVOは、ボディカラーがシルバー、ブラックのほか、イシノマキコバルト、ケヤキグリーン、ザオウホワイト、ダテゴールド、ハギレッドの7色展開。今回はブラックをお借りしている。JD Soundは元々東日本大震災をきっかけに立ち上がったハードウェアベンチャー企業で、OVOの開発にあたっても“MADE IN 東北”を掲げている。カラーのネーミングにも、その思いが入っているということだろう。

USBスピーカーとしてはかなり小型

ハードウェアとしては小型・横長のバー型スピーカーで、一見するとBluetoothスピーカーのように見える。ただUSBバスパワーだけで動くため、内部にバッテリーがなく、本体重量は400gと、見た目よりもかなり軽量だ。

基本的にはスピーカーを上に向けて平置きするスタイルが推奨されており、スピーカー面がやや手前に傾斜している。遠くから聴く場合は、スピーカーを前面にして設置する事もできる。ただその場合は左右が逆になってしまうので、反転機能を使ってLRを入れ替える必要がある。もっとも、そんなことは気にしないという人はそのままでもいいかもしれないが。

平置きで使うのがスタンダード
グリル面は手前に傾斜している

グリル面を通して左右に見えるのは、4cmのフルレンジユニット。本機は4bitのデジタル信号で処理するので、1つのユニットに4コイルを巻いた、特殊なスピーカーである。そのあたりの原理は、藤本健氏の開発者インタビュー開発者インタビューに詳しい。中央部に見えるのは、パッシブラジエータだ。

4cmフルレンジを2つ搭載

本体左側には、2つのmicroUSB端子がある。USB経由でデジタル直結がウリではあるが、バスパワーで足りない場合はもう1つ補助電源を接続できる。加えて付属のケーブルにより、アナログ入力も可能だ。その場合、アナログ端子からは電力が取れないので、もう一つのUSB端子から給電する必要があるというわけだ。

オーディオ入力のほか、サブパワーの入力端子も備える

接続可能な機器は、PC/Macはもちろん、Linux、PlayStation 4も動作確認されている。AndroidおよびNintendo Switchの場合は、USB-AからType-Cへの変換ケーブルがあれば接続できる。Lightning搭載のiPhoneおよびiPadでは、Apple純正のLightning - USBカメラアダプタが必要になる。

USB-AからType-Cの変換があれば、Androidで即利用可能
USBケーブルほか、アナログ用のケーブルも同梱

本体上部のエッジ部分にはLEDライトが埋め込まれており、これはこれで多彩な機能を持っている。本体設定のステータスも表示するし、ボリュームやイルミネーションとしても使える。

設定やイルミネーションなど、多彩な機能を持つLED部

LEDの後ろ側にあたる部分左右2箇所に、設定用のレバースイッチがある。ほとんどの機能はこのレバースイッチだけで設定できるが、5バンドのEQを使う場合のみ、PCが必要だ。これはあとで試してみよう。

左右に1つずつあるレバースイッチ。背面のシールを頼りにLED表示を見ながら設定を変える

別売にはなるが、キャリング用のハードケースとソフトポーチも直販サイトから購入できる。

別売のキャリングハードケース

雑味のないクリアサウンド

まずはMacBookProと接続してみた。実は今回船旅の途中でレビューすることになったのだが、こうした小旅行に携帯するスピーカーとしては、Bluetoothよりも全然軽量だ。細長いのでバッグの隅にスルッと入れられる。どのみち船室内でしか使わないので、ワイヤレスになっている意味があまりないし、充電の心配もいらない。

旅のお伴にちょうどいいサイズ

肝心のサウンドだが、意外に高域は抑え気味にチューニングしてあり、小型スピーカーにありがちな高音が刺さる感じがない。低音もしっかり輪郭を感じさせるが、イマドキの低音に量感を持たせた音作りではない。上品なサウンドではあるが、迫力の面では若干物足りなさを感じる。

もっとも、低域は設置場所によって大きく変わるので置き場所を工夫するといい。固くてしっかりしたテーブルやフレームの上ではしっかり出るが、ベッドの上に置くと吸収されて全然出ない。なお、低域は設定で3段階のブーストが可能なので、ある程度の調整は可能だ。

スピーカーを立てて、つまりグリル面を正面に向けて聞いてみると、高域の直進性に伴って音が明るくなる。その反面、低音が減少するので、この場合も低域のブーストが必要だ。音の作りとしては、こうした直進の音を聴くのではなく、上に放出された音をやや横から聴くことでバランスが取れるように設計されているようだ。

音量に関しては、バスパワーだけで鳴っているとは思えない大きな音が出る。USBのバスパワーだと、USB3.0でもせいぜい4.5Wぐらいしか供給できないが、内部にキャパシタを搭載して電力を溜めておき、大きなピーク時に放出する仕組みとなっている。これは本紙読者なら、Olasonicのスピーカーですでにお馴染みだろう。

