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Amazon Music HDが変える日本の音楽体験。高音質と3D音楽に注力する狙いを聞く

Amazonが9月17日よりサービスを開始した、最大192kHz/24bit対応の音楽配信サービス「Amazon Music HD」。Amazonが高音質音楽配信に注力する狙いや、今後の取り組みなどについて、Amazon Music事業部門 副社長のスティーヴ・ブーム氏をはじめとする、音楽配信やAlexa担当のキーマンにインタビューした。

左から、Amazon.comのAudio Technologyディレクターを務めるフィル・ヒルメス氏、アマゾンジャパンのデジタル音楽配信事業本部レネ・ファスコ事業本部長、Amazon Music事業部門 副社長のスティーヴ・ブーム氏、アマゾンジャパン Alexa エクスペリエンス&デバイス事業部 リージョナルディレクター Alexa アジア パシフィック 大木聡氏

日本でAmazon Music HDを開始したことによる現状や反響について、ブーム氏は「加入は予想を超える多さ」との認識を示している。まずはサービス開始の手応えや、Prime Music、Music Unlimitedといった既存の各プランとの棲み分けなどについて改めて確認した。

ブーム氏(以下敬称略):ユーザー数の公開はできませんが、予想を超える多さで、今も成長中です。日本の全体的な音楽ストリーミング人口に対しても、Amazon Music HDの採用率は高い。非常に順調に推移しています。

Amazon Music事業部門 副社長のスティーヴ・ブーム氏

プライム会員は追加料金不要なPrime Musicは、ストリーミングサービスの導入になります。カタログ的にも200万曲以上と多い。Amazon Music Unlimitedは日本では6,500万曲以上なので、それにアクセスしたい方々が対象です。同じカタログでもさらに高音質を求める人にAmazon Music HDを提供します。

ファスコ:特に日本では、様々なサービスを提供することが重要。それは、まだ音楽ストリーミングを体験していない人が(米国などに比べて多く)いるからです。そういった方々に、簡単に音楽ストリーミングサービスに入っていただくには、様々な選択肢を用意することが必要です。

日本市場に対する考え方

ブーム:当初、ユーザーやアーティストから前向きな反響あるだろうと予想していましたが、ここまで圧倒的に素晴らしい反応となったのは予想以上でした。

既にAmazon Musicを使っている人がアップグレードすることで、音楽に対するエンゲージメントが高まりました。これは私たちの想定ですが、高音質ということから、もともとAmazon Musicを聴いていたユーザーだが、より音楽を楽しむ人が増えたのではと見ています。

当初、HDに加入したユーザーは、既存のUnlimitedからの移行が多いと想定していましたが、実際はかなりの割合で、まだAmazon Music自体を使っていなかった人がHDに加入したというのが予想外でした。

ヒルメス:このことから、日本のユーザーにとって「音質がいかに大切か」が分かります。Amazon Music HDはCDと同等またはそれ以上の音質ですので、今回の結果で音質の重要性がさらに示されました。

高音質配信導入の狙いと今後の見通し

3Dオーディオの効果と対応楽曲拡大への取り組み

──Amazon Music HDで、Echo Studio向けにDolby Atmosやソニー360 Reality Audioの楽曲「3Dオーディオ」を12月5日から配信開始することで、どんな効果を想定していますか?

ブーム:3Dオーディオは、非常にリッチな音楽体験する一つの方法です。Echo Studioを使って、特に空間を認識したサウンドにより、没入型の音楽体験ができます。Amazon Music HDによってEcho Studioの売上も上がり、Echo Studioが拡大すればAmazon Music HDも普及していくと期待しています。

Echo Studio

Dolby Atmosやソニー360 Reality Audioの音源をAmazon Music HDで配信開始

──例えば3Dオーディオに適したジャンルや、アーティスト、曲などはどんなものがありますか?

ヒルメス:全てのジャンルで立体音響が適していると思いますが、ジャンルによって違う形で作用します。クラシックやジャズは、(ホールなどの)ステージのパフォーマンスをそこで再現できます。エレクトリックミュージック、ダンスミュージックの場合は、クラブの雰囲気をそのままユーザーが体験できます。例えばグルグル動き回るようなサウンドですね。

Amazon.comのAudio Technologyディレクター フィル・ヒルメス氏

ブーム:ロックやポップスでも、それぞれで“フルなサウンド体験”が楽しめるので、やはり立体的な音響は、全てのジャンルに当てはまります。

ファスコ:さらに日本の市場にとって重要なのは、アニメやゲームの音楽です。HDでは、これまでの水準を超えた音で聴くことができます。

アマゾンジャパンのデジタル音楽配信事業本部レネ・ファスコ事業本部長

──3Dオーディオの楽曲数は開始時点でどれくらい用意しますか?

ヒルメス:現在は数千で、急成長しています。米国ではDolby Atmos対応の新作アルバムなども出てきており。少し前にはColdplayがDolby Atmosで新アルバムを発表しました。

主要なレーベルやアーティストに対し、Dolby Atmosなどに対応するように働きかけています。また、スタジオのエンジニアの方々が、既存コンテンツのリミックスも3Dオーディオで行なっています。それから、レーベルやアーティストの方々のところにEcho Studioを置いて、実際に聴いていただくという取り組みもしています。

新スピーカーEcho Studioで変わる音楽体験とは?

