小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第913回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

もはやシネマカメラ。ついに6Kに到達!「LUMIX DC-S1H」が凄い

どんどん行くパナソニック

パナソニックが同社初となるフルサイズミラーレスを発売したのが、今年3月23日だった。初号機となる「LUMIX S1」及び「LUMIX S1R」は、初号機にありがちな不安を感じさせない完成された作りで、多くのファンを納得させた。

LUMIX S1H

動画と静止画のハイブリッド機としてS1をレビューしたが、S1からすでに静止画は6Kで撮影できていた。動画6Kもゆくゆくは、と感じさせる作りであったわけだが、それからたった半年で6K動画撮影可能なカメラが登場するとは思わなかった。

今回取り上げる「LUMIX S1H」は、6K/24p、5.9K/30p、4K/60pの動画撮影が可能となっている。6Kは24p止まりだが、フルサイズミラーレス機としては初めて、4K/60p対応ということで、ビデオコンテンツでの活用も期待されるところだ。

発売は9月25日で、価格はボディのみで店頭予想価格が50万円前後。今回は発売前に、ベータ機をお借りすることができた。ベータ機ゆえに機能的に最終ではない部分もあると思われるが、そのあたりはご了承願いたい。

6K動画の威力を、早速テストしてみよう。

厚みを増したボディ

S1Hは名前の通り、S1シリーズのハイエンドモデルと見る事ができる。したがってボディデザインやボタン配置はS1と共通点が多い。正面から見るとあまり違いがないように見えるが、放熱の問題を解決するためか、後ろに向かってボディの厚みがある。重量もS1がバッテリー込みで約1,017gであったのに対し、S1Hは約1,164gと、だいたい150gほど重くなっている。

正面からのデザインは、S1に近い
放熱機構のため、液晶モニターとの間に1層追加されたイメージ

S1Hのウリは多彩な動画撮影機能にあるため、動画の録画ボタンの位置とデザインが変更されている。S1ではビューファインダの脇にあった録画ボタンが、軍艦部右側、写真のシャッターボタンと同じ軸上の後ろに移動した。ボタントップも全面赤を採用し、ビデオカメラ的なテイストを取り入れている。

大きく主張する録画ボタン

またカメラ前方にも、録画ボタンが置かれている。S1ではFnレバーがあった位置だ。ボディの後ろ側だけでなく前方や横に録画ボタンを置くのは、シネマカメラのテイストである。リグを組んで大量のアクセサリを装着すると、背面や上部のボタンが押しづらくなることがあるからだ。

前にも録画ボタンがある

まず注目のセンサーだが、35mmフルサイズ(35.6mm×23.8mm)のCMOSセンサーで、有効画素数は2,420万画素。ローパスフィルターありで、V-LOG撮影時には14+ステップのラティチュードを持つ。

最高14+ステップを叩き出すフルサイズセンサー
右側にデュアルカードスロット
端子類はすべて左側

記録画素数はやや複雑で、イメージサークルとしてフルサイズとスーパー35mmの2通りに切換ができる。さらにそれぞれに対して、3:2、16:9、17:9(Cinema4K)のアスペクト比を選択するという組み合わせになる。

【フルサイズ撮影時】

煩雑になるので、とりあえずフルサイズでの撮影モードだけでまとめてみた。スーパー35mmでは画素数が足りないため6Kおよび5Kでの撮影はできず、Cinema4K解像度からのスタートとなるだけで、モード的にはほぼ同じである。

こうしてまとめてみると、6K/5Kおよびハイスピード撮影のみH.265で記録し、Cinema4K以下はH.264と、コーデックを使い分けているのがわかる。新構造の冷却システムのおかげで、動画撮影時間に制限はない。

HDMI出力は6K/5Kは対応せず、Cinema4Kからのスタートとなる。内部記録は30p止まりだが、外部には4:2:2 10bit 60p出力が可能。

V-Logによる撮影は、S1では有料アップグレード対応となっていたが、本機は最初から搭載している。このV-Log撮影時に、14+ステップのラティチュードを得ることができる。

他にないユニークな機能として、アナモフィックレンズ対応がある。一般の方でご存じの方は少ないと思うが、アナモフィックレンズとは映画撮影で使われるレンズで、横方向が圧縮されて写る。つまりシネマスコープサイズの横長のフレームを、光学で横だけ圧縮するので4:3の面積に記録できるわけだ。フィルム撮影時には、フィルム解像度を目一杯使えるので重宝され、名レンズも多い。モニター表示の対応のほか、ボディ内手ブレ補正のアルゴリズムもアナモフィックレンズ専用のモードが追加されている。

背面モニターは約233万ドットの3.2型タッチパネル液晶。表示最高輝度がS1と比較して約1.5倍となっている。もちろん横出し型のフリーアングル機構は従来同様だ。ビューファインダは約0.78倍/約576万ドットのOLEDとなっている。

フリーアングル、タッチパネル液晶は健在

ボディの厚みが増したこともあり、軍艦部にあるステータスディスプレイも1.8型に大型化している。写真を撮る人はほぼビューファインダを使うので、ステータスディスプレイへの依存度は低いと思われる。一方動画撮影では外部モニターを使うことも多いので、録画中はカメラから体が離れている。ステータスディスプレイも、動画撮影中にはメモリーカード残量や録音レベル、タイムコード値などを表示できるため、ビデオカメラで撮影の長回し中にやっていた確認作業は、ほぼ同じにできる状況となった。