あいにくLightning - USBカメラアダプタは持ち合わせていないので、Android機と接続してみた。ちょうどUSB Type-C - Micro USBというケーブルを持っていたので、変換ケーブルなしで直接接続できる。だがスマートフォンが相手の場合、バスパワー電力が問題となる。手持ちのAndroid端末「Gemini」と接続したところ、電力が足りずに本機を認識しなかった。

本機には省電力モードがあり、これに切り換えれば低出力のスマートフォンでも鳴らせるはずだ。だが本機が起動しなければ省電力モードにも変更できないので、いったんPCなどに繋ぐか、別途もう一つのUSBポートにモバイルバッテリーを繋いで本機を起動させ、省電力モードに切り換える必要がある。

省電力モードではLEDは光らなくなるが、無事GeminiのUSBポートからでもスピーカーとして利用できた。コンパクトなお仕事セットとして、出張時には重宝しそうだ。

Geminiとの組み合わせで最少お仕事セットが完成

多彩なお楽しみ機能を搭載

本体上部にあるLEDも、いじっていくとなかなか楽しい。オーソドックスにはアンプのレベルメーターのように使うのが筋なのだろうが、そのほかにもクラブ、ホーム、ネイチャーといったモードがあり、音楽のタイプや設置場所に応じて変えられる。輝度も3段階に調整できるので、“イイカンジ“に調整できる。

イルミネーションの設定も凝り出すとキリがない機能

続いて、PC接続時の拡張機能を見ておこう。PC接続時にChromeで特定のURLにアクセスすると、スピーカーの全機能にアクセスできる。本体では設定できない、5バンドのパラメトリックEQが使えるのは魅力だ。

ブラウザ内で、5つのポイントをドラッグして周波数とdBを設定できる。Qはホイールで設定可能だ。5つのポイントは、一定の範囲でしか動かないわけではなく、どの周波数にでも設定できる。気になるところだけ集中的に細かく設定することも可能だ。

パラメトリックEQの設定で音が激変する

またこうして設定したパラメータは、URLとして書き出すことができる。これをシェアすれば、別のユーザーにEQの設定を渡すことが可能になる。同じOVOユーザー同士で設定を交換するなど、新しいコミュニティの広がりも期待できる。

EQの設定をSNSに直接投稿できる

実際にOVOの公式サイトにはユーザーが作ったEQのギャラリーがあり、ここからOVOへ一発でカーブを転送できる。各ユーザーのコメントも楽しく、EQの狙いも視覚的にわかる。いろんな方のアイデアを試すことで、自分のEQの腕も磨けるだろう。

サイトには楽しげなEQ設定がたくさんアップされている

192kHz/24bitのデータを、リサンプリングせずにそのまま再生可能になるが、現在サポートされているOSはWindows10のみとなる。なお、ハイレゾモードでは上記のEQが効かなくなるので、特にハイレゾ音源をそのまま再生したいという場合を除いては、同モードはOFFにした方がサウンドの変化は楽しめるだろう。

LEDのユニークな機能として「LEDライブ」もある。16個のLEDを、MIDI信号で制御するもので、ゲームアプリやDAWソフトからMIDIノートナンバーをOVOに送る事で、そのノートナンバーに割り当てたLEDを制御できる。アプリ開発者向けの機能だが、音楽ゲームの当たり判定結果や、格闘ゲームのライフゲージ、DAWのチャネル表示などをLEDで表示し、スマホゲームなどのサブディスプレイとして使えるそうだ。

総論

昨今はすっかり枯れたジャンルになってしまったUSBスピーカーだが、フルデジタルという特徴で捉えると、今のところ競合製品が見当たらない。小型ながら音量も稼げるし、なにしろ軽量で持ち運びが楽、充電切れの心配も無いので、ノマド派がノートPCと組み合わせるならBluetoothスピーカーよりもメリットが大きい。

最少システムなら、Androidスマホとの相性が良さそうだ。省電力モードなら、別途電源接続なしでかなりしっかり音楽が聴ける。

難点は、ボリュームの位置だろうか。上向きの設置では、ボリュームレバーが後ろの、しかも真下になるので、本体を持ち上げないと調整できない。また汎用性という意味でMicroUSB端子の採用となったのだろうが、今ならUSB Type-C端子のほうが使い勝手がよかった。

しかしこのサイズでハイレゾにも対応しており、クセのないサウンドは魅力だ。クセが欲しければ、ギャラリーから様々なEQ設定をクリック一発で適用できる。

今のところ知る人ぞ知るという製品ではあるが、エンジニア指向の高いユーザーなら1台持っておくと色々遊べるだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。