Amazon Music HDは、高音質を示す用語として日本でいう“ハイレゾ(High Resolution)”ではなく、「HD(High Definition)」や「Ultra HD」という言葉で表している。これは、同社のリサーチで「ハイレゾやハイファイ(Hi-Fi/High Fidelity)という言葉は知らなくても、HDは知っている人が多く、Ultra HDは“HDより良い”とわかりやすい」との結果から決まったものだという。背景として、ビデオ配信などでHDという言葉が先に浸透したことを挙げている。Echo Studioはスペックを見ると“ハイレゾ対応スピーカー”と思えるが、Amazonとしてはどう認識しているのか尋ねた。

大木:JEITA(電子情報技術産業協会)によるハイレゾの定義(CDスペックを超えるデジタルオーディオ)ではAmazon Music HDは“ほぼ等しい”。基本的に配信楽曲はCDクオリティで、Ultra HDは192kHzまでのフォーマットがあり、これはJEITAの定義とほとんど変わりないと認識している。結果として、Amazon Music HDとEcho Studioはハイレゾ対応の製品かといえば、答えはYESです。

──日本のオーディオファンにはなじみ深い、日本オーディオ協会のロゴを取得する意向はありますか?

大木:現時点では決めていません。私たちがハイレゾのロゴを取得することで、Echo Studioがもっとお客様に分かりやすくなるのであれば当然考えますが、元々どのようなオーディオフォーマットでも最上の音を鳴らせるというのが製品のコンセプト。今のところ、ロゴを取得する必要性は感じていません。

Amazon Music HDは6,500万曲という楽曲数や、音質の高さだけでなく、ベースとなるプライム会員が既に多いということもあって、トータル面で日本において展開中の他社ストリーミングサービスと比べて優位といえる。しかし「アーティストとのつながり」や「音楽カルチャー」という面ではまだまだ成長の余地があるようにも見える。既にAmazonとしての強みも確固としてある一方で、サービスの改善に向けた具体的な取り組みなどは既に始めているとのことだ。

ブーム:他との差別化要因は3つあります。まずは「ボイスコントロール」で、これまでと大きく違う体験ができることです。

2つめは「選択肢を提供している」こと。長年にわたって音楽産業はサービスモデルの選択肢が狭かったわけですが、我々はPrime Music、Unlimited、そしてAmazon Music HDというサービスを提供しています。

3つ目はこれまでにも説明した「高音質」。Amazon Music HDとEcho Studioを組み合わせて、高音質を手ごろな価格で利用できるようにしました。これは現在の強みであり、今後も強みであり続けます。

大木:我々が音楽を愛する人のために、まだまだできることはたくさんあります。例えば、日本ではまだ提供していない「リファインメント」という機能。これは、あるジャンルの曲をかけるようにAlexaに話しかけた時「好みに合わない」、「もう少し絞りこみたい」場合に、Alexaにファインチューニングしてもらえるものです。Amazonで買い物する際に、左側の画面で「絞り込み」するような形に近いものです。

Alexaが音楽をかける、ある種の“コンシェルジュ”だとすると、人間とAlexaの間にはもっと自由に色々な音楽をかける会話が成立するはず。そう考えると、我々はまだ途に就いたに過ぎません。我々は、豊富で高音質な楽曲をAmazon Musicで持っていますので、あとはどうやってお客様とインタラクションするかが、今後改善できる点です。

ブーム:そうして目指す我々のビジョンは「Alexaが人間のベストフレンドになること」です。

アマゾンジャパン Alexa エクスペリエンス&デバイス事業部 リージョナルディレクター Alexa アジア パシフィック 大木聡氏

“Alexaの声がサミュエル・L・ジャクソンになる”機能の日本での実現は?

9月の西田宗千佳氏のレポートでも伝えた通り、Amazonの米国でのイベントでは、Alexa対応のイヤフォンなどハードウェアや、様々なサービスが発表された。これらについて日本での展開を尋ねた。

──完全ワイヤレス型イヤフォンで、Alexaへのアクセスやボーズのノイズキャンセリング機能を備えた「Echo Buds」が米国で発売されましたが、日本での展開予定はありますか?

大木:Echo Budsの計画は、まだ決定していません。準備が整い次第、できるだけ日本にも製品投入したいですね。

Echo Buds

──同じく海外の話で「Alexaの声を追加コンテンツ化して入れ替えられるようにする」機能も発表されました。これはAlexaに親しみを持って「ファンを増やす」ことにつながると思われますが、日本にも同様の機能は提供される予定はありますか?

大木:「サミュエル・L・ジャクソンの声」の取り組みは、一部の声をサンプリングして提供され、米国で有償のサービスとして提供するものです。実験的な試みなので、日本ではまだ検討していないのが本当のところです。

ブーム:米国で試みたことですが、音楽をかける時に、アーティスト本人の声で音楽を紹介したところSNSでたいへん大きな反響がありました。米国の人気アーティスト・THE WEEKENDが新曲発表時に協力してくれたもので、特殊な例ではありますが、我々の目的である「ファンとアーティストを近づける」取り組みの一つです。

大木:Alexaの誕生日は11月6日ですが、日本でAmazon Musicチームの協力もあって、香取慎吾さんにAlexaのバースデーソングを歌っていただき、非常に大きな反響がありました(編集部注:11月6日にEchoシリーズに「アレクサ、お誕生日おめでとう」と話しかけると香取慎吾が歌ってくれる機能)。アーティストとファンをどうつなぐかということについては、まだ色々なやり方があります。

──「つながり」という意味ではAlexa対応スピーカーなどを手掛ける他社との連携についてはどうお考えですか?

大木:現在、品質面で製品によって差があると感じているかもしれませんが、どのメーカーの製品だろうと「Alexaの対応」、「Alexaビルトイン」の製品は、使う人の体験を同じようにするために、まだまだ努力する余地があり、これからも努力を続けていきます。Amazon純正品と同じレベルでサードパーティー製品でも利用していただけるようにしたい。一方で、我々もAlexaの体験をより良くできるものを作っていかないと、サードパーティーにとっても、対応することがインセンティブにならない。いい意味でお互い切磋琢磨するという関係です。