大型化したステータスディスプレイ

奥行き感のある表現力

では早速撮影である。南九州ではちょうど台風17号が通過した直後で、まだすっきりしない天気であったため、比較的低コントラストな絵しか撮れなかった。ただ、しっとりした絵にはなっているかと思われる。

今回使用したレンズは、S1のレビュー時と同じ「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」、「LUMIX S PRO 50mm F1.4」、「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」の3本だ。撮影は特に注記がないかぎり、6K/23.98p、V-Logで撮影し、パナソニックから提供されているLUT「Agressive 709」を使ってグレーディングした。なおサンプル動画は、多くの方の再生環境に考慮して4K/23.98pにシュリンクした。

今回撮影に使用した3本。左から「LUMIX S PRO 50mm F1.4」「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」

まず手ブレ補正から見ていこう。レンズ内手ブレ補正に加え、ボディ内に5軸手ブレ補正を搭載している。Lマウントレンズであれば、双方の手ブレ補正が連動して動く「Dual I.S. 2」が使える。

サンプル動画は、左下がレンズ補正のみ、右上が「Dual I.S. 2」動作だ。補正幅の限界まで来るとカクンと絵が動くが、補正範囲であれば十分なスタビライズ効果が得られる。ワイドレンズであれば、手持ちでもかなり勝負できるだろう。

手ブレ補正比較
stab.mov(52.91MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

今回撮影して感じたのは、LUMIX S PRO 50mm F1.4とLUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.の、2本のPROレンズと組み合わせた際の表現力の高さだ。新iPhoneの発売により、世の中が一斉に超ワイド方向へシフトしているが、高解像度カメラの手前に引き寄せる力には、大変な魅力がある。

ミニチュアのような仕上がり? LUMIX S PRO 200mm/F4
物語性のある描画 LUMIX S PRO 50mm/F8
6K/5952×3968、23.98p/V-Logで撮影した動画

あいにく撮影時の光量では、14+ステップのラティチュードが十分に活かされなかったが、グレーディングによって表現の幅が大きく拡がる。同社から提供されているLUTは、スタンダードなものだけでなくかなり作り込んだトーンもあり、単純にそれらを適用するだけで印象が大きく変わる。

Agressive709
Blue Night
Fashion1
Golden1
Hangover
Rose2

AF性能に関しては、深度がかなり浅いこともあって、被写体に対して適切なモード設定切り換えが求められる。一点にフォーカスを合わせたいのに「225点」といった広めのAFモードのままでは、どこにもフォーカスが合わないといった事になる。とは言え、「1点」や「ピンポイント」モードで勝負しなければならないわけではなく、「ゾーン」(横一列)や「楕円」といった、ある程度の領域をカバーするモードがかなり使い出があった。

加えて風景撮りには、「フォーカストランジション」が便利だ。特定の焦点距離を3つまで記憶させることができ、撮影中に画面タッチで切り換えられる機能だ。浅い被写界深度の中、何度でも同じ焦点距離感のフォーカス送りが撮影できるわけで、テイク数を大幅に少なくできる。

フォーカストランジションによる撮影。何度でも同じ焦点距離にピタリと決まる
Focus.mov(26.67MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

本機はハイスピード記録にはそれほど強くないが、HD解像度であれば119.88p撮影ができる。普通に音声付きで収録されるので、編集ツールで必要な速度に変換すれば、音声付きのハイスピード再生となる。

HD/119.88p撮影したものを、40%スローに変換
Slow.mov(18.26MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

夜間撮影にも言及しておこう。本機は1ピクセルごとに2系統の画像処理を備えており、低感度用、高感度用に切り換える「デュアルネイティブISOテクノロジー」を搭載している。加えてこの切り換えを「自動」に設定しておけば、低感度から高感度までをユーザーが意識することなく連続で利用できる。

24mm/F4/シャッタースピード1/60に固定し、順次ISO感度を上げて撮影
ISO.mov(91.79MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

最高でISO 51200に達するが、粒子ノイズはほぼ見えない。ISO感度全域でノイズが感じられないとは、驚きだ。ただソニーの裏面照射のように暗がりでも彩度が出る映りではなく、クロマを落とし気味の「夜の感じ」がする仕上がりとなる。

総論

ミラーレスとはいえフルサイズ、しかも6Kまで動画をサポートするカメラだけあって、ボディはかなり大きめだ。写真をベースに考えている方には、このデカさと重さには懐疑的だろうと思う。

一方シネマカメラとして見た場合、どのみち手持ち撮影は少なく、リグを組んで三脚に載せるのがデフォルトになるので、大きさやサイズはあまり問題ではない。VARICAM 35と比較すれば、十分に小さいカメラという事になる。

見た目は「写真機」だが、中身はシネマカメラと考えていいだろう。動画に加えて写真も押さえられるとなれば、シネマカメラよりも便利という見方もできる。これをコンシューマ市場で普通に売るというのだから、恐れ入る。一般の方は6K/3:2なんてモニターもないしどうするの? という感想だろうが、シネマではトリミングして後処理でいいアングルを作るために、なるべく高解像度で撮っておくというのがセオリーなのである。

今回はパリッと明るい絵が撮影できなかったのが残念ではあるが、逆に少なめの光が十分に回った空間でどのように撮れるのか、割と実用的なサンプルになったのではないだろうか。加えて純正Lマウントレンズの素性の良さも、改めて認識することができた。

AFの扱いに判断が要求されるため、スピーディな撮影には向かないと思うが、じっくり腰を据えて撮る制作向けカメラとしては、クリエイターなら一度は現場で試してみたいカメラに仕上がっている。

小寺信良